『Angel計画』
裏の世界において、ある考えを実現するために発足したプロジェクト。
その考えというのは、このような内容だ。
ポケモンはドーピングによって非常に強力な力を得ることができる。
岩をも砕き、津波を呼び、炎が舞い上がり、自然の脅威をその身体に宿す兵器だ。
その力をうまく使えば、世界を支配することすら可能であろう。
そう考えた者は多くいた。
ドーピングを利用して、力において蹂躙し、征服しようと考えた。
しかし、より深く考える者達は、いくら考えてもそんなことは不可能だという結論に達した。
いくつか理由はあったが、その中でも致命的だったのが、ポケモンと呼ばれる生き物達は、大半が自己判断で行動することができなかったのである。
当然、野生にいるポケモン達はその生態系に沿って行動するが、一度モンスターボールでつかまり、主人が刷り込まれてしまった状態においては、基本的には主人の言うことに対して絶対となる。
逆を言うと、命令なくして行動がとれない。
これが何を意味するか。
つまり、常にトレーナーが傍にいなければ攻め入ることなど到底できないのだ。
加えて、力だけあったところでそれを活かす方法を知らなければただの筋肉達磨。
岩を壊すだけであれば爆弾でも投げつければいい。
ドーピングポケモンは、その強力な力をバトル以外に使うための知識を持ち合わせていなかったのだ。
大半のトレーナーはこの時点で諦めた。
そして、裏のバトル自体を楽しむためにポケモンの強化を行っていった。
裏の世界とはいえ健全。
生き死にが掛かっているにしても、個人対個人。決して大規模な争いに発展することのない、あくまで健全な状態に落ち着いていった。
しかし、それで納得がいかない研究者がいた。
それぞれの能力ではなく。
知識そのものを強化できないかと。
人間のように行動し、人間のように会話し、人間のように智謀に長けたポケモンを生み出せないかと。
そう考えた。
それが、人間の知識と怪物の力を持つ禁断の技術を生み出す計画として始まり、その名前を『Angel計画』と名付けた。
―――――――――――――――――――
「ここまではええか、サトシくん。」
「えっと・・・・」
何やら新しい裏の世界の事情を知ってしまったらしい。
人間のような知力を持つポケモンを生み出す計画。
そんなバカげたことが研究されていたとは。
悪事というものは時に突飛な発想によって技術を開発してしまう。
無意味なものが大半であっても、ほんの一部が利用価値のあるものだと、そこから一気に派生してしまう。
しかし、ここまで旅をしてきてそのようなポケモンにはまだ出会っていない。
それぞれトレーナーがおり、その命令に従って行動をしていたように思える。
Angel計画なんていうものも初耳だ。
「・・・その計画は、失敗したんですか?」
「せやな。失敗したわ。そんなバカげたことが成功するわけあらへん。」
それを聞いてほっとする。
――――いや、まて。
失敗した計画をあらためてサトシに話したのは何故なのか。
軽はずみに物事を判断すると痛い目を見ることは痛いほどに体験している。
今はただの会話なので身の危険が脅かされるということはあるまいが、こういうときこそ思考を働かせなければ、いざというときに働かないものだ。
少し考えて、サトシはマサキに問う。
「――その計画は、すべて無駄になったんですか?」
「いや、無駄にはならんかった。少なからず、得られた技術はあったんや。」
「それはどんな・・・?」
「サトシくん。よぉーく、考えてみぃ。サトシくんは知っとるはずや。心当たりがあるはずや。」
そういわれて、サトシは意味はわからなかったが、とりあえず考えてみる。
心当たり?この計画について?
「人のように行動し、人のように考え、人のように自己判断する。そんなポケモン、おらんかったか?」
「人のように・・・・――――あ」
後ろを振り向く。
サトシの視線の先には、鼻提灯を膨らませながらスヤスヤと大の字で眠りこけている黄色い巨体の姿。
人のように食事をし、人のように行動し、人のように自己判断で行動する。
「ピカチュウ――――君は、一体、何ものなの?」
あまりに特徴が一致しすぎる、自分の相棒に対して、疑問を抱く。
今までは気にすることもなかった、ピカチュウの過去。
オーキド博士が話してくれたピカチュウの過去に、なにか隠されたものがあったのだろうか。
オーキド博士も知らない、ピカチュウに隠された事実がある?
オーキド博士は裏の事情については何も知らなかった。
ドーピングに関わっただけの研究者であるオーキドでは知らない、Angel計画という悪魔の研究。
その対象としてピカチュウが使われていた?
考えれば考えるほど、思考が反復する。
疑問が疑問を生み、解決することなくループし、さらに疑問は増していく。
「あいてっ」
ピカチュウを見ていたサトシの後頭部に軽い衝撃が加わる。
「落ち着けや、アホ。」
思考の沼に嵌っていたサトシを救ったのは、マサキのデコピンだった。
後頭部をさすりながら、マサキを見る。
「ワイはそこまで考えろなんて言うとらんわい。認識できたらそれでええ。次に進むで。」
どうやら話はまだ先があるようだ。
サトシは今の思考を一旦横におき、とりあえずすべての話を聴く姿勢を整えた。
「準備ええか?」
「―――はい。お願いします。」
ゆっくり深呼吸し、チラとピカチュウを一目みて、マサキの方へ向き直す。
「んじゃ、話すで。」
マサキの話は続く。
空は徐々に明るさを増し、朝と言ってもいい頃合いになってきた。
ちょっと短め。
これ以上はキリが悪くなりそう。