ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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みじかめ


第四十三話 血の匂い

 温度も湿度も上がる。

 サトシの額にじわりと浮かぶ一滴の汗。

 

 フィールドを取り囲む観客席から溢れ出る歓声という狂気の波。

 温度と共に高まるその波は、耳だけでなく感情も支配していく。

 

 気持ちが高まり、理性の制御ができなくなる。

 感情の赴くままに声を発し、腕を振り上げ、床を踏みつける。

 

 その中にいるサトシも、例外ではない。

 感情の制御ができなくなりつつある。

 ただし、喜でも楽でもない。

 サトシを支配するのは狂気に対する嫌悪と、カスミに対する恐怖。

 

 カスミは殺すと言った。恨みも無く、動機も無い。

 ただただ楽しむため。自分の性癖を満足させるためだけに、殺す。

 

 このショーは、観客を喜ばせるためだけのものではない。

 あくまで、カスミ自身の欲求を効率良く解消するための催しごとなのだ。

 

 カスミの発言は、その表現を確信とするに等しいものだった。

 

 じっくりと浸み込む闇の空気を吸い込むと、カスミは歓声に満足したのか動き始める。

 

 

「いくわ。ヒトデマン、スピード――――」

「させるか!フシギバナ!『やどりぎのたね』!」

 

 ヒトデマンに行動させる前に対策をする。やどりぎのたねは徐々に相手の体力を奪う技だ。

 通常であればその吸い取る量は微々たるものだが、果たしてトーピングポケモンになるとどうなるのか。

 

 

「バナーーー!!」

 黒く巨大な花が開き、ヒトデマンに向けてピンポン玉のような、これもまた漆黒の種を撃ち出す。

 

 いや、おそらく打ち出したのであろう。

 歓声にかき消されて音は聞こえないため、必然的に視覚に頼った見学になる。

 しかし、打ち出されたはずの種は全く見えない。

 一瞬不思議に思ったが、次の瞬間にはヒトデマンの足元と、星形の端の一部が粉々に吹き飛んだ。

 

 さらにその攻撃は物理的な破壊力だけではなく、副次的な効果をもたらす。

 粉々に吹き飛ばした足元と胴体から、一瞬で太く頑丈な蔓が伸びあがり、ヒトデマンに絡みつく。

 

 いままさに動こうとしたヒトデマンは出鼻を挫かれ、その場でバランスを崩す。

 さらに勢いを増す蔓の群れ。

 ヒトデマンの体力を吸い取る魔の手は身体の半分を覆う勢いだ。

 

 

「フシギバナ!ソーラービーム!!!」

「バナアア!!!」

 

 

 動けなくなったヒトデマンを確認し、これ以上のチャンスは無いとばかりに草タイプ最強の一撃を繰り出す準備を始める。

 ここは地下のため、照明は強いが太陽光は当然はいってこない。

 ドーピングによって短縮化されているとはいえ、数秒のチャージ時間がある。

 

 それでも、強力なやどりぎのたねによって束縛されたヒトデマンには成す術など無い。

 ソーラービームの破壊力は誰もが知るほどの威力。

 直撃すれば跡形もなくなる程だろう。その威力を信頼し、殲滅できると確信しているからこそ、ここで数秒の時間を消費しても良いと判断した。

 

 当たれば勝てる。

 カスミに一矢報いることができる。

 

 ノボルの鼓動は過去最高の速さと音を出しているようだった。

 ソーラービームが放たれるまでの数秒。

 

 ここまで長い数秒が過去にあっただろうか。

 緊張感から笑みすら出てくる。

 これでヒトデマンを倒せる。

 もうすぐフシギバナのチャージが終わる。

 それで終わりだ・・・!

 

 悲劇で顔が歪んでいるだろうか。そんなことを少しだけ期待してカスミの顔を見上げる。

 

 ・・・?

 

 

 笑顔だ。

 

 

 カスミは笑っている。

 しかも、先ほどの紅潮した顔よりも、もっと甘く、甘美なものをみるかのように。

 笑みというよりも、歪み。

 興奮し、息があらく、耐えきれないという風。

 

 すべての感情が高まりすぎて、かわいい顔が歪んでいるようだ。

 

 

 あと少しでソーラービームが放たれる。それなのに、あの顔は一体なんなのか。

 一体・・・・・――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒトデマン、『バブルこうせん』」

 

 

 

 

 

 

 

 ヒトデマンの前に、急速に回転する泡が一つだけ生成される。

 泡は一気に膨れ上がり、その大きさは一メートルを超える巨大な球体になった。

 

 虹色に光を反射する巨大な泡。

 不気味にぐるぐると回転する球体が、途端消えた。

 

 

 そして次の瞬間、フシギバナの顔が消えた。

 

 フシギバナの後ろにいた、ノボルというトレーナーも、頭部と、足の膝から下を残して、跡形も無く消えた。

 

 

 

 静まり返った会場に、ボトリ、という頭が落ちた音が響く。

 頭部から臀部まで直径一メートルの穴があいて空洞になったフシギバナが、その大きな漆黒の花を支えることができなくなり、崩れ落ちた。

 

 

 

 その光景を、興奮のあまり立つことすらできなくなったカスミが、地面に膝をつき、自分の身体を抱きしめ、震え、顔を真っ赤にしながら眺め、こう言った。

 

 

 

 

「ああ・・・・さいっこう・・・・・」

 

 

 

 

 

 

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