カスミは、恵まれた子だった。
四姉妹の末っ子として育ったカスミは、何の不自由もなく、何に困ることもなく順風満帆に成長していった。
姉妹揃って才能に恵まれた上に容姿も美しく、物心つく前からポケモンに触れていたために、姉妹達は十代のうちにエリートトレーナーとなり、三女に至ってはハナダシティのジムリーダーとして抜擢される程だった。
そんな姉妹をみて育ったカスミも、当然自分も優れたトレーナーになるのだと信じて疑わなかった。
同年代はもとより、カスミは大人とのポケモンバトルにおいても勝率がかなり高く、姉妹にも褒められ、大人にも天才児として大事にされ、自分はすごい、自分は優れている、自分は何をしても許されるのだと考えるようになっていった。
姉たちがそうであったように、カスミもその美貌を徐々に開花させていき、美少女という立場を容易に手に入れた。
自分の姉妹が自慢だった。
自分自身も自慢だった。
自分に悪いようにする人間などこの世に存在しない。そう思っていた。
「きみ、かわいいね。モデルに興味ないかな?おにいさんはタレント会社の社長なんだ。一緒にきてくれたら、もっとかわいくしてあげられるよ。さあ、一緒にいこうよ。」
疑う心を知らないカスミは、もっとかわいく、美しくなれると聞いて、ついていった。
連れていかれた場所は、地獄だった。
カスミが後にショーを行う場所よりも、もっと深い地下。
ほんの十メートル四方程度の、会場というよりもちょっとした応接間のような、だだっ広い空間。
そこに、カスミと同じくらいの少女達が目隠しをされ、猿轡をされ、両手を縛りあげられ、大人の男と一緒になってダンスを踊っているように、裸になって激しく動いていた。
ムチで叩かれている子、おしっこをかけられている子、ぺろぺろと身体をなめさせられている子、柱に結びつけられ、死んでいるのではないかと思えるほどに脱力して膝をついている子。
裸の大人の男たちと、自分とそう変わらない少女たちが入り乱れて、ひっかきまわされ、よだれと涙となにか粘液のようなもので塗れていた。
茫然と立ち尽くしていると、さきほどのおにいさんが力任せにカスミの腕を引っ張り、着ている服を引きちぎった。
悲鳴を上げる。
しかし、助けてくれる人間はここにはいない。
あっという間に裸にされ、乱暴にキスをされ、全身を弄られる。
ウソツキ―――
私って、よわいの?――――
力がないの?――――――
力があれば、何をしてもいいの?――――――
おしえてよ。おにいさん。
力の強いおにいさん。
優しい言葉は全部ウソ?
おしえてよ、おしえてよ、オシエテッテバ―――――――――
「あーー、すげえいいよ。きみ。ああ名前きいてなかったね。まあいいか。」
数時間が経過しただろうか。
カスミも、その他の少女たちも力を使い果たし、散らかった服の上に倒れるようにうつぶせにくるまっていた。
カスミは何も考えられなかった。
ただ一つのことを除いては。
力が、すべて。
強い人は、何をしてもいい。
ぐるぐるとまわっていたその思考が、ようやく自分のものとして認識し始めたカスミ。
ぐしゃぐしゃになった自分の服を見つけ、満足げにタバコを吸っている男の目を盗み、ポケットから一つのモンスターボールを取り出す。
強ければ、何をしてもいい。
力があれば、すべてが許される。
優しい言葉は、みんな嘘。
無言でモンスターボールを転がし、赤い光と共に自分のポケモンが出てくる。
さすがに気づいたのか、大人の男たちは光の発生源の方へ振り向く。
「スターミー?こんなとこでなにして――――」
「バブルこうせん。」
男を泡が包み込む。
大量に生み出された泡が、その場にいる男全員を封じ込める。
すでに声も聞こえない。
人を破壊する威力は無いが、水で閉じ込めてしまえば、息はできない。
男たちはしばらく泡の中でもがいていたが、しばらくしたら一人、また一人と動かなくなっていった。
「バブルこうせんバブルこうせんバブルこうせんバブルバブルバブルバブル――――――――――しんじゃえ」
泡が一斉に割れ、息をすることが無くなった大人の肉体が、力なく床に倒れこんだ。
服にくるまった女の子たちがすすり泣く声だけが、唯一聞こえる部屋。
一糸まとわぬ姿の美少女は、自分が唯一信頼できる相棒とその場に立ち尽くしていた。
