ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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筋肉の考えることはこれ


第百四十五話 闘いの後は酒と肉

「それでは、構えて。」

 

 

 どこからか用意された分厚い丸テーブルの上に丸太のように太い腕が二つ乗せられる。

 腕相撲。空手王が決着に選んだのはただの腕力勝負。いや、厳密にはいろいろとテクニックがあるらしいが、サトシはお世辞にも腕力がある方ではないし、腕相撲について本気で学ぼうと思うほど熱い思い入れのある競技ではない。

 だが、目前に広がる風景はただのお遊びという考えを払拭してしまうほどに重苦しいし、暑苦しい。

 

 空手王は獰猛な笑みを浮かべ、ピカチュウの変わらぬ笑顔を視線で突き刺す。

 いくら狂暴な視線で突き刺されようとも、ピカチュウのポーカーフェイスが崩れることはない。

 

 二人が岩のような手を合わせ、握る。

 ただそれだけの所作だが、まるでお互いの拳を握りつぶそうとしているかのようで、ひどく殺気に満ちている。

 腕相撲というスポーツ競技のハズが、よもやこのような殺意に包まれた状況を生み出すなどと誰が想像できただろうか。

 

 

「ぴかぴよ、小細工は無用だぞ。俺の渾身の力を見せてやろう。ポケモンセンターのようにはいかないからな。」

 

「ピッピカ」

 

 

 互いの右手を握り、左手はテーブルの端をつかむ。

 

 

「双方構え、力を抜いて」

 

 

 数秒の間。サトシの心臓ははち切れんばかりに脈を打ち、口が乾く。

 いままで戦ってきた相手に比べ、地味に過ぎる。

 だが、殺し合いでは無い闘いにおいてここまでの殺気を出せるものなのか。

 いや、本人たちは殺すつもりで挑んでいるのかもしれない。少なくとも空手王にとっては全身全霊を込めての勝負だろう。

 

 

 

「用意――――始めぇっ!!」

 

 

 

 

 瞬間、二本の丸太が、倍近い太さに膨れ上がり、生物最強を決める腕相撲が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ――――結果は、ピカチュウの勝利。

 いや、力は互角だったと言える。だが、力の根本となる部分がそもそも異なる。

 ピカチュウは過剰なドーピングによって生み出された素の力。

 反して空手王は常軌を逸したトレーニングによって得られた時間制限付きの力。

 生み出される力が同様だとすれば、その結果は火を見るより明らかだ。

 

 

 床が軋み、丸テーブルにヒビが入る腕力と腕力の死闘は、実に十分も続いた。

 最初はハラハラドキドキしながら見守っていた弟子達だったが、途中からは応援の声が大きくなっていった。

 空手王にバンプアップの限界が到来し、力の均衡を失った勝負は一瞬で終了した。

 ピカチュウが空手王の右腕を丸テーブルに叩きつけ、そのままテーブルを破壊。空手王は右に一回転して床に激突。

 パラパラと木屑が舞う中、弟子達の歓声に包まれて史上最も暑苦しい腕相撲対決は幕を閉じた。

 

 そして。

 

 

 

 

「どうしてこうなった。」

 

 

 

 

 サトシは今、史上最高に暑苦しい宴会の真っ只中で、オレンジジュースをストローでちゅーちゅー吸っている。

 サトシの周囲にはサトシの倍近くある人間が大勢で囲っており、さらに大きい黄色いのが右隣りに鎮座している。

 道場の地べたに広げられた一升瓶の日本酒と食べ物(主に肉)の数々を囲み、どんちゃんどんちゃんと本当に聞こえてきそうな程に盛り上がる空間で、手に酒を持ち、用意された肉を大量に消費する資本主義社会の鏡のような何か。

 当然未成年のサトシは特別に用意されたオレンジジュースを飲む。そしてピカチュウが酒を呑めるかどうかはわからないが、仮に酔っぱらってしまった場合は皆の持っている酒が赤く染まってしまう可能性も否定できない上に自分の身の安全も確保できないので、ピカチュウにもオレンジジュースを与えている。しかし目の前に出された肉の数々は別なので、ここぞとばかりに大量にかっくらう人外一名様。

 ちなみにサトシは特に何もしていないにも関わらず食欲があまりない。おそらくはいろいろな心労が祟っているのだろうと思われる。

 なんとも非常に居心地の悪い空間ではあるが、サトシの力では大量にいる筋肉達磨相手には分が悪すぎるので大人しく人工甘味料をちゅーちゅー吸っているしかないのだ。

 

 

「しかし、一体なぜ宴会なんですか・・・?」

 

 

