ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百十八話 シオンタウン再び

 拝啓 サトシ様

 

 穏やかな日々が続いております。サトシ様は益々ご健勝のことと思います。

 

 さて、サトシ様がいつ頃この手紙を手に取っておられるのかは存じませんが、私と別れた後の出来事についてお伝えしたく、筆を取った次第でございます。

 うふふ、サトシさんには難しい文章でしょうか。多少噛み砕きながらお書き致します。

 

 先ずはお詫びをしておかなければなりませんね。

 何の準備も無くロケット団の秘密基地に行かれる事は無いかと思いますが、サトシさんが生きていようが死んでしまおうが、私はタマムシジムを追われる身になるでしょう。

 サトシさんは随分と心労を抱える方のようですから、最初に申し上げておきますが、私は生きております。

 そして、後悔や恨みつらみもございません。

 

 詳しい理由をお伝えする事は出来かねますが、ロケット団の方々とはそろそろ縁を切るつもりでした。

 当然、簡単に切れるものではありませんから、相当の覚悟が必要です。

 その点に関しては、私よりも長らく仕えてくださった侍女の皆様に申し訳なさを感じております。

 

 

 

 ・・・・と、いろいろとそれっぽいことを書き連ねてみましたが、サトシさんには私の本音を少しだけ伝えておくことにします。

 サトシさんの自由さというものに興味が湧きましたので、私も旅をしてみようかと思ったのです。

 うふふ、これを読んでいるサトシさんの表情が目に浮かびます。

 

 それでは、これで失礼致します。

 道中お気をつけてくださいませ。またお会いできることを楽しみにしております。

 

 

 エリカ

 

 敬具

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 皺だらけの手紙を綺麗にたたみ、おずおずと心配そうに待っている従者に返す。

 落ち着かない様子ではあったが、手紙を両手で丁寧に受け取り、サトシに小さくお辞儀をする。

 

 すごく丁寧だ。サトシはそう思った。

 こんな状況ではあるが、この女の子もエリカの関係者ということで追われている立場なのかもしれない。

 サトシはお礼を言うと、その場を後にしようとする。

 

「あ、あの!」

 

 振りかえろうとするサトシにあらためて声をかけてくる。

 

「ん?まだ何かあった?」

 

 立ち止まり、半身で女の子に目を向ける。

 あまり一緒にいるところを見られない方がいいとは思うのだけど。お互いに。

 

「えと、エリカ様からの言伝がありまして、手紙を読み終えたら伝えてほしいと。」

 

 なるほど、まだ要件は済んでなかったらしい。

 しかし、エリカからの言伝・・・・一体どんな内容なのか。手紙に書けば、とも思ったが書けない内容なのかもしれない。

 

 

「ではお伝えしますね。『見えるものが全てじゃないですわ。見えないものを見ることも時には必要です。』だそうです。」

 

「見えないものを、見る?どういう意味?」

 

「あの、私も意味まではわからないので・・・すみません。それでは、お時間お取りして申し訳ありませんでした。私はこれで失礼させていただきます。」

 

「ああ、うん、ありがとうございました。エリカにもよろしく。」

 

 

 女の子は深々とお辞儀をすると、ニコリと少しだけ笑って、そのまま裏路地の奥へと足早に去って行った。

 

 その背中を見えなくなるまで見届け、先ほどのメッセージを頭の中で反芻する。

 

「見えるものが全てじゃない、見えないものを見ることが必要・・・?」

 

 エリカは一体何を伝えようとしているのだろうか。

 恐らくサトシの事を案じてのことだと思うのだが、やはり何かしら回りくどいことをしないと気が済まないのだろうか。

 金か、やっぱり金か。

 それともささやかな報復とやらか。

 しかし、それでも意味の無いことをする人間とも思えないので、その意味について思考を巡らせる。

 

「見えないもの、見えるもの、ってなんだろ。目に見えるものって意味ではないよね、きっと。」

 

 どうしよう、まるで分からない。

 エリカは少なくともサトシの百倍くらいは教養のある人間だろう。いや、もっとかもしれない。

 サトシから見たら十分に天才と言っても問題ないレベルだ。

 いきなり天才から「もっと考えて行動しろ」と言われても次元が違いすぎてまったく想像できないというのが本音だ。

 サトシとて考えずに行動しているわけではない。結果がついてこないのは置いとくにしても、サトシなりに一生懸命考えているのだ。結果はついてこないが。

 

 そもそも見えないものを見るってどうやるんだ。

 頭をひねる。

 その言葉通り、うーんうーんと首を傾げ、足りない頭で一生懸命考えるが、無いものは無い。あっという間に助けを求める。

 

 その助けを求める先が答えを持っているとは微塵も思ってはいないのだが。

 

 

「ピカチュー、どういうことなん・・・・なにしてるの」

 

「ピピカチュ」

 

 

 ピカチュウの顔を見上げると、なにやら怪しいゴーグルのようなものを付けている。

 ただでさえ怪しいピカチュウなのに、より一層サイケな見た目になって、サトシ自身も若干引き気味だ。

 ゴーグルをつけたピカチュウは周囲をくるくると見回しながらピカピカ呟いている。

 時には手を掲げたり、何も無い空間をブンブンと手を振ったりと挙動も怪しい。

 

 しかし、ピカチュウのつけている非常に怪しいゴーグルはどこかで見覚えがあった。

 

 

「・・・・あ、シルフスコープ。」

 

 

 茫然自失しながら受け取ったため記憶からほとんど消え去っていたが、ロケット団アジトにもぐりこんだ際にサカキから餞別にと受け取ったものだ。

 ロケット団のボスから施しを受けるなどと、と今になって思うがそれも後の祭りだ。

 

