ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百十七話 無謀が生み出す結果とは

 おいしい食事を堪能し、コックにお礼を言って外に出た時には、すでに日は無く月が輝く暗闇となっていた。

 なんとなく予想はしていたが、かなり寝すぎてしまったらしい。

 精神的疲労があったとはいえ、さすがに寝すぎだろうか。

 

「でも、まだ寝れる。」

 

 精神的なものは多少改善されたが、それでもテーブルの上で突っ伏して寝ていただけでは万全の状態とは言い難い。

 たっぷりと睡眠をとったとはいえしっかりとベッドで休息をとりたいのが本音だ。

 それに、夜に考え事をすると決まって悪い方向に発想が広がってしまう。

 なにも考えず、とにかく朝まで大人しくしていよう。

 

 

「寝ている時に、勝手に頭が整理されるって言うしね。ピカチュウ。」

 

「ピカー」

 

 

 なんとなしにピカチュウに声をかけるが、それも深く考えないようにするための僅かながらの抵抗手段なのだ。

 とにかく今はポケモンセンターに向かい、無理やりにでも休息をとるべきだと判断した。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 朝、目が覚める。

 あんなに眠っていたにも関わらずしっかりと睡眠時間はとれたようだ。

 合計したら半日以上は軽く寝ていた気がするが、それもきっと必要なことだ。

 

 長い睡眠時間で鈍った身体をうーんと伸ばし、軽く柔軟運動をする。

 ある程度身体が温まったら、グースカと寝ているピカチュウをペチペチ叩いて起こすと、特に何も考えないようにしてポケモンセンターを後にした。

 

 

 朝日を浴びながら消費しきってしまった食料を買いにタマムシデパートへ行くが、十時開店だという。

 今はまだ九時前。たっぷり一時間以上あるが、特にすることも無いので気を紛らわせるために街を散歩する。

 

 

 相変わらず雲がほとんどない晴れ空。

 サトシの心も同様とはいい難いが、心が曇っている上に空も曇っているとなればさらに気分が落ちること必至なので、まだマシだと思うことにした。

 

 

 

「こう見てると、平和だね、ピカチュウ。」

「ピカチャー」

 

 まだ朝も早い。

 今日が一般的には休日なのか平日なのかはもはや感覚が無いが、歩いている人がまばらなのを見ると休日だと思っていいかもしれない。

 

 しかし、しばらく歩くと休日らしからぬ喧噪が見えてきて、サトシは疑問に思う。

 

 

「なんだろう、人が随分集まっているけど―――あ、すみません、なにかあったんですか?」

 

 やじうま根性なのか、ちょうどサトシの横を速足で通り過ぎようとした男に声をかけ、何があったか訊いてみた。

 

 

「ああ、なんか昨日の夜に火事があったらしいぜ。」

 

「火事?気付かなかった・・・どこであったんですか?」

 

 

 火事とは物騒な。

 一見平和と思われたタマムシシティでもやはり街にありがちな騒動というのは起こりえるようだ。

 当然といえば当然だが、興味本位で場所も訊いてみる。

 

 

「それが、タマムシジムらしいぜ。ビックリだよな~。んじゃ、先にいくわ。」

 

 そう言うと男はスタコラと走り去り、人ごみに紛れて見えなくなった。

 

 

 一人残されたサトシは、今聞いた言葉をにわかには信じられず、口を開いて茫然としていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「ち、ちょっとすみません、通してくださ、い!」

 

 

 人ごみを潜り抜けるサトシ。

 

 なんとか建物を確認できる位置まで来たが、目の前にあるのは見る影もないほど消失した元タマムシシティジムの姿だった。

 壁はほとんどが黒く焦げ、窓は全壊、ドアも燃え尽き崩れ落ちている。

 崩れたドアの隙間から見える庭園だった場所には植物があったとは思えないほど何もない煤けた空間が広がっていた。

 

 

「そんな・・・」

 

 

 愕然とする。

 一体誰がこんなことを―――と思った矢先、周囲から噂話が飛び込んでくる。

 

 

「おい、昨日ロケット団がうろついてたらしいぜ。」

「マジかよ、怖え~」

「そいつらが火をつけたって話だ」

「ほんとか!?でもなんでだろ。なんの意味があったのかな。」

「なんかエリカに恨みでもあったのかね?」

「なんだろな~まあ俺らには関係ないけどな。」

 

 

 

 ――――――エリカ?ロケット団?

