これはオーキド博士がドーピングアイテムの研究に勤しんでいた時のお話。
ドーピングを行うことでポケモンがどう変化するかをつぶさに観察し、まとめていた時期。
博士も特に罪悪感などなく、研究者という立場でガンガンドーピングを使っていた狂気の時代である。
助手のタツロウと共に今日も今日とて生物実験に没頭する。
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「オーーーキドはかせー」
ガチャリとドアを開けて研究室に入ってきたタツロウ助手。
今日も今日とて破滅的で壊滅的な生物実験が行われるのであるが―――
「はかせ?」
実験室にいたのはオーキドではなく、天井一杯まで巨大化したコダックだった。
茫然とするタツロウ。
ついに失敗したのかとか、巨大化させすぎてつぶされたのかとかいろいろ考えたが、至った結論は―――
トテトテと近づいていき、近くにあったパイプ椅子を両手でつかみ、思いっきりコダックの頭を振りぬいた。
ゴガンッという音と共に、コダックの頭が首からずれて、床に落ちて転がる。
「はかせー、でてきてくださいー」
タツロウの気の抜ける声に続くのは、いつもの元気な笑い声。
「ガッハッハッハ!ばれたか!イスを振りぬくのが見えて首をひっこめるのが間に合ってよかった!ポキッと逝ってしまうところだったわ!」
「これなんですかー?」
タツロウが動じずに質問を投げかける。
まあ、なんとなく予想がついているものではある。
「これか?ロボットアニメをみておったら、なんとなく巨大ロボットが操縦したくなってな!とりあえずコダックを巨大化させて、皮だけのこしてキグルミっぽくしてみた!結果は重過ぎてまったくうごけんかったがな!わはは!」
またしても一体、ポケモンの命がどうでもいいことで犠牲になったわけだが、そんなことはこの二人には関係ない。
いそいそと今日のドーピング実験をするために、準備を始める。
「実はタツロウくん。残念なお知らせがあってな。」
「なんでしょー」
「ポケモン管理部から勧告があってな。ポケモンを無駄に消費しすぎだそうだ。」
「なるほど」
「実験自体は問題ないのだが、ダーツ用ポケモンの調達が難しくなってしまった。」
「たいへんですー」
まったく重要なことではないのだが、さぞ致命的といわんばかりに力説するオーキド。
そしてそれに同調するタツロウ。
「というわけで」
「わけでー?」
「無駄にハイパーボールを大量に使って、ビードルを乱獲してきた。」
「わーい」
「久々にトレーナーの熱意が湧いたわ!ボール投げとっただけだがな!」
「これでいくらでもダーツできますねー」
「そうだな!そこででてくるのがこの機械!ばばーん!」
効果音を自分でいいつつ、カラーリングが青で統一された流線形の大砲のような機械を引っ張ってくる。
「これぞ!ビードル射出装置量産型RX-2αだ!」
「かっこいーです」
「威力は初期型を踏襲しつつ、爆発しないように回路を組み直した自信作!しかもコストが半分という驚異的な機械!これは売れる。」
「大繁盛ですー」
一体何に時間を使っているのだろうか。
しかし、ポケモンだけでなく機械工学、電子工学まで詳しいオーキド博士。
伊達に天才を名乗っていない。
その才能を一切活かすことができていないが。
いや、本人的には全力で活かしているつもりなのかもしれない。
「さああーあ!本日も!この!装置の!登場、だ!!」
「とうじょうですー」
すでに損傷激しく穴だらけなこの装置。
回転ダーツでポケモン決めちゃおう☆装置だ。
一度使ったポケモンの名前には穴があくので、同じポケモンを選ばなくて済むのは意外な利点だ。
「スイッチ、オンンンンン!!!!!」
「おんです」
ガチャリとスイッチを押すと、見慣れた装置が見慣れた速度で回転を始める。
ぎゃんぎゃんぎょんぎょんぎょんぎゅりんぎゅりんりんりんりゃりゃりゃりゃりゅりゅりゅしゅいーーーーーーーーーーんしゅああああああああああ
