ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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「ピカの日常」というピカチュウ(かわいい)のイラストをまとめました。


【挿絵表示】





第百三十九話 空手王

「く、なんというパワーだ・・・!空手王のこの私がここまで押されるなんて・・・!!!」

 

 どうしよう、すごく盛り上がっている。

 本来このピカチュウはなるべく注目を避けなければならない。

 今の状況は注目を避けるどころか浴びている。これでもかというほどに浴びている。

 この中でピカチュウだと気付いている人がいないことを祈るしかない。

 むしろ気付かない方がおかしいと思うのは自分だけなのだろうか。

 

 

 そんなことを悶々と考えていると、さすがに体格の差があったのか、ピカチュウが徐々に押していき、空手王の右手甲はテーブルの上にゆっくりとくっついた。

 

 

「ぐあああああ!負けた!負けた!!」

 

「ピカピカ」

 

 

 右手を上げて勝利をアピールするピカチュウ。

 ゴングが聞こえるのは空耳だと信じたい。ここはリングでもなければ闘技場でもない。ポケモンセンターの休憩スペースなのだ。

 

 それより先ほどよりも注目を浴びている。

 もうこれ以上自分の胃袋を刺激しないでほしい。若干十四歳にして胃に穴をあけたいとは思わない。

 

 

「いやあ、良い勝負だった!君、名前はなんというのだ?」

 

(あ、まずい)

 

 

 さすがに「僕の名前はピカチュウです!」なんてハキハキ答えられる発声器官は持ち合わせていないだろう。

 かといってピカピカしか言えないことに気づいたらかなり疑われてしまうに違いない。

 そう思うと、サトシは人だかりを掻い潜って一人と一匹の近くに行こうとする。

 

「ちょ、ちょっとすみませ・・・」

 

 

「ピカピ」

 

「むうん?ぴかぴ?」

 

 

 

 やってしまった。

 

 一歩遅かったサトシ。もう人だかりから腕まで出ていたのに、惜しい。

 サトシの冒険はここでお仕舞い!!!!

 

 

「成程!ぴかぴ、という名前なのか!うむ、良い名だな!!」

 

「ピッカピ」

 

 

 あ、この人あんまり頭良くないんだ。

 安心と同時に、何故か確信してしまった。

 

 

「あ、あの」

 

 ようやく人だかりから出てこれたサトシは申し訳なさそうに声をかける。

 

 

「むん?何かな少年!サインかね?それとも固い握手を交わしたいのかね?がはは」

 

「えっと、その」

 

 

 自分のことを空手王と名乗った人物は、近くで見るとすごい迫力だった。

 さすがにピカチュウと比較するのは人間には可哀想だが、それでも二メートルに迫る高身長と分厚い胸板。

 強い眼力、眩い笑顔。

 そしてアピールなのかわからないがポケモンセンターまで白い武道着で来ている。

 

 典型的な武道家なのだろう。

 むしろこの姿でインテリだと言われてもジョークとしか思えない。それを狙ってこの姿なのだとしたら人間不信に陥るレベルだ。

 腕も丸太のように太く、人間としてはトップクラスに強いのだろう。あくまで身一つで戦う人間としては、だが。

 

 サカキのことを頭に浮かべて、強さっていうのはいろいろあるのだなあと苦虫を噛み潰したような顔をしたサトシ。

 それを見て首を傾げる空手王。

 まあずっと黙っていても話は進まないのでなんとか辻褄を合わせる努力を試みる。

 

「その大きいの・・・ぴかぴ?は僕の旅の連れでして・・・それで、あの、そろそろ先に進みますので・・・」

 

 そう、まあ無理のない設定で、間違えてはいないギリギリのラインで説明をする。

 内心ドキドキだ。

 

「ふむ、うむ、成程。」

 

 何がなるほどなのだろうか。そこのところを教えてほしい。何を納得されたかによってはすぐにこの場所から撤退せねばならない。

 しかもヤマブキシティではまだやらなければならないことが残っているのだ。

 目的を果たす前に騒ぎになってはいろいろと動きづらくなる。

 いや、シルフカンパニーの玄関をブチ壊して突入していった時点で騒ぎになっていないというのは無理があるのは承知しているのだが。

 とにかくこの脳みそどころか髪の毛一本に至るまで筋肉で構成されていそうな人物に素性を知られると、いろいろと面倒そうなのは変わりない。

 早々にここを立ち去りたい。

 

 などと、心の中で冷や汗をかきながら待っていると、空手王は大きい両手を広げ、サトシの肩に振り下ろしてきた。

 

「ひい!」

 

 バン、という音と共に自分の身長だと胸板くらいしか目に入らない近距離で、サトシは両肩を掴まれた。

 

(やばい!死ぬ?このまま殺される????)

