ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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皆様の好きな話ってどれですかねえ。
わたくしはカスミと別れる62話「またね。」が一番好きです。

次点はライチュウ戦。ライチュウかっこいい。



第百十四話 望まぬ再会

「ふふふ、まさかサトシ君とこのようなところで再会するなんてね。夢にも思わなかったとも。」

 

 高級そうな、皺ひとつ無いダークスーツに身を包んだ男、サカキが話し始める。

 

 

「あれ、ボス、知り合いですか?」

 

 サトシをここまで連れてきた男が問うと、ああ、と短く返事をする。

 

「案内ご苦労。君はもう戻りたまえ。」

 

「へい、ごゆっくり。」

 

 

 男は特に詮索することなく、来た時と同様にエレベータに乗り込み、ドアが閉じる前にサカキに対して小さくお辞儀をして、そのまま機械の駆動音と共に上階に戻っていった。

 なるほど、適切な距離感というものをしっかりと理解している人間のできることだ。組織のトップと遣り取りができるだけの経験と知識と信頼を勝ち取ってきた男なのだろう。

 

 サトシがそんなことを思う余裕があったとは思えないが、エレベーターの動く音が消え、何か別の機械がウィンウィンと小さく動く音のみが聴こえるのみとなったのを合図に、サトシが口を開く。

 

 

 

「サカキ、さん」

 

「ふふ、なんだねサトシ君。こうやって話すのは随分と久しぶりだね。トキワの森での遣り取り以来だと思うが。」

 

 

 これ以上は無いほどにサトシの心臓は鼓動を早くしている。

 サトシの頭の中を支配しているのは疑念の感情が大半だ。

 すなわち、何故ここにいるのか、ということのみ。

 

 サカキ自身もこの状況を想定していたわけではないが、別段緊張するようなことも無く、堂々と接しているように見える。

 

 

 

「―――一体、どういうことですか。」

 

 

 その一言をひねり出すのにかなりの時間を費やしたことからも、サトシの頭は正常な働きをしていない。

 熱を持ち、思考が止まっている。

 当然そんな馬鹿げた質問に答える男も、嘆息せざるを得ない。

 

 

 

「ふふ、サトシ君。私は君の事をかなり買っているのだ。ドーピングされたポケモン一匹でどこまでいけるものやらと思っていたが、まさかタマムシシティまでたどり着けるとは。そこまでの経験を経た君であれば、この状況が何を意味するのかくらい、考え付くのではないかね。」

 

 

 

 もったいぶるような、それでいてサトシを試しているような口ぶりで、問いを問いで返す。

 どこか楽しんでいる様子でもあるが、無論サトシにそのような余裕は無い。

 

 だがサカキの問いで徐々に頭の回転が戻ってきたので、状況をヒートアップした脳みそで考える。

 

 そして、考える余地も無く、結論はすぐに出てしまった。

 

 

 

 

 

 裏の世界に詳しいこと、ボスと呼ばれていたこと、そして何よりこの場所にいること。

 

 

 ここから導き出される結論は、悩む必要も無いくらいに決まり切っていた。

 

 

 

 

 

「サカキさん、あなたが、ロケット団のボス――――」

 

 

 

 

 ひねり出す様に出したサトシの答え。

 それを満足そうに聴いたサカキは、相変わらず口だけの笑顔を作り、コクリと頷く。

 

 

 

「正解、だ。ふふ、サトシ君。君も思うことがいろいろとあるだろう。私も忙しい身だが、君にこの世界のことを伝えたのは私だ。その責任も込めて、少し話をする時間をとろう。」

 

 

 サカキはサトシに背を向け、部屋の奥へと移動した。

 恐らくは自分専用と思われる豪奢なイスに腰掛け、デスクに肘をつく。

 

 

 サトシも来客用と思われる二人掛けのソファに腰掛ける。

 

 ギシ、と中の発条が軋む音が聞こえ、空気感とは真逆に座り心地の良いクッション材に身を包まれてサカキの方を向く。

 

