ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第五十一話 カスミのスターミー

 場所を変えての三戦目。

 サトシに、先ほどの記憶が甦る。

 

 バブル光線によって身体が消え去ったフシギバナとトレーナーのノボル。

 そんな残虐なことすら恍惚の表情で実行するカスミの性格。

 自身のバトルに絶対的な自信を持つが故に、負けた時にはそれ以上の戦いをやめてしまう。

 

 カスミは無理なバトルはしない。そして、圧倒的な力でねじ伏せられないバトルにおいては興味すら無い。

 

 バトルが好きなのではない。勝つのが好きなのだ。

 戦うならば捻じ伏せる。カスミが戦うと決定した時点で、相手は負けることが決定しているのだ。

 

 そう、思考の根底から考えてしまうほどにカスミは強く、追い詰めるトレーナーも過去存在していなかった。

 

 つまり、初めての経験。

 カスミを追い詰め、戦うことを放棄させてしまうほどの相手。

 一度は放棄した。

 勝つことができなかったために興味を無くした相手ではあったが、なかなかに面白い人間のようだと、再度興味を持った。

 

 であれば、戦う。

 戦って捻じ伏せる。

 カスミにとっての興味とはそういうことだ。

 

 しかも普通に戦って勝っても収まらない。

 相手は二度、カスミを破っている。

 しかも一度は本気でやったにも関わらず、だ。

 

 普通に勝っても、そればかりは納得がいかない。

 それすらも帳消しにするくらいの勝ち方をしなければ。

 相手に負けを認めさせなければ。

 

 カスミが、カスミとして存在できる条件を満たすには、それしかない。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「いくわよスターミー。久しぶりの、手加減無し。力の差を散々見せつけて、完膚なきまでに叩きのめしなさい。」

 

「フゥーン!」

 

 

 

「ピカチュウ、相手は未知数だ。でも、ピカチュウなら勝てると信じてる。」

 

「ピッカー」

 

 

 

 審判もいない。

 観客もいない。

 バトルスタートの合図が鳴り響くこともない。

 

 それでも、バトル開始の合図はトレーナー二人には不要だった。

 極度の緊張感が生む二人だけの空間には、阿吽の呼吸ともいえるお互いの理解があった。

 

 

 数秒の時間が流れる。

 キーンと耳鳴りがする程の静寂。

 トレーナー同士、ポケモン同士でにらみ合う。

 

 永遠に続くとすら思われた無音の空間。

 その空間が、裏のトレーナー二人によって断ち切られる。

 

 

 

「ピカチュウ!―――――」

「スターミー!―――――」

 

 

 

 

「「『十万ボルト』!!!!!」」

 

 

 

 

 サトシは驚きの顔をし、カスミは獰猛な笑顔を浮かべる。

 

 水タイプであるスターミーが電気タイプの十八番である十万ボルトを放った。

 

 ポケモンの中には、自分の弱点となるハズの技を覚えることができる種類がいると聞いたことがあるが、スターミーはその中の一体のようだ。

 

 二体のポケモンから放たれる不規則な軌道を描く光の猛威。

 電撃は互いに交差し、打ち消し合い、壁や地面を削る。

 目を開けるのが困難な程に光を発する自然の脅威。

 数秒間にわたって打ち付けあった電撃は徐々に消え、空気がところどころでパリパリと弾ける音を残して完全に消えた。

 

 

 それが合図とばかりに、二体のポケモンが動き出す。

 

 

 

 ピカチュウの技はすでにカスミには知れている。

 ニョロボン戦ではまだ未知であったため戦略に盛り込むことができたが、すでに知られてしまっている現状において隠すことに意味はない。

 

 相手に隙を見せず、速攻で撃破する。

 それが最善の策であると、ピカチュウは判断したようだ。

 

 前に出た次の瞬間、ピカチュウの姿が消えた。

 

 

『こうそくいどう』

 

 

 ピカチュウの切り札ではあるが、ここに至っては先手必勝のための技。

 最初に切り札を出すというのも立派な戦略であり、実践でも通用する。

 

 実際、虚をつかれたスターミーは身動きが取れずに、懐に入ったピカチュウに反応ができなかった。

 

 

