ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百十二話 激戦後の夜

 サトシは耳を疑う。

 

 一体何故、今その単語がでてくるのだろうかと。

 サトシの大量のトラウマを刷り込んでいる傍若無人悪逆非道の組織、『ロケット団』の名前を。

 もはや聞くだけで寒気が走り頭は沸騰し目が血走るのではないか、と思う程にサトシは黒尽くめの組織を憎んでいるが、別段ここにロケット団がいるわけでは無い。

 まずは落ち着いてエリカの話を聴くことに専念する。

 

 

「今、ロケット団って言いました?」

 

 

 改めて問う。

 

 

「ええ、ロケット団秘密基地、と言いましたわ。」

 

 

 そして先ほどと変わらぬ答えを返す。

 

 

「ロケット団の秘密基地の場所を知っているんですか?」

 

「はい、知ってますわ。その場所と、入り方の情報ですわ。」

 

「一体なんでそんな情報を知って・・・」

 

「簡単なことです。わたくしの大事な取引相手ですもの。うふふ。」

 

「取引相手・・・?」

 

 

 

 取引相手、しかも大事なということはエリカとロケット団はそこそこ頻繁にやりとりをしているということになる。

 ということはエリカはロケット団という組織の一員、ということにならないだろうか。

 いや、エリカの話を聞いている限りそのような話は想定できないし、そもそもそんな大事な情報をエリカという人間が漏らすだろうか。

 取引相手ということは金銭のやりとりをしているはず。エリカの大好きなお金の収益源の一つであるはずなのに、何故わざわざその場所を教えようとするのだろうか。

 何か理由があって?もしかしてサトシを売り渡そうとしているのではないか?いやそもそも――――

 

 

 

「そんな深く考えることはございませんわ。」

 

 

 

 ハッと顔を上げる。どうやら深く考えこんでしまっていたようだ。

 エリカにもわかるほどにうんうんと唸りながら考えていた自分の悪い癖を反省しつつ、どういうこと?とエリカの話を促す。

 

 

「先ほども申し上げた通り、これはわたくしのサトシさんに対する好意でのことです。損得ではございませんわ。もちろん、全てをサトシさんに対して差し出しても良いというお話ではございませんので、ある程度の代価はいただきますけれど。」

 

「その代価が四百万円・・・」

 

「ええ、その通りです。」

 

 

 

 その代価が高いのか安いのかはサトシの知識では判断はつかない。

 だが恐らく非常に破格なのだろう。なにせ裏のバトル一つで百万円単位で動く世界なのだ。

 四百万円という金額はサトシにとっては非常に大金ではあるものの、商売を生業とする人間からしたら大した金額ではないと考えられる。

 

 無論、世間的に価値の高い情報であっても、サトシにとって価値が無ければ即刻お断りしている。

 だが情報が情報だ。

 なにせ憎きロケット団のアジトを潰せるチャンスなのだ。

 

 

「どういたしますか?」

 

「・・・・僕は――――」

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あーーーーー、疲れた!!!」

 

「ピカピー」

 

 ポケモンセンターのベッドにうつ伏せに飛び込む。

 大して柔らかくもないベッドだが、多大なる精神的不安と肉体的疲労から解放された瞬間というのはそれだけで極上の瞬間なのだ。

 このままとりあえず睡眠状態に入りたいサトシであったが、それを止める存在がいる。

 

「ピカ、ピカピカ」

 

 黄色いでっかいのである。

 普段はサトシのことなど放置して真っ先にベッドにもぐりこみ寝息を立てるハズが、この時に限ってサトシの裾をくいくいと引っ張って睡眠の妨害をする。

 

 そしてサトシもその妨害を嫌がりつつも、妨害理由について目安がついているだけに無碍にできない状況にある。

 

 

「・・・しょうがないだろ、お金ないんだから。」

 

「ピッピカチュー」

 

 

 ピカチュウの手元にはタマムシデパートで購入したパンやおにぎりがいくつか握られており、それを食事とすることに不満があるようだ。ちゃっかりサトシの分も握られていたが、それくらいは見逃すことにした。

 