回転している最中に回転盤がとれたら、研究所が真っ二つになるんじゃないかと懸念されるほどの速度で回り始める。
「そして、ビードル射出装置起動!」
ゴウンゴウンと起動音がした後、準備完了の合図に青いランプが点灯する。
「発射ーーーーー!!!!!」
「ぽちっとな」
轟音とも爆音ともとれる衝撃が鳴り響く。
もうもうと湧き出る煙の中、確かに機械が爆発することはなかった。
なかったのだが。
ダーツ的にビードルが刺さっている。
それはいい。確かに成功だ。
だが、それだけでなく、研究室のそこいらじゅうに超速で発射されたビードルが刺さりまくっていた。
「おー!連射できるようにたくさん詰め込んだのだが、裏目にでたのう!またたくさん捕まえてこなければならんの!」
がっはっはと何事もなかったかのように笑うオーキド。
「ところでタツロウ君。本日はどのポケモンにあたったかな?」
「えーとですね」
タツロウがビードルの角が刺さっている部分を覗き見る。
「マダツボミですー」
「マダツボミか。なんだか想像どおりになりそうだの。」
マダツボミ
フラワーポケモン
人の顔のようなツボミを持ち、蔓状の細い身体で素早く動き回る。
「なんかこう、蔓がすんごい伸びてそこら中溶解液を振り撒くとかそういう感じじゃないかな。」
「おもしろそうですねー」
「とりあえずやってみるかな!さっそくポケモン管理部にいってきたまえ!」
「いってきますー」
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「いただいてきましたー」
「はやかったな!まだ三分しかたっとらんぞ!」
「なんかあきらめ顔でしたー」
マダツボミ程度ならもはや審査すらいらないらしい。
そこまでこの研究室が有名になってしまったということか。
よきかな。
「では早速!マダツボミに薬物注入!予想通りか予想を裏切るか!・・・タツロウくん、賭けんか?給料一か月分。」
「いーですよー。予想を裏切るに賭けますー」
「予想通りに賭ける!がはは!負けても奢ってやらんぞぅ!」
「たのしみでーすねー」
もはや突っ込みどころしかない研究室。
しかしこれでも平常運転。マダツボミはどうなってしまうのか。
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「給料一か月分でーすねー」
「ああ、それはまあ、かまわんのだが・・・」
口ごもるオーキド。
オーキドは蔓が際限なく伸び、溶解液をそこら中に飛ばしまくるみたいなものを想像していたのだが、結果はまるで違っていた。
蔓は、次から次へと生えてきている。それは間違いない。
しかし、生えてくる傍から溶けていっている。
マダツボミの口からは、マダツボミの頭のようなものがそのまま生えてきており、その口からさらに頭が。
マトリョシカのように連なった頭は、それぞれ溶解液のようなものを延々と垂れ流している。
連なった頭から延びている蔓は四方八方へ伸び、壁に天井に張り付き、蜘蛛の巣のようになっている。
しかし、下のほうに生えている蔓は、自分の出した溶解液によってドロドロに溶け、マダツボミの直下はすでに自分の出した溶解液と、溶けた蔓が混ざり合って沼のようになりつつある。
ある種、無限機関となっているマダツボミのようなもの。
こういった「根を張る系」に変化してしまう結果は総じて失敗と言えよう。
移動できないから。
「タツロウくん」
「はいー」
「植物に関するポケモンは、気色悪いな!」
「そうでーすねー」
「レポートに残したら、廃棄廃棄廃棄!」
「ひゃっはーです」
というわけで、なかなか成功パターンが生まれないドーピング実験。
オーキド研究室は失敗を生み出すためだけに存在しているとすら言われているが、タツロウのまとめるドーピングレポートはかなりしっかりした出来をしており、研究レポートを綴じた「オーキド研究室ドーピングレポート集」は研究所内で馬鹿みたいに購入されている。
もちろん研究に役立てるわけではなく、ネタとして。
面白楽しい恐怖の研究は、明日も続く。
来週も、下手したら来年も。