英霊たちの夏休み? 『孤島ゆらゆら』   作:スノウレッツ

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もう公式がどういう方向に向かっているのかさっぱりです。そんなことを思いつつ二部もゆっくり進めています。
若干時間が空いたのは、少しばかりスランプだっただけ……たかが趣味で書いてる奴がなに言ってるか、ってことですが。とにかく完結はさせねばなりません。
こっちは別に近代開拓なんぞしませんからね!

それでは、暫く。



第三篇 [わりと順風満帆?]

#7 二、三日目/ 昨日と今日とを

 

 朝。昨日は生憎の雨だったので一日ぶりに外に出て、今は森を歩いている。木々は雨粒で濡れそぼち、地面もしっとりと水分を含んでいる。どうやら結構水捌けはいいようだ。

 

「───主どの、大丈夫ですか? 野道は荒れておりますので、十分に気をつけて足を進めてくださいね」

 そういって前を歩いてくれるのは風魔の小太郎。いわゆる忍者である。物腰は穏やかだが、こうやって後ろを歩くとわかる確かな安心感は、彼がまた仕える者であることを教えてくれる。

「ああ、お気遣いありがと。でも大丈夫だよ、どうにも護衛が優秀だからさ」

 森を歩く一行は、先頭を小太郎、後を赤須とマシュ、最後尾にフィン、の四人。

「はい、マシュ・キリエライト、全力でマスターをお守りします!」

「はっはっは、そんなに気負うこともあるまいミス・キリエライト。気楽に朝の散歩とでも思っておけばいいだろう」

「いえ!森は危険で満載だと小次郎さんも仰っていたので!」

 小次郎……いや恐らく此処にはお前の望む飛燕はいないだろうよ。

「ははは…… でもあれだ、たまには緊張をほどいて自然を楽しもうじゃない?」

 まだ陽が昇り始めて間もないこの島には、野鳥のさえずりが静かに聞こえ、共に木漏れ日が地面を照らし。

 あまりにも綺麗な景観。島ごと神聖な気が満ちているように、この世の穢れが全く見えない。それは、ただ単純に活力の溢れるイヤシロチのようであり、我々のような俗世の者共が足を踏み入れていいのか、と疑問に思うるものですらある。

 そんな森の中、ゆっくりと慎重に足を進めつつ、隣のマシュ、前後の小太郎やフィンと談笑する。

 

「ところで、目的の泉ってあとどれくらい? 丘一つ越えるくらいかな?」

「いえ、もう直ぐそこに。水の音を探る限り、源は近いかと」

「小太郎さんの直ぐ……いや、ハサンの皆さんもそうですがやっぱり距離感覚の違いを最近よく認識するようになりました……」

「え、そ、そうでしたか?すみません……どうにも自分の尺で物を語ってしまいます……」

 

「いやいや、それは我々英霊の仕方のないことだろう。生前の過ごし方……それは自分を構成する重要な要因であるからしてなぁ……この私の美しさ……それはいつまでも陰ることは無いであろうからな……」

 フィンの言うとおり。いわゆる個性、性格、人格、まあいくらでもそれを表現する言葉はある。

「そうだね、逆に言えばマシュはデミサーヴァントだからさ。自分の感覚は大事にしていった方がいいかもよ? 人と英霊の橋渡しみたいなものだし」

「そういうものでしょうか……?」

「きっとね。人は人だよ、どう変容しても。それこそ私も、君もね」

 

「そういえば主殿には不思議な過去があるとハサン殿から聞きましたが、それはどのような? 他の皆様は総じて閉口しておられましたが……」

「はは、後でまた話すよ。なあに、大した話じゃないからさ」

 

 そう、別にどうということなんて無い。

 マシュも、私も、人であろうとすることには、誰にも咎められることなんて無いだろう。というかさせない。

 

 とまあこんな感じで何処に向かっているのかというと……

 

//

 

 昨日のことである。

 外は雨が荒ぶっていたので、嵐好きな一部を除いて、皆は広間に集まって客人のスカサハに質問攻めだったり、縁側に居座って雨を眺めているのがいたり。

 

