タケシと別れ、ニビシティを出る。
ほんの二日間の出来事ではあったがかなり濃密な滞在となった。
タケシとの遭遇、死闘、勝利。
そして手にする百万円の重み。
おいしいごはんの生活が止まらなくてよかったと心から思う。
なにせ、ピカチュウはポケモン用の食事を摂らない。
人間と全く同じものを食べる。しかもご丁寧に食事マナーまで守って。
同じごはんが食べられると考えると対等な感じがして気おくれする必要がなくなるのはいいのだが、いかんせんお金がかかる。
それをタケシ戦で補填できたのだ。喜ばしいことこの上ない。
ここで食事が一気に質素になってしまったらピカチュウが僕のことを真っ二つにしてしまうかもしれないと思うと、現在の状況はかなり僥倖と言える。いろんなことに命を奪われかねない現在の生活において、ピカチュウという死亡要因を省くことができたのだ。
お金万歳。
いい感じに現実的になってきたサトシ。旅に慣れてきた証拠だともいえる。
現在、サトシ一向はトレーナーとバトルしながら(主にクラブ、キャタピー、ビードルのレベル上げ)オツキミ山を目指していた。
当然、ピカチュウは変装モード。
タケシには一目でばれてしまっていたが、それはタケシだからということにした。
事実、普通のトレーナー達はなるべく目を合わせないように振る舞っている。
しっかりとバトルは仕掛けてくるあたり根性座ってるのかなんなのか。
でも、こちらとしてはありがたい。
タケシのポケモンにはひんしにさせられてしまったため、レベルがあがることはなかった。
しかし、普通のポケモンも役に立つ。それが図らずともタケシ戦で理解できてしまった。
クラブもキャタピーも、どちらが欠けてもあのバトルは勝つことはできなかっただろう。
さすがに一対一で勝てるなどとはまだ考えられないが、それでも鍛えておくことに意味は必ずあるはずだ。
・・・というか、ドーピングされたポケモン、あれに普通のポケモンだけで勝つレッドって本当に何ものなんだろう。
映像で見ただけでは『すごい』くらいの感情しかわかなかったが、実際に強力なポケモン相手に戦った今となっては、そのすごさは身に染みてわかる。
オーキド博士が「軍事転用することもできる」って言ってた理由がなんとなくではあるが理解した。
「サイドン、強かったなあ」
切り札にはかいこうせん。本当によく防御しきれたな思えるほどの威力。
文字通り『すべてを破壊する光線』の具現化だった。
「ピカチュウも覚えられる?」
「ピーーカーー」
無理っぽい。
そんな無駄な会話をしつつ、オツキミ山を目指す。
ニビシティからオツキミ山にかけてはトレーナーバトルが盛んにおこなわれている。
好戦的なようで、目を合わせるだけで戦いを挑まれる。ピカチュウを出せば勝負を挑まれることなく終わるとは思うのだけど、それでは経験にならない。
しっかりと手持ちのポケモンを強化していく。
「お、いいポケモンもってるな。俺とバトルしようぜ!」
言ってるそばからバトルを挑まれる。望むところだー!
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一通りのトレーナーとバトルが終わり、オツキミ山前のポケモンセンターにたどり着く頃には、日が落ちて周囲は真っ暗になっていた。
明かりは施設から漏れる人口の光と月明かりのみ。
オツキミ山の名前どおり月を見るには絶好の立地のようだ。
もっとも、山の中にはピンポイントで月が見える場所があるとかないとかそういう噂があったりもする。
そしてなにより―――
「ピッピ、会えるといいなあ!」
ポケモン界のファンシー愛玩ポケモンといえばまず上がるのが三匹。
プリンとピカチュウ、そしてピッピだ。
ピカチュウは・・・か、かわいいよね。(顔だけは)
ピッピの生態は謎に包まれている。
唯一、このオツキミ山にのみ生息しているという事実のみが知れており、その出現頻度も低いことから欲しがるトレーナーも多い。
月明かりに照らされてシルエットのみがはっきりと浮き上がっているオツキミ山。
さすがに夜に入るのは怖いしやめとこう。
そう考えると、ポケモンセンターの中に入っていった。
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たくさんのトレーナーとのバトルで傷ついたポケモン達をセンターに預け、イスでゆっくりしていると、なにやら優柔不断な動きをしているおじさんがいる。
周囲にちらちらと細かく視線を送っており、ただでさえ利用者の少ないポケモンセンターオツキミ山支店の中ではその姿はかなり目立った。
声をかけることも別になく、なんとなくおじさんの方を観察していたら、おじさんがこっちに振り向き、目があった。
・・・すぐに目を背けたがダメだったようだ。僕はトコトン人を躱すのが不得意なようだ。
おじさんがニッコリと笑ってこちらにゆっくり近づいてくる。
歩き方すら不信だ。一体何をしているのだろう。
「・・・ぼっちゃんぼっちゃん」
うわあ話しかけてきた。不信感大爆発。ぼっちゃんという言い回しがまたその怪しさを増幅させる。
「な、なんでしょう。」
いざとなったら守ってね?とばかりに一瞬ピカチュウに視線を送る。
自分の黄色い耳をつまんでみょんみょんやっていた。
あきらめておじさんの方を向き直る。
「ここだけの、スペシャルな話があるんです。どうですか?ききます?」
正直遠慮したかったが、なんかあきらめそうになかったので無言でうなづく。
「そうですか!それはそれはぼっちゃんはラッキーなお方だ!」
サトシは怪訝な顔したが、とりあえず先を言えとばかりに顎で促す。
「なんと、このスペシャルゴージャスポケモン、コイキングが――――――」
コイキング。そんな弱小ポケモンを売りつけるつもりなのかこのおじさんは。
そういえばニビシティで噂されていた。オツキミ山付近で五百円でポケモンを売りつけるおじさんがいると。
半分笑い話、半分恐怖話として話されていたが、まさか本当にいるとは。
答えは当然、買わない。コイキングなんて弱小ポケモンを買うだなんて。
貴重な五百円まで払ってそんなアホな―――
「なんとたったの五十万円!」
うんうん、そうだよね、売りつけてくる、うりつけ、ご?
「ごじゅうまんえん!?なにそれたっかい!どういうこと!?コイキングがごじゅうまんて!!!!」
即座に大声を出してしまう。
周りにいた人もサトシの声に多少驚きこちらを向いたが、一緒にいるのがこのおじさんだということを知るとかわいそうな目で見つつ、サトシを視線から外した。
「しーっ!このコイキングはそこらのやつとモノが違う。大体のやつは鼻で笑う金額だが、それ以上の価値が絶対にある!」
「うっそくさい」
「本当だ!絶対に損はしない!」
うーーん・・・・
またやっかいな人に絡まれたものだと内心うなだれるサトシだった。