サトシとピカチュウがヤマブキシティへの入口についたのは、すでに周りが暗くなり、月が煌々と輝いている時間だった。
他の街とは違い、東西南北に関所が設けられていている。怪しい奴が通らないようにするというやつだ。
サトシ一行は、旅する十四歳とドアをくぐるのも大変な二メートル四十センチの巨体。あやし・・・くはない。きっとセーフ。セーフだと思いたい。
「夜になっちゃったね、ピカチュウ」
「ピーカピー」
同意してくれているのか楽しんでいるのか悲しんでいるのか暇なのかお腹すいたなのか、未だによくわからない返事だがまあいつも通りなので特に気にしないようにしている。お腹すいてるなら勝手にリュックを漁り始めるし。
よく考えたらポケモン同士、鳴き声は全然違うのに内容が通じているのは何故だろうか。鈍りみたいなものなのか。
僕の言葉は通じているようなので、ポケモンというのは例外なく自動音声翻訳機能がついているということか。便利そう。
しかし、そんなどうでも良いことを漠然と考えている時間は無い。サトシ個人としてはなかなかに頭の痛い問題があった。
「ゲンガー、どうしよう・・・」
サトシの目の前でアッカンベーをして爆笑して爆睡してしまったゲンガー。
押しても引いてもウンともスンとも言わないので、どうしたもんかと思った。
手に入れたばかりのポケモンの笛を使おうかとも思ったが、別にバトル中でもないし、無理に起こして不機嫌になられても困る。
仲好さそうに話していたピカチュウを見てもどこ吹く風だ。サトシに合わせて首を傾げて遊んでいる。
こんな道のど真ん中で立ち止まって野宿するわけにもいかないので、とりあえずゲンガーはモンスターボールに戻し、そのまま進むことにした。
うんうん悩んで歩いているうちに瞬く間に暗くなり、結果、夜の行軍となってしまったわけである。
「とりあえず、ポケモンセンターまで行こう。さすがにもう夜遅いし。」
そう判断すると、すでに目の前まできていた関所―――窓から光が漏れている小さい建物の中へ入っていった。
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「ここは通行止めだよ・・・はぁ」
「通行止め?」
中に入ると、本来はシャキッとした人が管理をしているのだろうが、ぺっとりとテーブルに張り付くようにしている人が居た。
なんかこのまま強行突破してもいけそうな気がするが、さすがに気が引けるので話を聞いてみる。
「ヤマブキシティで何かあったんですか?」
質問したサトシを疲れた身体をゆっくりと起こして見る管理人。
よく見るとヒゲがまばらに生えている。しばらく帰れていないのだろうか。
「何か、ねえ。何かはあったんじゃないかな。その何かがわからないんだけどね・・・はぁ。」
「何かがわからない?わからないのに通行止めなんですか?」
「真っ当な疑問だと思うよ・・・それよりもキミ、何か飲み物もってないかい。喉が渇いたんだけど交代がいなくてね・・・」
「あ、それは大変。どうぞ。」
先ほどから随分疲れた様子だったのはそれが原因だったのか。
それは無駄に動きたくなくなるのもわかる。水分不足は疲れの原因なのだ。特に長時間動いたりしている時には。
サトシはリュックからタマムシシティで買い込んだおいしい水を数本出し、管理人に渡した。
「おおお、ありがとうキミ。早速いただくよ。――――ゴク、ゴク、ゴク。ぷはー」
おいしい水ではあるが、本当においしそうに一気に飲み干した。本当に喉が渇いていたようだ。
「ふう、ありがとうキミ。さて、通行止めの理由だけど、本当にわからない。いきなり連絡がきて、誰も通すなって。訳が分からないけど、無視することもできなくてね。東西南北どこの関所も同じみたいだ。」
「そんなことって・・・」
「うん。僕はここを離れることはできないし、キミ、様子みてきてくれない?他の人には黙っとくから。」
「え?いいんですか?」
「どうせバレやしないよ。連絡があってから誰一人として来てないんだから。飲み物のお礼だよ。通りたいんでしょ?」
嬉しい誤算。タマムシデパートの飲み物が安いからと大量買いしておいたのが功を奏したようだ。
貧乏生活に変わりは無いが。収入源がジムからの報酬しか無いというのが辛いところだ。ピカチュウと一緒に大道芸でもやって小銭を稼ぐか、と思ったがお手玉にされるサトシを想像してやめた。稼げそうではあるが。
「ありがとうございます!街の様子を見てきます!」
「うん、飲み物ありがとう。」
二本目のおいしい水をちびちびと飲みながら見送ってくれた。
関所を抜ければあこがれの大都会、ヤマブキシティだ。ポケモンジムが二つあり、ポケモン技術開発のトップ、シルフカンパニーもある。
なんというか是非見学させてもらいたいものだ。ピカチュウが入りたがるようなボールがあったら是非購入したい。
そんな憧れと希望を抱きながら、サトシは夜のヤマブキシティへ足を踏み入れるのだった。