朝の日差しにまぶたの裏が照らされる。
若干のまぶしさを感じながら起きたが、嫌な気分ではない。すがすがしい朝だ。
と、深夜まで考えてた内容を一度反芻し若干暗い気分になったのは仕方がないとして今日はピカチュウと共に買い物に行く。
裏のトレーナーにピカチュウが見つからないように対策をしなければならない。
常に身の危険を感じながら歩くのなんてまっぴらごめんだ。
なんとかしなければならない。
その何とかするための手段が通用するかどうか、今日の買い物次第といっても過言ではない。
意気揚々と出発の準備をし終える。
「さあいくぞ!」
・・・ピカチュウは?
ポケモンセンターのロビーで周囲を見ると、一段と目に付く黄色い巨体はすぐに見つかった。
他のポケモンと交流しているようだ。
・・・すでに目立っているのではないかと考えたが、それも今日までの話。
「ピカチュウ、いくよー」
「ピカ?ピカー」
さあ、はりきっていこう!
目の前に広がるのはメンズ服売り場。
そう、ここはトキワシティの一番大きなフレンドリーショップ。
食料品から衣服から玩具からポケモングッズまでなんでもござれの地域密着型なお店。
売り場には日常服を買い揃えようという人のほかに、娯楽施設の少ない町の中で暇をつぶせる数少ない場所であるため若者のたまり場になっていたりもする。
通常ポケモンマスターを目指そうと旅を続ける少年少女にとってはポケモングッズを買い揃えるくらいの目的しかないはずだが、サトシの目的はそんなことではない。
サトシは
ピカチュウの服を買いにきたのだ。
「いらっしゃいませー!なにかお探しですか?」
お約束の店員が話しかけてきた。
メンズ服売り場で探しているのは隣にいるどでかいピカチュウの服なのだが、果たして通じるのだろうか。
「・・・どうも。ちょっと教えてほしいのですが」
「なんでございましょう。」
一呼吸置く。いくらこのピカチュウに慣れたといっても、服を買うなどという妄言をそのまま信じれる人が何人いるのだろうか。
いや、ポケモンの着る服を仕立てるという人はそこそこいるらしい。
当然隠匿目的ではなく、愛玩目的ではあるのだが。
というかそもそもピカチュウだって愛玩ポケモンに該当することは間違いないはず。
であれば、納得してもらえるんじゃないか?きっとそう。
カチャカチャと音を立ててロジックを頭の中で組み立てるサトシ。
その結果がたとえ杜撰であろうとも、サトシは考え抜いたのだ。誰にも批判などできまい。誰にも。
「実は、ピカチュウに着せる服を探しているんです。」
「なーるほど!ピカチュウ!かわいいですものねー。大きさは基本的なものでよろしいですか?一般サイズですと身長四十センチほどで―――」
「いや、こいつ。」
隣にいる黄色くてでっかいのを指さして言う。
その指先を見つめ、腹筋あたりをまじまじと見つめたあと、そのままゆっくりと上を見上げるショップ店員。
「・・・・」
ピカチュウと目が合う。
「・・・どうもこんにちは」
「ピカピカー」
ファーストコンタクトは失敗かな、とそこで感じたサトシだった。
―――――――とりあえず事情を説明する。
もちろん正直なことは言えないので、こんなピカチュウにもファッションを楽しんでもらいたい、みたいなことを言った。
我ながら意味のわからない理由だとも思うけど、ショップ店員は一応納得したようだ。
別に服を買ってもらえれば対象はなんでもよいのだろう。
二メートル四十センチの体躯に合う服はさすがに種類が少ない。XXLとかたぶんそのへんのサイズ。
大柄な男性用コーナーに行き、店員と共にピカチュウに合いそうな服を物色する。
ちなみにお金はまだ余裕があるので、旅に支障はない。ゆっくりとピカチュウの服を選ぼう。
これはあれはと服を選んではいるが、そもそも服を着るということがピカチュウは理解できるのだろうか?