「…………」

「…………」

「おい劇作家」

「なんでしょうアンデルセン殿」

「いつもの良く回る口はどうした、なにもしないならカルデアに戻っていればいいじゃないか」

「ふむ、そのままお返ししたい言葉でありますな」

「はっ! 俺とてたまには何もせず、いやいつまでも何もせずにいたいところだがな。……まあ、せっかくの旅行だ、付き合ってやるのも一興だろうよ」

「はっは、アンデルセン殿は旅行好きでありましたな、失念しておりました」

「馬鹿を言うな。好きなんじゃなくそれしかやることが無かっただけだ」

「ところで白御嬢は何ゆえ連れられなかったので?」

「あの馬鹿娘は留守番だ、こんなところでまで世話をみていられるか」

「……その今執筆しておられる物語は彼女への手土産でありますか?」

「ま、そんなところだ。なあに雨をみることなど久しぶりだからな、インスピレーションは程よく働いてる」

「羨ましいことこの上ない発言ですな……」

 縁側では作家二人が黄昏てる、いつもと違って大人しいのは何かしらそれぞれ思うことがあるのか。

 

 私も隅っこの方で、ゲオル先生の撮ってきた写真、特に島の全貌を捉えたものを仕分けていたり。いや、別に皆が遊んでいるものも少しばかりにやけながら見ていたり。

 ……スイカ割りってこんなに阿鼻叫喚だったか? レンズに付いてるこれ……スイカの赤、だよな……?

「ふふ……みんな結構楽しめてるっぽいな……」

 

「なに哀しそうに笑ってんだ。不吉だからカメラ持ちながらそんな顔してるなよ」

「……何、マスターとして感無量ってことだよ」

 そう、声がした方に首を向ける。あ、首はあのあとわりと直ぐに戻りました。

 側にきたのは式。口調は若干荒っぽい少女だが、その振る舞いは実に淑やか。浴衣を上手く魅せるように、私の隣にその身を下ろす。

「うーん、やっぱり式って和服似合うね。今にも襲っちゃいそう」

「……また嫌うぞ」

「冗談。でも綺麗なのはホントだよ」

「オマエに言われても素直に喜べない。あとこの浴衣、動きづらいんだよな。ちょっと弄ってもいいかな?」

「別にいいと思うよ」

 ああ、そうだ。皆で同じような格好しているというのも、何だか連帯感を感じることこの上ない。趣旨から言えば当たり前なのだが、旅行に来ている感が凄い。

 誰が用意したか───恐らくエミヤか───各々に浴衣が配布され、男性には紺色のシンプルな、女性には淡い紫陽花のような、実に涼しげな印象を受ける。ぶっちゃけ日本人が少ないカルデアのサーヴァント達だが、なんとなく和服が全員似合っているというのは、やはり素材の違いか。それとも、誰かさんの苦労の賜物か。

 

「で、何を見てたんだ?」

「ちょっと島をね。ここがどんな島か、やっぱり空から見た方が分かりやすいから」

「ふーん。……ここ、変な島だな」

 スッと、顔を寄せて共にカメラの小さい画面を見る……何か、爽やかな香りが鼻を抜けた。ついでに顔もちょっとだけ熱くなる。

 ……まずいな、ちょっと頭の中の桃色が抜けてない。今日はちゃんと一人で寝よう……

「……そうかな? 普通の島に見えるけど」

「普通の島はこんな綺麗にまとまってないだろ?」

「うーーん? まあ確かにそう思えばそうかも知れないけどさ」

 式の言うとおり、写真の島は結構丸く、中央には恐らく火山活動で出来たであろう山が一つ。

 山から一筋の川が海へと流れ出ていたり、森が全体的に覆っている中、ちらりと見える人口物のような影だったり。

 

「探検のしがいがあるってものだよ。こんだけ整理されたみたいな島はさ」

「オマエ、本来の目的忘れてないか?」

「いやいや、もしかしたら何処かに聖杯が有るかもしれないじゃない? 聖杯があればスカサハを元の次元に戻せるかもしれないじゃない?」

「……憶測でそこまで動けるのはオマエの数少ない人らしい部分だよな」

「それ褒めてる?」

「貶してる」

「肩に寄り添われながら言われると何かに目覚めそうだよ」

「飢えすぎなんだ、あんたはさ」

「……いいよ、それが私だから。それよりも、さっきからそこの柱に殺気を感じるんだけど?」

 

「そりゃオマエ、こうしてたらそうなるのは必然だろ」

 くくくと笑い声を抑えるように更にくっついてくる。

「分かってて側にいたな!?」

「大抵本人にしか火の粉は降りかからないからな!」

「上手いこと言ってるんじゃないよ!」

 

 スッと、柱から殺気の持ち主が姿を現し……

「旦那様……? 昨夜あれほど申し上げたというのに、相変わらず聞く耳を持たないようですね……?」

 

