ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百九話 背水

「よしピカチュウその調子だ!」

 

「ピッピカ」

 

 

 燃え盛るフシギバナ。

 左前脚に咲いている花が勢いよく燃えている。

 圧倒的な巨体からしたらまだ一部分ではあるが、それでも炎は燃え続け次第にフシギバナの全身を包み込むだろう。

 そういった意味では、フシギバナの花に満たされた体表は弱点だらけともいえる。

 

 

「や、やったか!?」

 

 

 もちろん、そのようなわかりやすい弱点を草タイプを極めたジムリーダーが放置しておくわけも無いのだが。

 

 

 

「うふふ、詰めが甘いですわサトシさん。」

 

 

 エリカは微笑む。

 パチパチと火の粉を散らす自分のポケモンを目の前にして、弱点である炎に徐々に浸食され始めている草ポケモンを視界にいれて、それでもエリカはその笑顔を崩さず、むしろさらに微笑ませている。

 

 

 ―――異常だ。サトシは素直にそう思った。

 否、そんなことはとうにわかっている。だが改めてサトシがそう感じたのには理由がある。

 今まで戦った裏のトレーナー達には、良くも悪くも『わかりやすさ』というものがあった。善悪はともかく、なにかしらの信念というか、自分はこうあるべき、という確固たるものがあったように思える。

 しかし、目の前の少女からはそれを感じられないのだ。

 

 本人としてはお金を得ることに狂っている、とそう言っていたが、そもそもお金を得るということは行動した結果であって理由ではない。

 

 お金というものは行動を起こすために必要なものであって、それが最終到達点になることは基本的には無いことだ。

 

 

 であるならば、エリカという人物には理由が無い。

 それに伴う目的も無い。

 あるのはただただ『過程』のみ。それがなにより不気味だった。

 

 

 燃え盛るフシギバナを前にしても平常心を保っているのは自信からなのか、はたまた興味が無いからか。考えれば考えるほど測れない、笑顔という鉄仮面をかぶっているということなのだろうか。

 

 

 

「うふふ、フシギバナ、『せいちょう』」

 

 

「!!!」

 

 

 モンジャラの時にも、回復手段として用いられていた『せいちょう』。

 用途だけ考えれば確かにフシギバナが覚えていてもおかしくは無い。

 つまりこの状況で使うならば―――

 

 

 

「そんな・・・・!!」

 

 

 火のついた花が端からどんどん落下し、地面に落ちて燃え尽きる。

 そしてまた違う花が次々と生え、フシギバナの体表を再度花で埋め尽くす。

 

 その繰り返しを数秒間続けた結果、花畑に燃え広がっていたサトシの活路はなんの感慨も無く落ちて消えた。

 

 

 

「あらあら、サトシさん、落胆している暇があって?まだ勝負は終わってませんわ。うふふ。」

 

 

 その言葉に応えてか、フシギバナは再度背中の巨大な花から粉を噴出する。

 

 

 

「くっそー!ピカチュウ!もっと電撃だ!おもいっきりGO!」

「ピカピー」

 

 

 もはや打つ手無し。

 しかし降参するわけにもいかない。サトシの身体の中にはサトシ自身を活け花にしてしまう悪魔の植物が根付いているのだ。無理無謀と言われようが攻め続けるしか選択肢は元より無い。

 

 ピカチュウも表情の変化こそ無いが、サトシの言うことに従っている現状を見ると具体案は無いようだ。

 

 

 

 フシギバナの身体を電撃が這う。

 先ほどよりも大きな光の帯はより多くの痺れ粉を焼き、花畑を蹴散らす。

 

 

 

「うふふ、ヤケになっても勝利を拾うことなんてできませんわサトシさん。」

 

 

 フシギバナの周囲を飛び跳ねるピカチュウ。

 それの後を追うつるのムチ。勝敗の見えた攻城戦。

 ここに再度勝機を見出すことは困難と言わざるを得ない。

 

 

 

 

 

 それこそ、奇跡でも起こらない限りは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッグァアアアアアアアアアアン!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「!!??な、なに!?」

 

 

 

