ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百話 タマムシシティジム前にて

「うほー、かわいこちゃんがいっぱいじゃわい。」

 

「おじさんなにしてるの?」

 

「ピッカチャ」

 

 

 日を改め、たっぷりと寝てたっぷりと朝ごはんを食べた後、サトシはタマムシシティジムへ来ていた。

 街中探して見つからず、素直に道行く人に尋ねたら、クチバシティジムのように入口が基本封鎖されているということだった。

 

 その場所を教えてもらい、いあいぎりで突破し、ジムの前にいざ来てみたらジム内をじっと見つめている男がいたので様子を見たところが、現在の状態だ。

 なにやら怪しすぎる男だったので少し引いて見ていたのだが、とうとう我慢できずに話しかけてしまった。

 これにはピカチュウもあきれ顔だ。

 

 

「ん?なんじゃ子供か。別に怪しいことなんかしとらんわい。げへへ。」

 

「怪しすぎてどうしようもない。」

 

「あんたも見るか?ちょうどあんたくらいの歳の子が多いぞい。うへへ。」

 

「歳?」

 

 

 怪しいが、別に嘘をついているわけでもなさそうだし、なにより欲望に忠実なのが目に見えてわかる。

 

 何に興奮してるのかはわからないが、少し気になったのでサトシも覗いてみる。

 ただの偵察だ。ジム内の偵察。うん。

 

 そう心の中で反芻してそろりと中をのぞき込む。

 

 

 

 中はとても華やかだった。

 

 

 

 

 

 色とりどりの花、すらりと伸びた木々、青々と茂った葉っぱ。

 あらゆる綺麗で美しい植物が整理されて並んでおり、且つ美しい状態で保たれている。

 カントーでも見たことのないものがたくさんあるし、なにより室内であそこまで育て上げるのは至難の業だ。

 それだけでも見ごたえのあるものだったが、怪しいおじさんが見ていたのはもう一方の方だ。

 

 

「かわいいこ、ばっかり。」

 

 

 古今東西の美少女を集め切ったのではないか、とも思える美形揃い。

 そして全員女の子だ。

 ミニスカートを履いた子もいれば、大人し目の服装の子もいる。

 楽しそうにおしゃべりをしている様子もあるし、ゆったりとまどろんでいる子もいる。

 そして、男性は一人たりともいない。

 四方八方見渡しても、女性ばかり。

 

 花を愛でる女性の園。

 タマムシシティジムの最初の印象はそんな感じだろうか。

 

 

「どうじゃ、いい景色じゃろう。ぬふふ。」

 

 

 横で頬を赤らめて嫌らしい目つきで窓に顔をこすりつけている男を細くした目で睨んだ。

 無視しようとも思ったのだが、なんとなく癪だったので一言だけ返事をする。

 

 

「そうですね。とりあえず、これから入ろうという気はかなり削がれました。」

 

「なんじゃあんたトレーナーか。エリカは強い女子だぞー。にょほほ。」

 

「エリカ?」

 

「そうそう。ジムリーダーの名前。しかもおしとやか。まさに大和撫子。そして草ポケモン使わせたら右に出る者はいないんだ。強い女の子も素敵だーぬぽぽ。」

 

「(ぬぽぽ?)草ポケモン・・・!」

 

 

 

 タマムシジムのリーダーはエリカというらしい。

 そして、草ポケモンの使い手。

 

 

(草か・・・相性としては良くも悪くもない。でもいままで戦った経験もないし・・・どんな戦い方をしてくるんだろう。)

 

 

 今までに見た裏のトレーナーが使っていた草ポケモンは、ナッシーやフシギバナが記憶に残っている。

 ・・・凄惨に敗北してしまったが。

 エリカがフシギバナを持っている可能性はあるだろう。

 そうすると使う技ははっぱカッターやソーラービームだろうか。

 ―――どれも非常識な威力をしていることは想像に難くない。

 

 ソーラービームに至っては、破壊光線程度の威力はやはりあるのだろうか。

 そう考えると迂闊にバトルは挑めない。

 どうにかして相手の戦力を確かめる方法はないだろうか。

 

 

 サトシは過去の経験からいろいろなことを想定する。

 だが、所詮は想像である。見てもいない、戦ってもいない相手の戦力を分析するなど若干十四歳のできる芸当ではない。

 

 

 それでも考えられるところはあるだろうと、うーんうーんと唸って頭をひねる。

 

 その悩む様子を見る隣の男。

 

 

 

「・・・・便秘かい?」

 

「違います。」

 

 

 そんな無駄なやり取りをしていたのだが――――

 

