「コラッタ!」
「コックーン」
ネズミとサナギの死闘が繰り広げられている。
コクーンの固くなった身体に頑張ってひっかき傷をつけるコラッタ。
近づいてきたコラッタに超超近距離で打ち出すどくばり。
遠目で見ると二体のポケモンが戯れているように見えるかもしれない。
本人からすると必死に戦っているのかもしれないが、裏のバトルを経験したサトシからすると安心極まりない戦いだ。
なにせ死ぬ心配が無い。
生きるか死ぬかを外で気にすることがあるなんて旅に出る前は考えもしなかった。
しかしすでに何度か死の境地からサトシは生還している。
十四歳としては重過ぎる経験ではあるが、トランセルの一件の後はある種の慎重さを手に入れた。
後悔もしているし悲しみもある。しかし立ち止まることはなかった。
好奇心旺盛で無邪気なだけだった少年を、この旅は間違いなく成長させている。
軽はずみな行動をすると、取り返しのつかないことが起こるという実体験。
サトシは大人でもなかなか得ることが適わない、自分の行動すべてに対する慎重さと臆病さを手に入れようとしていた。
当然これも本来は少年に不要なものではあるが、サトシはこの旅においては必要だと判断していた。
というわけで緊張感の欠片が少しだけある程度のポケモンバトルをサトシは念のために周囲を警戒しながら見守っていた。
「お、倒した。」
「ピピカチュー」
コクーンは無事にコラッタを撃退したようだ。
―――――――――――――――――――
―――少し前
「よく考えたらさあ、ピカチュウ。」
「ピカピ」
「僕の手持ちポケモン、おかしいと思わない?」
「ピ?」
サトシの手持ちポケモンは、ピカチュウ、クラブ、コクーン、そしてコイキング。
普段表に出せないピカチュウを除くと、まともに戦えるのがクラブしかいない。
さらに、四匹のうち三匹はサトシが捕まえたポケモンではない。
すべてもらった、もしくは購入したものだ。
そこで、通常戦えるポケモンを育てると共に、新しいポケモンをゲットするためにハナダシティ手前の四番道路でポケモン探索することにしたのだ。
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「ここにでてくるポケモンは、コラッタとオニスズメが多いのかな。さすがにオニスズメにコクーンはかわいそうだからクラブで。」
「オニー」
「クラブー」
クラブはある程度レベルが高いので問題なく戦える。
虫ポケモンの天敵、鳥ポケモンに対しても、大きいはさみで叩き落とす姿は頼りがいがある。
コラッタにはコクーン、オニスズメにはクラブを戦わせてレベルアップを図る。
「コクーーーン」
「コラッ・・・タ」
コクーンが七匹目のコラッタを倒す。
「やったねコクーン!」
と声をかけると、コクーンが白い光に包まれ、点滅している。
「お!ついに進化かな。」
トランセルは大きな蝶になるポケモン。
対してコクーンは――――
「スッピアーー!!!」
大きな蜂。
二つの大きな目と、両手には長く鋭利な針。
見た目から非常に攻撃的である通り、スピードを活かしてその針を突き刺す攻撃方法がメインとなる。
虫ポケモンの対をなすこの二つの系列は進化の早さからも重宝される存在だ。
虫嫌いな人以外には、だが。
「スピアーだ!すごい!かっこいい!」
少年の趣味として昆虫採集が多いという統計に例外なく、サトシも昆虫にはそこそこの興味があるようだった。
キャタピーとビードルを捕まえたのも、きっとそのあたりの心理が働いていたものだと思われる。
なにはともあれ、きちんと戦闘できる戦力が二匹に増えたのは喜ばしいことだ。
あともう一匹くらいいるとよいのだけど――――
と考えようとして足元を見ると、地面からひょっこり頭を出してサトシを見つめるつぶらな瞳。
アミダクジのような模様を背中に持ち、モソモソと地面を掘り進める愛らしいポケモン、サンドがそこにいた。
「サンドだーーー!かわいいいーーーー!」
「ピピッカチュ」
次に捕まえるポケモンが決まったようだ。
ピカチュウも同意なのか、放り投げようとは今のところしていない。
この黄色いでっかいのも随分サトシに馴染んだものだ。