 サトシが口に出す言葉は至極最も。ただし一般人の思考からして、という但し書きが付くが。

 そこに一般人ではない空手王が応える。

 

 

 

「なにをいうのだサトシさん。あれだけの素晴らしき闘いを繰り広げたのだ!酒を呑まずして終われるわけがなかろう!がっはっは!」

 

「そういうもんですか・・・」

 

「経験豊富なサトシさんとはいえ、まだ未成年。この感情の昂ぶりはまだ理解できんか!がっはっは!」

 

 

 そう言ってサトシの背中をバンバン叩く空手王。旅をしている以上、同世代の少年よりも身体は頑丈であるハズだが、空手王の手は凶器であり鈍器なのだ。

 そんな手でバンバンと叩かれたサトシ。おそらく服の下は真っ赤な紅葉が出来上がっているに違いない。いや、この衝撃からすると骨にヒビくらいいっている可能性も否定できない。

 

 そんなことをもやもやと考えながら、ぴかぴとの闘いについて語る空手王に耳だけ貸す。

 

 

 ふとピカチュウの方を見ると、そこには空手王の弟子達が群がり、いろいろな言葉を投げかけている。

 当然、ピとカとチューしか返答できないわけだが。

 盛大に酔っぱらっている筋肉達はそれでも問題ないらしい。質問したところで、「そっかー!さすがぴかぴさん!」とか適当な事を繰り返している。

 

 

 いつ終わるのかなあと時計をちらちら見ながら空手王の言葉を聞き流していたが、よく考えたら判断力の低下している今ならいろいろと質問すれば答えてくれるのではないかと思い、当たって砕けろで訊いてみることにした。

 本当に骨が砕けないことを祈って。

 

 

 

「あの、空手王さん?」

 

 

 ご機嫌に日本酒を煽っていた空手王がサトシに顔を向ける。

 

 

「おう、どうしたサトシさん!酒を勧めることはできんぞ!勝手に呑むなら目をつむるがな!」

 

 

 しれっと危険な事を言わないでいただきたい。スルーして本題に戻る。

 

 

 

「あの、ナツメについて―――ヤマブキジムリーダーについて訊きたいんですが・・・」

 

「ぬん?ヤマブキジムについて?」

 

 

 そう、サトシはなにも筋肉に囲まれて宴会するためにヤマブキシティまで来たのではない。もちろんシルフカンパニーのドアを叩き壊すために来たわけでも。

 ヤマブキシティジム、ナツメを制するために来たのだ。

 空手王が裏の事情に精通しているとは思いたくない―――むしろ精通していたら衝撃を隠しきれずに卒倒する可能性すらある。

 ピカチュウがドーピングしたポケモンだとバレていない以上、これ以上のいざこざは御免被る。

 百害あって一利無し。触らぬ神に祟り無し。知っていることを聞き出し、早急にここを去りたいのである。

 

 

 

「はい。その、僕もポケモントレーナーなので、ジムリーダーの情報があれば教えてほしいな、と」

 

 

 間違ってはいない。間違っては。

 

 

「そうかそうか、確かにそうであったな!といっても、俺の知っている情報などたかが知れているが―――」

 

 

 そういうと、しばし瞑目し、思い出すように言葉を出す。

 

 

「ナツメは、こう、かわいい系というよりも美人な感じだな。顔は少しキツめだが、そういうのが好きな男もおるだろう。スタイルはとても良いな。なんというか、むちむちぼいんぼいんでは無いがスレンダータイプで―――」

 

 

「いや、そういうことじゃないです。」

 

 

 何を言っているのかこの脳みそ筋肉は。いや、ちょっと興味はあるが。そうか、スレンダータイプなのか。

 

 

「ってそうじゃなくて!ポケモンのことです!」

 

 

「ぬ?そうかポケモンのことか!がはは!」

 

 

 先ほどポケモントレーナーとしてと言った記憶があるが、そうか僕も酔っぱらっているのか。記憶が曖昧だ。

 そういうことにして、話の途中でも一升瓶を手放さない空手王がまともな思考を保ってくれるか心配しつつ、続きを促す。

 

 

 

「ナツメはどんなポケモンを使うんですか?」

 

 

「うむ、ナツメの使うポケモンはエスパータイプというやつだ。」

 

 

「エスパータイプ・・・」

 

 

 言葉の上では知っている。超能力というやつだ。しかしそれがどのような技なのかは検討もつかない。

 実際に闘ったことがあれば想像することくらいはできそうだが、なんだろう、スプーンを曲げたりするのだろうか。

 

 

「どんな技なんでしょう・・・?

