結局、日が落ちるまで待っていたが、ジムから誰も出てくることはなかった。
裏口とかあるのかも?とも考えたが、それも考えたところで結論は出ない。
ジムの普通のトレーナーが出てきてもなんて反応してよいかわからないため、この日はそのままピカチュウを連れてポケモンセンターに戻った。
ベッドに腰掛け、今日の事を改めて考える。
あの男はエリカに殺されてしまったのだろうか。
裏のバトルである以上、その可能性は当然あり得るし、しかもジムリーダー戦だ。
その可能性はかなり高いとも思える。
そしてそれが事実なのであれば、エリカの性格は、タケシのようにきちんと会話できる精神構造をしていないということにもなる。
であれば、サトシも状況次第では帰らぬ人に・・・・このポケモンセンターの景色が最後に見る光景に・・・
ぶんぶんと頭を振って今の考えを消し去る。
当然ながら簡単に消えてくれるほど人間の脳内は簡単にはできていないため、悶々と頭の中に残り続けるのではあるが。
これ以上考えても無意味だ。
なるべく多くのアイテムをそろえて、エリカに挑戦するしかない。
新しくポケモンを捕まえ―――たところで何が変わるというのか。
むざむざと死にゆくポケモンはなるべく増やしたくはないし、なにより信頼関係のできていないポケモンをいきなりジムリーダー戦に投入しようというのか。
それはもう、なんと言われようとも許容できることではない。
「・・・・寝よう。」
たっぷりと考えた後で、サトシは眠りにつくことにした。
寝ればある程度考えが整理されるだろうと、人間の脳みその構造に任せて、自分は早めに体力回復に努める。
すでに寝ているピカチュウを数秒眺め、そして横になるとごそごそと毛布をかぶり、最後かもしれない夜を、あまり考えないようにして目を閉じ、やがてすぅすぅと穏やかな寝息だけが聞こえてきた。
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「ポケモンは捕まえないと言ったけど、見るくらいはいいよね。いや、レベル上げとかもあるし。」
「ピカピー」
ここはタマムシシティの東、七番道路。
道路というには非常に短い。サトシがシオンタウンからここへ来るのに使った連絡通路から出るとこの場所に行き着くのであるが、目の前に広がるタマムシシティに興奮してしまい、何も思うことなく通り過ぎてしまっていた。
短いだけでなくトレーナーもいないが、ポケモンが生息する草むらだけはきちんと存在している。
「ポケモン図鑑を集めるのも大事だしね!お、さっそく新しいポケモン!いけ、サンド!」
「サンドー」
出てきたポケモンはナゾノクサ。
この後行われるジムリーダー戦に備えて、気持ちだけでも勝つために、草ポケモンをなんとなく多めに倒してみるサトシだった。
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「サンド、『きりさく』!」
「サンドー!」
「ニャーーーース」
野生のポケモンを倒し始めてからおよそ一時間。
そろそろいいかなと思い、一度ポケモンセンターに戻ろうとしたが――
「サンド?」
サンドの様子がおかしい。
じっとうずくまり、身体全体から発光しており、その光を徐々に強めている。
「これは―――進化の光!ついに進化するんだね!」
サトシは目をキラキラさせながらサンドの進化を見守る。
サトシの手元には進化したポケモンはいない。
光を纏って進化したポケモン達は、皆死んでしまった。
故に、サトシにとって進化とはかなり特別なものである。
完全に光に包まれたサンドはその体積を増していき、一メートル程の大きさに。
まるっこい体型だったものが、より戦闘向きの体格に変貌する。
光がおさまると、そこにはびっしりと背中に棘が生え、尖った耳を持つポケモン、サンドパンの姿があった。
「サーンドパン!」
「おー!かっこいい!」
より大きくなった自分のポケモンを見て、サトシは素直に喜ぶ。
「でも、もう肩に載せたりはできないね!」
苦笑いしながらサトシは言い、サンドパンも首を傾げる。
かわいい姿だったサンドは確かに良かったが、サトシはポケモンを可愛がるために旅をしているわけではない。
より戦い向きの身体となったサンドパン。この身体で出来る戦い方のパターンは今までの比にならないだろう。
素直に喜び、同時に命を散らさないように最大限の注意をしていくことを心に誓う。
「再会するのがポケモンタワー、なんてことはやめてよね。」
「サーンド、サンドパン」
「うん!頑張ろう!あらためてよろしくね、サンドパン!」
「サーンド!」
共に苦楽を乗り越えた仲間の進化の喜びは大きい。
進化する兆しすら見えないコイキングと、進化なぞ死んでもしないとばかりのピカチュウ。
進化の可能性があるのはあとクラブだけかと、すこし寂しさも覚える。
だが、むやみにポケモンを捕まえるというのも・・・今はまだできない。
なによりサトシの罪悪感がそれを許してはくれない。
メタモンほどに生物離れしたポケモン―――いるのかどうかはわからないが―――であればとも思うが、それでも生物であることに変わりはない。
結局はサトシの一存。ある意味、メタモンはそのサトシの一存に巻き込まれた可哀想なポケモンであるのかもしれない。
「で、モンスターボール勝手に投げるのやめてくれない?ピカチュウ。」
「ピカチャ」
頭にメタモンを載せられてなんとも言えない感触に背筋をゾクゾクさせながらピカチュウに文句を言う。
ひんやりしたメタモンの身体が、頭の熱を直接取っていく。
「・・・頭冷やせってこと?」
もちもちとした感触を頭と首に味わうサトシ。確かに頭は多少スッキリしたように感じる。
「ピッカー?ピカピ」
首を傾げて、サトシに載っているメタモンをうにょうにょと伸ばしたり縮めたりし始めた。
非常にシュールな光景だが、一連の流れを見ていたサンドパンは楽しそうに両手をあげてはしゃいでいる。
見た目は攻撃的になっても中身は基本的に変わらないようだ。当然ではあるが。
だが、サンドの面影がしっかり残っていることになんだかんだ安心するサトシだった。
「ぬぐお、メタモン、それ息ができな・・・」
鼻を塞がれたので口だけはなんとか死守しようともがくサトシだった。
―――――――――――――――――――
「さて、来てしまった。」
「ピカピッカ」
ポケモンリーグ公認タマムシシティジム。
ジムリーダーはエリカ。草ポケモン使い。
――――慣れた、とはとても言い難い空気。
ポケモンジムリーダーに挑戦する時は、基本的に弱気だ。
結局昨日挑戦していたトレーナーの行方は知れず。
どうなってしまったかは、もはや言わずもがな。
裏のトレーナーである以上、避けては通れない展開であり、この結果である。
いつでも付いて回る『死』という概念。
だんだんその感覚が希薄になっているような気もするが、自分が生き物である以上、死とは恐怖そのもの。そして、自分自身に対してこそ希薄になるが、こと仲間においてはこれ以上失うことは断じてできない。
――サトシ自身にとっても、これ以上仲間を失うことにどれだけ耐えられるだろうか。
むしろ一度、決壊寸前まで行っていたのだ。
今の仲間に助けられたが、その仲間がいなくなってしまった時は一体どうすればよいのだろうか。
他力本願ではあると思うし、自力でメンタルを整えられないことに情けなさも感じる。
しかしそれでも、サトシにとっては仲間の存在は生命線なのだ。
サトシ自身もそれがよくわかっている。一心同体。サトシの死はポケモン達にとっても耐えがたきものになるだろうし、逆も然り。
だがそれを差し置いても尚、サトシはこの狂った世界を修正するために挑み続ける。