ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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カビゴンはつよい。


第百六十二話 眠るポケモン

「え?通れないんですか?」

 

「そうなんだよ。こまっちゃうよねーえ。」

 

 

 

 サトシはフレンドリーショップで買い物しつつ、店員にクチバシティの東側の情報を訊いていたのだが、なんと十一番道路の先は通れないらしい。

 なんでも、ずっと眠っている馬鹿でかいポケモンが陣取っている所為で、ここ数週間封鎖されているという。

 

 何度も起こそうとしているのだが、押しても引いても叩いても起きる気配は無く、モンスターボールを投げつけてみてもまるで捕まる様子も無い。

 釣り好きは皆十二番道路へ行くのだが、道が塞がれているので泣いているそうだ。

 

 現状十二番道路へはシオンタウンを経由して行かなければならないため、コイキングが嫁の敵でも無い限りわざわざ行く事もしないのだろう。

 サトシも気乗りはしないが、通れないのであれば仕方が無い。

 

 

 

「うーん、それじゃあシオンタウンから行くしかないのかな。」

 

「ピッピカ」

 

「ああでも、いい加減邪魔だからポケモンリーグから指示が出ただかいってたねーえ。今頃どかしてるんじゃないかーな?」

 

「そうなんですか!じゃあ通れるようになってるかも!行ってみますね!」

 

「そうするといいーよー。」

 

 

 

 ショップ店員にお礼をいいつつ、サトシは十一番道路に向かう。

 

 クチバシティに来るのは二度目だったハズだが、なんだかものすごい濃厚な時間を過ごしていた気がする。

 もちろん悪い方で。

 いや、一部良い思い出も無くも無いのだが、それはまあ、あまり思い出すと赤面してしまう。

 

 ———今頃カスミはどうしているのだろうか。

 きっとあのカスミのことだから、使えそうな男とか手駒にして悠々自適に生きているような気がする・・・

 でもちょっと他の男と一緒にいるのは許せないというか気が気じゃないというか、いやでもカスミだからそういう気にはなったりならなかったりするのだろうか?いやいや

 

 

 

「ピカピカ」

 

「そうそう、ぴかぴか・・・じゃなくて」

 

 

 

 現実に戻ってきたサトシ。案の定赤面して顔が熱くなっていた。所詮はまだ十代の少年である。

 

 

 

「・・・なんでもない!いくよピカチュウ!」

 

「ピッピカ〜」

 

 

 

 一路、十二番道路に足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 十二番道路は草むらが多く、整えられた道も入り組んで迷路のようだった。

 普段はトレーナーが多く、バトルスポットとして皆利用していたようだが、今日に限ってはほとんど人がいない。

 最初は随分とトレーナーが少ないなあ、などと思っただけだったが、その理由はすぐにわかった。

 

 

 

「随分な人だかり・・・なんとかしようとしてるってのは当たってたんだな。」

 

「ピピカチャ」

 

 

 

 十二番道路の東側。

 本来は単なる関所があるだけの場所のハズだが、十数人は集まっており、祭りでも始まるのかというくらいに野次馬根性を発揮させている。

 サトシのような子供にとって大人の垣根をかき分けるのは難しいが、その大人よりでっかいのがいるため、先に進むのにはあまり困らなかった。

 むしろ率先して大人の海が裂けていく。

 さすが黄色いでっかいの。でかいというのはそれだけで強い。威圧感も半端じゃない。

 マイナス点を言うとすれば、そいつがサトシの相方だということなのだが。

 

 間もなくサトシはギャラリーの一番前で、噂のポケモンを目の前にする。

 

 

 

「うわあ、おっきい。」

 

 

 

 山のように大きい、というたとえをする場所は今を逃すと次にいつ言えるかわからないだろう。

 サトシが少年だからというわけではなく、大の大人からしても十分に『山のように大きい』

 