 

 

「そうさなあ―――手を触れずに持ち上げて投げ飛ばしたり、光線のようなものを出したり、急に消えたり、だな。パワーでは負けない自負があったが、さすがにお手上げだった。なにせ触ることすらできないんだからな。」

 

 

「手を触れずに飛ばす・・・?光線・・・?消える・・・?」

 

 

 うん・・・まったくわからない!

 というか、触れない相手にどうやって勝てばいいのだろうか。

 物理技が効かないのであれば、電撃は届くのだろうか?

 いや、消えると言っても実体はあるわけだから、物理攻撃を当てられれば勝てる?

 いやいやそもそも当たらないから勝てないのであって――――

 

 

「どうやって闘うんですかそれ。」

 

 

 素直な感想が口から滑り落ちる。

 いけない、サトシもやはり酔っぱらっているようだ。思考を放棄する時間がいつもより早い。

 

 

「さあなあ、それがわかれば俺もリベンジを考えるんだがな。がっはっは!まったく思いつかんのだ!!!」

 

 

「デスヨネー」

 

 

 

 八方塞がり。

 いや、過去の闘いも同じようなものだったではないか。

 勝ち目の見えない闘いに活路を見出す。今までずっとそうだったではないか。

 

 うん、きっと大丈夫。たぶん。おそらく。・・・・大丈夫だよね?

 

 

 

 どんどん自分の中の自信というふわふわしたものが霧散していくのがわかる。

 普通に考えて、目に見えない力との闘い方など想像できるハズが無い。

 岩、水、電気、草。すべて目に見える。故に対策もある程度打てる。

 だがエスパーなどという超常現象に対策など打てるはずもない。というか弱点などあるのだろうか?

 

 一人でうんうんと唸っていると空手王が「便秘かサトシさん?がはは!」などと酒臭い口を近づけて冗談を言ってくる。

 いや、冗談かどうかは疑わしい。本気で言っているのかもしれない。

 

 若干十四歳ながら、眉間にしわを寄せるのに慣れてきたなあと考えた時、空手王が何かを思い出したようにこちらを見た。

 

 

 

「そういえば、ヤマブキシティのどこかにエスパーに詳しい御仁がいると聞いたことがあるぞ。」

 

「エスパーに詳しい人?どんな?」

 

 藁をも掴む気持ちで耳を傾ける。この際だ。些細な情報であっても頂いて行くべきだろう。

 

 

「ええと、何と言ったかな―――うーむ、ええと」

 

 

 ドキドキしながら空手王の言葉を待つ。頼む、思い出してくれ。酒に負けるな。

 

 

 

「ああーーっと―――そうだ!思い出した!」

 

「なんて人ですか!」

 

 

 思わず身を乗り出す。乗り出したところで空手王からしたら見下ろすことに変わりは無い程度の乗り出ししかできないが。

 

 

 

 

 

「『エスパーおやじ』と呼ばれていたな!!」

 

 

 

 

「エスパーおやじ・・・・?」

 

 

 

 

 

 それは名前なのか?と一筋の不安がサトシの頭を過ったが、これ以上の情報は訊き出せそうになかった。

 なぜなら「ういー飲みすぎたわーちょいと運動するかな!」とか言って弟子を二人程片手で持ち上げ、試合稽古を始めてしまったからだ。

 もちろん全員酔っぱらっているので千鳥足ではあるが。これは空手ではなく酔拳というやつなのか。

 

 弟子を放り投げた空手王がそれに引きずられて一緒に床に転がっているところを見て、酔拳でも無いなと思い、今聞いたことを頭にしっかりと刻み込んだ。

 

 

 エスパーおやじ―――・・・一体何者なんだろう・・・

 

 

 酔いながら試合している空手馬鹿と、無限に食べ続ける黄色いでっかいのと、散らかった酒瓶に囲まれながらそう思うサトシであった。

 

 




現在のサトシについてまとめました。自分も忘れかけてたので。

サトシ
14歳
〇所持金
 8万円くらい
〇持ち物
・食べ物
・飲み物
・きずぐすり
・マスターボール
・モンスターボール
など

〇ポケモン
・ピカチュウ(つよい。メイン火力。)
・クラブ(トキワシティでおっちゃんからもらった。秘伝マシン要因。)
・コイキング(硬い。レベルは高いが進化しない。)
・サンドパン(ノーマルサンドパン。かわいい。)
・メタモン(多分普通のメタモン。ドーピングポケへの変身は短時間。)
・ゲンガー(フジろうじんと交換したゴースト。なお言う事は聴かない模様。)

〇バッジ
・グレーバッジ
・ブルーバッジ
・オレンジバッジ
・レインボーバッジ
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