その光景は、芸術作品のように美しく、儚い姿だった。
一部始終をカメラがとらえており、それを見ていた男がいる。
「ほほう、趣味の悪いことをする馬鹿を見張っていたが、思わぬ収穫だな。いい闇の色に染まるだろう。」
男はニヤリと笑い、席を立った。
―――――――――――――――――――
その後、ドーピングの力を躊躇無く受け入れ、裏の世界に名前を轟かせていく。
誰にも心を許すことなく、力をもってすべてを蹂躙していく。
ジムリーダーであった三女も、裏の事情は把握していたが、カスミの名前が広まっていることを知ったときにはすでに手遅れであった。
しかし、正しくあり続け、勇猛果敢で優しい心をもったカスミの姉は――――
カスミに、『優しい言葉をかけた』のだ。
―――――――――――――――――――
「あの、カスミさん?」
「・・・わかってる。負けたんだもの。約束は守るわ。」
バトルが終わって緊張感がある程度ほぐれたのか、涙ぐんだカスミを見て再度ドキドキと鼓動が早まり顔が赤くなるサトシ。
そんなサトシを見て、やれやれとでもいわんばかりにピカピカ言っているピカチュウと、作戦成功を喜び合っている三体のポケモン。
バトル前となんら変わらない姿でビチビチと水際で跳ねているコイキング。
なんとも言えない空気の中、カスミの言葉を待つ。
一向に動く気配のなかったカスミだが、グシグシと目を擦り、顔を上げて立ち上がった。
あ、目の周りが赤くなって涙の跡が・・・って気にしてる場合じゃない。
「受け取りなさい。」
カスミがサトシの方に何かを放ってきた。
あわてて受け取るサトシ。
「あ、これは―――」
「ブルーバッジよ。他の賞品は―――ちょっと保留。どちらにしてもここには無いわ。」
少し顔を赤くして話す。
気にしないようにして、無言でうなづく。
「でも、どうしようかしらね。ここに入る手段はないから、ここにいる間は安全。でも、出たらどうなるかな。」
「あ―――」
そうだった。
先ほどの暴動。
時間的にはまだ深夜ではあるが、先ほどの男達はジムの入口を包囲しているのではなかろうか。
当然、ショーのあった会場への通路も。
もしも外に出られたとしても、見つかったらどうなるかわからない。
というか、僕自身も危険だ。
カスミを逃がした張本人なのだから。
「まあ、私は負けたんだから、どうなってもしょうがないんだけど。」
もうどうでもよくなったのか。
プールサイドに腰かけ、足をばたつかせて水を蹴り上げている。
スターミーも一緒だ。
しかし、サトシはここで旅をやめるわけにはいかない。
なにかいい方法がないか。
「――――これしか思いつかない。けど、まずは外にでないと。」
「何かおもいついたの?」
興味なさげにカスミが顔をあげて訪ねる。
「ここから出られる?」
「一つだけ、裏道に続く出口があるわ。本来は向こう側からの一方通行だから、ある場所までは見つからずにいけるわ。」
「ある場所って?」
少し嫌そうな顔をして答える。
「マサキのとこ。」
「あ、そこ。」
予想以上に予想外な答えが返ってきた。
これから向かおうと思った場所に続いている道があるという。
サトシにとっては都合のいい展開なのだが、カスミはあまり乗り気ではないようだ。
「マサキを知ってるの?」
「そりゃね。パソコンの点検とか、設備のメンテナンスとか、いろいろと出入りしてるわ。」
なるほど確かに。
中立でなければ成り立たない職業ともいえる。
「あいつ苦手なのよ、私。」
「僕も苦手。」
どうでもいいところで意見が一致する。
その展開に、お互いにクスリと笑顔が漏れる。
「しょうがないわね。いくしかないし。」
カスミのしてきた行動を考えると、受け入れがたい性格を持っていることは承知している。
人もポケモンも平気で殺すし、相手をいじめることに快楽を覚える。
そんな相手をそばにドキドキしている自分は、異常者なのだろうか。
ふと頭をよぎった考えは、いきましょ、というカスミの言葉に打ち消され、若干のモヤモヤを残しつつ、サトシとカスミはマサキの元へ歩き出した。
かなりハードな過去のカスミさん。
ほんとに作者はカスミが好きなの?と疑問視されそうな内容ですが、安心してください。大好きです(ゲス顔