「・・・ふぅ。」
「どうしたの?」
「別に。大丈夫。今日も組み手?」
「なんか疲れてるね。」
「ああ、うん・・・その・・・まぁね。」
「えと・・・悩みなら聞かせて?
いつもお世話になってるし・・・その、話すだけでも楽になるものだって、お母さんが言ってた。」
「・・・悩みじゃないんだ。心配しなくても・・・ただ、しんどいだけだけ。」
「わ、私との特訓?」
ヒビキの言葉に涙を滲ませるタマモ。
「ち、違う違う!
そうじゃなくて・・・体術の訓練をするようになってね。それがちょっとヘヴィで、疲れが中々どうして・・・」
「体術?
わ、私もやる!!」
「い、いや・・・それはやめておいたほうがいいんじゃないかな?」
「どうして?
その・・・足手まといにはならないから!!」
「いや、足手まといがどうとかじゃなくて、純粋に子供の身体には辛いんだよ。」
「ヒビキも子供じゃん。」
「いや、僕の方が大人だろ?」
「一緒くらいだもん。」
「・・・身長の話?
身長の話はしないで。憂鬱になる。」
体の出来上がっていない子供の頃に過度の運動をすることは健康に悪いとされている。同年代の子供に比べて体が小さいどころか3歳年下の、それも比較的小柄なタマモと同じくらいの身長しか無いというのは、成長不良であるといえよう。
このままだと下手をすれば日本人の平均身長である160前後すら行かないかもしれない。
とはいえ、それが分かってはいても修行の量を減らすわけには行かない。
なんせ健康うんぬんと言っていられるのも未来(さき)があってのことなのだから。
「ヒ、ヒビキ君?」
「何?」
「と、とにかく私もやる!!」
「・・・分かった。僕からも頼んでみるよ。」
そのやる気に根気負けするようにヒビキはタマモの参加を認める。
自分が子供の時、こんなに熱心に何かに頑張ったことなんて無かったなあとか思いつつ。
タマモとしては単純に唯一の親しい友達との接点が修行しか無いため、友達であるがために懸命に喰らい着くという感じである。
もとい、修行は口実で、ただヒビキと一緒にいたいだけなのだ。
それだけのために心身ともにつらい修行に付き合うタマモは辛抱強いと言うべきか、子供らしいというべきか、それだけヒビキに対する思いが大きいと言うべきか。
☆ ☆ ☆
「なんだってぇっ!?」
「ひぅっ!?」
その話をガイにするとガイは声を荒げて、タマモを睨む。ガイ自身には睨んだという自覚は無い。
「おっと、すまない。驚かせてしまったか。」
「・・・。」
ヒビキの背後に隠れるタマモ。
少し震えている。
これは相手が見ず知らずの大人であると言うのもあるが、一番はガイの見た目の問題だ。極太の眉毛と黒光りするオカッパ頭。
それが声を荒げれば子供としては多少なりとも身構えするのも無理は無い。
「タマモちゃんと言ったか。ライバルに差をつけられまいとするその情熱っ!!
しかと受け取ったぁっ!!
この俺がどこまで力になれるかは分からないが、全身全霊!
俺の体術を教え込んでやろうっ!!
まずはこれだっ!!」
といってタマモに渡すのは根性ベルト(小)。
さすがにヒビキ以上に華奢なタマモにはガイといえど気遣いを見せたようである。
ヒビキに渡したもの自体、軽めのだが、それよりもさらに軽い重りだ。
一見、根性という言葉だけで強引に理屈をすっとばしてしまいそうなガイであるが、修行に置いてはしっかりとした良識と常識を持って取り組む。
「これをつけた状態で自然に動けるようになるのが第一目標!
毎日、欠かさずに走りこみをするのだ!!ライバルの隣に立っていたいというのならばサボるなよっ!!」
「は、はいっ!!」
「そしてヒビキ!!
オマエは今日も俺と男の熱血組み手だ!青春を爆発させろぉっ!!」
「・・・僕は女ですし、爆発できません。・・・デイダラじゃあるまいし。」
「それと、タマモちゃんは俺とヒビキの組み手の見学だ。・・・よしっ!ヒビキっ!!
どこからでもかかってこいっ!!」
「今日こそ一発は当てるっ!!」
ヒビキはいつもよりも写輪眼にいっそうの力を込めてガイとやりあう。
「熱血旋風っ!!」
あまりの蹴りの速度に空気の摩擦で炎を起こす蹴りがヒビキに襲い掛かる。
それを変わり身で避け、背後から渾身の拳を打ち込むが、目も向けずに避けるガイ。
そのまま翻って蹴りを繰り出す。
「くっ!!」
「殴られるのを恐れずに向かってくる、その意気やよしっ!!」
「でりゃあっ!!」
「脇を締めろっ!
