ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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過去の話


第百四十九話 超能力者と研究者

 ナツメのことを話そう。

 と言っても、私が知っているのは私があの子の父親だった時までの話。

 今のことはまるでわからないし、知ることもできない。

 そういう決まりなのだ。そうするしか無かったのだ。私を責めないでくれ――

 

 私は若い頃、そこそこ名の通ったエスパー――超能力者だった。

 といってもヤマブキの中でだが―――もう覚えているものはいないだろうが――とにかく、『本物の』超能力者として随分ともてはやされたものだ。今となっては見る影も無いがね。

 当時は順風満帆だった。きっと私は選ばれた人間なのだと、本気で思っていた。だが、だからこそ、気づくのが遅れたのだ。私に近づく者の正体に。心を読める私が、どうして見誤ってしまったのか。それは至極簡単な話だ。彼らは本心で言っていたし、提案自体も魅力的だったからだ。少なくともその時はそうだったのだ。なんの問題もないハズだった。

 

 ある日、テレビ番組での収録が終わった後、私に近づいてきた者がいた。

 見た目は――普通の若者。彼は私を呼びにきただけの伝令係だった。内容は『君の優れた才能を継承したい。興味があれば来てほしい。』

 

 心を読んでも、それ以上はこの若者は何も知らないようだった。

 継承―――考えたことも無かったが、もし私の能力を受け継がせることができるのであれば、世の中はもっと互いのことがわかるようになるのではないか、と思ったのだ。

 私は愚かだった。その時にもっと深く考えていればと今でも後悔している。

 

 

 案内された場所はマンションの一室。何もない暗い部屋に立っていたのは研究者然とした白衣の男だった。

 

 この男は良くも悪くも研究者で、ごくごく単純な思考しか無かった。いや、無かったように見えた。

 なにしろこの男にあるのは興味のみ。能力の継承、などという突拍子も無い、前例のないことが果たして可能なのかどうかという可能性の追求しか頭になかった。当然プランは訊いた。一体どのようにして継承するつもりなのか。研究するとして、本当に可能かどうか検討は立っているのか。他にもいろいろ、だ。

 その男はすべて答えてくれた。丁寧に、説得力のある説明をしてくれた。惜しむらくは、私にはそれをすべて理解できるだけの知識が無かったことか。そして、すべて理解できない段階で断るべきだったのだ。だが当時の私にはそれすら考える知恵が無かったのだ。なんという、なんということだ。私は多くの犠牲を出す選択をしてしまったのだ。知らぬ存ぜぬを通せるレベルの話ではない。弁解の余地無く、当事者だ。この私は、その時点で足を踏み入れてしまったのだ。戻れない底無し沼に。

 

 

 その男、名前は―――サトシは知らない方がいいな。余計な危険を呼ぶ必要は無い。仮にムロと呼ぶことにする。

 ムロが提案してきた内容はこうだ。

 まず、私が街を歩き、誰彼構わず心に念を送る。そして、それに反応する人間を探す――

 何、まずは遺伝的な部分から検証しようということさ。

 潜在的に超能力を持っている人間を探し出し、交配し、子を成す。

 その時は私には相手はいなかったし、お互いに超能力を持っていれば分かり合える部分も多いのではないかと思い、効果がでるかはわからないが協力することにした。

 結果は―――もうわかるね。私の妻となり、ナツメを生んだのだ。

 別に嫌々結婚したわけじゃない。妻は自分の能力を隠して生きていた。理解のある人間と一緒の方が気楽だったというわけだ。

 

 ここまでは順調―――サトシには不快なようだが、まぎれもない事実だ。私も今となっては不快どころか忌避すら感じるようだよ。まったく、本当に度し難い。よくもまあ当時は平静を保てていた。本当に―――度し難い。

 

 

 話を続けよう。

 結論から言うとナツメは非常に強いエスパー能力を持っていた。

 私も、妻をも上回る程に。

 そしてそれは、エスパー能力が遺伝することを証明できた最初の実験ということになる。

 非常に大きな発見だったよ。私も嬉しかった。

 それに、単純に娘ができたということも嬉しかった。どんな理由にしろ、自分の子を成すということはこんなにも幸福なものなのかと思ったほどにね。

 

 そしてもちろん、実験はこれで終わらなかった。

 ムロは、次は人工的に、後天的にエスパー能力を他人に付与できるかどうかの実験を始めた。

 目的は、皆がエスパーを所有するようになれば、お互いに理解しあえる、平等な世界になるからということだった。

 考えていることが視える私からしても、それは真実のようだったよ。

 私に嘘をつくことなんてできないからね。

 しかし、私はムロという人間を侮っていたのだ。きっと私も、エスパーを持った人間が、人間を超越した何かだと勘違いしていたのだろう。

 だからこそ、ムロという普通の人間を侮ってしまったのだ。私がいなければ研究など進むわけがない、と下に見てしまっていたのだ。

 

 そこから数年、私はムロの言うことに従いつつ、妻と一緒にナツメを育てた。それは楽しく、幸せな時間だったよ。

 もはや取り戻すことはできない、幸福な時間。夢の中だったのだ、と言われても、今なら信じてしまうほどにその幸せの欠片すら今は残っていない。

 全て私の掌から零れ落ちてしまった。

 その数年の間は特に変わったことは起きていない。

 ムロは数週間に一度私を呼び、指示されたエスパー能力を使うという簡単なことばかりだった。それがどのような結果を生み出しているのかは、私は知る由も無かった。

 なにせ、ムロが考えていることは幸福な世の中になることのみだったのだからね。

 

 

 時は過ぎ、ナツメが成長し徐々に言葉も話せるようになった頃、私はいつものようにムロに呼び出された。

 いつもと違ったのは、今回は妻も連れてくるようにと言われたことだ。

 別に疑うこともなく妻を連れていき―――もちろん預ける先も無いのでナツメも一緒に連れていった。

 ムロが言うには、ついに実験の目途が立ったのだという。

 それで、まずは妻のエスパーの継承を試してみるとのことだった。

 私ではダメなのか?と訊いたら、私の能力では強すぎて相手の体がもたないらしい。

 一週間程度実験にはかかるらしいので、その間ナツメと私は家で妻の帰りを待っていた。

 

 多少の不安はあったが、私はムロを信じていた。

 特に問題など起きるはずもなく、妻は帰ってきて、実験は成功するものだと確信すらしていた。

 

 そう、確信してしまっていたのだ。

 

 

 妻は一週間経っても帰ってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「少し、休憩しようか。サトシ。こんなに長く喋るのは久しぶりでね。すまないが休憩させてくれ。わかってはいるんだ。聞き取りづらいところもあるだろうが、わたしはわたしでいることがとても難しい。」

 

「・・・わかりました。大丈夫です。」

 

「ありがとうサトシ。少し休むとしよう。少しだけ休もう。」

 

 エスパー親父はそう言うと、身体を前後に揺らしながらうつむき、黙ってしまった。

 

 

 サトシも、それ以降一言も話すことなく、イスの上でじっと考えていた。

 この男の身に起きたこと。

 一体何が起きたらこれほどまでに憔悴しきり、精神を病んでしまうというのか。

 聴かなければならない。

 それが、サトシ自身の救いにもなるし、この男の救いにもなるハズだから。

 

 

 

 

 




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