題名は『二重人格のプロデューサー』です。
俺と楽はC組の立て札を持っていた先輩に案内され、一年C組の教室へと向かう。
この学校はクラスが全部で三十組もあるので、学校もそれなりの広さだ。大体一クラスが35人程度なので全校生徒の数が、約千五十人と、今では珍しいほどの多さだ。
体験入学に来ていないので、頭の中に学校の地図をつくっていると、案内の先輩から話しかけられた。
「君は剣道部に入部したいのかい? それ、竹刀袋だろう?」
先輩は、俺の肩にかけられている竹刀袋に指をさす。
「リョウ、そうなのか?」
と楽。
…………普通に刀、持ってきちゃったじゃん! 俺のばか!!
この二週間、刀を肌身離さず持っていたので、いつの間にか刀の重さに慣れてしまっていたようだ。
剣道部に入るつもりはないのだが、入部希望ということにしておこう。じゃないと、『じゃあ、なんで竹刀袋を?』ということになるからな。
「ああ、小学校の頃から剣道をやっているんだ。高校でも楽しみでな」
小学校の頃から剣道をやっているのは本当である。いや、やっていた・・・か。小学生の剣道の全国大会で二位を取った後、やめている。ちなみに優勝したのは従兄だ。
「やっぱり! でも体験入部は三日後なんだ。それまで一年生は見学もダメってことが決まってるんだ。残念だと思うけど」
おぉ! よかった! 今日から体験入部可能だったら、『今日、竹刀を持ってきている新入生が体験に来るぞー』という話になってしまう。もう武道はこりごりだ。部活に入るとしても球技が妥当だ。
そんなこんな先輩や楽と話していると、これから1年間過ごす教室、一年C組に着いた。
「ここが君たちの新しい生活場所だ。楽しくやってくれ」
先輩はそう言い、来た廊下を戻っていった。
俺と楽は頷き合い、教室のドアを開ける。
中には既に二十人ほどがおり、席を立っている生徒も多い。
ドアの音のに気が付いたのか、一斉に俺たちに視線が向けられる。多分、ドアが開けられる度にこうなのだろう。
「ねえねえ、またイケメンよ。やっぱこのクラスはあたりね」
「超絶タイプなんですけど」
と、俺と楽を見ながら、女子たちのひそひそ話が耳に入ってくる。
俺はカッコいいとかかわいいとかよくわからないが、ほかの人たちから見れば、楽はイケメンなのだろうか? 俺? 俺がイケメンってことはないだろう。ない……よな?
黒板を見ると、飾りとともにクラスの席順が書かれていた。
条東商行高校は女子の割合だ多く、俺のクラス一年C組も二十対十五と女子の人数が五人も多い。
俺は右横から三列目、前から二列目の席だ。
「楽、俺寝るわ。寝不足でな」
昨日からずっと寝ていない。別れの宴をした後に東京まで戻って来たからな。バスや新幹線で寝るわけにもいかなかったし。
「そんなに高校が楽しみだったのか?」
「ああ、そんなもんだ」
楽しみではあったが、理由はそれじゃないけどな。
俺は、バッグと竹刀袋を床に置き、自分の席に座る。
俺の前の席の男子は、本を読んでおり、水色の髪、白い肌、少しやせ気味の男だ。
黒板を見ると、《黒子 テツヤ》と書かれていた。
眠いし、挨拶は明日にしておくか。
机に頭を伏せ、寝ようかとしたとき、
……なんだ?
妖力が高い人間がこの教室に二人いることに気が付いた。
一人は常人よりも少し高いぐらいで、それほど気にする必要はないと思うが、もう一人は違う。
俺はその妖力を感じる方を見る。
視線の先には男が一人、椅子に座っている。
茶色の髪に白い肌、黒子よりも細身でちゃんと食っているか心配になる体格だ(俺も人のことは言えないが)。寝ているのか、頭を机に伏せており、顔はわからない。
人間……だよな?
