ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百二話 タマムシシティジム

「ようこそ、タマムシシティジムへ。わたくし、ジムリーダーをさせていただいております、エリカともうします。わざわざこのような場所においでくださいまして、ありがとうございます。」

 

「あ、いえいえこちらこそありがとうございます?」

 

「それで本日はどのようなご用件でしょうか。異性ばかりの場所でしょうから落ち着かないでしょう。申し訳ございません。皆、男嫌いなものでして。」

 

 

 

 

 タマムシシティジムの中に入ると、こちらに視線を飛ばした数人からキャーキャーと甲高い声が何重にもなって聞こえた。

 幸喜の声であったりもしたし、悲哀の声であったりもした。

 どちらにしてもサトシにとってはただ五月蠅いだけであるのだが。

 

 

 整然と並んでいる草木の道を通り一番奥までいくと、その人はいた。

 肩口までで綺麗に切り揃えた黒髪に、髪を抑えるために赤い手拭を頭に巻いている。

 

 上品な赤に染まった腰の高い和服を着こなしており、有体に言えば和服美人。いや、美少女か。

 カスミも対外であったが、エリカも別方向での美少女といえよう。

 服装にも表れているが、その性格もかなり丁寧でおしとやかに見える。

 

 振袖に身を包んだ黒髪の美少女は、何か現実離れした雰囲気を出しているが、その空気の正体はまだサトシにはわからなかった。

 

 

 

 

「あの・・・きょ、今日はバトルとかじゃなくて・・・その、話を聴きたいな、と。」

 

「話、でしょうか。もちろん、お話は好きですわ。草花はお好きですか?わたくしは見てのとおり大好きでして、いつもお手入れして綺麗なお花が咲くのを心待ちにしているのですわ。」

 

「なるほどー――ってそうでなくて」

 

 

 言葉に詰まったが、これ以上誤魔化しても何も生まれないとサトシは判断し、ジャケットを少しまくり、エリカにだけ見えるように黒いバッジをちらりと表に出した。

 

「あらあらまあまあ。そういうことでしたの。なるほど、話というのはそういうことでしたか。承知いたしました。それでは奥へ。客間にご案内いたしますわ。」

 

「あ、あの!すぐに戦うなんてことは―――」

 

「大丈夫ですわ。わたくしはそこまで下品ではございません。準備できてからで結構です。みなさん、この方はわたくしの大事なお客様です。手を出してはいけませんよ。」

 

 

 

 はーいエリカ様、とお世辞にも揃っていない声ではあったが、きちんと全員返事をしたようだ。

 なんというか、普通にいい人のような気がしてきた。

 あまり期待しすぎると痛い目を見るのだろうということは容易に想像できることではあるのだが。

 なにせ、ジムリーダーである。サトシの中ではジムリーダーとは世間的にトップクラスで狂っている人達のことを指すようになっている。

 

 タケシ、カスミ、マチス。本当に忘れようもないほどに印象的な人物ばかりだ。いい思い出とは限らないが。

 

 

 しかし、今日これからバトルするということは無さそうだ。

 今までも、基本的にはジムリーダーは嘘はつかない。

 ピカチュウの粗相というイベントが発生することによって前言撤回されることはあっても、自主的に嘘をつくことは誰もしてこなかった。

 

 あのマチスにしても、だ。

 

 

 とりあえずピカチュウから目を離さなければ、エリカについていっても問題はなかろうと思う。

 

 

 

(こういうところが迂闊だってのもわかってるつもりなんだけどね・・・)

 

 

 わかったところで行かなければ何も進展しない。

 不利になることは承知の上でエリカの後を続く。当然、ピカチュウの太い指は掴んだままだ。

 はたからみると手をつないで仲の良い友達のように見えるが、そんな恥ずかしい見た目を気にするほどサトシには余裕がない。

 今回は何としても粗相を防がなければ。有効な作戦が立てられなくなる。

 

 

 知ったところで有効な作戦が立てられるかは別問題ではある。

 それでも何も知らずに挑むよりも勝率があがることは間違いない。

 

(今日は話すだけ。情報収集だけ。いいね?)

