それと『二重人格のプロデューサー』も投稿しましたのでそちらのほうもよろしければご覧ください。
「う~、腹減った~」
俺は、お腹を押さえて、うなだれながら道を歩く。
周りにコンビニや飲食店があるが、さすが東京といったところか。どこも大行列である。
こんな大行列なら、並んでいる最中に餓死してしまう。さすがに死ぬまではないが。
「学校の自販で何か買っとくんだった」
と後悔するが、気づくのがときすでに遅く、学校ははるか彼方である。ここから二キロぐらいだが。
しかし、学校に戻るぐらいなら近くで空いている店を探す方が良い。それに自販で飯を買うだけのために学校まで戻りたくないしな。
「空いてる店、空いてる店……」
俺は、空いている店を血眼になって探したが、残念ながらなく、俺が通学に使う駅まで来てしまった。まだ一回しか使ってないけど。
駅のカフェもコンビニも人でいっぱいである。
こんなことになるくらいなら、最初に見かけた飲食店で並んでおけば良かったんだ。そしたら今頃入れただろう。
家に帰っても、食べ物は缶詰くらいだ。二週間も家を留守にしたんだ。大方の食材は使えなくなっている。
あ~、それならスーパーに行かないと。
てか、途中にあったスーパーで弁当やらお惣菜やらを買っておけば良かったんだよ。
いや~、朝飯を食べないと、頭が働かなくなるって本当だね。
「う~ん」
俺は考える。
一番良い選択は、この駅にあるカフェかコンビニに並べばいい。これなら、これ以上動き回らずにすむ。
ほかの選択は、途中にあったスーパーに引き返すことだ。そこで数は少ないだろうが、お惣菜や弁当を買う。なかったらパンでもいいだろう。今の時間帯なら、主婦は家で昼飯を作っている最中か、食べている最中だろう。コンビニよりか空いているはずだ。
ギュルルルルルルル!
お腹が鳴った。
もう我慢の限界だ。こうなれば最終手段を使うしかない。
目をつぶり、心を無にする。
心頭滅却である。
心頭を滅却すれば火もまた涼し。とりあえず心を無にしとけば空腹もなくなるだろう。修行で心を無にすることなんぞ何回もやったことがある
グギュルルルルルルルル!
「…………」
いや、無理がありすぎるだろ。この人ごみの中でどうやって心を無にすればいいんだよ。というか通路の真ん中に立ってたら人の邪魔だな。
……なんか、色々と考えていたら、腹が減っていることなんかどうでも良くなってきたな。さっきまであんなに腹が減っていたのに。
「家に帰るか」
あ、でもその前にスーパーに寄っていかないとな。それと、近いうちに通学定期券を買っておかないと。
俺は、券売機で俺の家の方面に行く電車の券を買おうとしたが、手が止まった。
俺は高校に入学したわけだが、挨拶みたいなことをしといたほうがいいのだろうか?
そういうのは早めに終わらせときたいんだが。
「う~ん」
またまた俺は考える。
挨拶とかは、しといた方がいいんだろうけど、まだ昼間だ。親戚の奴らは仕事だったり学校だったりするだろう。 それなら親戚以外のお世話になった人たちならどうだ?