 丸い熊のような見た目をした巨大な生き物がぐーすかぐーすかいびきを立てて狭い道を文字通り塞いでいた。

 その山の麓———すぐそばで一人の青年が特徴のある口調でつばを飛ばしながらいろいろと周囲の人間に指示を出しているのが見えた。

 その口調はどこかで聞いた事があるような気がする、というか忘れようにも忘れられない、夢に出てきてもおかしくないくらいのインパクトをサトシに与えていった人間で———

 

 

 

「そこちゃうで!ああもう何度言ったらわかんねんこのグズ!もちっとわいを見習って効率よくやりいやアホンダラ!!」

 

「———マサキさん?」

 

「ああん?なんやわいは今忙しいんや!気軽に声かけんでもろてええか!?ってか誰やねん忙しいん見たらわかるやろこれやから野次馬っちゅーのは嫌いなんや見せ物ちゃうで金払えや!・・・ってなんや、サトシくんやんか。久しぶりやな元気しとった?死んでのうてなによりやな。業界長いと二度目に見たときは墓の名前なんてことはよーあるんやさかい気にせんといてや。サトシくんちっと痩せたんちゃう?ストレスなんか?おこちゃまなのにいっちょまえにストレスなん?ウケるわあサトシくん。バトルで死なんでも過労死なんて笑えるわ〜大爆笑やわ〜。よおそっちのでっかいのは相変わらずでっかいなあ元気そうやん?サトシくんも見習ったらええでもうちっと気軽な感じで行ったほうがええんちゃう?眉間にシワよっとるで?そんなんじゃモテへんやろ。彼女とかできてん?できてへん?ああそういえばサトシくんには心に決めた女の子がおるんやったな!今頃なにしとんやろうなあ、まあわいには関係あらへんけど。しらんけど。サトシくんちゃんと飯食っとる?ドーナツあるんやけどサトシくん食う?ほら遠慮せんとうまいで?ここくる時にクチバシティのおばちゃんにもろてんけど、ほらわい人気者で有名人やから、こういうものもらうんやけど、こうたくさんもろても食いきれんやんか。お、でっかいのは欲しい?欲しいんか?ええな気に入ったわ。年上には気を使ったらあかんねんて。いやあでっかいのは出世するんちゃう?こういうとこもサトシくんは見習ったらええと思うわあ。ほらほらもっと食えやでっかいの。ほんまめっちゃ食うなあおもろいやっちゃな。サトシくんはよくわんと食い尽くされてしまうで?ほれほれほれ。」

 

「・・・・・おひさしぶりですマサキさん。」

 

「せやなあサトシくん。こんなところでなにしとるん?ははあさてはセキチクシティに行こおもてるんやろ。あたりか?あたりやな?さすがわいは天才やな!サトシくんの考えとることなんてお見通しやで。しっかし起きひんポケモンが道塞いどるからなんとかせえゆうて呼ばれたんはええけど、こりゃさすがのわいもお手上げやな〜ほんまに何しても起きひん。まったく起きひん。もう隣でわいも一緒に寝てしまいたいくらいのいいオヤスミっぷりやでこのポケモン。ぶん殴ろうが叩こうがわめこうが大声で叫ぼうが全く反応ナシナシのナシ。モンスターボールも全然無駄。ねむけざましでも無理矢理口につっこんだろおもたけど、試しに気の棒で口をこじあけようおもて差し込んでみたらポッキーみたいにポキポキ食べてしもーた。手なんてつっこんだら丸ごとぺろりされてしまうわい。とはいえわいもメンツちゅーもんがあるさかいなんとか起こそうおもていろいろ試しとるとこやな〜しかしお手上げっちゅーか八方ふさがりっちゅーか四面楚歌っちゅーか、手のうちようがないって感じやな〜ほんままいったで〜」

 

「はあ・・・そうなんですか。」

 

 

 

 

 本当にマシンガンなのだろうかこの人は、というくらいペラペラと言葉が出てくる。

 サトシが一言話すとマサキは百は話すだろう。以前に増して言葉のデパート感が増しているが、聞く限りではマサキがこの眠れるポケモンをどうにかしようと派遣されてきたようだ。

 偶然もあるものだ、と思ってはいたが、マサキは知る人ぞ知るポケモンの専門家。

 当然といえば当然なのかもしれない。

 サトシが知らないだけでいろいろなところにパイプを持っている人間だ。その知識を求められて今ここに呼ばれているのだろう。

 

 しかし、そのマサキを持ってしてもこのポケモンを起こすことはできていないらしい。

 一体このポケモンはなんなのだろうか———?

