ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

36 / 201
第三十五話 ポケモン好きと、ポケモン好きな人間好き

 ポポッポッポと鳴くポッポの声で目が覚める。

 固い地面の上で寝てしまった所為か、身体が少し痛い。

 風邪を引かなかったのはいつのまにか掛かっている毛布のおかげか。

 

 ぼーっとする頭をフラフラさせ、朝の風に無理やり顔を当てる。

 

「・・・いつのまにか寝ちゃってたのか。」

 

 ここはオツキミ山の最奥地。

 ピッピの集まる場所。

 

 昨日の幻想的な雰囲気が嘘のように、その場所は単なる円形に山が削れた空間だった。

 ピッピは夜にしか姿を現さないのか、たくさんいたピッピの姿はすでに無く、そこにいるのはサトシとピカチュウだけだった。

 

「ピッカチュ」

 

「おはようピカチュウ。今日もいい朝だね。」

 

 サトシは寝ずに見張っていたピカチュウのことは知らないし、ピカチュウとしても知ってほしいことではない。

 こういうのは言わないことが大事なのだ。サトシには無言の美徳というものを理解することはまだできないが。

 そのうち理解できるようになるだろう。ただでさえ成長の早い一人旅なのだ。

 男子三日会わざれば括目してみよ。

 サトシの成長も目を見張るものがあるだろう。

 あまりいい方向への成長と言えないのが残念なところではある。

 

 

「とりあえず出発しよう。といっても、出口は一体どこなんだろ。」

 

 ここへはピッピに案内されて落ちた岩の滑り台で来た。

 言うに及ばず、一方通行である。

 さすがのピッピといえどあの穴を駆け上がったりはしないだろう。

 とすればどこか山の中の洞窟へ戻る道があるはずだけれど――――

 

 そう考え、きょろきょろと周囲を見渡す。

 特に変わったものはなさそ「ピッピー」あった。

 

「ピッピ!」

 

 だだっ広い広場の端っこに一匹だけ。

 直感ではあるがここまで案内したピッピだと思う。

 さすがに放置しておくわけもなく、帰り道も教えてくれるようだ。

 死を運ぶ妖精でなくて本当によかった。

 

 ピッピのついてこいという手の動きに誘われ、ピカチュウと共にピッピのいる岩壁の方へ歩いていく。

 

 

 壁に近づき、ピッピの指さす所を見ると、壁と地面のちょうど境目の部分が陥没しており、ゆったりとしたスロープで奥に続いていた。

 おそらくここが外にでる道ということなのだろう。

 道を確認すると、ピッピが先に進んでいく。

 案内してくれるらしい。

 昨日の夜と同じようにピッピの背中を追いかけ、ピカチュウ共々ついていく。

 

 案内が必要なのかな?と入るときは思ったが、その地下通路は恐ろしいほど入り組んでいた。

 オツキミ山の中のどこにでも出られるようになっているのだろうか。

 

 これは確かにピッピと遭遇する可能性はかなり低いと言わざるを得ない。

 恐らく、ピッピと出会ったということは、ピッピを見つけたのでなくピッピが会いに来たということなのだろう。

 

 そんな納得をしつつ、先導するピッピを見失わないように通路を進んでいく。

 

 

 

 しばらく進むと白い光が見えてきた。

 間違うことなく、あれは太陽の光だ。

 

 

 

 その光を抜けると緑多き外の世界。

 およそ半日ではあるが随分と懐かしく感じる。

 

 オツキミ山本来の出口とは違う場所のようで、小高い丘のような場所に出た。

 丘の下を見渡すと、街並みが見える。

 おそらくあれがハナダシティだろう。

 

「ピッピッピー」

 

「ピッピ、ありがとう!またオツキミ山に来るね!今度は僕がピッピ達をもてなすよ!」

 

「ピッピー」

 

 満面の笑みで見送ってくれるピッピ。

 月明かりの元では幻想的な存在だったポケモンだが、お日様の下だとその愛くるしい見た目に拍車がかかり、とてもかわいい。

 

 目の前にレアなポケモンがいるが、サトシは捕まえるつもりなど毛頭ない。

 感謝してもしたりないほどのものを受け取ったのだ。

 今度きちんとお礼に来よう。

 

 

「じゃあね、ピッピ!」

「ピッカピー」

 

 大きく手を振り、月の妖精に別れを告げる。

 ポケモンを愛するサトシはピッピのことが大好きになった。

 ポケモンを愛してくれるサトシを、ピッピもお気に召したようだ。

 

 

 手を振りながらしばらく歩き、そしてオツキミ山に背を向けた。

 目指せハナダシティ!