「あ、ああ清姫さん? はは……いつ頃からそちらに?」

「私……もう我慢の限界ですわ……ですので……」

 にじりにじりと、本当に時間が歪んだようにゆっくりと……清姫が……てく、てく、と。

 

「あは、はは……あれ?式?どこいった!?」

「今一度……私の愛を刻まねばならぬようですね……!」

 腰を下ろしている私に、清姫は覆い被さるように。深く、抱き締め……

「熱っ? 熱い!ってなんで身体の中から熱いの!?」

「うふふふふ……幾度も幾度も焼き殺していれば、いくら私でも火加減というものを覚えます」

「は、はひゃ……」

「骨の髄まで、私の恋の炎で焼き付けて差し上げましょう……」

 まるで身体が内から焼けただれているような、どうにも、もうどうしようもないこの身体は、こんな時でも変わらず腕を相手の背に回す。

 

 色んな意味で末期だ。いやホントに。

 

「ふふ……旦那様、とっても熱いです……」

 

 残念、もう私見えないし聞こえない。ここまで怒らせた……のは久しぶりだなぁと。

 まるでグラタンのようにグツグツと、いやもう。上手に焼けました~!じゃねえから。

 また妙な技覚えさせちゃったな……

 

 端からみればいつも通り、清姫がマスターに迫っているように見えるが。最近はもうこんな感じでさらっと息絶えてたり。

 

 するりと修羅場を抜けた式は一人呟く。

「…………ま、殺される程に愛されてるんだよ、マスターはさ」

 それが赤須九波というマスターの在り方であると。死というカタチの愛を受け止められるというのも困りものであるかもしれない、とも。

 

 結局、赤須は清姫が満足するまで殺され続けた。麻痺しているのである。それは、もう。

 

//

 

 という訳で、ハサンの報告にあった泉に行こうと、そういう流れになった。

 え、何がという訳かわからん? まあ禊と言いますか…… 結局昨日はあれから一日中清姫の相手をすることとなった運びで。

 身も心も焼け切れたので、水で冷やそうかなと。そういった次第であります。

 刀だって熱して打たれたら水に突っ込むでしょう?それが今の私に正しい例えかどうかは放っておいてください。

 

「───そろそろ、見えますよ」

 先頭の小太郎が声をかけ、その言葉の通り、直ぐそこには広場のようになっている空間があり……

 

 

#8 三日目 朝/ 泉と獣と狩人と

 

 

「うわぁ…………凄い、ですね……」

 あまりの絶景に、思わずマシュは声を漏らす。

 

 その泉、その中心にはそびえる樹木が幾重にも絡まって、巨大な一本の樹のように見え。まるで枝が屋根を形成するように、空からこの泉の存在を隠している。

 朝の木漏れ日が光を水面に落としたり、風が吹くたびに影が蠢くその様は、絵画の世界に身を置いたような。美しい湖畔は、そこに佇むだけで心が洗われる。かも。

 

 フィンも、「ほほう、これは……まさしく歓びの島(マグ・メル)と見紛う見渡しだ……」と感嘆の声を。

 

「これは、何て言うか……はは、ダメだな。私はこれを上手く表現する言葉を持ち合わせてないや」私はそこまで美しいものに触れてきた訳じゃない、だからという訳じゃないが、あまり賛美の言葉を知らない。

 

「良いのですよ、美しき佳景である、と。人はそれだけで自然を理解することが出来るものです」

 赤い髪の下、小太郎は微笑んでいるように、私に返す。

「考えるな、感じろ。ってことかい?」

「そう、そうですね。視界に入る情景、冷気を感ずる肌、耳に入る風音。五感で自然に立つ……そういうことが大事です。……ああいや、偉そうに言える立場ではありませんね……お忘れ下さい 」

「ははは、何を言う極東のNINNJA。自然に深く触れる者なのだ、自然を語ることも許されるだろう」

「そうですよ、だって小太郎さんは自然に根ざした英霊の皆さんの中でも特段まともですから……あれ、何だか頭が……?」

「いいかいマシュ、考えることは一旦中断しようか」

 確かに山育ちはまともな英霊少ないけど。まあまともな人間が英霊とまで昇華されるか、と言われたら首をひねるけどね。

 

「この樹木……トネリコの木か? これほどまでに成長しているものは始めて見るなぁ」

「なるほど、この木はとねりこ、と言うのですか……確か、日本原産とされる落葉樹の一種ですね」

「ええ、奥羽の方には良く自生していたと聞いています。止瀉薬(ししゃやく)にも使えるとか。あまり馴染みは薄いのですが……」

 

