「うわーー!でかい!ひろい!明るーい!」
「ピカピカ」
上京したばかりの田舎者発言をしたのはもちろんサトシ。
関所から出て少し歩くと、目の前には見上げるほどのビルが所狭しと並んだ大都市ヤマブキシティ。
いくつか一軒家らしき住居も確認できるが、大半はビルとなっている。
サトシが今まで見た高層建築物はタマムシデパートが最も大きいが、それを上回る建物が指で数えられないくらい存在していることにまったく現実感が得られなかった。
そしてその中でも街の中心からにょきっと頭を出している最も背の高いビル。おそらくあれが噂のシルフカンパニーだろう。
街のどこからでも見えるのではと思えるほどに巨大な建築物は、世界の中心地はこの建物なのではないかと錯覚してしまうほどに存在感がある。
その大きさを表現する例えを持っていないサトシが考えていたことは「マサラタウンがいくつ入るんだろう?」なので、比較対象がカントーに無いのも頷ける。
シルフカンパニー含め、多くのビルからは夜遅いにも関わらず光りが漏れている。
恐らく娯楽施設もあるだろうし、仕事をしている人もいるのだろう。そのどれもがサトシにとってはキラキラして魅力的なものに思える。
実際はデスマーチをしている会社員などという人種が存在しているだろうが、サトシはまだそのことを知らない。もっとも、サトシ自身もリアルデスしそうになることが頻繁にあるので理解したところで自分よりはマシと感じるかもしれないが。
「ピーカ」
「あ、そうだね。ポケモンセンターに―――」
「ピーカピー、ピカピ」
「え?―――ああ、ごはんね・・・」
サトシにとって未来の情景の中でドキドキと胸が高揚していたが、一気に現実に引き戻すピカチュウ。
加えて、食事と金銭問題という現実を直視しなければならないという状況。
流通盛んそうな街に来たからといってサトシの財布が膨らむわけではないのだ。
さすがにこの時間に散策するのは気が引けるので、近くにあったオレンジ色の看板の丼ぶり屋に足を運んだ。
安い金額でなかなかに美味しかったが、ピカチュウが特盛を二杯とトッピングをたらふくつけた所為で出費事体は普通のレストランとあまり変わらなかった。いい加減自炊を考えるべきだろうか。
自炊できる環境があればの話だが。台所ポケモンとかいないかな。
真面目にそんなことを考えたサトシだが、お腹は膨れたのでいい加減ポケモンセンターへ向かうことにした。散策は明日だ。
―――――――――――――――――――
ポケモンセンターに到着し、特に傷ついたポケモンもいないのでそのまま宿泊施設へ向かう。
いつも思うがポケモントレーナー向けに宿泊施設があるというのは非常に助かる。ホテルなど毎度泊まることはできないし、ポケモンを預けることもできない。
旅人向けなので普段使う人は少ないが、おかげですぐに使うことができる。お世辞にも寝心地が良いとはいえないが野宿するよりマシだ。
ピカチュウと共に個室に入り、ベッドに腰掛ける。
そして久々に今後のことを考える。最近起きたことが多すぎて、考える時間が無かったのだ。ピカチュウはもう寝てる。
「タマムシシティでのこと、結局エリカの言った言葉についてはわからず仕舞い。まあこれは想像してた通りかな。」
見えないものを見ることが大事。その見えないものについては全く分からなかったが、それは幽霊のことでは無かったようだ。案の定ではあるが。
現実に存在するかしないかということでは無く、もっと抽象的な、比喩的な表現なのだろうか。
だが、これについては考える余地が無い。頭にとどめておく程度でよいだろう。
「ロケット団については、しばらくは関わらない方がいいね・・・事情によるかもしれないけれど」
タマムシシティでの一件。まさかのサカキさんがロケット団のボスという事実。当然口外していないし、出来ない。絶対消される。もちろん物理的な意味で。
そもそもロケット団へ関わる理由は私怨のみだ。その理由が小さいとは思わないし、絶対何かしらで復讐してやりたいとは思うが、今は我慢すべきだ。
中途半端な準備で臨むには相手が巨大すぎる。それをタマムシシティのロケット団アジトで痛いほど思い知らされた。
ボスがサカキさんというのも問題だが・・・それは今は考えないようにしよう。
「シオンタウンのポケモンタワーでのこと。」
頭が痛いことにこれもロケット団が関与していたようだ。
動機としてはフジさんを迎えにいくという簡単な話だったハズだが、何故か命の遣り取りになってしまった。
ガラガラの亡霊との戦いは熾烈を極めたが、これも元はと言えばロケット団が原因。ロケット団許すまじ。
フジ老人が元研究員という話も気になるが、これも考えたところでわかる事では無い。精々、「ロケット団が欲しがる情報を持っている研究員」だということ。
・・・すごく重要な情報な気がするが、これも記憶の底に封印しておこう。
よく考えるまでもないが、サトシは世の中の闇の部分のすごく重要なところをいろいろと知ってしまっているようだ。
ピカチュウがいなかったら一度や二度どころではなく死んでいることを考えると、ここまで知ることができる人はほぼいないのだろう。
嬉しいやら悲しいやら。