服を渡したらバイソンよろしくバリバリと破りかねない。
ふとそんなことを思ったサトシ。
「店員さん、ちょっとこの安いTシャツ、着れるか試してみていいですか?破いちゃったら買い取りますので。」
「もちろんよろしいですよ!」
というわけで断りをいれ、ピカチュウにシンプルな英文ロゴがはいった白いTシャツを渡してみる。
「ピカチュウ、これ着てみて?」
「ピカ?ピカー」
若干の不安がありつつ、Tシャツを渡す。
ドキドキする。なぜか店員さんも期待と不安のまなざしでサトシとピカチュウを交互に見ている。気持ちはわからんでもない。
数秒後
「ピッカーーーー」
ぴっちりと着こなす(?)ピカチュウがそこにいた。
「わあ!やっぱり人間の習慣は把握してるんだね!」
と謎の感動をするサトシと
「お、お、お、お似合いでですよぶふぉあ」
別に問題はないが下半身丸出しでTシャツだけ着てる黄色い巨体を見て、吹き出しながらおべっかを使うショップ店員。
うん、この気持ちもわからんでもない!
ちなみにピカチュウの着たTシャツにはいったシンプルな英文には
『NICE BODY』と書いてあった。皮肉か。
―――――――――――――――――――
夕方。
暮れかけの赤い夕陽に照らされ、長い影が二つできる。
一つは十四歳の年相応の男の子の影。
そしてもう一つは二メートルを超える巨体から伸びるものであったが、その影にはいままでなかった姿が映し出されていた。
「ピカチュウ、似合ってるよ!」
「ピカー?」
職人が着るようなつなぎを着て、キャップをかぶり、サングラスをかけた大柄の人影がそこにあった。
内心やけくそになりかけてるサトシだったが、万に一つでもある可能性にかけたくなっていた。
どう考えても隠しきれてない。というか耳も尻尾もでてる。
逆に神経を逆なでするようにしか見えない。
そもそもおとなしく服を着ているピカチュウをにわかには信じがたいのだが、心なしか嬉しそうなのでそのまま行くことにした。
なぜつなぎかというと、単純に脱ぎ着しやすいからという判断。
いざ戦闘になった時に上脱いで下脱いでなんてしてたら空気が悪いなんてもんじゃない。戦意喪失はするかもしれないが。
少なくともそこまで空気の読めないことはしたくないと、少しばかり残っていた正常な判断力で決断したものの、何か大事なことを忘れていた気がするチョイスだ。
「僕は一体なにをしてるのだろう!」
―――――――でもなんか楽しかったのでよし!!
帰りはそのままピカチュウとレストランにいって、ごはんを食べてポケモンセンターへ。
相変わらず大量に食べるピカチュウ。
お金が尽きるのも時間の問題な気がする。
その時は・・・その時考えよう。
そんなことを考えながらカチャカチャと食器の音を立て、食事を進める。
ピカチュウの方がテーブルマナーがしっかりしているのは若干気に食わない。
なんなの?
食事を終え、夜風に身を任せながらゆったりと一人と一匹は町を歩く。
「ねえピカチュウ」
「ピカ」
「楽し・・かったね」
「ピッカー」
それは本来あるべき姿。
少年がポケモンと戯れる、あってしかるべきの日常。
しかし少年は非日常の世界に身を投じている。
認識が甘かったとはいえ、決断してしまっている。
ゆえに、この日常が長く続かないこともなんとなくわかっている。
トキワの森での出来事。
その一部始終は間違いなく少年の心に小さくない傷を残した。
そして、狂気の種を植え付けた。
本人にその気がなくとも、それは徐々に成長して花開くことだろう。
それは気づくことは適わない。
あわよくば、花開く前に少年の旅が終われるように祈るほかない。
日が落ちると同時に、少年の心にも闇が生まれる。
落ちた気分と共に、楽しい一日が終わりを告げた。
この日もポケモンセンターに宿泊。
途中ロビーにいた人とポケモンを驚かせながら歩いていき、そのまま寝る。
なんだかいろいろ疲れてしまった。
ピカチュウの寝顔を見ることなく、そのまま眠りに落ちる。
明日はようやくニビシティに行けることを少し考え、やはり考えるのは明日にしようと決めた所で意識が途切れ、静寂が訪れる。