 

 もういろいろと漏らしそうな状態だったが、サトシはなんとか上を見上げ、こちらを見下ろしている空手王の顔をみつつ

「あの、なんでしょうか・・・?」

 と蚊のような声でつぶやく。

 

 そして

「少年よ!まさか君のような若者が旅をしているなんてな!きっと涙無しには語れない事情があるのだろう!!うむうむ、何も言わんでよい!俺にはわかるさ!!苦労しているのだな少年よ!」

 

 などと声を張り上げて口に出した。

 

 サトシが何も言えず茫然としていると、空手王はさらに言葉を紡ぐ。

 

 

「さぞ危険な道程であっただろう!しかしこのぴかぴが一緒であったならかなり頼もしい!この空手王から腕相撲で一本とれた人間は久しぶりだぞ!がはは!」

 

 勢いに振り回されているサトシだったが、とりあえずここまでの空手王の振る舞いに悪意は無い。

 それに、ピカチュウのことを「人」と言っている。その時点で裏の世界とは無関係か、ほとんど踏み込んでいないかだろう。

 心の中的には安心できたが、こう、両肩を掴まれてガクガクされるのは首がもげそうになるのでなるべく早くやめていただきたい。

 ぴかぴが居ても首がもげたら死んでしまう。いくら頼もしくても死んでしまう。

 

「うむうむ、時間を取らせてしまったな少年!急ぐ旅なのだな。ぴかぴよ、しっかりとこの少年を守るのだぞ!」

 

「ピカッピ」

 

「うむ、がはは!そうだ少年!時間が少しでもあるのならば、是非とも我がジムに遊びにこんか?」

 

 サトシの顔が凍り付く。

 

「・・・ジム、ですか?ポケモンジム?」

 

「そうだ!俺の道場兼ポケモンジム!といっても非公式だがな!あのナツメのやつめ、次は絶対に叩き潰してやる!」

 

「ちょちょちょ、ちょっとまって!」

 

「ぬん?どうした少年。顔が青いぞ?」

 

 

 いろいろと聞き逃せない情報があった気がするので一度会話を止める。そして脱出したい一心だった脳内を整理し、あらためて空手王に尋ねる。

 

 

「ええと、空手王さん?のジムは非公式で、バッジがあるわけではないんですか?」

 

「うむ!その通りだ!悔しいことに公式を決めるバトルで敗北してしまってなあ!」

 

 そういえばヤマブキシティにはジムが二つあるって言っていた気がする。

 つまり、この空手王がいるジムというのが一つで、そしてもう一つが―――

 

「公式ポケモンジムとなっているのがエスパー使いのナツメがいるジムだな!貧弱な見た目をしておるのに、不思議な力を使ってくる。俺の格闘ポケモンじゃ近づくこともできん!」

 

「エスパー使いの、ナツメ・・・それがヤマブキのジムリーダー。」

 

「おう!そういうことだな!」

 

 

 

 エスパー。

 話には聞いたことがあるが、その実態はまったくと言っていいほどわからない。

 手持ちのポケモンではゲンガーが近い。どちらにしても不思議な力で相手を倒す技を使う。

 ともあれ、情報が全く無い状態でエスパーと戦うことは自殺行為。ただでさえいろいろと規格外なドーピングポケモンの戦いなのだ。

 少しでも情報を得ておきたいのが実際のところだ。

 

 

 

「空手王さん。」

 

「なんだね少年。」

 

 

 ここでとる選択肢はこれしかないだろう。

 まあ多少の危険はあるだろうが、無策でナツメに挑むよりマシだろう。

 

 

 

 

 

 

「道場、これから遊びにいってもよいですか?」

 

 

 

 虚をつかれた顔から、すぐに先ほど以上の満面の笑みに変わった。

 

 

 

 

 

「もちろんだ少年。歓迎しよう。」

 

 

 

 




ついに登場空手王。


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