「レッド、そしてAngel計画について。」
マサキに聴いた情報から進展無し。これについては調べようが無いし考えようも無い。マサキから得られただけでも儲けものだろう。
なみのりで荒波を乗り越えられるようになるにはセキチクシティのジムバッジが必要らしいし、ハナダの洞窟に行けるのはまだ先か。
サカキさんならAngel計画について知っているだろうか・・・いや、やめとこう。すごく危険な気がする。
おさらいはこれくらいか。
そして現状だが――――
「ヤマブキシティ、いたって問題が無さそうに見える。」
そう、この街は閉鎖されているのだ。
東西南北どの関所からも入れないし、出られない。
サトシとしてはなにか事件に巻き込まれてるとか巨大怪獣が出現してるとか人が全員石になってしまったとかそういうことを想像していたのだが、街の中は別段変わったところが無いように思えた。
到着したのが夜だから、という可能性もあるが、それにしても普通だ。
混乱している人もいなければ閉鎖しているお店も無いように見えた。
しかしそれでも通行止めがされており、それを指示した人間がいる。これはどういうことなのか。
とにかく明日、散策すれば何かわかるかもしれない。後回しだ。
「そして、今一番重要な問題。」
そう呟くと、モンスターボールから一体のポケモンを出す。
室内を赤い光が数秒照らし、出てきたのは
「ガーーzzz ガーzzz」
「まだ寝てる・・・はぁ」
そう、ゲンガーだ。
このポケモン、ずっとこれである。
今までこんなことがなかったため、どうして良いかまったくわからない。
良くも悪くもポケモンに愛されてきたサトシにとって、手がかかるポケモンというのはどうして良いかわからないのだ。
コイキング?あれは手はかからないからいいのだ。
さすがに寝すぎなのでポケモンの笛を使おうかと何度も思ったが、サトシの良心がそれを阻止する。
起こしたところで重要な何かをするわけでもなし。結局サトシは何もできずにいる。
「フジさんにどういうポケモンなのか訊いておけばよかった。」
後の祭りである。しかしよく考えると、現状でもできることがあった。
「そうだ、ポケモン図鑑。レベルとかステータスとか技とかはわかるハズ。」
ポケモンを数字として見ないサトシにとってはあまり使ってこなかったものではあるが、技の確認はしとかなければ。
それによってバトルでどう使えるのかが変わってくる。
そう思いついて、サトシはリュックからポケモン図鑑を取り出し、ガーガー寝ているゲンガーに向けてみる。
ポケモン図鑑の画面にゲンガーの情報が映し出される。なんとも便利な道具だ。シルフカンパニー万歳。
ふんふんと頷きながら図鑑の画面を見つめる。
情報、ステータス、技の順番で見て、再度繰り返してみる。そしてもう一度繰り返す。
四度目を見ようと思ったが、さすがにもう見間違えではないと認識したのか顔を上げて寝ているゲンガーを見る。
「・・・すごくつよい気がする。」
ドーピングポケモンに慣れたサトシにとって、ステータスはさほど重要ではないことがわかっている。大事なのは技の使い方だったり作戦だったりするからだ。ステータスの低いノーマルポケモンで圧倒的な勝利を飾っているレッドが良い証拠だ。
しかし、レベルが七十を超えていることに関してはさすがに動揺せざるを得ない。
「レベル七十二。フジさん、一体どれだけ育ててたんだろ・・・こんな強いポケモンを交換するなんて。よかったのかな。」
他のゴーストと間違えたのでは?とも思ったがあの強かな老人だ。そんな初歩的な間違いを犯すはずはないだろう。
サトシへのささやかなプレゼントということでありがたく受け取っておこう。
「技は、えっと、さいみんじゅつ、ゆめくい、ナイトヘッド、サイコキネシス。催眠術はなんとなくわかるけど、他のはどんな技なんだろう。」
技についてもポケモン図鑑で確認できるようだ。すごく便利。
「『ゆめくい』眠っている相手の夢を食べて、体力を削る。・・・起きたら疲れてる感じ?」
次を調べる。
「『ナイトヘッド』相手に幻影を見せてダメージを与える。自分のレベルによって威力が上がる。・・・幻影でダメージ?黒歴史を見せて精神的ダメージとか?」
頭を捻りながら次を調べる。
「『サイコキネシス』超能力で相手を攻撃する。・・・・どんな?」
調べてもあまりよくわからなかった。
サトシの頭が悪いのか、それとも技が高度なのか。
特にナイトヘッドがわからない。でも、レベルが高いほど威力が高いならこのゲンガーならすごく強いに違いない。
問題があるとするならば、まだゲンガーが寝ていることだろうか。
「・・・ちゃんと戦ってくれるのかな?」
一抹の不安を覚えたが、まあなんとかなるかなと淡い期待を抱き、随分と時間が経過した時計を見て、電気を消してベッドに潜り込むサトシだった。
ゲンガーっょぃ
さて、すでに全編で40万字を突破しておりますが文庫化してほしい人とかいるんでしょうか。
そうなったら挿絵とか自分で描けるしすぐ作れそう。
希望者が多ければ作りたい。
コメントで残すかツイッターでDMくれるかとかリプるとかしてくれればうれしいです。
文庫化しなくても続きますとも(^ω^)