ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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タケシ、やっぱり根は紳士的。



第十八話 作戦

 サトシは、裏のバトルはルール無用で手あたり次第で傍若無人で暴力吹き荒れる大惨事になると勝手に思っていた。

 

 しかしそこにはしっかりとルールがあり、野性味あふれる大殺戮バトルが繰り広げられるわけではないようだった。

 良くも悪くもルール統制したレッドのおかげではある。

 多少手軽にドーピングできるようになってしまった事実もあるので、サトシの中のレッド評価は五分五分といったところか。

 

 

「サトシくんは正式な裏のバトルは初めてだね?多少私情を交えているとはいえ、僕と君がするのは正式で公式なポケモンバトルだ。もちろんルールがあるし、戦闘によって直接トレーナーに被害がいくことも基本的には無い。」

 

 

 基本的に、とついたのがサトシは気になったが、おそらくそこを追及しても無駄だろう。

 そもそもサトシに拒否権などないのだから。指定のルールに従うよりほかはない。

 無言で次に進むよう促す。

 

 

「バトルは三対三―――ではあるが、別に三体未満でも構わない。僕の出すポケモンが三体だというだけだ。出すポケモンがすべて戦闘不能になったら終了。死亡してしまっても同じだ。サトシ君がもし勝てば、ニビシティジムを制覇した証、グレーバッジをあげよう。」

 

 

 簡潔ではあるがルールを教えてくれるタケシ。さすがにいきなりバトルってことはないと思ってはいたが、あまりの丁寧さに拍子抜けしてしまった。

 てっきり感情にまかせ襲い掛かってくるものと思っていたが。

 

 

「僕が感情にまかせてポケモンをけしかけるとでも思っていたかい。」

 

 

「―――!」

 図星をつかれて、少し動揺する。

 

 

「不思議なことではないよ。僕はジムリーダーだ。この町を預かる人間が、私情だけで行動しないさ。踏むべき手順はきちんと踏む。対戦の場所としてここを指定したのは、公式な対戦としてきちんと残すためにある。まあもっとも――――」

 

 

 一旦息を吸い直すタケシ。

 それはひどく満足げで、恍惚を感じているような、自分に浸っているようで、狂気を少しばかり帯びていた。

 

 

「公式にサトシくんのピカチュウをぶちのめさないと、僕の気が収まらないからだよぅ。」

 

 

 と、満面の笑みで話した。

 

 

「・・・・」

 

 

 無音。

 広い室内に音を発するものがないと耳鳴りがする。

 この空間もキンッという音が響いているような気がして、その感覚に慣れないサトシが我慢できずに言葉を発する。

 

 

「一つ、提案というか、その、バトルの方法みたいなところで相談が・・・」

 

 

 おずおずとサトシが口にする。優柔不断に見える口ぶりは、不安と恐怖によるものだ。

 だが、この提案を受け入れてもらわなければサトシの勝率は格段に下がるはずだと思考した結果の行動。

 サトシは意地でも交渉を成立させなければならない。

 

 

「なんだい?」

 

 

 特に訝しがる様子もなくタケシが応じる。

 実際のところ、裏のバトルにおいて賭け事と交渉は頻繁に起こり得る。

 アイテムのやりとり、ポケモンのやりとり。最終的にはお金と命を天秤に賭ける者までいる。

 リーグ公認の公式戦でこそ行われないが、逆にいうとそれ以外ではほとんど賭け事が行われていた。

 サトシがその事実を知ることはないため、平然と応じたタケシに違和感を覚えないではなかったが、それを追及しても意味がない。

 若干心につっかえるものがあったが、そのまま先を進める。

 

 

「・・・バトル形式を一対一の勝ち抜きではなく、バトルロイヤルにしてほしい。」

 

「バトルロイヤルというと、すべてのポケモンを同時にフィールドに出し、最後まで立ってたポケモンが勝利という、バトルロイヤルかな?」

 

 

 確認のため、サトシの発した言葉が正気かどうか再度タケシが復唱する。

 

 

「はい・・・そのバトルロイヤルです。」

 

「なるほどなるほど、そこにどんな意図があるか知らないし、バトル形式の提案を受けることに反対はない。だが―――」

 

 

 言葉を少し溜める。冷静にことを運ぼうと徹してきたタケシであるが、若干のイラつきを覚える。

 つまり―――

 

 

「あえて言おう。正気かい?サトシ君。裏のバトルにおいて一対一でも一瞬の判断が勝敗を決する。それがチーム戦になるということは当然連携力が必須になってくる。申し訳ないがサトシ君にそれができるとは到底思えない。いくら僕が君をぶちのめしたいと思っていても、自爆行為を黙って見過ごすことはできないな。」

 

 

 サトシを弱者と侮っての発言。

 それも当然だ。相手はポケモンリーグの誇るトップトレーナーの一人。岩タイプのマスタートレーナー。

 その男の目の前にいるのは十四歳の少年。

 タケシは私情ではバトルをしないと言っているが、その根本は完全に私怨だ。

 そしてその怨恨の向かう先はあの筋肉質なピカチュウにであって、サトシにではない。

 当然ポケモンの責任はそのトレーナーということもあり、ある程度痛い目に合わせてやる必要があるとは思っている。

 

 その程度の考えだ。その思考のパターンの中に、『自分が負ける』なんていうストーリーが思い描けているはずはない。

 加えて、サトシの持つポケモンはおそらくピカチュウ一体のみ。

 弱点属性且つ一対三の状況。

 なおさらタケシは自分が少年に闇の世界の教訓を教え込ませるという立ち位置にあると考えている。

 

 ―――あのふざけたピカチュウを許すことはできないが。

 

 

 

 果たしてサトシは、そんなタケシの思考に反して勝つつもりでいた。

 タケシの言いたいことは痛いほどにわかる。無知無謀、経験不足、力量不足。

 一体どの要素を加味すれば裏のジムリーダーに勝つなどという妄言を吐くことができようか。

 しかしサトシは細すぎる勝筋を確かに見ていた。その方法はたった一つ。ゆえに、その一度で勝負を決めなければならない。

 警戒されては成功しない、ギリッギリの作戦なのだ。

 

 

「自爆じゃない。あなたのポケモンをすべて破る。」

 

 

 震えながらサトシが答える。

 しかしタケシは冷静に反論を述べる。

 

「バカを言うな。ピカチュウ一匹で何ができる?力任せに頑強な岩を殴るか?効かない電撃を延々と繰り返すか?君が僕に勝つことはない。これは決定事項だよ。」

 

「やってみないとわかりません・・・・それに、一つ勘違いしているようですが―――――」

 

 タケシが訝し気にサトシの顔を見る。

 サトシは少しだけ口角をあげ、はっきりと伝える。

 

 

「僕の使うポケモンは三体です。」

 

 

 自分の仲間は他にもいる。ピカチュウだけではない、と。

 

 

「面白い、君の作戦に乗ってあげよう。その上で完膚なきまでにぶちのめすとしよう。」

 

 

 

 

 ニビシティジムリーダー戦が幕を開ける。

 

 

 

 

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