 

 

 

「っと、困った時のポケモン図鑑。」

 

 

 

 サトシは赤い手帳をポケモンに向ける。聞き慣れた電子音声に耳を澄ませる。

 

 

 

『カビゴン。いねむりポケ「カビゴンやな。いねむりばっかりしとるポケモンや。あんまりおらんポケモンやから見る事はほっとんど無いんやけど、基本はごっつ食ってごっつ寝るポケモンや。一回に数百キロも食ってそのまま眠りこけてしばらく起きないんや。しっかし普通は二メートルくらいなもんなんやけど、三メートルはあるやんこいつ。たぶんごっつ大量のメシにありついたんやろうな。その分食って、その分寝とるってことやろ。はた迷惑なやつやでほんま。」

 

「・・・なるほど。」

 

 

 

 心無しかポケモン図鑑が涙を浮かべているように見える。

 いやその、なんかごめん。ポケモン図鑑。

 

 

 

「さてどないしよかね。ポケモンの笛でもあればええんやけど、わいはもっとらんし・・・」

 

「ポケモンの笛?」

 

「なんやサトシくん知らんの?どんなポケモンでもグッドモーニングする素敵でナイスなアイテムや。音はしょぼいけど効果はバツグンなんやで。しかし聞こえたポケモンはみーんな起きてしまうからイタズラに吹くバカが出てきてん。無理矢理起こすのは良く無い言うて、随分前に販売中止になってしもたんやけど。もう持っとる人間もほとんどおらんやろなあ。便利なんやけど。」

 

「どんなポケモンでも起こす笛・・・どっかで聞いたような・・・あ」

 

 

 

 そういえば、シオンタウンでポケモンハウスのフジさんからもらった笛。それが確かどんなポケモンでも起こすとかなんとか言っていたような。

 サトシはごそごそとリュックの奥底をあさると、ポップな見た目の笛を引っ張りだした。

 

 

 

「あの、マサキさん、もしかしてこれですか?」

 

「ん?お?おお!それや!なんやサトシくん持っとるんならはよ言ってえな!イジワルかサトシくん!やらしいなあ焦らしプレイなんていつ覚えてん?まあええわ!それがあれば一発や!おおいおまえら!もおええわ!どいとって!そこにおったら逆に危ないわ!ほらさっさとどき!」

 

 

 

 今まで黙々とマサキの指示に従って作業していた数人があからさまに嫌な顔をしてこちらに振り向く。

 マサキの強い口調で命令されてたらそりゃあ嫌な顔にもなるだろうなとサトシは思ったが、障らぬ神に祟り無し。何も言わないに限る。何か言ったらきっと百倍どころか千倍になって帰ってくるに違いない。

 作業スタッフ達はしぶしぶという感じをあからさまに出し、離れていく。

 まあそんなことを気にするようなマサキではないのは、サトシも含め全員が認知していることではあるのだが。

 

 

 

「よーしどいたな!そんじゃサトシくん!吹いたって!ピーヒャラピーヒャラや!素敵な音色を奏でるんやで!」

 

「え・・・僕、笛とか吹いたことないんですけど・・・」

 

「そんなんテキトーでええねん!ピーでもパーでもテキトーに吹きいや!」

 

 

 

 そう言われても、こう衆人環視の中で笛を吹くというのはなんとも恥ずかしい。

 だが、吹かねば何も進まない。そもそもみんなしてサトシが笛を吹くのを待っている。

 

(こんな状況で笛を吹くことになるなんて・・・)

 

 そんなことを思いつつ、サトシはポケモンの笛に口をあて、思いっきり息を吹き込んだ。

 

 

 

 

 




コミケに応募しました。2020夏。あたればいいな。
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