 突如、サトシを暴風が襲う。

 咄嗟に腕で顔を覆う直前に見たものは今までピカチュウが居た場所が赤く包まれた瞬間で、すぐ後に白い煙が視界を阻んだ。

 

 

 

「ばく・・・・はつ・・・?なんで・・・!?」

 

 

 

 

 奇跡か偶然か。

 フシギバナとピカチュウを包み込んだ赤い火の玉の正体は、『粉塵爆発』というもの。

 

 

 漫画やアニメの世界ではよく聞く単語ではあるが、簡単にこの化学現象が発生するかというと、答えは否だ。

 

 非常に微細な粉塵が一定濃度であり且つ燃焼に必要な酸素が十分にあり、そこで着火することで発生する。言葉で言うと簡単に聞こえるのだが、実際は浮遊する粉塵の粒子間距離が開きすぎていると燃焼は伝播せず、逆に密度が濃すぎると燃焼するための十分な酸素が空間に無いために燃焼が継続できず、いずれの場合も爆発しない。

 

 発生条件が非常にシビアである反面、その威力は絶大だ。

 条件がそろえば工場一つ、炭鉱一つまるまる炎に包まれるという危険極まりない現象であり、密閉空間であればあるほどその中にあったものの被害は想像し難い。

 

 

 

 そして厄介なことに、ここでいう粉塵というのは可燃性であればその種類はほぼ問わない、ということ。

 石炭粉はもちろん、砂糖やコーンスターチでも爆発する。

 

 

 つまりは、この巨大なフシギバナが発した粉が蓄えられた花弁に包まれた空間。

 花弁が閉じ、空気と共に噴出する瞬間。

 

 高密度になった粉と空気に、燃えた火種が放り込まれ、爆発した。

 

 

 その結果――――

 

 

 

 

 

「フシギバナ―――?」

 

 

 

 

 

 巨大は花の内部で爆発した以上、その被害は計り知れない。

 美しい花畑で飾り付けられたバトルフィールドは、フシギバナの悲鳴に包まれた。

 

 

 

「■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

 文字にすることすらできない、痛みからくる叫び。体内から燃やされ、自慢の巨大な花は半分弾け飛び、もう半分も飛び散った火の粉で穴だらけの花びらを残しているのみの無残な姿を晒している。

 

 

 

 サトシが呆けていると、後ろからドタドタと騒がしい足音が聞こえ、勢いよく扉が開かれた。

 

 

 

 

「エリカ様!!今の音は・・・キャーーーーー!!フシギバナ!!!!」

 

 

 

 

 出てきたのはエリカの従者が数人。

 惨状を目の当たりにし、甲高い悲鳴を上げる。どうやら裏の事情には通じているようだが、ここまでの惨状を見たことは無いらしい。

 

 

 

「落ち着きなさいあなたたち。すぐに消火しなさい。フシギバナはさがりなさい。もういいですわ。」

 

 

「は、はい!みんな、消火するわよ!」

 

 花畑だけあって、水場はそこかしこにあるようだった。

 侍女達は手に手にホースを持ち、フシギバナに勢いよく水を放出する。

 

 フシギバナもエリカの声だけは聞こえているのか、徐々に鎮火し始めると、ぐったりとしながらもズリズリと後ろに下がり、エリカの後ろでぐったりとしてしまった。

 あれだけの爆発で命を失わなかったのはその大きさからくる生命力なのだろう。

 侍女達は引き続き水をかけ続け、フシギバナの身体を冷やす。

 

 

 そう、あれだけの爆発を堪え切れたのは巨体であるフシギバナだったからで。

 

 ではそのすぐそばにいた、フシギバナに比べたら小人のような大きさの生き物はどうなったか。

 

 

 

 

 

「ぴ、ピカチュウ・・・・」

 

 

 

 

 サトシの目の前には、フィールドの外まで爆発で吹き飛ばされた、全身に傷を負ったピカチュウの姿があった。

 

 

 

「ピカピ~」

 

 

 よもや死んではいまいかと心配したが、なんとか命はあるようだ。

 フシギバナの花びらである程度爆発の威力が殺されたのか、かなりのダメージを負ってはいるが辛うじて無事なのは、不幸中の幸いというべきか。

 

