ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百八十五話 失敗作

人の言葉を話すポケモンは、存在しない。

それは明確で、犬猫にしゃべれというようなもの。生き物としての構造が違う。

ポケモン同士においても、言語で伝えているというより、なにか別の伝え方をしていると考えられている。

超音波だとか、テレパシーだとか、そもそも伝わってないだとか。

ともかく、人の言葉を話すポケモンどころか、統一した言語体系すらないハズだ。

 

 

「コバワ?」

 

「・・・鳴き声、ではないよね」

 

「ピッピカチュ」

 

 

目の前のポケモンはおそらく人語と思われるものを発している。

どんな異形のポケモンが出てきてもいいぞ、という覚悟と共に出したポケモンは、思った以上に普通のアーボックでちょっと拍子抜けしたくらいであったが、まったく想定していない部分がサトシの想像を大きく上回った。

 

サトシがじっと、言葉を発していると思われる胴体の顔の模様を眺めると、模様の目と思われる部分がぎょろりと一回転し、サトシを睨みつけ、口角を上げてニタリとする。

う、とちょっとたじろぐサトシだったが、ピカチュウが隣にいることもあって、なんとか見つめ返す。

胴体の顔はこちらを見ているが、その上の蛇の頭はきょろきょろと周囲を見回し、チロチロと先の割れた舌を伸ばしている。

 

 

「言葉・・・を話してる?」

 

「ダレ?」

 

「あ、サトシです」

 

「ピカチュ」

 

「サトシ、ピカチ」

 

「ヨロシクネ」

 

「あ、ご丁寧にどうも・・・じゃなくて!」

 

 

間違いなく言葉を話している。

それも蛇の頭ではなく、胴体の顔の模様が。

マサキから、ドーピングポケモンであることは言われていたが、一体何が目的で人の言葉を話すポケモンなどというものを作ったのか。

そもそも、ドーピングする目的は、ポケモンの限界を超えた強化。今までどのトレーナーも、その範疇から出るものはなかった。ポケモンの特性を強く伸ばす。なにせ、裏バトルは命がけ。より強い体と、強力な技で相手を打倒し、時にはその命すら奪い合う戦い。

力以外の無駄な要素を伸ばすことなど無意味。

 

であるならば、このポケモンは?

パッと見は、ちょっと大きいアーボック。

そして、胴体の、しゃべる顔の模様。

ステータスは―――

 

 

「ポケモン図鑑。久しぶりに見る気がする」

 

リュックから図鑑を出し、アーボックに向ける。久方ぶりに聞く電子の声に、なんだか日常に戻されたかのようなちょっとした安心感すら覚える。

 

「アーボック。コブラポケモン。高さ3.5m、重さ65kg。おなかのもようがこわいかおにみえる。ステータスは―――」

 

「・・・なるほど、確かに、ステータスはかなり強いし、技も、さすがドーピングポケモンという感じ」

 

なのだが、目立った特徴があるわけではない。

そのまま、アーボック強化版というべきか。

それでも今のサトシにとっては大いに助かるのは間違い無いのだが、いかんせん、喋る。

いや、戦いにおいても、それ以外においても、お互いに意思疎通できるというのはとってもありがたい。

というか、もしかしたら、翻訳までしてくれたりするのではないだろうか?

それはとても、いやかなりありがたいのではないか。

普段から意思疎通できてそうでまったくできていないこの黄色いでっかいのが何を考えているかが理解できるとなると、これ以上無いメリットだ。

眼鏡があればクイっとしているくらいの発見だ。

 

そうと決まれば、早速―――

 

 

「アーボック、ピカチュウが何を言っているのか、教えて?」

 

「イーヨ」

 

「ピピカチュ、ピッピカ」

 

「シャーボック」

 

「あ、会話は普通にポケモンの声なんだ」

 

しかも蛇の頭の方。

 

「ピカピカ、チャー」

 

「アーボ、アーボック」

 

「ピピピカ」

 

「ナルホド」

 

「お、わかった?」

 

「エエト」

 

 

どうやら分かったらしい。

これはかなり期待できる。ついに、いつも何を考えているか全くわからないし、なんならサトシをより困難な方に誘導している疑惑すらあるピカチュウの考えをようやく知ることができる。

唯一意思疎通できている内容なんて、「おなかすいた」くらいなものだ。

 

アーボックとピカチュウは今どんな会話をしていたのか――――

 

ゴクリ、と息を飲むサトシ。

アーボックの大きな口がサトシに内容を伝える。

 

 

「バンゴハン、カレーガイイ、ダッテ」

 

「あーはいはい、なるほどね」

 

 

ごはんのことしか考えていないことがはっきり分かっただけだった。

いや、あーでもないこーでもないと連れまわされる手間が省けるだけでも十分なのかもしれない。

今日はカレーに決定だ。

 

 

「ア」

 

「ん?まだある?」

 

「ビーフカレーガイイ」

 

「・・・そう」

 

「ア」

 

「うん」

 

「オレノキボウ」

 

「・・・そう」

 

 

どうやらアーボックはビーフカレーがお好みのようだ。

片言しかしゃべれないわりに、ずいぶんお喋りだ。しかも自己主張もする。

そりゃ、人間に意思が伝えられるとなれば、ポケモンだって主張くらいするか。

 

「まあ、ちょっとでも会話できる相手ができて、旅もにぎやかになるね」

 

「ヨロシク」

 

 

もう一通り驚き終わったので、サトシの得意技、「なるようになる」で余計なことは考えないことにした。

なぜ言葉が話せるのか、なぜそういう風にされたのか。このアーボックが作られた意味は。

そういった込み入ったことは、今のサトシの脳みそが考えて理解するにはちょっと重たい問題。

考えなくてもいいことは、考えない。

そうして、一旦思考に蓋をして、喋るアーボックという目立つポケモンを一旦モンスターボールに戻して、おいしいビーフカレーの店を探しにセキチクシティの街に戻るのであった。

 

 

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