ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第四十四話 不幸の使者

 数秒の静寂の後、会場は再度熱狂に包まれた。

 

 やったぜ!第一の犠牲者がでたなへっへ!みろよあの様!カスミ様のバブル光線は最高だ!ビビったまま死んじまったな!綺麗に穴空いてるぜフシギバナ!マジ笑える!!死んだ死んだ!歓喜に震えるカスミエロい!ああーたまんねえ!

 

 ――――――

 ―――

 

 

 

 何も耳に入ってこない。

 

 フィールドでは、朽ちていくやどりぎのたねをまとったヒトデマンと、振るえる自分の身体を包み込むように抱えるカスミと、血をびゅーびゅーと吹き出すノボルのものだった頭部と、大きい漆黒の花が、それぞれの存在を主張している。

 

 サトシは、人が目の前で死ぬ瞬間に立ち会うのはこれで二度目のことだった。

 トキワの森のキャタピー使い、虫取り少年が一人目。

 自分の相棒、キャタピーに胴体をブチ抜かれ、内臓を草むらにばら撒いた。

 

 そして二人目。

 フシギバナごとヒトデマンのバブル光線にまきこまれ、粉々に弾け飛んだ。

 消えたとしか思えない程、粉々に。

 

 バブル光線とはまさに対象をバブルのように弾けさせる攻撃のようだ。

 直撃を受ければ、誰であろうと助からない。驚異的な技であるとともに、カスミの代名詞的な技。

 

 

 会場の観客は、これ以上の娯楽はない、とばかりに叫び、笑い、中傷し、貶している。

 ノボルというトレーナーが二十メートルの綱渡りから落ちたピエロであるかのように、その存在そのものを滑稽だと笑っている。

 

 サトシにはそれが、何よりも気持ち悪く、許せないことだった。

 裏の世界に入った。

 確かに、結果だけみたら命のやり取りを前提としてこの世界にいるのだろう。

 ヒロミツも、ノボルも、自分も、そういう意味では全く同じ。

 

 境遇は違えど、立場は同じ。

 ゆえに、いつだれがノボルのようになるかはわからない。

 

 

 サトシは再度味わう死の匂いを感じ、吐き気をもよおし、口を押えその場に座り込んだ。

 おいおい、大丈夫か?と声をかける男性を無視し、この空間そのものに嫌悪感を抱いたサトシは、一刻も早くこの場を去りたかった。

 

 もう駄目だ、カスミのバトルを見ようと思ったが、これ以上は無理・・・―――

 自分の精神が持たない。

 このままだと発狂してしまう。人とポケモンの死に近づきすぎている。

 

 ピカチュウを連れて、もうこの会場を出よう。うん、それがいい。

 

 

 

 ここまで考え、ふと気づいた。

 

 

 

 こういうとき、真っ先にサトシの心配をしてくれるピカチュウの気配がない。

 いや、心配してくれているかはわからないが、少なくとも近くにはいつもいた。

 あの大きな手も、すべてを安心させてくれるポーカーフェイスも、傍に無い。

 

 吐き気がありつつ、顔を上げて周囲を見渡す。

 すぐにでも見つかりそうな黄色い巨体が、見つからない。

 

 サトシの座席にうず高く積まれたお菓子の山も、そのままだ。

 

 動悸が早まる。

 ピカチュウが、無断でサトシの元を離れるときは、大抵厄介事になってはいなかったか。

 タケシの件、コイキングの件、両方ともかなりサトシにとっては致命的な行動に他ならない。

 結果だけみればうまくいったと言えるかもしれないが、それは偶然だ。

 こんなことがずっと続いたら命もお金もいくらあっても足りない。

 

 バクバクする心臓を無理やり押さえつけ、サトシは吐き気を押えながらフラフラと立ち上がり、もっとよくピカチュウを探そうと歩きはじめようとした。

 

