ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第三十三話 妖精

『そいつは進化不良じゃな。』

 

「進化不良?」

 

 

 謎多きコイキングについてポケモン図鑑でオーキド博士に連絡すると、聞きなれない単語を出してきた。

 

 

『そうじゃ。進化不良。本来ポケモンはある程度成長すると進化するものが多い。もちろん進化しない単一種族もおるがな。モンジャラやメタモン、エレブーなんかがそうじゃな。進化するポケモンの進化時期も、基本的にはほぼ一定じゃ。あえて進化を止めでもしない限りは通常通り進化する。』

 

「コイキングも進化を止めているんですか?」

 

『話を聴く限り、その可能性は低いと言える。なぜならステータスが異常に高いということに起因するのじゃ。』

 

 

 サトシはじっくりと聴いていた。

 このコイキングを今後どのように扱うかのキーになる話だとなんとなく思ったからだ。

 すなわち、ただの盾として使うか、戦力として育てるべきか。

 どちらにしても見捨てるつもりはない。なんせ五十万円もしたので。

 

 

『進化不良は野生のポケモンにも稀におこる現象ではある。その場合は単純に進化する時期が遅くなるだけじゃな。もっと珍しいものになると、まったく進化しない『進化拒否』という個体がいるそうじゃが、わしはまだ見たことないのう。』

 

「ふむふむ」

 

『そしてもう一つの原因が、ドーピングによる副作用じゃ。」

 

「コイキングがドーピングされたポケモン・・・?」

 

『おそらくは、じゃがな。過剰な防御力もそれで説明がつく。このドーピングによる進化不良にはもう一つ特性があっての。進化準備ができないまま成長を続けると、ステータスが異常に伸びる現象が起こる。進化に使うエネルギーを自己成長に充てておるのだと推測しておるが、その原因はわからなかったんじゃがな。わしらは『過成長』と呼んでおった。』

 

「過成長―――ですか。」

 

『そうじゃ。じゃが、名前こそついておるがそう頻繁におこる作用ではない。あくまでそういう事例があった、というだけの話じゃよ。そのコイキングが何故売られていたのかもわからんし、そもそも過成長なのかもわからん。ただ、言えることがあるとすれば―――』

 

「あるとすれば・・・?」

 

『これが進化不良による過成長であれば、進化する余地はあるじゃろ。それなら育成してもよいとは思うのじゃが、もしこれが進化拒否による過成長ならば、単純に固いだけのコイキングのままじゃな。確かに負けはしないかもしれん。じゃが、攻撃手段も限られておるし、相手が同じドーピングされた相手であればどこまで耐えられるのかもわからん。そのへんの判断はサトシに任せるがのう。』

 

「なるほど・・・なんとなくわかりました。」

 

『しかし、強くするにしてもなんでコイキングなんぞにドーピングしたのかの。そんなお試しで使えるほど値段の安いものじゃないはずなんじゃが。』

 

「なんでですかね。迷惑な話です。」

 

『うむ。もうオツキミ山なんじゃな。がんばるのじゃぞ!』

 

「はい!」

 

『ではの~』

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 結果、とりあえずコイキングについては保留ということにした。

 進化不良なのか進化拒否なのか不明な以上、判断ができない。

 

 盾としては申し分ないのでとりあえず緊急時に出す様にしよう。

 攻撃技としてたいあたりも使えるので、水場が近くにあればバトルに出してもいいかもしれない。

 早く進化して優れた技を覚えるように祈る。

 

 

 

 とはいえ―――――

 

 

 

「コイキング、助けてくれてありがとね。」

「ココココッコッコココ」

 

 

 窮地を救ってくれたお礼はすべきだろう。

 使い道に困るポケモンではあるが、嘆いていても仕方がない。

 しばらくはピカチュウの盾として活躍してもらおう。

 

 

「もどれ、コイキング」

 

 ボールをコイキングへ向けると赤い光が照射され、赤く光ったコイキングはシュルシュルとボールの中へ消えていった。

 

「もどれ、ピカチュウ」

 ボールをピカチュウへ向けると、同じように光がでたが、やはりぼんやり赤く光るだけでなんの変化もなかった。

 とくに反応することなくピッカーと鳴き声だけが聞こえる。

 

「ピカチュウは進化拒否じゃなくて帰宅拒否だね。」

 

「ピカピ-」

 

 

 トランセルの墓標を見て、少しだけ目を伏せた後、サトシ一行はハナダシティに向けてオツキミ山の出口へ歩いていくのであった。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 夜も深まり、時刻は零時を回っただろうか。

 月の光だけが道を確かめる唯一の明かりとして機能しているが、その僅かな明かりが心地いい。

 深夜の静けさと虫のささやきが調和し、落ち着いた気分にさせてくれる。

 

 サトシはゆったりと空気を楽しみながら歩いており、その後ろをピカチュウがついてきていた。

 深夜ということもあり、野生のポケモンの数も少ない。

 ズバットもいい加減休んでいるようだ。

 

 

「気持ちいい夜だね、ピカチュウ。」

 そのまま前を向きながらピカチュウに声をかける。

 

「ピカピー」

 

「オツキミ山から出たら満天の星空!かな?月も見たいな~。」

 

「ピッピー」

 

「今頃ピッピもどこかでお月見してるのかな。雲も無いし、とってもいいお月見日和だよね。」

 

「ピ!ピピッピ!」

 

「ピッカピカ」

 

「ピ?ピッピッピ」

 

「ピカピーカ」

 

「ピカチュウ?独り言がおおいん――――」

 

 

 そういってサトシが振り返ると、毎日見ている黄色い巨体とは別に、薄ピンク色の小さい身体のポケモンが一緒に歩いていた。

 

 

「・・・?」

 

 

 よく考える。

 働いていなかった自分の脳内のケツをぶっ叩き、思考を復活させる。

 サトシと共に歩いているポケモンはピカチュウ一匹。

 ではこのトコトコついてくるピンクいのは一体なに?

 

 

「ピッピー」

 

「ピッピだーーーーーー!!!!!」

 

 

 オツキミ山も終盤にさしかかるというとき、ついに見つけた月の妖精。

 ついあげてしまった大声にも逃げることなく、ピカチュウの隣に堂々と立っている。

 

 ピッピはサトシの驚いた顔を見ると、面白いのかピッピと鳴きながらはしゃぎ、軽く踊ってもいるようだ。

 茫然と眺めていると、ピタッとダンスが止まり、そのままてってっと洞窟内を歩いていった。

 

 

「―――あ!ピカチュウ!追いかけるよ!」

 

 言うな否や、サトシは薄ピンク色の背中を目印に、来た道とは違う方向へ向かっていった。

 

 

「ピカー」

 

 しょうがないなとため息交じりについていくピカチュウ。

 

 サトシはピカチュウに振り回されているが、ピカチュウも思うところはありそうだ。

 月明かりの中、三つの影が動き、三つの足音が洞窟内に反響する。

 

 

 




ピッピって捕まえてもメインで使うことがない思い出。
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