これはオーキド博士がドーピングアイテムの研究に勤しんでいた時のお話。
ドーピングを行うことでポケモンがどう変化するかをつぶさに観察し、まとめていた時期。
博士も特に罪悪感などなく、研究者という立場でガンガンドーピングを使っていた狂気の時代である。
助手のタツロウと共に今日も今日とて生物実験に没頭する。
・・・本編が気になる?そんなもんは知らんなぁハハハ。
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「ついにきたぞ、タツロウ君。」
「なんでしょう、オーキドはかせ。」
狂いに狂ってる日常を送っている両名であるが、今日に限っては何故かシリアスな顔をしているオーキド。
いつもは笑顔で薬物注入じゃーとか騒いでるだけであるが、雰囲気が随分と異なる。
ついそれに合わせてタツロウも真顔で返答するが、特に意味はない。
「この時を、待ちわびていたのだ。この研究を始めた時からずっと、これを、この機会を。」
「はかせ・・・一体なにが・・・?」
「ポケモン管理部に―――あるポケモンがついに仕入れられたのだ。なかなか発見できないレアポケモンなだけに、今まで時間がかかってしまったが。ついに――――」
「ごくり」
「メタモンだ。」
言葉を失う。
どうなるのかまったく想像がつかない。今まで数多くのポケモンをドーピングし、その変貌するパターンを記録し続けているこの二人ですら、メタモンの変貌は未知数。
変身したポケモン以上の力を得るのか、はたまたスライム状の身体そのものの能力があがるのか。
それとも想像だにできないほどの何か別の能力に開花するのか。
禁断のドーピング実験体。だからこそやる必要がある。
不可解な胴体を持つメタモンに、強力なドーピング。
考えるだけで身震いがしてくるというものだ。
「はかせ、ついにやるときがきたんでーすね。」
「ああ、研究者をやっていてよかったと心から思える瞬間だ。未知への探求。それこそがすべての原動力。さあ、もう手配は済んでいる。管理部からメタモンをいただいてきなさい!」
「おまえのものはおれのもの」
どっかのガキ大将のような言葉を残し、タツロウは研究室を出ていった。
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チッチッチッ
時計の針の音だけが異様響く室内。
オーキドも無言で目を瞑り、静かに時を過ごす。
そのまま数分が経過し、異常に静かな研究室に周囲の人間が違和感を感じる頃――――
カッとオーキドが目を大きく開くのと、モンスターボールを持ったタツロウが扉を勢いよく押し開けるのは同時だった。
「きぃたかあああタツロウ君!!!」
「はかせー持ってきました」
満を持して登場したタツロウに、椅子を倒す勢いで立ち上がったオーキドが出迎える。
「早速!檻の中に出すんじゃ!メタモンはスライム状だから強化ガラスでな!」
「だしますー」
バシューと赤い光を伴ってスライム状のポケモン、メタモンが現れる。
周囲がガラスで覆われていることには特に無関心のようで、その場でうにょうにょと身体を波打たせている。
「きたか・・・ついにこの時が。」
「きましたねーはかせ」
「どうなると思う?」
「スライム状なので、無限増殖とか面白そうですー」
「それは世界が滅びるな!うわははは!」
一通り騒いだところで、何を考えているか全くわからないメタモンに、ドーピング薬を注入していく。
「さあ、終わったぞ・・・」
「たのしみでーすねー」
「期待を込めて、いつもの倍はいれてしまったぞ!」
「たのしみでーすねー」
メタモンは豆のような目で、二人の様子をガラスの中からじっと眺めていた。
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「どうだタツロウくん。そろそろ効果が現れてくる時間なのだが。」
「まだ何も変化は無いでーすねー」
「ふうむ、他のポケモンに比べて馴染むのに時間がかかるのかのう。」
薬品投与からおおよそ二時間。普通のポケモンであれば大抵のものが効果が現れてもおかしくない時間だ。
だが当のメタモンは何の変化もなく、投与時と変わらずうねうねと身体を波打たせている。
「何故だ。とっくに効果は現れていておかしくない。今までもポケモンのタイプや特性によって多少時間が前後したことはあるが、概ね一、二時間で明確な変化が起きている。」
目の前の不定形の生物は変わらずその不思議な身体をうねらせている。
なにも変わらず、先ほどと同じように。
「何も、変わらず・・・?」
ふと考える。
さすがにおかしいではないか。
通常の倍の量を投与したのだ。変化しないハズが無い。
メタモンがポケモンである以上、それは絶対と言える。
もしも変化しないのであれは、メタモンはポケモンでは無い何かということになってしまう。
それは考えづらいことだ。
ということは、ドーピングは作用する。時間の問題か、あるいは―――
「すでに、変化している――?」
その考えに至った瞬間、異変が起きた。
「は、はかせー、メタモンがどんどん小さくなっていきますー」
「なに!?ついに変化が!――だが小さくなるだけなら不思議なことでは・・・」
二人は黙る。
目の前の光景を信じたくないが為に。
「「―――消えた。」」
忽然と、メタモンは消えた。
もともとその場所には何もいなかったかのように、空気のように消え去った。
「空気・・・・!!!タツロウ君!ポケモン図鑑を向けるんだ!」
「はいー、あ、反応はありますね。―――どんどん上昇中ですー」
「なんてこった!そういうことか!!!」
「どういうことですー?」
「メタモンは――――空気に変身したのだ!!!換気口から外にでるぞ!!!」
生物的には全く説明がつかない。だがそうとしか言えない。
不定形とはいえ固形物が、どうやったら目に見えない空気などに変化できるのか。
質量どころの話ではない。むしろその状態で再度元に戻れるかも怪しい。
「タツロウ君!外にでるぞ!換気口の出口だ!ポケモン図鑑を頼りにな!」
「いくですー」
ドタドタドタと、慣れない全力疾走をして息を切らしながらオーキドとタツロウは外へ駆けだしていった。
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「タツロウ君。これはマズいな。」
「これは想像以上でーすねー」
「帰って寝るか!」
「そーしましょー」
狂気の科学者二人は肩を組んで鼻歌交じりに研究所へ戻っていった。
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その日の夜。ある家庭のテレビでニュースが流れていた。
ごはん片手に流し見するのが常であったが、このニュースには誰もが箸を止め、ぽかんとしながら見入ったという。
本日午後三時頃。
そこそこの大きさを誇るこの町の外に―――
『全く同じ町が出現した。』
並ぶ家々も、町を行く人々も、エサを求めて吠える犬も、すべてそっくり同じものがすぐ横に現れた。
目撃した人は蜃気楼でも見たかのようにボーっと見つめていたらしい。
その町に紛れ込んだ人はいなかったようではあるが、間違いなくその町にはもう一人自分がいた、ということになる。
その不気味さはすでに終わったこととしても語り草だ。
そう、終わったことだ。
急に出現した全く同じ町は、ものの二十分程でまさに霧のようにその姿を消し、何事もなかったかのように静寂を取り戻したのだった。