ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百六十五話 セキチクシティ

「ここがセキチクシティ・・・ようやく着いた。」

 

「ピピカチュ」

 

 

 クチバシティから十二番道路、十三番道路を歩くこと半日。

 ようやく到着したセキチクシティはもうすぐ日が落ちるといった時分。

 すでに家々の電灯は付き、外で遊ぶ子供の姿もまばらになっていた。

 

 ヤマブキシティに負けず劣らずの広さを誇るというが、ヤマブキシティが高層建築の多い大都会だとすると、セキチクシティは広大な公園、といった様相。

 住宅こそあれど、放し飼いになっているポケモンがいたり、名物のサファリゾーンの案内看板がそこかしこにある。

 全体的に高い建物はほとんど無く、高台に建てられているセキチクシティジムが一番高い場所にあり、街のどこからでも見て取れる。

 噂によるとジムリーダーのキョウは街の人に人気で、普段から治安維持に積極的に活動しているという。

 パッと聞くだけではとてもいい人なのだろうと思えるが、気になるのは―――

 

 

「マサキさんの言っていた、『キョウのクソ野郎』という言葉・・・評判とは真逆だけれど、まあ今までのジムリーダーも同じようなものか・・・・」

 

 

 ハナダジムのカスミも、クチバジムのマチスも、タマムシジムのエリカも、ヤマブキジムのナツメも、評判とは大きく異なる本性を隠していた。

 唯一ニビジムのタケシだけは、裏表がそこまでなかったように思える。

 安全かどうかは別として。

 

 しかし、気になるのはやはりマサキという人間があれほどまでに嫌うという事実。

 忘れたいほどクソ野郎と言っていたのは、果たしてどういう意味なのか。

 カスミも大概ではあったハズだが、あれか。女の子だからか。女の子は性格が良かろうが悪かろうが関係ないのか。

 マサキなら平然と言いそうなのがまたサトシの混乱を招いている。

 

 ともあれ、すでに夜の帳も下りてきている。

 聞き込みだったり探索だったりは明日にするとして、今日はさっさとポケモンセンターで休むとしよう。

 あれだ、ニンジャってのは夜に活動するらしいし。危ないし。

 

 そんなことを考えていると、後ろからクイクイとサトシの襟を引っ張る存在がいる。

 うん、旅も長い。これがどういう意味かなど、サトシは知りすぎるほど知っているのだ。

 

 

「・・・ごはん、何食べようか」

 

「ピピカチャー」

 

 

 そういうことである。

 セキチクシティはクチバシティと同様、海に面した街。当然名物も海産物である。

 おいしい海産物が食べられて、尚且つ広大なアミューズメント施設もある。

 ああセキチク、なんと素晴らしい街なのか。

 是非観光として来たかった。

 残念ながらサトシは観光している余裕など無いし、観光に勤しんだとしても、裏のトレーナー達にハンティングされる対象である。

 きっと楽しんでいる余裕は無いだろう。

 ただの十四歳の少年だったハズが、いつの間にか賞金付き・・・お母さんに怒られるな・・・・もはや来るところまで来てしまった感がある。

 最も、サトシ自身、まったくもって実感が沸かないことではある。

 

 ジムリーダーを倒すことに必死だったし、大事な仲間も失った。

 もう目的のために進むことしかサトシには許されない。

 ようやくその決心がついたというのに、これである。

 本当にサトシの旅には立ちふさがるものが多すぎるように思えてならない。

 

 だが、だからとって旅立ちの日に尻尾を巻いてマサラタウンに戻り、オーキド博士に普通のポケモンを用意してもらった方がよかっただろうか?

 ―――それはもう、今となってはわからない。

 少なくとも、今のサトシは過去を悔やむことは許されないのだから。

 

 

「あ、ごはんの前にフレンドリーショップに寄るよ。みんなのごはんも買わないと。」

 

「ピピカ~」

 

「我慢して」

 

「ピピカ~」

 

「帽子返して」

 

「ピカッチャ」

 

 

 そんなやり取りをしながら、暗くなって電気のついたフレンドリーショップへ足を運ぶ。

 

 

「ん?ああお客さんか。いらっしゃい。」

 

「あ、すみませんもう閉まりますか?」

 

「いやいや、大丈夫だよ。お客さんを追い出すなんてことはしないよ。」

 

「ありがとうございます。じゃあこれとこれと―――」

 

「はい、どうも。ではこちらお釣りですね。」

 

「ギリギリですみません、ありがとうございました。」

 

「いえいえ、また来てね。」

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 ヤマブキジムでまとまったお金が手に入ったので、久しぶりに豪華な夕食をとった。

 セキチクシティはなんと海鮮だけでなく、肉料理も充実しており、とても満足のいく料理を堪能した。

 ピカチュウはサトシの五倍食べたように見えたけれど、何も見ていないことにした。

 

 たっぷりと堪能し、厚さの変わらない財布に安堵しつつサトシとピカチュウはポケモンセンターへと足を運んだ。

 道すがら戦ったノーマルトレーナーとのバトルで傷ついたポケモンを回復し、宿泊施設に行き、サトシはようやく腰を下ろす。

 

 

「はー疲れた!」

 

 

 クチバシティから休まず歩き。さすがの旅慣れした体も疲労は嵩む。今日はゆっくりとベッドで休みたい。

 

 

「っとその前に。―――みんな出ておいで。」

 

 

 サトシはモンスターボールを転がし、手持ちポケモンをすべて出す。

 

「クラーブ」

「ココココッコッコッコココ」

「メター」

「ガーzzzガーzzz」

 

 ゲンガーは寝ているが、まあいつものことだ。

 

 