(ピカー)

 

 

 ボソボソと会話していると、エリカの言う客間にはすぐに到着した。

 美しく大きな活け花、純和風の室内。椅子ではなく座布団。

 エリカは部屋に入ると、淀みない所作で下駄を脱ぎ、音をほとんど立てずに手前の座布団の前に立った。

 

 サトシも靴を脱いで、座敷に上がる。手のひらで奥へ、と誘導されたのでそのまま奥へ行って、座布団に胡坐をかく。

 そして、サトシが座ったのを確認すると、エリカもすっと座布団へ正座し、背筋をピンと伸ばしてサトシへと視線を向ける。

 

 

 それと同時に、入口の襖が小さく音を立てて開き、和服を着た少女がお盆にお茶を二つ載せて持ってきた。

 

 

 エリカを見るなり、驚いた顔をする。

 

「エリカ様!また下座に!ジムリーダーなのだから上座でよいのだとあれほど!」

 

「よいのです、サトミ。お客様は丁重におもてなしするものですよ。」

 

「でも・・・・」

 

「お茶、ありがとうございます。下がってよいですよ。」

 

「・・・はい、失礼いたしました。」

 

 

 

 サトミと呼ばれた少女は振り向かずにそのまま下がり、襖を越えたところで丁寧にお辞儀をし、また静かな音をたてて襖を閉じた。

 最後に トン という音をたてて、この部屋にサトシとエリカ、そして湯気をたてるお茶が二つ残された。

 

 

 ちなみにピカチュウは何故かエリカの隣に正座をしている。何かしらやらかさないかとヒヤヒヤするが、引っ張っても動かなかったのでこのまま進めるしかない。

 

 幸いにもエリカもこの状況を楽しんでいるようだ。

 ジムリーダーの胆力は半端ではない。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ではあらためて。わたくしはタマムシシティジムリーダーのエリカと申します。この度はこのような辺鄙な所までご足労いただき、ありがとうございます。」

 

「あ、いえそんなご丁寧に。僕はマサラタウンのサトシです。」

 

「まあ、随分遠いところからおいでくださったのですね。サトシさん、お疲れではございませんか?」

 

「えっと、休んではいるので―――」

 

「そうでしたか。大変なご無礼を。」

 

「―――・・・・・」

 

 

 

 

 どうしよう、すごくやり辛い。

 

 心からそう思うサトシだった。

 今までは我が強いリーダーばかりだったので、どちらかというとサトシの方が場に流されることが多かったのだが、エリカは全くの正反対だ。

 本当に日常会話するためにここにいるのかと錯覚する。

 

 これは早く本題に入らなければ時間だけが過ぎていってしまう。

 

 

 

 よし、と心の中で勢いをつけて、注意深くエリカに問いかけをする。

 

 

 

「あ、あの!」

 

 ちゃぶ台に乗り出す勢いで問いかける。

 

「はい、なんでしょう。」

 

 微塵も動じず、それに応える。

 

 

 

 ゴクリ、と息を鳴らして、思い切って口にする。

 

 

 

「タマムシジムの―――いえ、エ、エリカさんの、裏のバトルはどのようなものになるますでしょうか!!」

 

 

 緊張のあまり若干噛んで不思議な言葉になったが、聴きたいことはこれだ。

 策謀を張り巡らす能力はサトシには無い。顔にもでるし、知識量も圧倒的に足りない。

 サトシにとって、もっとも信頼を得られるべき行動は、嘘を言わないことだ。

 サトシは一切計算などしていないが、この態度は悪い結果を招くことも多い。

 しかし、人によってはこれ以上ない、高評価を得ることになる。

 

 エリカはどちらであるかというと―――――

 

 

 

 

「うふふ、わたくし、正直な人は好きですわ。ええ、サトシさん。これで緊張していなければ満点なのですけれど、誠実さがすごく伝わってきますわ。もちろん、教えて差し上げます。」

 

 

 後者、であるようだ。

 

 

 元々笑顔だった表情をさらに綻ばせ、満面の笑みになるエリカ。

 天使のような笑顔と予想外の反応に、さすがにサトシも唖然となる。

 

 

「あら、いかがしましたか?お話が聴きたいのでしょう?」

 

 エリカの言葉でハッとなり、ありがとうございます!と元気に言う。

 そして、胡坐を解いて座布団の上で慣れない正座を組み、痺れるの覚悟でエリカの話に耳を傾ける。

 バトルになればお互いに傷つけあうのみではあるが、する必要のない話をわざわざ聴かせてくれるというのだ。

 正しい作法など知らないが、誠意は見せなければならない。

 

 

 それを見たエリカはニコリとし、姿勢を正す。

 

「ええ、ええ、とてもいいですわサトシさん。それではお話しましょう。―――そうですね、先ずは、わたくし自身の事を。」

 

 

 

 瞬きもせずに、サトシはエリカの事を見据える。

 エリカがどのような皮をかぶっているのか。

 それが今から判明する。なるべくなら、今のこの印象のまま変わらないものであってほしい。無理だろうけれど。

 

 

 

 

 サトシの思惑が伝わったかどうかはわからないが、エリカが一言、そのままの笑顔で発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしは、お金が好きなだけ、ですわ。うふふ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・お金?」

 

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