 皆が景観を楽しんでいる中、私は一人、泉へと歩く。

 端から、下駄を脱いで、片足を浸けてみる。

「───つめたっ」

 想像以上に冷たかった。けれど、拒絶の冷気ではなく、自然が写す冷ややかなものだった。

「センパイ?何を……」

「せっかくだ、少し涼もう。この島は南国みたいに暑いけど、ここは幾分ましらしい」

 泉は、それというにはあまりに浅かった。と言っても、脛のあたりまで浸かりはするが。

 私は、浴衣を濡らさないように若干裾を捲って入ったが、意味はそれほどなく。

 うん。普通に濡れたので、後で着替えよう。一度浸かってしまえば、後はもうどうでもよくなるというのは一体どういう理屈なのだろうか。

 

「ほら、ゆっくり」

「はい……あっ──冷たい、ですね」

「慎重に歩かないと、着物が濡れるから……ああ、摺り足がいい。ちょっと私に付き合ってくれるかい?」

「ええ、どちらまで?」

「あの中央の木……もっと近くで見てみたいんだ」

 

 すると、フィンは顎に手を当て、

「ふむ……では我々はここで待つとしようか」

「そう? それじゃちょっとばかり待っててね」

 

 肯定の合図か、左手を振られる。

 それじゃあ、行こうかな。

「……!」

 何気なく彼女の手をとった。何気なく握り返されたような気がした。

 

 ───ちゃぷ、ちゃぷと。

 

 少しずつ進んでいくごとに、目の前の木は大きく見える。少しずつ首は上を向いていく。

「………………」

 一分か、そこいらで、その樹木にまで辿り着いた。

 思わずため息をついてしまう。

「はぁあああ………でっかいな………」

「ええ、何だか……圧倒されるような……威圧感とは若干違いますが……」

「息を呑まれるってのはこういうことかな……」

 自然の生命力に感嘆しつつ、その幹に右手を当ててみる。

 

 目をつむり、息を吐き、吸い、また吐く。

 今まで、あまりにも忙しかった。そのことをどうしても感じざるを得ない。たまの休みも重要なことだ。

 こうして素足を水に浸けて、自然に身を置いたのなんて何年ぶりだろうか。

 

「───静かですね」

「……うん、落ち着く」

 

 辺りは静寂に包まれて、聴こえるのは風が水面を揺らす音くらいだ。

 ……ああ、あと忘れちゃならない。隣に手を繋いでいる大切な後輩のこともね。

 

 天を仰ぎ、複雑に絡まった樹木は、なんとなく私たちの縁の結び付きを想起させるような。

 偶然の産物に過ぎないだろうが、その偶然の上で私は生きている訳でもある。今さらだが、それを改めて噛み締める。

 

「ここは……良いとこだ。また時間があったらこようか?」

「そうですね、今度はまた他の人たちも誘いましょう」

「ああ、それもいい。それじゃあ今日はこれくらいで「グラオオオオオオ!!!」」

 

「あ!?」

「へ?」

 

 ───そちらへ追い出したぞ!ロビン、毒矢を使ってないな!

 

 ───当たり前でしょうが! 猫さん、きっちり仕留めろや!?

 

「───とぉぉぉう! おうさ、キャットの腕を信じ───お?ご主人おはようなのだな!」

 

「タマモ!? って……!」

「森から……地響きが……!?」

 

「グラオオオッ!ガラアアッ!!」

 

 イノシシ……の大きさじゃない!?

 目の前のタマモの二倍近くある!

 

「フハハ! いいナ!弱肉強食の掟に従いて!」

 迫る巨大猪を前に、タマモキャットの拳(?)が輝く!

「ガラアアアアッッ!!」

「どっかの四角い金ぴか奥義!受けるが良い!

───『黄金燃焼貫手(ゴールド・クラァッシュ)』!! てやぁぁぁ!」

 

 まるで何処ぞの一子相伝の必殺拳のような貫手が、猪の前胸に突き刺さる。

 

「───フ、ガァ……ググァ………」

「成敗ィ! なのだ!」

 

 ゴキッ、と鈍い音が鳴り、猪は崩れ落ちた。

 

 森から、始めに出てきたのはロビンフッド。

「───おお、なんとか仕留めたか……ってマスター? なんだ、朝っぱらからデートかい?」

 