俺は、長い付き合いで、今の時間帯にも家に居そうな人を考える。
うん、妖怪アパートの人たちしかいないな。
☆
そんなこんな俺は、電車に乗って鷹の台東駅まで行って、そこから10分で行ける場所へと向かった。
寿荘、通称『妖怪アパート』である。
妖怪アパートという名前は、ボロッちくていかにも出そうな雰囲気というのもあるが、本当に居るのだ。そういう類のものが。
妖怪アパートの敷地は特殊な結界の中にあって、普段は見えない人でも妖怪アパートに入れば、妖怪や幽霊が見えるようになるらしい。
ツタのからまる白壁に囲まれた建物。
古びた灰色の壁、濃いえんじ色の屋根、窓はステンドグラス。玄関は木製の観音開きで、ここにもステンドグラスがあしらわれている。
映画のロケにでも使われそうな「大正ロマン風」の造りだ。明らかにこのアパートは築50年は優に超えるだろう。
俺は、敷地内に足を踏み入れる。
その瞬間、周りの空気が一瞬で変わった。妖怪や幽霊の気配が一瞬したが、すぐに消えた。また龍さんと間違われたようだ。
龍さんは謎の多い霊能力者だが、俺に師匠を紹介してくれた恩人だ。俺の妖力はけっこう大きいので小物の妖怪たちは龍さんと間違えて隠れてしまう。
俺は玄関まで行くと、食堂の方から走ってくる男がいた。
「あれ? 龍さん……じゃ、ない?」
男は俺と同じ高校の学ランを着ていた。というか、その男の顔には見覚えがあった。
「お前、稲葉か?」
「黒瀬?」
その男は、俺と同じ高校、同じクラスの稲葉夕士だった。
「やぁ、やっぱりリョウくんだったんダネ」
と、食堂の方からもう一人の影。
「ひさしぶり、一色さん」
食堂から出てきた子供のラグガキのような顔をした人物は、一色黎明。
一色さんは、詩人にして童話作家。非常に難解で高尚な詩と、グロテスクで耽美な大人の童話を書き、一部に偏執狂的なファンを持つ異色作家だ。
「一色さん、この人のこと知ってるんスか?」
と稲葉。
「うん。もしかして二人とも知り合い?」
☆
「へぇ~、そうだったのか」
俺たちは食堂でるり子さんの料理を食べながら、お互いのことを話した。
るり子さんは手首だけの幽霊で、この妖怪アパートの賄いをしている。この人の料理が絶品のなんの。
まぁそこは置いといて、俺たちが話したことを簡略化すると、稲葉は、両親を中学一年生の」春に亡くしており、伯父のところに引き取られ、住んでいたが、伯父たちに負担になるのは当たり前のことで、その家から出たがっていた。そんで、条東商の学生寮で暮らす予定だったが、二週間前の寮の火事で、寮が建て直されるまでの間も伯父たちの家に住みたくなかったので、格安のアパートを探した。そしたらここが見つかったわけだ。
うん、なんというか、人にも色々あるんだね。まぁ、俺の周りの人間には、体は子供、頭脳は大人の小学生探偵がいたり、高校生でアイドルやっているやつがいたり、陰陽師やら祓い屋やらのバラエティ豊かなやつらがそろっているけどな。
「その袋にさっき言った刀が?」
と稲葉。
「ああ、これだ」
俺は今日の登校に役に立った刀を竹刀袋から取り出し、机の上に置く。
稲葉は俺に洗いざらい言ってくれたので、俺も話せるだけ話した。この刀をもっている経緯は曖昧にしたが。神様からもらいましたなんて恥ずかしくて言えるか!
「これ、本物だよな?」
「ああ、もちろん」
「その刀で妖怪や幽霊と戦ったりするんだよな?」
「必要があればな」
まぁ、これで戦うのは妖怪や幽霊だけではないが。
「一色さん、今日は明さんや龍さんたちはいないんですか?」
「うん、多分夜には帰ってくるとは思うんだけど」
夜か……食材も買わないといけないしなぁ。
「じゃあ、俺はそろそろ帰ります。買い物もあるんで」
刀を竹刀袋になおし、バッグを持って立ち上がる。
「また来ます。じゃあな、稲葉」
俺は妖怪アパートを後にした。
☆
「今日は特売日で得ができたぜ」
金持ちでも俺は安いスーパーに行くし、特売日なんか最高だ。金をあまり無駄にしたくないのだ。俺って海外に行ったりすることが多いし。
両親から毎月合わせて100万円くるし、初めてもらった俺の通帳には、桁が違いすぎるほどの金が入っていた。でも、この家の管理はすべて俺に任されているので庭の手入れやら家の掃除やらで金をけっこう使ってしまうのだ。
そんなこんな俺は両手を袋いっぱいにして家まで戻ってきた。
この家には本格的な厨房と一般的なキッチンの二種類の調理場がある。
もちろん俺は一般的なキッチン、リビングと同じところにある場所を使う。
俺は二週間ぶりに冷蔵庫を開ける。
「…………おぉ!?」
これから冷蔵庫の中をきれいにしようとしたが、中に入っていた食材はまだ賞味期限を過ぎていなかった。
これは多分家政婦さんの仕業だろう。家政婦さんは毎週日曜日に来る。あいつのことだから、俺がいつでも帰ってきてもいいように食材を用意していたのだろう。
いや~、良い家政婦さんを雇ったもんだ。
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