 そう、今現在サトシの手元にあるお金は十万円に満たない。

 理由はもちろん、エリカの提案を受けたからである。

 

 四百万円という金額は決して安くない。

 そして、サトシがロケット団の秘密基地を潰す意味も必要性も特にないことはわかっている。

 

 しかしそれでも動かざるを得なかった。

 なにせロケット団だ。エリカがどこまでサトシの事を探っていたかはわからないが、まんまと載せられた可能性も否定できない。

 もしそうだとしたらエリカはサトシのことを本当によくわかっていると言える。

 何故ならロケット団の事に関しては、サトシは平静を失う。

 たった一人の少年が影響を及ぼせるほど小さい組織でもない。エリカから仕入れた秘密基地とやらも、どこまでロケット団の核心に迫れるかわからない。だがそれでも。サトシはその情報を手に入れるしか選択肢が無かったのだ。

 

 

 サトシはぐるりと身体を回し、ベッドの上で仰向けになり、天井をボーっと眺めつつ、エリカとの対話を思い出す。

 

「―――エリカ、結局何を考えているかわからなかったな。」

 

 

 タマムシシティジムリーダー、エリカ。

 バトルをして勝利したことに関しては僥倖と言えよう。かなり賭けの割合が高いバトルであった上に、ピカチュウが敗北するという最大の危機が訪れた初めての経験。

 そのうち来るだろうと思っていた事態ではあるが、それでも実際に来ると緊張感がハンパじゃない。

 

 唯一持っていた剣が折られた時にどう戦えばいいというのか。

 それを何とかしないといけないのだから綱渡りにも程があるが、それでもサトシは武器を無くして勝たなければならないし、千切れかけのロープを渡り切らなければならない。

 

 今回は運よく、と言っても、過去の戦いを顧みても大半が運要素が非常に強い勝利ばかりであった。

 あと四つ。そしてその後はポケモンリーグ。

 前途多難にも程がある。

 

 だが、今回のバトルでわかったことは、ジムリーダーは、ジムリーダーとしての役割をこなせばそれ以外は基本的に自由なのだということ。

 今更な考えかもしれないが、いままでのジムリーダーがいろいろな意味で突出していたのに対し、エリカはかなり常識的な思考を持っているように思えた。

 あれを常識と考えるほどにはいろいろとおかしな人達と関わってきたサトシであったが、それにしてもエリカからはこだわりというか、そういう生き方のようなものがまるで感じられなかったのだ。

 

 なんというか、統一性が少ないというか、つかみどころがない。

 エリカという人間に対して、心にしこりが残る。別に恋とか憎悪とかそういう感情的なものではなく、単純に存在として違和感を覚える。

 

 

「まあ、それを知ったところで何にもならないのだけど。」

 

 

 そう、どうにもならない。

 サトシはエリカと戦い、勝利した。そして何故かロケット団アジトの情報を購入した。ただそれだけだ。

 

 そして今考えなければならないことは、エリカの事ではないハズだ。

 

 

 

 そこまで考えて、サトシは仰向けの身体をゆっくりと起こす。

 ベッドの端に座る形になり、ピカチュウの全身が視界に入る。

 ちょうど最後のパンを咀嚼している最中だ。サトシの分も含めて。

 いつもの外食に比べて随分と安く済んだとはいえ、これだけ大量に食べられたらお金が尽きるのも時間の問題だろう。

 そのあたりの問題も考えなければならないが、まずは―――

 

 

「ロケット団アジト。乗り込む準備をしないと。」

 

 

 アジトは逃げない。とはいえのんびりするほどサトシがロケット団に抱く感情は優しいものではない。

 本当は一刻も早く殲滅したいところではあるが、相手も裏ポケモンを所持している可能性が高い以上油断はできない。

 まずはエリカ戦での傷を癒し、消費した道具を補充しなければ。

 

 

「・・・またお金かかるなあ。」

 

 

 世の中を走るにはお金が必須なのだなと改めて認識し、エリカの考えもあながち間違いではないのかもなどと頭の隅で考えつつ、サトシは眠りの世界へ落ちていくのであった。

 

 

 

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