「ごはんだよー」

 

 

 そう言ってサトシはそれぞれの好きなポケモンフードを取り分ける。

 ゲンガーは寝ている上に食事をとらないようなので、何かそのうちほしいものを聞きださなければならない。

 

 

「クラブと、コイキングとメタモン。あと―――」

 

 

「トランセルとスピアーとサンドパンもね。」

 

 

 

 六種類のポケモンフード。小皿にとりわけ、下に置く。

 おいしそうに食べるポケモン達。

 だが、三つの小皿は誰も手を付けない。

 もちろん、サトシだけでなくポケモン達もわかっているのだ。

 これは自分達の分ではないと。

 

 サトシは静かに手を合わせて、目を閉じる。

 自分と向き合う。過去の自分を受け入れる。

 仲間と前に進むために、仲間全員と共にいる。

 涙は出る。悲しさもある。悔やみもする。

 だけど、受け入れて進む。進む。進むんだ。進むしかないんだ。

 そう自分の心に言い聞かせて。

 

 ジムリーダー攻略も半分を切った。

 あと三人。

 あと、三人だ。

 

 そう心に刻み、ごはんを食べ終わったポケモン達をボールへ戻し、サトシはようやくベッドへと潜り込んだ。

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 次の日。サトシは朝のセキチクシティに繰り出し、情報収集をする、つもりだった。だったのだが。

 

 

「おお──ー!ポニータ!かっこかわいい!」

「ドードー!本当に頭が二つついてる!すごい!速い!」

「おお!これがサイホーン・・・これがサイドンに・・・サイドン・・・」

「卵・・・?あ、タマタマっていうポケモンなんだ。へー、一個割れてる?―――そういうものなのか。」

 

 

 たっぷりとセキチクシティを堪能しているようだった。

 ピカチュウのため息もなんのその。

 珍しいポケモンがいろんなところに放し飼いされており、ポケモン大好きっ子のサトシも大興奮だった。

 

 

「いやーすごい。今まで必死すぎて忘れてたけど、やっぱりポケモン好きだな~いいな~」

 

「ピカチャ~」

 

 

 珍しくサトシ側が暴走しつつあるので、ピカチュウもなんだか調子が狂っているのか、随分と保護者っぷりが板についている。

 セキチクシティ名物タマタマアイスを口に放り込みながらベンチに座って休憩していると、いかにも観光案内っぽい女性が近寄ってきて、サトシに話しかけてきた。

 

 

「あら君、セキチクシティは初めて?随分ポケモン好きなのね!」

 

「ん?あ、はい。珍しいポケモンばっかりでとても楽しいですよ。」

 

「それはよかったわ~!私、セキチクシティ観光協会のミキ、よろしくね。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 こんな普通のやり取りをしつつ、サトシは最大限の警戒を怠らない。

 なんだか嫌な性格になってしまったな、と我ながら思うが、致し方ないことなのだ。

 些細なきっかけが命のやり取りにつながるということを何度も経験しているサトシにとって、闇は日常にうまく隠れ潜んでいると知っている。

 とはいえ、こんな軽率に話しかけてくるとも思えないが、念には念をいれて、名前は教えない。

 

 

「あなたは何しにセキチクにきたの?」

 

「・・・一度来てみたくて。珍しいポケモンが多いのにとても治安がいいと聞きました。」

 

 

 嘘は言っていない。うん。

 

 

「そう!そうなのよ!なんたってジムリーダー直々に見回りしてくれているのよー!本当にキョウさんには頭が上がらないわ!」

 

「・・・そ、そうなんですね!へえ~すごいなあ。キョウさんってどんな人なんですか?」

 

「うんとねうんとね、ちょっと渋みのあるオジサマだけど、笑顔が素敵でね!街のみんなから愛されてて、頼りにされててね!なんでも、ニンジャっていうのの末裔らしいわ!ニンジャってよくわからないけど、とっても強い人らしいのよ!しかもジムリーダーでしょ!毒ポケモンを使うって言われて、最初はちょっと怖かったんだけど、でもバトルの時も礼儀を忘れないの。毒は傷つけるだけではなく、薬としても使えるのだよ、なんて言うの!もうかっこよくて!それでねそれでね―――」

 

 

 たっぷりと三十分ほどキョウについて語ってくださった。

 これがガチ勢というものか、とサトシはわざとらしい笑顔で相槌を打ちながら、少しでも役に立つ情報は無いかと耳をとがらせていた。

 しかし、バトルに関する情報は特になく、「とても良い人柄の素敵なオジサマ」ということだけは十分以上に伝わった。

 

 

「あら、もうこんな時間ね。君、セキチクシティを楽しんでいってね!ばーい!」

 

「ば、ばーい。」

 

「ピピーカ」

 

 

 嵐のようなキョウオタクトークが繰り広げられた後に残されたのは、手の上ですっかり溶けてしまったタマタマアイスの残骸。

 そして、わかったことは。

 

 

「キョウって人は随分と街の人に愛されている。」

 

 

 しかも思った以上に。

 

 

「ジムリーダーとしての表の顔としては素晴らしい、けど。」

 

 

 裏の顔は。サトシの経験上、きっと何かを抱えているハズだと考える。しかし、まだ一人目の情報。

 

 

「もうちょっと聞き込みしてみようかな。」

 

 

 そう言ってすっかり溶け切ったタマタマアイスを喉に流し込みながら立ち上がると―――

 

 

 

 

 

 

「ほう、随分と勉強熱心なことじゃのう。ファファファ。」

 

 

 

 

 

 

 サトシの後ろに不思議な衣装に身を包んだ素敵なオジサマが、音もなく立っていた。

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