「シルフスコープ、ってなんだっけ、どこかで聞いたことがあるような。」

 

 記憶を遡る。曲がりなりにも十四歳の少年。

 子供の記憶力というものは馬鹿に出来ない。過去の記憶をするすると遡り、そして思い当たる。

 

「・・・・」

 

 思い当たったのはいいのだが、笑顔になれず、苦い顔でピカチュウが楽しそうにつけている道具を見つめる。

 確か、シルフスコープとは見えないものを見るための道具、とか言っていた男がいたようないなかったような。

 

「・・・ピカチュウ、それ何か見えてるの?」

 

「ピカピ?ピカチャー」

 

 先ほどから奇妙な挙動を繰り返しているピカチュウだが、サトシの見えないものが見えているのであればまあ察することができるというもの。理解したいとは到底思えないのだが。

 

 

「ん?見えないものが見えている・・・?」

 

 

 矛盾の肯定。

 しかし、その単語の並びは先ほど十分に思考している。

 エリカのメッセージが意味しているものとは違いそうではあるが、当てはまるものを潰していくことは無駄ではあるまい。

 ピカチュウがそれを気づかせようとして今の行動をとっている、ハズはないだろうな。絶対楽しんでるだけだなこれは。

 

 

「・・・あまり気が乗らないけれど、次の目的地は決まったかな。」

 

 

 エリカからの伝言を心に刻みこみ、サトシは来た道を戻ってシオンタウンへと向かうことにした。

 

 

「やめて、ピカチュウそれ無理やりかぶせようとしないで。やめて、怖い怖い。やめ、ちょ、やめろー!!」

 

「ピピカチャ」

 

 

 前途多難という言葉が頭を何度も通り過ぎるが、それも今更な話だ。

 タマムシデパートで買い込んだ大量の格安食料を齧りながら、一路シオンタウンへ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「相変わらず辛気臭い町・・・といったら怒られるのかな。」

 

「ピーカピ-」

 

 

 シオンタウン。

 ポケモンタワーという、ポケモンを埋葬し慰霊する施設がある唯一の町。

 町を行く人々もどこか悲しげな空気を纏っている人ばかりで、楽し気に笑顔で闊歩しているのは後ろにいる黄色いのくらいだ。

 

 ちなみにいちいちいろんな場所に反応するのが非常に嫌だったのでピカチュウからシルフスコープは没収してある。

 当然サトシは着けていない。怖いので。

 まあこんなものがなくても自分のポケモン達を哀悼することはできるので、ポケモンタワーの出入り口を眺めていてもシルフスコープを所持している人は一人もいない。開発されたばかりというのもあるだろうが。

 

 そもそも、見えないものをあえて見たいという好奇心旺盛で無謀で怖いもの知らずな人間がこの町にいるのだろうか。

 いなくなってしまった自分のパートナーに会いたい、という願望は確かにあるのかもしれないが、それ以外も平気で視界に入ってくるだろう。

 サトシとてトランセルとスピアーにまた会いたいという気持ちはあるし、彼らからの叱責も甘んじて受ける覚悟はある。呪われてしまうことも甘受しよう。

 だが他の幽霊的なものの怒りを買って憑りつかれてしまうのは御免こうむる。

 

 

 なんとなくズカズカと慰霊の塔に踏み入るのは気が引けるのでその場をうろうろとしていると、いくつかある建物の看板が目に入る。

 

 

「・・・・ポケモンハウス、ポケモン保護ボランティア施設。へえ、そんなのあるんだ。」

 

 

 なんとも献身的であろうか。捨てられたりいじめられてるポケモンを保護する、みたいな活動だろう。

 死と退廃に満ちたこの世の中、と思っているのは裏の世界にどっぷり浸かったサトシならではの視点だが、優しい人達もやはりいるのだなと思える。

 一筋の光。闇のように真っ黒く染まりあがりつつあるサトシの心に、白く健全な絵の具がさっと塗られる。

 

 と思ったのだが、世の中には健全を装ってこれ以上黒くならないのでは、と思えるほどの活動をしているポケモン大好きクラブという存在があったのを思い出した。

 というか、クチバシティの件以降、サトシの心にはポケモン大好きクラブの会長が巣食っていて不吉な笑みを浮かべながらサトシを見守っている。早急に帰って欲しい。

 

 

「まさか、ね。」

 

 

 さすがにあんなトチ狂った施設がいくつもあるわけないよねはははと表面上考えつつ、とりあえずドアに手をかけて中の様子を見てみることにした。

 

 学習しないなあとサトシ自身でもわかってはいるが、多少なりとも安心感を得たかったというサトシの心境も察して余りある。

 普通の人もいるのだ、狂っているのはごく一部なのだと確信したかったのだ。

 

 

 

 ギィ、と若干軋みながら開くドアの先には、子供が二人。サトシよりも小さく、十歳に満たないくらいだろうか。

 愛らしい、というには場違いかもしれないが、男の子一人と女の子一人が今のこの建物の主人のようだ。

 

 せめて出迎えの言葉くらいはくるのかと一瞬思ったのだが、その二人はシクシクと目を擦って泣いているではないか。

 

 さすがに不穏な空気を感じ、駆け寄って声を掛ける。

 

 

「ど、どうしたの?大丈夫?なにかあったの?」

 

 

 シクシクと泣いて赤くなった目尻と顎まで垂れた涙と鼻水をティッシュで拭きながらサトシは尋ねる。

 

 

 

 

「おじ、おじいちゃんが!ぽけもんたわーからかえってこないのぉぉ!うえぇええ!!」

 

 

 

 

 サトシのポケモンタワー行きが確定した瞬間であった。

 

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