ばかものぉっ!!脱力が基本だと何度言えば分かるっ!!」
「はいっ!!」
こうして今日もガイの熱血特訓は終わった。
「おっと、もうこんな時間か。今日も良い修行になった。」
「ガイ上忍も修行になるのですか?」
「うむ。」
「そ、そうですか・・・」
「次は二週間後くらいだ。それまでに精進するんだぞ。」
「分かっています。」
そのままガイは自分の家へ帰っていく。
「・・・はぁ。疲れる。」
「はい、タオル。」
「あ、ありがとう。」
タマモに渡されたタオルで汗をぬぐう。
「で、どうだった?僕としてはオススメしないよ。」
「だ、大丈夫。
ヒビキがやってるんだもん。」
「どういう根拠さ。ほんと、辛かったら別に・・・」
「辛くないもん。」
「そ、そう?」
「うん。」
「・・・まぁいいけど・・・帰ろうか。」
「あ、うん。」
こうしてヒビキは着実に強くなっていくのであった。
ただ・・・
☆ ☆ ☆
「さすが俺の子だ。」
うちは頭領の家。
その庭先で1人の男が呟く。
向かい合うように立つ少年。イタチは少し疲れた様子を見せるも多少以上の余裕があるようだ。
「チャクラのコントロールがまだ甘い。無駄なく練れる様にな。」
「はい、父さん。」
「ところでアカデミーでの調子はどうだ?
大丈夫だとは思うが、いじめられたりとかは無いか?」
イタチは驚異的な速度で強くなっていく。
今ではなんでもありの組み手で父親であるフガクに本気を出させるほどである。
そこまで飛びぬけた子供が他に嫉妬されることを案じてフガクはたずねる。
「いえ・・・特には。」
「そうか。なら良い。」
「ただ・・・」
「何だ?」
「少し気になる相手が・・・」
「ほう?誰だ?」
「うちはヒビキです。」
「オマエと並ぶのは同じうちはであるというのは分かっていたが・・・うちはヒビキ・・・確かギタンの子だったな。」
「知っているのですか?」
「名前だけな。ただ、ギタンの娘というならば確かに納得だ。やつはうちはでも優秀な方だった。惜しい男を亡くしたものだ。」
「楽しそうに言うのですね。」
「・・・む、そうか?」
「はい。」
めずらしく微笑む父親の様子に顔を崩すイタチ。
「そう・・・だな・・・ライバル、と言っても良かったかもしれん。」
「羨ましいことです。」
「オマエにはまだ・・・そうか。そのうちはヒビキが?」
「はい、彼女はまだ本気を出していないようでした。」
「写輪眼で見たのか?」
「はい。どうして本気を出してないかまでは分かりませんが・・・チャクラの流れからして実力は俺くらいかと・・・それに他の生徒から聞いたのですが、彼女も開眼しているとのことです。」
「・・・将来有望だな。オマエの嫁に欲しいくらいだ。」
それを聞いて苦笑するイタチ。
「・・・その話をしたということは・・」
「はい、俺としては本気で彼女と戦ってみたいというのがあります。」
「・・・そうだな。下忍になるまであと3年ほどか。
・・・その子がオマエと同じ班になれるように根回しが必要かも知れなんな。」
「あの・・・父さん?」
「同じ小隊に属せばその子の実力のほども分かるだろう?
何、それほど無茶をするつもりは無い。ただ出来るだけそういう方向に、と願うくらいだ。」
「・・・。」
「あなたー、イタチ、ご飯よー。」
「ほら、母さんが呼んでいる。家に入れ。」
「はい。」
フガクとしては実力うんぬんよりも単純に仲良くなっていずれ子供を、とちょっとした打算で言っただけである。
同じ小隊になれなかったらなれないでも構わない。
できれば・・・程度である。
もちろんそんな思惑に乗っかるほど単純でないヒビキであるし、中身は男である。
そして、イタチも特にそういった対象だとは考えていない。
そもそも、まだ8歳児なので結婚はいささか以上に気が早いというべきだろう。
ヒビキが実力を隠していることにイタチがすでに気づいているということをヒビキは知らない。
イタチに対する警戒がまだ甘いヒビキであった。