 いろいろな想いを胸に、サトシは新しい気持ちで力強くその一歩を踏み出した。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 オツキミ山内部のある場所―――

 

 あきらかに不自然に置かれた少し大き目の石。

 知らぬ者が見れば、何も感じず通り過ぎてしまう石。

 ある少年にとっては特別な石。

 

 その石の前に綺麗な花が置いてある。

 小高い丘に咲くような、綺麗な花が色鮮やかに置かれている。

 

 これから毎日、この花は置かれていくのだろう。

 

 

 ある少年と、その親友のために。

 

 

 

 月の妖精は笑顔でオツキミ山を見守り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわーーー!広い!」「ピカー」

 

 ハナダシティに到着したサトシ達の第一声は、田舎者丸出しのような言葉だった。

 カントー地方という規模で見れば、まだまだのどかと言えるくらいの規模の町ではあるが、マサラタウンという小さな町からきたサトシにとっては、どこにいっても大都会なのだ。

 

 

 住民も多いし、水も豊か。

 加えて穏やかな街並み。

 漁港のあるクチバシティと隣接している街なだけあって海産物も豊富に食事に並ぶそうだ。

 そして当然、ハナダシティジムもある。

 

 カスミ・・・カスミかあ・・・

 

 

 タケシさんの話が蘇る。

 超絶サディスティックのカスミ。

 あまりに不名誉な通り名だと思うのだが、本人としてはどう思っているのだろうか。

 カスミについても情報を収集しなければ。

 

 さらに、ここではもう一つやることがある。

 

「マサキ、という人を探さないと。」

 

 トキワシティのおじいさんがマサキを訪ねろと言っていた。

 マサキという人がどういう人なのかはわからないが、訊けばわかるといっていた。

 おそらくハナダシティでは有名な人なのだろう。

 まずはその二つ。

 というわけで早速―――――

 

「ピカチュウ、マサキを探しにいこっ・・・てうわあ!」

 

 ピカチュウの顔を見ると、おいしいにおいに誘われてか涎だらっだらな顔で街を見ていた。

 

「あ、あははは。そういえば何も食べてなかったね。先にご飯に行こう。」

 

 コイキングに大金使ったとはいえ、まだ半分残っているのだ。

 食費にお金をかけても大丈夫だろう。

 だってまだこんなに残っているのだから。

 

 大金を持っていると嵌りやすい真理トラップにまんまと引っかかるサトシ。

 まだある、まだあるを続けるともう無いに変わるのだ。

 家計簿などつけたことはないし存在すら知っているか怪しいお年頃。

 もちろん教えてくれる人はここにはいない。

 ピカチュウもおなか一杯ご飯を食べるだけで、その支払元に関心は全くない。

 

 金銭感覚のマヒした十四歳と、食うだけ食うでっかいポケモン。

 今後の金銭管理はまともに機能するのだろうか。

 

 一人旅の大変さをサトシが身をもって味わうのは、まだ先の話である。

 

 

 

 ちなみに、クチバシティで獲れた何かの魚のお刺身を食べたが、あまりのおいしさにピカチュウがドカ食い。

 ハナダシティでの食事の初回にして支払い金額が万を超えてしまったが、厚さの減らない札束を手にしたサトシは何の躊躇もなくお支払い。

 やはりサトシの敵は裏の住人だけでなく、サトシ自身の金銭感覚なのであった。

 

 

 

 




ついにハナダシティ。

皆様感想ありがとうございます。
その感想が書くエネルギーとなっております。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。