ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第百八十七話 再開は海鮮丼と共に

「ふー、いっぱい食べた」

 

「ピッピカピカ」

 

 

グレンタウンは小さい島の中にある町。ゆえに、海産物には事欠かない。

いつぞやのクチバシティで食べた海鮮もなかなかだったが、ここの魚もとてもおいしい。

なんだろう、醤油が違う?いやきっと塩的ななにかが・・・

 

何も知らないのに評論的なことを考えているサトシ。

ピカチュウはうまければいいとでもいわんばかりに、特盛海鮮丼の3杯目に突入している。

どれだけ食えば満足なのか。

 

そんなつかの間の日常を送っていると

 

 

「お、サトシじゃーん久しぶり」

 

「―――・・・シゲル?」

 

「そうだよ。シゲル様だよ。なんだ、お前もここにいたのかよ。やるじゃん。ポケモン、何匹捕まえた?―――どうしたじろじろみて。キモイぞ」

 

 

声を聞き、顔を見て、思い出す。

―――シゲルだ。うん、シゲル。

別に当たり前のことだ。何も間違ったことは無い。久しぶりに故郷の知り合いとあった。それだけ。それだけなのだが、やはり、どうしようもなく普通という光に包まれた人間と自分を比較してしまう。

こんなにも眩しいものだったか。

普通の日常を送っているというだけなのに。普通の、まっとうな、ポケモンマスターへの道を進んでいる知人。

本当は同じ道を行くはずだったのに。

軽口を言い合うだけなのに、その一言がなかなかでてこない。

こっちはお前なんかと違う、ふざけるな、お前ばっかり普通でいやがって、変わってくれよ、と。

言えたらどれだけ楽だろう。

しかし、それをしても意味は無い。裏の事情を話すことなど、できはしないのだから。

 

―――どうした?ポケモンつかまえてねーの?

 

そんなただの質問を再度投げかけてくる。

ああ、そうだ、答えないと。黙ってたら、変だ。

 

 

「ああ、ええと、そんなに捕まえられてない、かな」

 

「マジ?俺なんて――――――」

 

 

後のことは、あまり覚えていない。

なんとなく故郷の友人を遠い目で見ながら、もう戻れない日常と、本来こうなるはずだった自分の過去を重ねて、いろいろと考えてしまっていた。

マサラタウンからの道のり。思い返すと本当にいろいろなことがあった。

何度、涙を流しただろう。幾度、命を失いかけただろう。どれだけ、仲間を失っただろう。

日常とは遠くかけ離れた、密度の濃い日々を送ってきた。

そして、目の前でゆうゆうと自慢話をする普通の、日常を生きてきた同い年の人間。

 

比較するな、という方が残酷だというものだ。

旅に出る前、自慢話で自分を虚仮にするような言動にはイラついて、家に帰って枕を壁に投げつけて目覚まし時計を壊したりしていたものだが、もはやそれすら懐かしい。

何も成長していない無力な自分と、ここ最近ずっと思っていたことだが、思った以上に、成長―――というか、適応してきたのだなと、シゲルと出会って認識を改めた。

 

 

「―――ってなもんよ!どうだ!?」

 

「・・・クッソー!負けないからな!」

 

「はん!お前なんかが勝てるとこにいねーんだよ!俺、もうグレンジムリーダー、倒しちゃったもんね!お前も精々がんばるこった!じゃーな!」

 

 

嵐のように自慢話をして、故郷の友人はゆうゆうとその場を去っていった。

最後になんとか、もともとの自分を演じてみたが、今の自分との違いに、笑ってしまう。

 

「負けないからな・・・ね。」

 

そう、負けるわけにはいかないのだ。

こんな狂った世の中を無くすためにも。そんな大層な願望を背負わされてしまった自分の為にも。

思わぬ再開の会話の最中もどんぶりにがっついていたピカチュウは、すでに3杯目を食らいつくし、口回りに米粒がついた状態でお腹をぽんぽんを叩きながらつまようじで歯をしーしーしていた。

・・・おっさん?

 

 

「さて、出ようか。ピカチュウ。」

 

「ピ?ピカピー」

 

 

ガタ、と椅子を引き、「おじさん、お会計お願いします」と声をあげる。「あいよ」と威勢のいい声。

明日か、明後日か。

きっとまたサトシは苦境に立たされるのであろう。

だがそれももう少し。

後二人。そして、ポケモンリーグだ。

 

「そういえば、にいちゃん、ポケモントレーナーなのかい?さっき話してたの、カツラに勝った少年だろ。もう町中で広まってるが、いやー、あの若さで大したもんだ」

 

「はー、そうなんですか」

 

「おう、なんせ小さい町だ。噂なんてあっという間よ。カツラさんも相当変わってるが、ポケモンの強さもすごいぞ」

 

「有名なんですか?」

 

「そら、ジムリーダーだしな。しかも、ポケモン研究の権威だぞ。知らない?」

 

「知りませんでした―――カツラさんはどんな人なんですか?」

 

「そうさな、変人って一言で言うとそれまでなんだが、勢いがある人だよ。いつも楽しそうではあるな。うん。あと、ハゲだ」

 

「は・・・はげなんですか」

 

「おう。みりゃあすぐわかる。ま、挑むんだったら準備はしっかりな!ここまできてるトレーナーにいうこっちゃないが!あ、これ会計ね」

 

「あ、どうも」

 

 

思わずカツラという人物について少しだけ情報を得た。

変人・・・今までのリーダーも相当変人ではあったが、方向性がみな違う。

カツラはどのような狂人なのだろうか。

 

そして、会計を見ると思ったより金額が高い。

疑問に思って明細を見ると、特盛3杯だと思っていたピカチュウが、実は4杯だったらしい。

いつの間に食べたんだ、こいつは。

 

ジト目でピカチュウを睨むと、水槽の中で泳いでいる魚をしっぽを振りながら目で追っている。

まだ食べる気か。

 

 

「・・・はあ、どうぞ」

 

「まいどあり!また来てくれなにいちゃん!勝報を待ってるぜ!」

 

「ありがとうございます」

 

 

そういって、無理やりピカチュウをひっぱり店を出る。

相変わらず人の気配は少なく、町の雑踏という音もあまりない、静かな町。

家の光もまばらな中、グレンジムの建物からは煌々とまばゆい光がすべての窓から滲み出ている。

研究に定時というものは無いらしい。

 

サトシはいろいろな思いをまた胸に抱え、ポケモンセンターに向かって歩き出すのだった。

 

 

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