 身体を横に一回転させ、尻尾をスターミーに叩き付ける。

 ピカチュウの肉弾戦でメインとなる技『たたきつける』だ。

 

 

 星形の身体では防御することもできず、直撃を受けて床に激突し、勢いそのままに数度回転して、カスミの数メートル前で着地した。

 

 

「あれ?当たった?」

 

 

 サトシの疑問も最もだ。

 ピカチュウの切り札とはいえ、一度カスミの目に触れている。

 カスミ程のトレーナーであれば、初見ではない技への対策などあっという間にしてしまうハズだと思っていた。

 

 それが、命中した。

 しかもその攻撃に耐えるわけでもなく、その幾何学的な身体を地面に激しく打ち付け、身体にヒビを入れている。

 

 

 裏のバトルにおいて打撃の直撃は致命傷になることが大半だ。

 それを素直に受けることなど考えられるだろうか。

 

 

 サトシが考えていると、カスミはニヤリと笑みを浮かべる。

 それと同時に、スターミーを淡い光が包み込む。

 

 今まで見たことのない光だ。

 

 そんな感想を持ったサトシも、次第に苦い顔に変わる。

 

 

 

 スターミーの身体に走っていたヒビが、消えていた。

 

 

 

「『じこさいせい』よ、初めて見たかしら?」

 

 

 笑顔のカスミがご丁寧に説明してくれる。

 なるほど。つまり、一撃で倒すか、回復する隙を与えずに倒さなければならないということか。

 

 やはり、一筋縄ではいかないようだ。

 先ほどの攻防は、わざと受けたのだろう。

 

 完膚無きまでに倒すというのは、メンタル的なものも含まれているらしい。

 真綿で首を絞めるかのように、徐々にサトシとポケモン達を追い詰めていくようだ。

 

 

「でも、負けない!」

 

 

 負けるわけにはいかない。

 なによりピカチュウは、負けることなど微塵も考えていないだろう。

 

 それを信じ、サトシは作戦を考える。

 

 

 スターミーの回復が終わり、再度二体のポケモンが動き始める。

 

 

 ピカチュウが再度、高速移動で接近しようとすると、今度はスターミーが先手を打つ。

 

 

 それは高速で飛来する弾丸の雨。

 一つ一つが肉を切り裂き骨を削り飛ばす威力を持った塊。

 星形のそれは、鋭利な形状を持ちながら物理法則を無視したかのように飛翔し、対象に殺意を振りまきつつ防ぎようの無い理不尽な暴力として迫り狂う。

 

 

『スピードスター』

 

 

 本来はそこまで強力な技ではない。

 単純にそこそこの威力で命中率が高いという安定した性能を持つノーマルタイプの技。

 先ほどヒトデマンも使用していた技でもあるが、その時も通常のスピードスターよりもある程度スピードと威力が上がっているな、程度の感想しか持たなかった。

 

 しかしこれはどうだ。

 

 スピードスターというよりも、弾雨。

 数も、速さも、威力も段違い。

 遠距離でここまでの破壊力の弾幕を張れるポケモンがこれまでにいただろうか。

 一度でも当たれば継続して何十発もの星形の弾丸を食らうことになり、必然的にタダの肉塊に成り果てる。

 

 ガトリング砲とでも言った方がまだしっくりくる程の物理破壊力を持った攻撃。

 

 

 カスミのスターミーは、近距離で負ったダメージは自己再生で回復し、後は徹底的に相手を制圧し続ける、遠距離特化型に仕上げてあった。

 

 

 まさに砲台。

 物理も特殊も搭載した殺戮兵器。

 

 カスミが絶大なる信頼を寄せることも納得できる。

 このスターミーはそれほどまでの制圧力を誇っていた。

 

 

「ねえサトシ―――」

 

 

 弾幕を辛うじて避けているピカチュウを嬉しそうに眺めながら、カスミが口を開き、ゆっくりとつぶやく。

 

 

「もっと、楽しませてネ?」

 

 

 

 ・・・ああー元に戻ってる。

 

 先ほどのショーを彷彿とさせるカスミの表情と言動に、文字通りげんなりとするサトシであった。

 

 




スターミー っ ょ ぃ
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