黒板を見て、男の名前を確認する。
《夏目 貴志》、そう書かれていた。
夏目の妖力は上級妖怪レベルだ。人間ではなく、妖怪が化けているという可能性がある。
妖怪だとしても何もしなければほっとくのだが。もし妖怪だったとしたら、こちらから接触するのも怪しまれてしまう。とにかく注意と警戒が必要である。
まぁ、眠たかったので、すぐに寝てしまったが。
☆
入学式の時間になり、俺たち新入生は体育館に行って、入学式が始まった。
体育館は全校生徒千人と保護者が入りきる広さだ。
さすがに俺は、親のしつけもあって、集会や大切な式のときには寝ない。授業のときには寝ることがあるが。
そういえば、誰が新入生挨拶を言うのだろう? 俺、何も言われてないぞ。
などと、考えていたがほかの生徒が言ってくれた。言ってくれた人に感謝です。
☆
長かった入学式も終わり、新入生は教室に戻る。
教室に戻った後は、校内の色んな説明やら見学やらで終わった。全焼した学生寮も見に行った。新しい寮ができるのは、どんなに早くても秋ごろらしい。
初日はこんなもんだった。
自己紹介は明日やるから考えてこいとのこと。
帰るために靴箱まで行くと、ここで俺は大事なことを思い出す。
「あ、教科書の受け取りに行ってないや」
大事すぎるわ!
この高校では、春休みに教科書受け取りがあるのだが、修行のことで頭がいっぱいで忘れていた。
でも教師から何も言われないのはなぜだろう。誰かが代わりに受け取ったのか?
とりあえず先生に聞こうと、Uターンしたとき、
「よう、久しぶりだな」
と、聞き覚えのある声がした。
振り向くと、スーツ姿の青年がいた。その男は、俺と同様に赤色の瞳、黒髪で歳は二十代後半ほどに見えるが、この人も師匠と同じで外見で年齢を判断してはいけない。
「親父、来てたのか」
そう、この青年は俺の親父だ。明らかに親父と言われていいほどの顔ではない。俺と親父が一緒にいると兄弟と間違われるほどだ。
名前は黒瀬 和広、歳は四十は超えているはずだ。こう見えても、超大手企業の会社の社長だ。
「当たり前だろ。息子の入学式だぞ?」
「あんた、俺の中学の卒業式こなかったやん」
「いやー、ちょっとトラブルが起きちまってな。すまんすまん」
「別にいいけどさ。それよりも俺、先生のところに行かなくちゃならないんだ。教科書受け取るのをすっかり忘れててさ」
「ん? 教科書? それならレントが代わりに受け取ってるってメールが来てたぜ。お前、誰にも行き先を伝えてなかったから、しおりが心配してたぞ」
レントとは黒瀬 煉斗、俺の双子の弟だ。双子だが、名前は一文字もかすっていない。しおりは、黒瀬 しおり、俺の一歳下の妹だ。
助かった、レントは何気に気が利くんだよな。
「そうか、レントには礼を言っとくよ。しおりには謝っておく」
「ああ、そうしとけ。それとリョウ、しばらく会わないうちにまた雰囲気が変わったな。見違えたぜ」
「お、そりゃ俺も頑張った甲斐があったな」
この二週間、これまで受けてきた修行よりもハードなことをしたからな。
ちなみに俺の家族は、俺が妖怪や幽霊を見ることを誰も知らない。俺以外の家族は誰も妖怪や幽霊を見ることができない。理由としては、妖力が全員常人レベルだ。見えたとしても、波長が合うやつぐらいだ。
親父も俺が見えることは知らないだろうが、修行をしているのは知っているだろう。親父も例外なく強い。武道をすべて制覇した男だ。俺よりも強いだろう。それに、俺の竹刀袋の中身も知っているだろう。
「あ、こうしちゃいられねえ。リョウ、急ぐぞ。母さんとレントが待ってる」
「え? レントの方にはおふくろが行ってんのか?」
レントも今日が入学式なのだ。
俺たちは歩きながら話す。
「そりゃあ、お前だけひいきするわけにはいかないだろう」
親父もそうだが、レントにもおふくろにも久しぶりに会うことになるな。
主人公の過去話は徐々に判明していく予定です。
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