 

 

 

 単語が一つ一つサトシの脳内に流れ込む。

 あえて止めていた頭の回転が再度ぐるぐると回り始める。

 

 

 

 

「――――僕の所為?」

 

 

 

 途端にブワッと冷や汗が噴き出る。

 目を見開き、鼓動が高まり、さらに脳に血液を送る。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・そんな、まさか、でもそれしか・・・」

 

 

 タマムシシティジムがロケット団に燃やされたのだとしたら。

 その原因は、よもや自分ではあるまいか。

 

 つまり、エリカしか知らない合言葉でサトシがロケット団アジトに侵入したという事実。

 サトシ自身はサカキの温情で解放されたとはいえ、そもそもエリカが情報を漏らさなければそのようなことにはなり得なかった。

 つまり、エリカは取引先としてのロケット団の信頼を失ったのだ。

 当然といえば当然。

 むしろ今までなぜ想像できなかったのか。

 ロケット団を裏切るということがどういうことなのか。

 サトシは四百万円という目先の金額のみに捕らわれてしまっていたが、エリカにとっては本当にどうでもいい金額だったに違いない。

 情報を提供する意思をもったのはエリカだ。それは間違いない。

 だが、サトシがその情報を買わなければこのような事態にはならなかった。ならなかったのだ。

 

 

 またしても失う。

 サトシを起因として、取り返せない大きなものを、またも失ってしまった。

 

 当然サトシに悪意は無いし、責任も無い。

 だが失い続けてきたサトシにとって、感覚は非常に敏感になっている。

 たとえサトシに何の責任も無い状況だったとして、責任を感じざるを得ない程に、サトシの心は物事に対してデリケートになっている。

 

 

 加えて、エリカとは命の遣り取りを実はしていない。

 今までのジムリーダーはサトシを殺すつもりで来る人間ばかりであったが、エリカは単純にポケモンバトルしか行っていない。

 ―――結果的にエリカのポケモンは命を落としてしまったが、ルールの上では真っ当な勝負だったことに違いは無い。

 

 サトシ自身も拍子抜けしてしまった試合後の一幕もあったが、なんにせよエリカにはそこまで歪なものを感じなかったし、恨み憎しみがあったわけでもない。

 一般的に見たら十分狂っている対象ではあるのだろうが、サトシにとってエリカはまだ狂気レベルが低いと思っていた。

 

 

 その結果、ジム全焼という事実をサトシは「自分の所為」と誤認識してしまうに至る。

 

 

 ガクガクと震えているサトシだが、人ごみの押し合いとは違う、肩をトントンと叩かれている感触があることに気づく。

 

 なんだろうと思い振り向くと、おどおどしているが黒髪の小柄な、十分に美少女と呼んでもいいのではと思える可愛い女の子がいた。

 というか、どこかで見たことがある。それも最近。どこで見たのかと思い出していると―――

 

 

「あの、ちょっと一緒にきてくださいませんか。エリカ様からの伝言がございます。」

 

 と、サトシの耳元で小声でささやく。

 

 そして思い出した。

 フシギバナに水をかけていたエリカの従者の一人だ。

 

「って、ええ!?」

 

「あ、あの、大きい声ではちょっと・・・」

 

「あ、ああごめん。行こう。」

 

 同様して少し大きい声で驚いてしまった。

 

 幸い周囲の人ごみの喧噪にかき消されて注目はされていないようだ。

 この少女曰く、エリカからの伝言があるという。さすがに無視するという選択肢は無い。

 人ごみを来た時とは逆に押しのけて進み、人が少ないところへ戻る。

 幸いピカチュウが歩くだけで道が開けるため、子供二人でも困らずに脱出することができた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「このへんでいいかな・・・どう?」

 

 人ごみを離れて、街の外れまで来た。

 すでに人が活動し始める時間ではあったが、建物の裏までくると人は全くいなかった。

 

「はい、あの、ありがとうございます。」

 

 丁寧にお辞儀をしてくる。なんというか、さすがエリカの侍女だなと意味もなく感心してしまう。

 だが今はそれよりも

 

「エリカからの、伝言って―――」

 

 早速切り出す。

 というか、今はなによりもその内容が気になって仕方がない。内容次第でサトシの身の振りが変わってくる可能性も否定できないのだ。―――恨んでやるみたいな内容だったら立ち直れない自信がある。

 

「はい、あの、まずはこれを読んでいただけますか。エリカ様からのお手紙です。」

 

「手紙?」

 

 女の子の手には折りたたまれた紙が握られていた。

 元々は綺麗に四つ折りされていたのだろうが、この子が握りしめていたためか皺ができている。

 かなり強く持っていたのだろう。そこにどのような想いがあるかは、読んでみればわかるかもしれない。

 

 サトシは手紙を受け取ると、丁寧に広げて、読み始めた。

 そして、驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――漢字が多い。」

 

「ピカ~」

 

 

 ピカチュウに呆れられるような声を出されたが、ひらがなすら書けないピカチュウに言われる筋合いはない。

 ・・・もしかして書けるのかな?しゃべれないだけ・・・?そんなことはないよね・・・!

 

 

 多少不安になりつつ、気を撮り直して印刷したかのように綺麗な字体に感動しつつ、エリカの手紙を読み進める。

 

 




どきどき
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