「いやいやこっちの台詞だよ。朝っぱらから何をやってんだあんたら!」

 すると、二人目の狩人が空から降ってくる。

「───何を、と言われてもな…… 昨日の罠に掛かっていた獲物を仕留めに来たわけだ」

 相変わらず空を駆けるかアタランテ。

「ナハハ、朝から良い運動だったのだな!」

「キャットさん、血が!血が滴ってます!」

「何せ心臓潰しの技であるからな! さて、血抜きをせねばならん、ああ、ご主人は待っててくれても手伝ってくれても構わんぞ?」

 平静に対応しているが、右手と頬にはもはや惨劇の跡がある、が。

「さすがに解体は経験が無いから見守ってるよ。……マシュは、大丈夫?」

「はい……もう結構見慣れた光景ですので……」

 私が知らぬ間にマシュも成長していたようだ。これは成長と言えるか……?

 

 死に慣れるのはまあ危険な事なのだが、どうしてもそれに近づく機会が多いことよ。特にキャットの狩りに付き合うとこうなる。

 

「───ほうほう、これはまた上等な獲物だ…… うむ、ここにディルムッドが居なくて助かった!無為な犠牲が出るところであったからなぁ!」と、フィンは向こうからささっとやって来る。

「そもそもウチにディルムッド召喚されてないからその心配は無用だよ……」

 

 巨大猪を前に、小太郎は疑問を口にした。

「ところで、これは如何様に処理するので?」

「晩飯の具材。今日の晩は鍋だってよ」

「はは、今日は鍋か! まあこのくらいの陽気なら丁度良いかもね 」

 牡丹鍋を夏に食う羽目になるとは、というか猪自体、いつぶりだろうか……

「あ? 煮込みに季節もなにも関係ねえだろ?」

「……これも文化の違いかぁ」

 

「───少しばかり手を貸してくれるかー?」

 解体班から呼び掛けがある。

「あいよ、それじゃあマスターは先帰ってな。こんだけの量を捌くのはちょいと時間かかりそうだ」

 

「いや、ここにいるよ。猪捌く場面なんてなかなか遭遇しないからね、ゆったり眺めてる」

「主殿、マシュ殿、履き物はこちらに」

「ありがとうございます。小太郎さんは細かいところまで良く気づきますね」

 そう言われると、

「はは、それだけが取り柄みたいなものですから」と、その忍者は微笑んだ。

 

 

 端から、ものすごいスピードで猪を解体していく彼らを見つつ、静寂というものがどれだけ自分たちと解離した概念か、ということを若干ならず感じた赤須であった。

(とりあえず、私たちを招いた不幸を呪え大自然)

 

 私らはホント命を頂いてばっかりだな。

 そんな事を思い、また、腹が減ったなとも思った。

 

 

#9 三日目 晩/ 酒には御注意

 

 

「おら、皿と溶き卵渡ったかー?」

「いいよロビン、多分行き渡ったから」

「あいよ、ったく……なんで俺が給仕やってんだか」

「ははは、まあ流れだ。よーし、それじゃあ皆手を合わせてくれ!」

 夕餉(ゆうげ)の席、広間には座布団と和机とそれに乗っかるいくつかの鍋とその他と。夏とはいえ夜はそこそこ気温が下がるこの島には、鍋物もなかなか具合が良い。

 京の料亭のような空気感が場を席巻しているので、普段はあまりしないが日本風の作法に倣わせて食前の挨拶をとる。

 

 パチッと小気味良く手合わせの音が聞こえ。おう目血走らせるのやめろや騎士王、もうすぐだから。

 

「屠殺を請け負ってくれた狩人と、提供者であるこの島の主に感謝を。───いただきます!」

 

 ───いただきまーす!

 

 一斉の挨拶と共に、わいわいがやがやと食事が始まる……のだが。一部、なにやら首をひねっているのも何人か。

 

「なあカルナ」

「なんだラーマ」

「たまに思うのだが……あの”いただきます”とは一体誰に向かっての言葉なのだろうか?」

「ふむ、一つ聞いた話だが、日本では食を神から頂く、という意味らしい。俺たちにはあまり馴染みのない風習だな」

「そうか、食の神……我らの圏ではソーマ神か?」

「あれは酒の神だろう」

「そういえば……食物に崇めるべき神などいたか……?」

 

 改めて自らの出自は考えないインドの二人の会話を聞き、(太陽神(スーリヤ)の御子と天空神(ヴィシュヌ)の化身が悩む問題じゃないと思うがね……)と、オリオンは心の中で苦笑していた。しかし……

