ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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展開が重い。



第十一話 思考と狂気

 トキワシティに戻ると、すでに日が落ちかけていた。

 おじいさんは・・・いない。

 

 町はすでに人気が少なく、光が灯る家で一家団欒しているようだ。

 そんな光景に若干ながら寂しさを覚えながら、いかんいかんと首を振ってポケモンセンターを目指す。

 

 

「ピカチュウと一緒だもんね。」

 

「ピッカー」

 

 

 二メートル四十センチの巨躯と共に歩きながら家族の光を横目に足を進める。

 歩幅に差があるのでピカチュウは少しゆっくり目に、サトシは少し早めに歩く。

 サトシ自身としてはすでに慣れてしまってはいたが、確かに周囲から見ると注目の的な光景だ。

 十四歳の一人旅というだけでも目に付くのに、ましてや異質の塊のような黄色くてでっかいやつが供にいる。

 裏の住人からしたら好戦的と捉えられても仕方のないような気もする。

 そして、当面の課題もそこにある。

 

 

「ピカチュウをどうやって隠すか・・・」

 

 

 なかなかに難しい課題で頭を悩ますサトシだった。

 

 

 

 

 

 ポケモンセンター宿泊施設内。

 キャタピー戦で負った傷を癒すためピカチュウを預け、その間にピカチュウ隠匿作戦の内容を思慮する。

 

 まず一番厄介なのが、モンスターボールに入ってくれないということ。

 これがクリアできたら解決なのだけど、それをさせてくれないのがピカチュウ。

 おそらくパソコンに預けることもできないだろう。預けようとしたらパソコンを一瞬で吹き飛ばしかねない。

 そうしたらお母さんに連絡がいって警察沙汰になって・・・・いや、考えてもしょうがない。この線は無しだな・・・・

 

 

 一度思考をクリアしてから、再度考え始める。

 

 

 そういえば、こんな言葉を聞いたことがあるようなないような。

『木を隠すには森の中』だっけ?

 

 ふと思い立った。

 これでいける・・・?ピカチュウが嫌がらなければだけど。

 ひどく稚拙なアイデアのように思えるが、意外といけるんじゃない?試してみる価値はある気がする。

 そう考え、そろそろ治療が終わったであろうピカチュウを迎えにいく。

 

 今日は寝て、明日はピカチュウを連れて買い物に行こう。

 

 

 そう考え、まだまだ治療を求めるポケモントレーナーで混雑しているポケモンセンター内を進み、お肌つやつやになったピカチュウを迎え入れる。

 一体なんの治療をしてたんだろうか。そんなことを思わないでもないが、ピカチュウを連れて寝台へと移動する。

 

 

「おやすみ、ピカチュウ。」

「ピッカー」

 

 

 すぐに寝息を立て始めるピカチュウ。

 

 やっぱり目をあけたまま寝てる。

 

 

 そして自分も寝ようとする。

 

 

 

 

 

 

 目を閉じると、急に体が震え始める。

 

 

 

 

 トキワの森での戦い。

 初めての裏のトレーナーとのバトル。

 トレーナーの在り方。

 ポケモンとトレーナーの死。

 

 ありありとその時の情景が目の裏に浮かぶ。

 毛布をかぶり、体を震わせる。時間がたち、改めて考えることにより再度恐怖がサトシの体を支配する。

 

 異形のドーピングポケモン。

 片目だけ肥大し、その胴体も筋肉が膨れ上がり巨大な体躯をもつキャタピー。

 その見た目の衝撃は一度みたら忘れることのできない類のもので、はっきり言って異様だった。

 そしてそのポケモンをもつトレーナー、虫取り少年の精神も歪なことこの上ない。

 

 強さとはそこまで人を変えてしまうのか。

 ポケモンを強くしようと思うのは問題ないし、当たり前だと思う。

 他の人よりも強くありたい。そう思うのは当然だと思う。

 でも、それは人間の勝手な考えではないだろうか。

 ポケモン自身も強くなりたいと思うのだろうか。

 強くなりたいと思ったとしても、ドーピングをしてまで強くありたいだろうか。

 

 異形になってもトレーナーに付き従っていたキャタピー。

 それでも自分の主人を愛し、命令にしたがってきたのに。

 最後の最後に裏切られ、主人の体を破壊した。

 主人の手によってその暴力性を高めた攻撃によって、内臓を吹き飛ばした。

 キャタピーは泣いていたのだろうか。それとも、安心したのだろうか。

 

 しかしそんな主人であったとしても。

 歪な精神と信仰をもつ主人だったとしても。

 キャタピーは従っていた。傍にいた。

 たとえ自分と共に育ったであろう他のポケモンが主人の手によって殺されてしまっていても、その姿勢を崩すことはなかったのだろう。

 それほどまで純粋で、けなげな存在。

 だからこそ成り立ってしまうのだ。歪な愛情も、なんの障害もなく成立してしまう。

 ポケモン自身を壊してしまう悪質な呪いのようなものであったとしても、それを受け入れるしかない。

 

 ピカチュウとオーキド博士がそうであったように。

 

 そうだ。オーキド博士はそれを止めようとしていた。そうだ、ドーピングは悪なのだ。許してはいけない。危険なのだ。

 すべてを廃してこの世界をきれいにしなければ。うん、それがいい。そうしないといけない。

 

 ん?そうすると、レッドは果たして善人なのだろうか。

 レッドは表と裏のバランスをとった。

 しかしそれゆえに、ドーピングアイテムを手に入れやすくなった。

 裏の世界は安定し、表の世界も安定した。言葉だけきくととてもいいことのように思えたけど・・・

 

 それによって悲しむポケモンが増えた。

 それはよくないことだ。ダメなんだ。レッドはよくないことをしたんだ。

 

 いや、でもそうしないと表の世界は犯罪にあふれて―――――

 

 

 

 

 

 

 サトシは思考していた。ずっとずっと。

 

 

 

 

 

 すべてを得ようとするがあまり、すべてを捨てかねない選択肢を自分が進もうとしていることにサトシはまだ気づけない。

 

 

 

 

 

 考えれば考えるほどに、何が大事で、何を守るべきかがわからなくなる。

 

 世界を知らない純粋な十四歳の頭では、重要な取捨選択の経験値が少なすぎる。

 

 

 

 

 

 サトシに、狂気の手が伸びようとしている。

 

 

 

 

 

 

 夜が更けていく―――――――――――――

 

 

 

 

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