トキワシティジムは、ジムリーダー不在で閉鎖していた。
サカキさんは本当に不在がちのようだ。一体どこに行っているのだろう。
トキワの森の件でお礼を、と思ったがそれも適わずトキワの森に向けて歩いている。
当然ピカチュウは服を着ている。当然と言い切ってしまった方が気持ちがいい。そういうことにしておく。
朝の街並みを楽しみながら町の出口に向かっていると、見たことのある姿が道に座り込んでいた。
髪の毛が随分と後退した頭に細い目。不揃いなあごひげを携え、ゆったりとした茶系統の服を着て酒瓶片手に独り言。
その姿を見て、半分きまずいと思いつつ、半分はホッとした。
「どうも、おじいさん。」
「んん?ポケモンの捕まえ方を教えて・・・おお少年。ええと、ササダンゴ君だったか?」
「サトシです。」
「おお、そうじゃサトシくん。なんだ、森に入ったと思っておったがどうした?儂が恋しくなったか?ふぉっふぉ」
冗談なのか本気なのかわからないが、顔が紅潮しているところを見ると酔っぱらっているのだろう。
酒瓶を口につけ、傾ける。酒臭い息をぶはーっと出し、サトシは微妙に顔をしかめた。
「ちょっと理由がありまして。」
「なるほどなるほど。深くは聞くまいよ。ところで―――」
おじいさんはもったいぶったかのように少しだけ言葉を止めた。
「?」
「あのでっかいピカチュウはどこへいったんだ?」
意識飛びそうになった。
「それに、そのでっかい片方は誰かのう?以前はおらんかったように思えるが」
「あ、えっと、ですね」
「物騒な世の中だ、用心棒でも雇ったのかね?ふぁっふぁ」
「あの、これピカチュウです。」
「・・・ほぁ?ピカチュウ?」
酔っぱらって視点が定まらない目を細め、サトシの隣にいる巨体をじろじろと観察する。
「・・・耳、がでとるな」
「・・・はい」
間が痛い。
「・・・ぶふっ!わうぁはははははははははひゃひゃっひゃひゃひゃひゃはははははは!!!」
何も言えない。顔をそむけることしかできない。
居心地の悪い空間だったが、黙っておじいさんの次の言葉を待つ。
「ふぁふぁふぁふぁふぁ!!はあ、はぁ、よ、酔いが冷めたわい。ふふっ、こりゃないすあいであだな!」
「えっ?」
冗談でしょ?とでもいいたげなサトシの顔をおじいさんが満足げに見ている。
「どういうことですか?僕はもはや悪い冗談とでも思いたい気持ちでいっぱいなんですが。」
「ふっふふ、考えてもみたまえトロロコンブ少年。」
「サトシです。」
「こんな恰好したポケモンがおるか。どうみても、ピカチュウの恰好をしようとした悪ふざけの大人にしか見えん!」
「あ・・・」
そうか。でかい人型のポケモンからポケモンの恰好をした人間に見方を変えたのか。
たしかにこれなら裏の住人にも確証が得づらい状態にはなったかもしれない。
それはたしかにいいことだ。いいことなのだが。
「これ、いままで以上に、僕をとりまく環境が悪化したとしか思えなくなったんですが。」
「ふぁふぁふぁふぁふぁふぁふぁあああふぁあふぁふぁ!!!!そうだの!ピカチュウのカッコした大人と歩いてる少年ってシチュエーションはそうそうないぞ!!!」
「なんだか恥ずかしくなってきました。もう襲われてもいいからそのまま行きたくなりますね・・・」
「ふっふ、そう卑下するものでもないだろ。いいアイデアだと思うぞ?そのピカチュウ、ボールに入ろうとせんのだろう。」
「はい、そうなんです。」
不安そうな顔を見ながら、対照的に笑顔なおじいさんが言葉を続ける。
「とりあえずそのまま森を越えなさい。新しいポケモンは捕まえたかね?まだなら儂のクラブで進め。トキワの森のモンスターくらい十分に戦える。」
「あ、そういえば」
おじいさんにもらったクラブ。キャタピー戦ではそれどころじゃなかったので存在すら意識から消えていた。
若干モンスターボールから哀愁が漂っていたのは気のせいだろう。ごめんねクラブ。
「とにかく進まないことにはなにも始まらんよ。先に進め少年よ。進むことでわかることの方が多い。止まってしまっては何も始まらんぞ?」
再度酒瓶を傾けながらおじいさんは若者へ人生論を説いていた。
年齢を重ねるとそういう話がしたくなるとは母親談。
何はともあれ、抱えていた不安(主にピカチュウ)については少しばかり安心できたので、先に進む足も多少軽くなったというもの。
おじいさんは狙って話していたのかどうかわからないが、気持ちが軽くなった気がする。
その点に関しては感謝しなければなるまい。
「おじいさん、ありがとう!」
「ん、じじいの話も役に立ったかね?それはなによりじゃ。」
酒臭い息を吐き出しながら、赤く染まった顔を崩し微笑んだ。
「マサキによろしくな。」
おじいさんに別れを告げ、サトシはトキワの森に向かって歩き始めた。
みじかめ。