ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百四十七話 異次元の恐怖

「ここがエスパー親父の家・・・普通だ。」

 

「ピカピカ」

 

 雨は二時間ほどで止み、サトシとピカチュウは晴れ間が除く空の下、水たまりを回避しつつ昼前にエスパー親父の家へと向かった。

 雨が上がったとはいえまだ昼前。わざわざ足元を濡らしてまで積極的に外に出るのは遊び足りない子供くらいなので、普段よりは人通りの少ない幅広の道を、集めた情報を整理しつつ歩き、そう長くない時間でエスパー親父の家に到着した。

 

 当面の目的地であった場所に到着したのはいいものの、サトシはこの家に入るのを若干躊躇していた。その理由はもちろん、エスパー親父についての情報そのものである。

 

 

「なんか、あんまり、というか、ほとんどが良い噂じゃないのが心配・・・」

「ピピカチャー」

 

 

 ポケモンセンター内でエスパー親父の情報を集めるのは難しいことではなかった。

 というのは、ヤマブキシティ内において彼はそこそこの有名人であったからだ。

 それが良い意味での有名人であったらサトシはどれほど気が楽だっただろうか。

 家の前で眉間にしわを寄せて立ち尽くしている現状から察してほしい。

 

 ヤマブキシティに来てから何度目の溜息か。きっとまだまだ出てくるだろうネガティブな呼吸をしつつ、サトシはエスパー親父についての情報を頭の中で反芻する。

 

 

『エスパー親父?なんであんなやつのとこへ?頭おかしいから街の人は誰も近づかないよ。』

『ああ、あのおっさんね。たまに大声で叫びながら深夜に散歩してるよ。』

『なんでエスパー親父って呼ばれてるか?頭がおかしいからだと思うけど。』

『何か能力があるのかって?さあー・・・』

『ポケモンのエスパーとの関わり?無いんじゃない?』

『ある意味ヤマブキの名物ではあるけど、少なくともオススメできる名物ではないよ。』

『場所?シルフカンパニーのそばだよ。すぐわかると思う。』

『エスパー親父ね。うさんくさいマジックを使うとかなんとか。超能力?ははは、ナツメでもあるまいし。』

 

 

 

 

 

「聞けば聞くほど、ポケモンとの関係性が無さそうだった。」

 

 正直な感想はこれだ。

 そしてさらに言うのであれば、会話できるかどうか非常に不安だということ。

 住人から得た情報のところどころに『頭がおかしい』という単語が含まれている。

 サトシ自身、上から下までいろいろな人間と対峙し、時には人間ですらないモンと接してきたので今更どんな相手が来ようと驚かないつもりだ。

 あくまでつもりなので、ここにきてさらに想定外の相手の場合は驚く自信はあるが。

 ともあれ、これまで相手にしてきた人間は少なくとも会話はできた。

 しかし、もし住人の言うことがそのままの意味だった場合はサトシがここにくる必要性は皆無だ。

 

 

「とはいえ、それが真実である証拠も無い、か。」

 

 

 裏を読む。

 自分の目で見るものだけを信じる。

 さらに言えば、見えないものを見る力。なんとなしにエリカが言っていた言葉が頭に浮かぶ。

 その言葉の意味はエリカにしかわからないが、もしかしたら正解などなく、サトシを悩ませるためだけに残した答えの無い問題なのかもしれない。

 どちらにしても、何をするときにでも頭の中に浮かんでくるエリカの笑顔。

 図らずともいろんな事に注意を向けるようになったのはいいことだ。

 

 ふう、と大きく息を吐いて、心の準備をする。

 ピカチュウは―――ちゃんといる。ここ最近は勝手な行動をしていな・・・いような気がしたけども、実際の所は昨日空手王とやらかしたばかりな上、シルフカンパニーの件もあるので、やはり勝手な行動をしているなと再認識。

 

 そっちの方も心の準備をし、エスパー親父の家のドアをノックしようと手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

「あのーすみま『ガチャバーン!!』せん?」

「ははははは!君が来ることはわかってた!わかってたぞうっ!わたしはエスパー親父!ははははは!サトシ君だね!わかってる!今日は天気がよいね!はーははははは!」

 

 

 ドアをノックしようと手を伸ばした瞬間、ドアが勢いよく開き、おじさんが大声で畳みかけてきた。

 思わず茫然としてしまったが、この人がエスパー親父らしい。

 随分と背が高い。百八十センチメートルはあるだろうか。頭は丸刈りにしているが顔は無精ひげに覆われている。

 服は・・・お世辞にも清潔とは言えないしわくちゃのジーンズと長袖の黒いシャツ。そして裸足。

 顔つきは、外国人のように目鼻立ちがクッキリしている。

 きちんとした格好をすればそこそこモテそうな見た目ではあるが―――

 

 

「ははははは!!いやあきたか!きちゃったな!!ははははは!!サトシ!逆からだとシトサ!うわははははは!!!この黄色い置物はなんだい?知ってるけどね!ぴかぴだろ?冗談だよ!!ピカチュウなんだろうこれ!はははは!なんで知ってるかって?エスパー親父だからね!エスパーだから!やっぱり!そうだよな!そうそう!ははははははは!」

 

 

 サトシは、もしかしたら初めて会話できない相手かもしれないと本気で思った。

 しかし、聞き捨てならない単語が多く含まれていることにはすぐに気づいた。サトシはエスパー親父と会った事など当然ながら無い。

 その存在すら、昨日知ったばかり。住人の話からすると、この男と頻繁に会って近況を報告する人など居ないことは明らかだし、そもそもヤマブキシティの中で現在サトシの名前とピカチュウの事実を知っている人間はシルフカンパニーの社長しか存在しない。

 シルフカンパニーとこのエスパー親父が綿密に繋がっている―――などということが無い限り、この男が今話している内容は、この男が知っている訳が無い情報だ。

 目の前の男はその大きな体を細かく動かしながら、大きな声で笑ってピカチュウとサトシに交互に話しかけている。

 そして、その全てが自己完結している。

 

 先ほどからサトシは無言。

 喋らないわけではない。喋れない。

 サカキとも違う、マチスとも違う、完全に直接的な恐怖とは異なる別種の恐怖。

 見透かされている。

 サカキもサトシの考えを見透かすことはあったが、それは経験と技術からの推測にすぎない。

 だが、この男は違う。見ているのだ。聴いているのだ。サトシ自身の内側を。

 現状命の危機は感じられない。危機的状況というわけではない。生命に関するやりとりは起こりえないだろう。

 しかしサトシの身体からは汗が吹き出し、手は震え、目は瞬きを忘れている。

 

 怖い。

 サトシは心底、そう思った。

 

 

 

「ははははは!ピカチュウ!君は愉快!愉快だな!私を空まで連れて行ってくれるかい?知っているよ!空はとっても近いからね!ははははは!」

 ピカチュウに胴をつかまれ、上げたり降ろされたりしているエスパー親父を見て、唯々茫然とするしかないサトシだった。

 

 




エスパー親父登場。
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