むやみやたらに自分勝手に行動することは減ってきた、ような気もしないでもない。
サンドはモソモソと地面から這出し、よいしょよいしょという言葉が似合いそうな動作をしつつ、ようやく全身を地上に出した。
「サンドー」
「ようし!まずは弱らせるぞ!いけ、スピアー!」
「スピーア」
進化したてホヤホヤのスピアーをそのままバトルに投入。
スピアーも張り切っているようだ。
―――――――――――――――――――
夕方―――
「はい、モンスターボール四つ、お預かりします。」
「お願いします。」
ポケモンセンターでポケモンを預ける。
無事にゲットしたサンドを合わせて、手持ちのポケモンはこれで五匹になった。
バトルをしていないピカチュウはサトシの横に残り、効果があるんだかないんだかわからない服を着こなし、周囲の人の視線を釘づけにしている。
目を奪われて、というよりかは何か大変なものを見てしまったという驚愕の目ではあるが。
そんな視線も慣れたもの。
平然とした佇まいでサトシもピカチュウも壁際で自分が呼ばれるのを待っていた。
有名人は有名であることを自覚すべき。
サトシは弱冠十四歳にして「見られる事」に慣れてきたのだ。
羨望の眼差しではなく、奇異の目であることは遺憾ではある。
別に見られることに快感を覚え始めた、などと不思議な性癖に目覚めることもなく、トキワシティニビシティに続きまったく同じ顔の受付のお姉さんの呼びかけを待つ。
「サンドは地面タイプ。つい勢いで捕まえたけど水が弱点だとカスミとは相性が悪いか。でも、単純にタイプで相性が図れないところもあるんだよね・・・」
タケシ戦では、水に弱いはずの岩タイプはなみのりを受けてもほとんど影響がなかった。
そして岩に弱いはずのピカチュウが戦えていた。
「タイプの相性は戦い方で補う、か。サンドも役に立てるかもしれない。」
まだまだ何の糸口も見えないカスミ戦。
本人と対面もしていないのに対策もなにもないのだが、とてつもなく強い水タイプとどう戦うのか、くらいは考えても損はないだろう。
本来であれば電気タイプのピカチュウだけで一網打尽にできるハズなのだが、それはそれ。裏の住人同士のバトルに想像は役に立たない。
現にタケシさんから忠告を受けている。決して無視はできない。
うーん、と悩んでいると受付から呼ばれ、一旦考えるのをやめて自分のポケモン達を取りにいった。
―――――――――――――――――――
外にでるとハナダシティはすでに暗くなっており、家々から漏れる照明の光と、道を照らす電灯が街並みをまばらに照らしていた。
「・・・ホームシックじゃないよ。さみしくなんてない。そうだよね、ピカチュウ。」
「ピッカ?」
まだ長期間とはいえないほどの旅路。
しかしその期間も、こと少年となっては意味合いが違う。
若い時期の日々から得られる経験値は非常に多い。
それゆえ、一日の時間が長く感じられるのだ。
サトシも当然いろいろな思いを感じており、その中に故郷のことも含まれる。
この年までマサラタウンを出ることはほとんどなかった。
身の回りにいた人が遠く離れていく感覚に寂しさを覚えるのは通常の反応。
むしろ、これが本来の少年の在り方。
家出少年は一週間と家に帰らない時間を過ごすことは困難なのだ。
サトシも強がってはいるが例外ではない。
しかし母親に会いに戻るわけにもいかない。
ということで
『おおーおサトシィ!ホームシックにでもなったかな?』
「・・・・・・・・・・・そんなことないです」
近くのベンチに座り、心の慰みにオーキド博士に連絡をする。
まんまと自分の思考を読み取られたことに顔をしかめるが、言葉だけでも反抗しておくのはまだ少年だからか。
『そうかそうか。では何の用事かの?』
「・・・そうですね。最近の報告でもしようかなと連絡しただけです。」
『ほほう、興味深いのう。ちょうど今紅茶を入れたとこなんじゃ。話しておくれ。』
オーキド博士の配慮に心の中で感謝する。
今はいろいろと話し相手が欲しい。
「はい。いろんなことがありました―――――」
夜風に吹かれながら故郷の人物と会話する。
多少は気も紛れるだろうか。
明日からは本格的に捜索を始めよう。
新しい仲間と共に。