「ダーリン、ほらあーん?」

「へいへい……ってアッツァァ!」

 ぬいぐるみのような彼は果たして火傷をするのだろうか?それも神秘の謎の一つであるかも知れない。

 

 とまあ神卓という括りを作った訳ではないが、いつの間にか同じようなのは同じ卓についていたり。

 これまた別にテーブルは丸い訳ではないが、騎士たちはまた一つの鍋をつついている。

 

 その中の一人、ランスロットは。

「何故だ……何故肉と野菜が適当に煮込まれているだけであるというのに此ほどまでに旨い……?」

「ふっ、それが日本料理というものだランスロット。……ブリテンにもこれほどの兵糧があれば……」

「はっ!隙ありだぜ父上!」

「なっ、貴様モードレッド! 料理ですら盗むか!」

「へっへっへ、油断してるのが悪いんっあたぁ!」

「止めなさいモードレッド、食事は落ち着いて摂るものですよ」

 仲裁の如くベディヴィエールの手刀が的確にモードレッドの頭を狙った。モードレッドは頭を押さえつつ。

「てめぇベディヴィエールぅ……三流騎士がオレに口だしすんなよ……いてぇ……」

「今のはモードレッドさんが悪いです、ちゃんとオルタさんに謝って下さい!」

「あぅ……リリィまで…… あー!ごめんなさい父上!ちゃんと返すから……って」

「あーん」

「へ?」

「ん、返してくれるのだろう?ならば食べさせてくれ、ほらあーん」

「ええ!? あ、ああ、はい!」

 突然の場面に困惑した彼女は、言われるままに、慎重に、慣れない箸で小さめの煮込みを口に運ぶ。

「もぐもぐ……うん、美味いな!」

 オルタは笑みを浮かべた。

 食べ物を口にできたから笑ったのか、それとも目の前の彼女に単純に笑いかけたのか。

 と、どうやらその突然には耐えられなかったらしい、そのまま横に倒れた。

「……!」

「どうしたんですかモードレッドさん!?いきなり倒れて!」

 隣にいたマシュも突然のことに驚く。

「いい……ちょっとほっといてくれ……」

「ほっとけと言っているのだ、少し放っておけ」

「ええ…… というかどうして私もこちらの卓に同席しているのでしょう……?」

 それに答えたのは騎士王、だが。

「うん?それは当たり前だろう、なにせお前も円卓の騎士だからな。姿は違えど、貴様はあやつの騎士道を受け継いでいる立派な同胞であることに変わりはあるまい。なぁランスロット?」

「え?あ、ああ、そうでありますね……いや、あの何故私に話を振るのでしょうか……」

「ああ、なるほど……とりあえずこれだけは言えます。いい加減状況に慣れて下さいお父さん!」

「ぐっ! ……う、もう私は情けないやら申し訳ないやら……何をニコニコしているベディヴィエール、少しは助け船を出してくれないのか!」

「いえいえ、助けては裁きになどならないでしょう」

「何だと……これもまた私に課せられた裁きか……!」

「いいえ、恐らくは日常的対話に過ぎませんよお父さん」

「くっ……私の息子は……娘では……ない」

「だからいい加減慣れて下さい、本人が召喚に応じるその日まではたぶん変わらないです」

 そのようすを見ていたとある騎士は、思わず笑みを溢す。

「ふふ」

「もぐもぐ………なんだベディヴィエール、随分と機嫌がいいな?」

 口の中のものをきっちり喉に送りつつ、オルタはベディに問いかける。

「ええ、何と言いますか。いつの日か、再び円卓の騎士が集う日が待ち遠しく思うようになりました。王は、如何でしょう?」

「言うまでもない。……だが私は貴殿の従ったアーサー王とは違うからな、それだけは常に頭に置いておけよ」

「承知しております。……おかわりはいかがですか?」

「それも言うまでもないな。ああ、大盛りで頼む」

「はい、了解致しました」

 

 相変わらず円卓の騎士達は喧騒も平静も似合うものである。ただ、ここにいる王はどの歴史にも居なかった王であったことだけは、騎士たちにとって不意の事実であった。

 これも縁の結び付きが現したカタチの一つである……これでもし新しいアーサー王が召喚されたときの騒乱はどうなるかわからないことだが。

 