「すぐにキズぐすりを・・・」

 

 カバンからありったけのキズぐすりを引っ張り出し、ピカチュウの大きな身体に吹き付ける。

 

 大きな傷はもちろんこの場で治ることは無いが、体力の回復はできる。

 また元気よく駆け回ることはできるようになるだろう。

 

 

 

 

 しかし、気が動転していたかどうかはわからないが、サトシにとって重大な決断が迫られる。

 

 

 

 

 

「サトシさん、まだ勝敗はついていませんわ。次のポケモンを、お互いに。」

 

 

 

 

 サトシがゆっくりとエリカの方に振り向く。

 

 

 エリカの顔は、先ほどと変わらず笑顔ではあったが、少しだけ陰りが見えた。

 

 

 

「いきなさい、ラフレシア。」

 

 

 

 エリカの手から最後のポケモンが放たれる。

 

 

 

 赤い光を伴って現れたポケモンは、一輪の花、だ。

 

 

 

 

 ラフレシア―――フラワーポケモン。

 体長一メートル二十センチ、体重十八.二キロ。

 毒の花粉をばら撒く大きな花を頭に載せたポケモン。

 

 

 ポケモン図鑑から得られる情報はこれくらいだが、目の前にいるポケモンも、情報としてはあまり違いは無い。

 

 違う場所があるとするならば、全身違うともいえる。

 

 

 

 まず、花びらは四枚でなく八枚だ。そして半分が鋭利に尖っており、もう半分が鈍器のように肥大化している。それらが交互に並んでおり、色は赤で統一されている。

 

 そして本来は青紫のような色でニッコリと微笑んでいる二足歩行の胴体があるはずだが、顔が無い。そして手も足も無い。あるのは紫色の木の根のよなものがグネグネと蠢いているのみ。

 パッと見は切株に大きな花を載せた感じ、と言えなくもない。

 そんな状況があるのかどうかはわからないが、とにかくそんな感じなのだ。

 

 

 

「わたくしの三体目のポケモンはいかがかしら?大きくないから拍子抜けしちゃったかしら。うふふ。」

 

 

 

 サトシはゴクリと喉を鳴らす。

 

 

(こ、怖い・・・なにあれ・・・)

 

 

 

 顔が無い。ただそれだけでここまで不気味さが増すのだろうか。

 こちらを見つめているわけでもないのに、明確な敵意を感じる。

 今すぐにでも攻撃してきそうなものを、エリカという存在が抑えているようだ。

 

 

 

「さあ、サトシさんも次のポケモンを。」

 

 

 

 そして、サトシの懸念していた自体がついに発生した。

 

 

 

 

 ピカチュウの退場。

 

 

 想像していなかったわけではない。わけではないが、それでも、一気に賭けのレベルが上がったのは事実だ。

 そしてサトシの持つポケモンで、単体で勝利に導けるポケモンは、現状ピカチュウのみと断言できる。

 つまり、普通に戦っては勝筋など微塵も存在しない。

 

 

 

 

 サトシは一度ピカチュウに視線を落とす。

 

 

 場外で仰向けに倒れているピカチュウは、そのまま爆睡していた。

 鼻提灯をつついて叩き起こしてやりたいが、ここまで健闘してくれたピカチュウにこれ以上の無理を強いることはできない。そもそも場外まで飛んできているのでもう参加できないのではあるが。

 

 

 

 サトシは自分の腰のボールの一つを手に取り、そのボールをじっと見据える。

 そしてエリカの方へキッと視線を向け、ボールをフィールドに投げ込む。

 

 

 

「僕のポケモンはこいつだ!!いけ――――」

 

 

 

 

 フィールドの中心でモンスターボールが割れ、赤い光と共にサトシのポケモンが飛び出す。

 まばゆい光が作り出したポケモンの形は―――

 

 

 

 

 

 

「コイキング!!!!」

 

 

「ココココッコッコッコココココココッコ」

 

 

 

 

 

 

 ジム戦で最も場にそぐわない、史上最弱のポケモンが姿を現す。

 

 

 

 

 

「・・・おふざけになっていますの?」

 

 

 

 サトシ、初のピカチュウ抜きの戦いが幕を開ける。

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