 

 それを確認したかしないか、ほぼ同時にサカキが話し始めた。

 

 

 

「私はこう見えても驚いているのだよ。驚いていないように見えたとしたら、それは大人だからだ。大人は感情を隠すのが上手い。サトシ君もいろいろな経験をしたと思うが、感情を隠す事に関してはまだ未熟なようだ。」

 

「そんなことは―――」

 

「ああ、わかっている。言わずとも、わかっている。だが話させてくれるかね。私は珍しく驚き、感動している。あの弱弱しい少年からどのような経験を積めばこの短期間でここまで成長するのか。精神面だけではない。ジムリーダーを四人も下している時点で、君の実力は十分にトップクラスだ。ピカチュウはもとより、ノーマルポケモンをも使い、妙に頑丈なコイキングも、と。ふふふ、変わったパーティだ。」

 

 

 

 驚いた―――サカキはサトシの内情について、随分と知っているようだった。

 だが、考えてみればそれも自明で、抜けている自分に腹が立つ。

 

 

 

「たしか、バトルの情報は記録されるんでしたっけ・・・」

 

 

 

 サカキが最初にした説明を思い出す。

 裏のトレーナーが行った公式戦及び監督者がいるバトルの場合、トレーナーの情報が逐次記録される。

 サトシが今まで行った公式戦は四度。いずれもジムリーダーとの戦いだ。

 記録されていてもおかしくは無い。

 

 

 

 サカキは、その通りだが、と前置きをして続きを話す。

 

 

「実際には形骸化しているシステムに近いがね。対策すべきジムリーダーの情報など知れている場合が多いし、通常のバトルにおいてはわざわざ調べる時間など無い。だがまあ、サトシ君の頭脳が再度回転を始めてくれたようだ。そこに関しては喜ばしいな。」

 

 

 サカキは姿勢を崩すこと無く淡々と語る。

 

 

「それに、サトシ君がここにいること自体が、私にとっては奇跡のような確率だ。本来ロケット団と関わりを持つ人物は非常に限られるし、偶然関わったとしてもすぐに消されてしまうだろう。タマムシジムリーダーの合言葉で入ってきたようだが、随分と気に入られたようだな。君にとってはあまりいい選択肢だとは思わないが、ロケット団に何かされたかね?サトシ君。」

 

 

 ぴくりとサトシが反応する。

 今はサカキが相手であるから抑えている部分が多い。

 サカキは確かにサトシを裏の世界に連れ込んだ張本人ではあるが、選んだのはサトシだ。

 何も知らずにピカチュウを連れまわし、裏の戦いに知らずのうちに巻き込まれるよりかははるかにマシだろう。

 そう思うからこそサカキには感謝をしていた。

 

 故に、そのサカキがロケット団のボスであるという事実を目の前にしても、なかなか吹っ切れないでいる。

 トランセルの仇だ、と頭の中でわかってはいても、理性と感情でぶつかり合ってサトシは行動を決めかねている。

 

 そのおかげで理性を保てているというのもあり、とにかくサトシは最後まで話をしようと決めた。

 

 

 本来であればすぐさま戦いに発展した方がわかりやすいが、相手は最強と名高いトキワシティジムリーダー。さらにロケット団のボスも兼任しているというのだから、戦わないという選択肢がとれるのであればそうするのが無難だろう。

 

 ―――最も、サトシの感情が振り切ってしまった場合はその限りではないが。

 

 

 

 サトシの苦い顔と食いしばった歯を見て何かを察したのか、サカキは笑顔を消した。

 

 

 

 

 

「そうか、私の組織が君に迷惑をかけたようだ。すまないとは思う。」

 

 

 

 

 サトシは顔を上げる。

 その顔は確かに苦い顔ではあるが、思いがけない非礼の言葉に驚愕したからでもある。

 

 

 

 サカキとの対話はさらに思いがけない方向に進んでいく。

 

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