 と、別の卓にもいろいろある様子で。

「───と、まてシェフ。少しばかりモノが足りないようだが?」

 アンデルセンは、配膳に通りかかったエミヤに声をかける。

「む、何かご所望かアンデルセン」

「あれだ、せっかく猪丸ごと解体したのだろう? 中身(モツ)は無いのか、酒の肴に試したいところだ」

「ふむ、そう言う客がいるかもしれん、と一応取ってあるし調理してある」

「ほう、それでは少しばかり運んできてくれるか?」

「それは構わんが、そうだな。あまり他に感ずかせないようにな、特に彼女にはな」と、視線を促された先には。

「……ニトクリス?……ああ、カノプス壺か。全く、些細なことまで心配りが届くことだな。そんなだから様々な不幸に恵まれる羽目に陥る」

「ははは、それが私の人生のようなものだからな、酒は何を?」

「出来の悪いロゼでいい、三流作家には下民の酒で十分だ」

「君も謙遜が過ぎることだな。ああいや、了解した、しばし待っていろ」

 

「……式おねーちゃん、私もお酒って飲めるのかしら?」と、式の隣にちょこんと座っていたアリスは尋ねる。

「ああ? うーん。───エミヤ!」

 式は扉付近にまで下がっていたエミヤに呼び掛けた、すると……

「──────」

 ぐっ、と親指を立て(サムズアップ)、そしてエミヤは部屋を去っていってしまった。

「あれで本当に伝わってたらアイツのこと尊敬するわオレ……」

「アリスは実際に子供だろうが。というかどういう事を要望しようとした?」

 小声で耳打ちするように、式は少しだけ顔を寄せる。

「いや、オマエの頼んだ酒に良く似たジュースでも持ってきてくれ、って言おうとしたんだが」

「……それくらいなら把握できてそうで怖いぞ俺は」

「確かに……」

 

「何をこそこそ隠し事してるのー?」

「ああ……何でもないよ」

 黒髪を愛でるようにその小さい頭を撫でる。

「むぅ……いつまでも撫でればうやむやに出来るってわけじゃないのー!」

「それじゃもう撫でてやらない」

「えっ……」

「…………」

「ふぇ……」

 

「あー!悪い悪い!嘘だから!いくらでも相手してやるから!だから泣くな!」

「……えへへ、おねーちゃん大好き!」

「ははは……」

 

 (あれ、いつの間にか私のほうが調教されてないか?)

 (ふん……いつの間にか随分と懐かれたようだな)

 (あれ?いつの間にか我輩だけ相手がいない?)

 

 作家卓、というかまあ見ようによれば家族に見える、発覚と眺望と困惑の中心に幼い笑顔が咲いている。子供の感情に振り回されるのは、もはや大人の世の常か。

 

 そんな仲間の様子を見ると、何故か思わずため息が出た。

「───はぁぁぁ……」

 あまり宜しくないな、ため息は幸せを逃すから止めておけってマタハリも言ってたことを思い出す。

 ……いや、ちょっと受け皿をしすぎなのか、もう少し誰かに甘えてもいいものかな……

 

 というかこの配置はあれだ、どこの任侠の集会だ。頭領(マスター)ってそういうことじゃないんだけど。

 

 全員がズラリと並んでわやわやと食事をとっているのを、私は御座から眺めてる、ぼんやりと。何故こういう配置にしたノブ……いや、あれに任せたからこうなったか。

 

「ほら、フォウ君も食べる?」

「フォォ……フォウフォウフォーウ!」

 ぶんぶんと首を振られる。

「そんなに全力で否定しないでもいいじゃない…… もぐ、……旨いなぁ」

 夏の猪ってこんなに旨かったか……というかこれ本当に猪肉か……?

 

「───マスター、飲み物はいかが?」

「ん、エリザ? ああ、良いね。少し貰おうか」

 

 美少女に酌をやらせるとかもうね……いや、まあいい。これも特権と割りきろう……って。

「……この暗い赤なに? ワインなんて飲めないけど私」

「え、いや、あれよ!ブラッドオレンジ!」

「こんなとこでもブラッド()好きか。ふーん、結構いい香りだね……こくっ」

 うん、なんだかんだ私も眠かったのか、ボーッとしていただけか。何の疑問も持たずにそれをひと口、ふた口。

「───? はれ?」

 なんか、あたまが……

 キラッと隣の竜の瞳が輝く。───!!

 盛られた!何をだ?薬なんて私には効かないし……いや!