 バトルの前までは居た。

 バトル中は集中していて、まったく周りが見えていなかった。

 そのことを悔やみながら、ピカチュウを探す。

 

 

 その時、フィールドのマイク越しにカスミの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「あなたは誰のポケモンかしら?」

 

 

 

 

 と、少々の驚きを孕んだ声で誰かに話しかけていた。

 

 

 再度静まり返る会場。

 

 カスミの視線の先。

 まだ会場の照明が届かないバトルフィールドの入口から、のそのそと何かが出てきた。

 

 静まり返った会場に疑問を抱いたサトシも、その視線の先を追う。

 

 

 

 黄色くて、膨れ上がった筋肉の鎧を抱く、ニッコリとしたポーカーフェイスをもった、先ほどまでポテチを食べていたサトシのピカチュウがそこにいた。

 

 

 

 

「え、は?」

 

 

 

 毎日みているその姿。

 見間違えようハズが無い。

 仮にドーピングされたピカチュウが他にいたとしても、人型にはならないハズだ。

 オーキド博士も言っていたではないか。

 あれば突然変異的に変化したと。

 

 あのピカチュウは、間違うことなくサトシのピカチュウだ。

 

 

 そのピカチュウが、なぜか主人の元を離れ、カスミのいるバトルフィールドへひょっこりと顔を出した。

 何がどうなっているのか全くもって理解できない。

 わかったことといえば、ピカチュウがまた厄介事をサトシの元へデリバリーしてくれたということだ。

 

 観客達の表情は様々だ。

 唖然としている者、これから何がおきるか興味深々の者、ショーの邪魔をするなとイラつき顔の者、カスミがどう出るか楽しみにしている者。

 

 カスミ自身もこの展開は予想していなかったようで、先ほどまでの恍惚の表情を少し抑え、黄色いポケモンの出方を伺う。

 

 

 

 

「・・・・――――-!!おじさん!あそこにはどうやっていくの!?」

 

 観客同様に唖然としていた男が、サトシの声に反応して自分を取り戻す。

 

「え?あ、ああ、そこの扉の、Bの階段を降りればいけるぜ―――ってか、おい、どうなって・・・」

 

「ありがとうおじさん!」

 

 男性の言葉を最後まで聴くことなく、サトシは駆けだした。

 余計なことをする前にピカチュウを止めなければ。

 すでにしでかしてしまってはいるが、今はショーの真っ最中。

 ポケモンのトレーナーがイレギュラーを謝罪すれば、いったんは事が収まるハズ。

 

 甘い考えかもしれないが、このままピカチュウがやらかしてしまうよりも、時間が稼げるはずだ。

 あのヒトデマンは危険だ。タケシも強かったが、あれとはまた別の強さを持っている。

 それに作戦も何もない。

 というかああああもう!なんで勝手にこんなことするんだああああああ!!!!!!!!

 

 

 叫びたくなる衝動を薄皮一枚で我慢しながら、サトシは全力で階段を降り、フィールドへ続く道をただひたすらに走った。

 

 

 

 そして、ピカチュウの元へたどり着いたときには、手遅れだったと痛感することになった。

 

 

 

 

「あなたがそのピカチュウのトレーナーね?いいわ、相手してあげる。こういうイレギュラーに対応するのも、エンターテインメントの面白いところだと思うわ。」

 

 

 

 サトシが息を整えている間に、いろいろと言われてしまった。

 観客が沸き上がり、状況的に何か言い返すわけにもいかなくなってしまった。

 言い返したところでピカチュウは戦う気満々のようであったが。

 

 

「ふふ、ねずみポケモンであるピカチュウが人型になるなんてね。どういう育て方をしたのかしら―――いじめがいがありそう・・・!」

 

 

 ああーーー完全にスイッチはいってるよこの人。

 やるしかないのか。

 

 

 

「いきなさい、ヒトデマン!さんざん苛め抜いて、穴だらけにしてあげましょ!!あはは!!」

 

 




やはりやらかすピッカピカ。
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