 

 

 

 

 

 

「あんたら、なにやっとんの?」

 

 

 

 

 

 先ほどのサトシと同じような問いかけをしてくる男がいた。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「そか。おまえもトレーナーか。―――ジムに挑戦するんだろ?なんで窓からこそこそ中みとんの。」

 

「それはまあ、いろいろとありまして・・・」

 

「ふーん。すぐ行かないんなら、俺が先にいくぜ。―――まあ、窓から覗いてても俺の戦いは見れないと思うけど。」

 

「?それってどういう―――あ、そういう、いやなんでもな」

 

 何かを察し、すぐに口を塞ぐサトシ。

 

「あん?なにいって・・・そうかお前。こっちか。なら尚更だ。先にいかせてもらうぜ。」

 

「ど、どうぞ・・・」

 

 

 

 少しだけ会話をすると、男は颯爽とジムの中へ入っていった。

 開いたドアから黄色い歓声が聞こえたが、すぐにドアが閉じ、聞こえなくなった。

 

 

「ん?あの若者もトレーナーかね?エリカに挑むなんてなあ。」

 

「・・・そうですね。」

 

「さあて、そろそろ帰るとするかな。今日もたっぷり見させてもらったしな。きみはどうするんだい?」

 

「僕は―――あの人が戻ってくるのを待ってます。」

 

「そうか。トレーナーだものな。情報は大事だものな。エリカは強いぞーにゅほほ。」

 

 

 変な笑い声を残して、男はサトシに背中を見せてスタスタと歩き去って行った。

 

 なんとも言えない視線でそれを眺め、男が見えなくなったらくるりとジムに振り返った。

 もしかしてピカチュウいなかったりして、とも一瞬考えたが、今回はまだいたので安心した。

 ジムの近くでピカチュウから目を離すのは自殺行為だと何度も経験しているにも関わらず、自分は学習しないらしい。

 ともかく、先ほどの男が戻ってくるのを待ってみよう。

 明言しているわけではないが、間違いなく裏の住人だろう。

 バトルになったとしても一、二時間もすれば戻ってくるハズだ。

 

 ―――――戻ってこれる状態であればの話ではあるのだが。

 

 

 不安ではある。

 だが、相手は物腰穏やかなお嬢様というらしいではないか。さすがに命を奪うことまではするまい。おそらく。たぶん。きっと。

 

 ・・・か、カスミは例外だから!カスミは、なんかこう、あれだから!大丈夫!

 

 

 

 自分の中で謎の自問自答を繰り返しながら、先ほどの男の帰りを待つ。

 待ったところで情報が手に入るかどうかはわからないが、それでもなにかしら得る物はあるだろうと思う。

 期待しているわけではないが、どちらにしろ今ジムに入ったところでエリカと相対することはできない。

 普通のトレーナーの振りをして戦うにしても、戦えるポケモンはクラブにサンドにメタモン。メタモン以外は弱点だ。とても真っ当に戦える相手ではない。

 

 

 

 草叢の上で駆け回っているピカチュウをぼんやり眺めながらイメージトレーニングを重ねる。

 たとえば、あのフシギバナが相手だったらどう戦うだろうか。ナッシーが相手であればどうか。それとも、すごく強いマダツボミなんかがいたらどうだろうか。

 

 今まで自分が遭遇した草ポケモンを思い浮かべ、自分の中で強いポケモンに変えてみる。それをピカチュウと戦わせてみる。

 

 

 

 

「・・・・全然わからない。」

 

 

 

 頭で考えるだけ―――とはいえ、イメージトレーニングとは意外と高度な技術だ。

 正確に能力を把握しているだけでなく、具体的に三次元を脳内に作り上げて、さらにそこで不確定要素を交えながら数十パターンもの展開を考えていき、勝利パターンを作り上げていく。

 

 経験も知識も少ないサトシにとってはそれは難易度の高すぎることだった。

 類稀な空間把握能力も、百手先を読める力も無い。

 サトシの行うイメージトレーニングは、なんとなく不安を消し去ることができるという、云わば自己暗示に近いものだった。

 本来のイメージトレーニングとは目的の違う行動ではあるが、サトシなりに効果のあることではあったようだ。

 

 

 ここは人目も無いためか、ピカチュウも正体を隠すつもりもなくその高い身体能力で飛んだり跳ねたり走ったりしている。

 

 

 

 

 

 いろいろなことをボーっと考えながら座っていると、刻々と時間は過ぎ、変な笑い方の男と別れてから二時間が経過したが、ジムに入ったトレーナーが戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

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