 すぐそばの卓。

 そいつは透明な液体の入ったボトルをちらとこちらに向けて、(───ははは、お気に召したかい?) というような視線を流す。

 

 ダビデェ!あんたエリザになに吹き込んだ……くそ、だめだ……落ちる。

「…………きゅう」

 赤須はまるで漫画のようにパタンと倒れた。

 

「……相変わらずお酒だけには弱いわねマスター」

「逆に言えばそれ以外に止める方法が無いんだけどね、いや全く困ったものさ」

「それじゃあ、いただいていくわね♪」

「御自由にどうぞ、僕は君にウォッカをあげただけだからね」

 

 赤須はずるずると引きずられ……

 

 ───お待ちなさいエリザさん!

 

 ───げぇ!清姫!

 

 ───ますたぁを独り占めなんて許しませんわ、わたくしに許しも得ずに!

 

 ───ええいマスターはアナタだけのものじゃないのよ!

 

 ぎゃーぎゃー!

 

「…………おい、主らのマスター、首根っこ引きずられていったぞ。大丈夫か?」

「ああ? なんだ、また薬でも盛られたか?」

「いやいや、大方不用意に酒を煽ったのだろうさ、……おおいクー・フーリン、徳利に酒は余ってるか?」

「もうねぇよ叔父貴、あんたら飲み過ぎだ」

「なに? むぅ、徳利はどうにも入る酒が少ないな、樽!樽はないのか!」

「無茶言うな、ってかそれで酒に制限かけられたの忘れたのか!」

「ぐぅう……姐御、アンタからも言ってくれやしないか!……姐さん?」

 

 もしかしたら私のいたカルデアはよっぽど平和だったのでは……と、スカサハはこの妙な空気感に異常をぼんやりと感じ、手持ちの猪口を空にした。

 

 時は夕刻をとっくに過ぎ、虫の鳴き声が耳につく頃合い。いつの間にか主催を欠いた宴会は、少しずつ終息していくこととして、休暇三日目を締めとした。

 

 

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『未踏開拓魔境 ユートピア』

:経過 三日目 終了

:環境 探索へ移行

    →到達度40%

 

:暫定制限

・修正完了までマスターの帰還不可

・空間自体に消滅期限有り

  →残り時間 ?日

 

 

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 てことでこちらはあと二話で終わらせたい、というか本筋を放っているのでさくさくと残りを書きたい、それだけの文才が欲しい。
 なんとか、夏イベ終結までには書き終わりたいところです。

 そしてこっちも自分的には楽しい恒例の捕捉です。
捕捉要項
:イヤシロチ
 本文中で言っている通り、生命力の溢れる地のこと。対義語はケガレチ。
:白御嬢
 バンダースナッチ。存在くらいはちゃんと書いておこうとしたオリジナルキャラの一人。アンデルセンになついている。
:歓びの島
 マグ・メル。ケルト神話における死後の楽園。まさしく楽園のような様相、らしい。
:トネリコ
 小太郎の言うように奥羽(東北)や、主に日本海側に自生する落葉樹。スカサハが撒いた種から成長した。
:ゴールドクラッシュ
 『黄金戦士ゴールドライタン』より主人公機ゴールドライタンの必殺技。相手は死ぬ。ちなみに”奥義を~成敗!”の流れは、みんな大好きロム兄さん。ご存知なかったら、是非とも動画サイトで”バイカンフー スパロボ”と検索かけてみてください。
:牡丹鍋
 日本の冬の味覚の一つ。ぶっちゃけ夏の猪肉とかだいぶキツイ。色んな意味で。
:マシュ≒円卓の騎士
 なんとか中の人の名前は出さないようにしたが、もう完璧にバレバレな何とかハッド卿。マシュの真名獲得シーンは六章屈指の燃え場面、と個人的に思います。
:カノプス壺
 古代エジプトにおける、ミイラを作るときに使用する内臓を納める壺。エジプトだけでなく、内臓を食するのは若干ならず禁忌とする地域は多い……ような。
:ロゼ
 アンデルセンの言うように、比較的安価な、薄い桃色のワイン。さっぱりしていてアルコールも薄め。勿論例外あり。
:猪肉を拒むフォウ君
 キャスパリーグは、ヘンウェンという猪から産まれた、という説がある。それを採用した結果。
:オレンジジュースのウォッカ割り
 スクリュードライバー。言わずと知れた定番カクテルの一つ。別にロシア人レスラーの必殺技ではない。

 割りと好き勝手書きましたが、本家でモードレッドの扱いに涙が出そうになったのでこちらではそこそこ家族らしく……らしいかなぁ?
 さて、次回はあれです、ちゃっちゃと時空を越える手段書きます。この作品の主題は、どうやって、スカサハを持っていないのに水着師匠を自軍に入れるか。という点ですから。ええ。



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