ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百八十六話 いざグレン島へ

「うわー、速ーい!」

「ピピカチャ」

 

ボボボボ、というエンジン音が響き、19番水道を小型ボートが疾走する。

19番水道。セキチクシティからグレンタウンに続く水路で、よく遠泳などをする海水浴客が訪れている。危険なので普段はボートなどは通っていないが、水路が解放される時間の前後に、グレンタウンへと行く便がいくつか出ているのだ。

とはいえ、わざわざグレンタウンへと行ったところであるのはポケモン研究施設のみ。

頻繁に行く人もそういないが、その性質上、行きたい人間は申請すれば、身分確認の上、すんなりいくことができる。

もちろん、サトシはポケモントレーナーとして、一応ジムリーダーを倒し進んでいる人間。

拒否されることもなく、あっさりグレンタウンへ行くボート便の手配に成功した。

 

小型とはいえ、数人が乗るスペースはゆうにあるのだが、いかんせん一匹がでかいので、端っこに体育座りして飛ばされないようにしているピカチュウ。

その様子を奇異の目で見ながら、乗客の身の上を気にするのはご法度だとちゃんと仕事をする運転手。

そして飛ばされないように帽子を手で押さえながら風を感じるサトシ。

時刻は夕暮れ前ということもあり、水平線に太陽が反射して非常にきれいだ。

完全に夜になるとさすがに移動できないため、少し速めに移動できるボートで、本日最後の便に滑り込みできた。

 

かなり広い水路とはいえ、ものの十数分でふたご島―――危険なので立ち入るのは自己責任、という案内があった場所を通り過ぎ、そのままグレンタウンへ向かう。

旅としてはちょっと興味がなくもなかったが、別に行く予定もないし、わざわざ危ないところへ行くこともない。

イワヤマトンネルの時のように、変質者がいないとも限らないし。

 

ふと目を閉じると、あの恐怖のやまおとこの光景が目に浮かぶ。

暗闇の中、焚火の光に照らされて動く毛むくじゃらの男。

 

―――身震いをしたのはボートに吹き荒れる風のせいではない。きっとない。

 

そんなことを思い出していると「見えてきたぜ」という声で現実に戻り、ボートの進行方向を見るサトシ。

 

「おー!あれが!」

「おう、火山の町、グレンタウンだ」

 

エンジンと波の音に負けないように大きな声で会話する。

ピカチュウは置物のように笑顔で端っこに体育座りしたままだ。ボートの揺れをダイレクトに感じるのが楽しいらしい。

風をうけてピカチュウの耳が上下左右に激しく揺れている。

 

 

「そういやあ、にいちゃん、カツラに挑むんだろ?」

 

「カツラ?」

 

「おう、グレンタウンのジムリーダーさ。」

 

「ああはい、そうですね!」

 

「そうかそうか、頑張れよ!ちょっと前にも挑むってやつがいたからよ!」

 

「え!―――あ、そうですか、なるほど」

 

一瞬、裏トレーナーがすでにいるのか?と思ったが、普通のトレーナーのことだろう。

サトシの境遇をこの人が知るわけもない。

 

「にいちゃんと同じくらいの年だったと思うぜ!まだいるかもな」

 

「そうですか!ありがとうございます!」

 

「おう!」

 

 

きっと、リーダーと戦うためのヒントを得られれば、くらいの感じで教えてくれたのだろう。

なんていい人なんだろうか。世の中、このような人であふれていれば、僕のような不幸な運命を辿る人も減らせるというのに。

 

目の端からしみる小さな涙の粒も、今は海の雫と一緒に風で後ろに吹っ飛ばされる。

ジムバッジも残り二つ。

サトシに引き返す選択肢などない。ただただ突き進むのみだ。

 

 

水平線に見えていた町模様が徐々に大きくなっていき、間もなく夕日が落ちる頃。

サトシ一行はついにグレンタウンに到着した。

 

 

「ここがグレンタウン―――ジムリーダー、カツラがいるところか」

 

「そんじゃにいちゃん、気を付けてな」

 

「ありがとうございます!」

 

「ピッピカチュ」

 

 

サトシは大きく手を振って運転手に別れの挨拶をすると、改めて周囲を見回す。

火山の町グレンタウン。

落ち行く太陽の最後の光に照らされ、本当に火山のように赤く光り輝いている町並みは、そこまで大きくはない。

到着した港、といっても、いくつかの発着場があるだけだが、そこから両側を見ても、町の端っこが見て取れる。

町の中を見ても、歩いている人はほとんどおらず、たまに食事と思われるビニール袋を提げた白衣の男が大きい建物に吸い込まれていくのみだ。

 

そして、その大きい建物の壁に大きく「グレンタウンジム」と書かれていた。

 

サトシはゴクリ、と息を飲む。

グレンジムのカツラ。どのようなトレーナーなのだろうか。

さすがに今日そのまま向かう、なんという愚の骨頂を犯すつもりはない。しかし、住人から話を訊こうにもあまり歩いている様子もないが、さてどうしたものか。

 

となりのピカチュウからも、ゴクリ、という息を飲む音が聞こえる。

ピカチュウも緊張なんてするのか・・・と苦笑いでピカチュウの顔を見上げると、目線は別のところ―――「海鮮料理グレン」と猛々しい魚の絵と共に描かれた看板の方を見ていた。

つまりは、緊張ではなく、お腹が空いただけ。

 

 

・・・まあ、ピカチュウだしな。

それに、食事処なのであれば人はいるだろう。

まだ店が閉まるような時間ではない。なんならちょうど夕食時だ。

カツラとの闘いも、きっと一筋縄ではいかないだろう。

きちんと体調を整えて、お腹いっぱい食べておかなければ。

もしかしたらこれが―――最後の晩餐になる可能性だってあるのだから。

 

 

「―――よしピカチュウ。今日の晩御飯はお刺身だ!」

 

「ピカピカ」

 

すでに飲んでも抑えきれな唾液が口元から垂れてきているピカチュウを引き連れて食事へ向かう。

 

町はすでに日が落ち、ポツポツと街灯が灯っていく。

赤く染まった町は人工的な光で照らされ、何も知らぬ人々は、そのまま今日の終わりに向かう。

 

火山の町グレンタウン。

そしてジムリーダーカツラ。

 

7人目のジムリーダーは一体どのような人物なのだろうか。

サトシの不安は尽きないが、まずは腹ごしらえとばかりに店に入り席に着く。

 

 

「海鮮丼、大盛一つと特盛二つ」

「ピッピカチュ」

 

夜は更けていく。

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