ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第六十話 早すぎる再会

「ど、どろぼーーーー!!!!」

 

 

 

 チラチラと大人の男に不自然に見られることに若干慣れ始めた時に、叫び声が聞こえた。

 表向きは治安の良いハナダシティにしては物騒な出来事だ。

 

 まあどこで誰のものが盗まれてもサトシには何の被害もないし、今目立った行動をするとあまりよろしくない状況にいるため、大人しく見過ごそうと判断することにした。

 

 

「ロケット団だーーー!!!誰か捕まえてくれーー!!!!」

 

 

 前言撤回。すぐに助けよう。

 

 駆け足で声の聞こえた家へ向かう。

 後ろについてくるピカチュウが、溜息交じりにピカピカ言っているのは無視し、声が聞こえた家の前に着くと、勢いよく扉を開けた。

 本来なら不作法にも程があるのだが、状況が状況なだけに誰も文句を言う人はいない。

 

 

「大丈夫ですか!!」

 

「おおお、わしの大切な技マシンが盗まれてしもうたんじゃ!奥の窓から逃げたんじゃああ取り返しておくれ!!」

 

「わかりましたーーー!!!いくよピカチュウ!!」

 

「ピカピカ」

 

 

 中にいたおじいさんの話を聴くや否や、すぐに窓から庭へ出る。

 そこには、オツキミ山で見た時と同じ、黒尽くめの服を着た男がいた。

 

 

 ドクン

 

 

 サトシの脳内に、オツキミ山での出来事が甦る。

 つい先ほど起きた出来事のように、鮮明に、生々しく、情景を浮かび上がらせる。

 

 目の前にいる黒服はあいつらではない。

 しかし、それでも仲間には違いない。

 

 ・・・わかってるよピカチュウ。わかってる。大丈夫だから。

 

 

「くっそ、追いかけてくんのはええな。とっちめてやる!」

 

 

 今は日中。繰り出してくるポケモンも、当然ながら通常のポケモンだ。

 とっちめてやるのはこっちだ、と心の中に復讐の火を燃やし、サトシも通常のポケモンで応戦する。

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「くっそ、くっそ、おぼえていやがれ!」

 

 

 テレビの中のような、よくある捨て台詞をいいつつロケット団の男は逃げていった。

 追いかけたい気持ちはあったが、予想以上に逃げ足が速かったのと、なにかディスクのようなものを投げ捨てていったのでそれを確かめる必要があったので、深追いはしなかった。

 ピカチュウがサトシの頭の上に手を乗っけていたというのもある。

 

 

 ともあれ、ロケット団は撃退した。

 個人宅の裏庭ということもあり、周囲に人目が無かったのは、不幸中の幸いだ。

 

 男が投げ捨てていったディスクを拾い、まじまじと眺めてみる。

 

 

「これが技マシンか。どうやって使うんだろう?」

 

 

 少しだけ小さいようにも感じるが、見た目は音楽CDと大差ない。

 円盤の表面に数字で「28」とだけ書いてある。

 

 

「あとでオーキド博士に聞いてみよう。」

 

 

 サトシは家に一度戻り、おじいさんに技マシンを返そうとしたのだが

 

 

「なに?ロケット団を追い払った?君がか??」

 

「ええ、まあ」

 

「そうかそうか!あの憎きロケット団を!君はポケモントレーナーだね?その技マシンは持って行ってくれてかまわんよ!」

 

「え!?でも大切なものなんでしょう?」

 

「大切なものじゃよ。じゃから、大切に使っておくれ。わしが持ってても使い道がもうないのでな。またロケット団に荒らされるくらいじゃったら、君のようなトレーナーに使ってほしいのじゃよ。」

 

「そうですか――――ありがとうございます!」

 

 

 初めての技マシンを手に、まじまじと眺めるサトシ。

 お礼をいいつつ、大事にカバンの中にしまった。

 おじいさんにこれから町を出る旨を伝えると、そのまま庭を越えていけば町の外周に出られることを教えてもらった。

 

 人目につかずに外に出られるに越したことはない。

 ありがたく受け入れ、町の南に歩みを進めるサトシだった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ここ、かな?」

 

 

 周囲には何も無い。

 草むらでちょくちょくマダツボミがウネウネしていたが、別段何かするわけでもなかったので放置しつつ歩いてきたら、そこまで大きくない一軒家が現れた。

 さすがに何もなさ過ぎて人通りも皆無。

 

 町民も近づかないこんな辺鄙なところにある家に、一体誰が住んでいるというのか。

 心なしかマサキの家もこんな感じだったかと思い出す。

 

 扉を叩くと妙な言葉づかいをする天然パーマが勢いよく飛び出してくるのだろうかと不安になったが、あまり長居もしたくなかったので、何とでもなれという気持ちで扉を叩いた。

 

 

 コンコンと扉と叩き、少し間を置く。

 中からスタスタという足音が少しだけ聞こえ、

「はいはい、お待ちを。」

 と落ち着いた声がする。

 

 相手を威圧するかのような言葉でなく安心した。

 程なく扉が開く。

 

 

「おや、あなたがサトシさんですか?」

 

「え?どうして僕の名前を?」

 

「マサキさんからきいております。さあ、中へどうぞ。」

 

 

 なるほど、マサキが先に事情を説明しておいてくれたのか。

 なぜ途中で立ち寄る必要があるのかはまだわからないが、断る必要もないし、なによりマサキの言伝だ。いかないわけにはいかないだろう。

 

 扉をくぐり、若干外よりも暗い室内へ足を踏み入れ、ピカチュウが入ったことを確認すると、静かに扉を閉めた。

 

 

「カ、カスミ!?」

 

 

 なんとそこには昨日の晩に最後の別れを惜しんだカスミの姿があった。

 

 

「え?ど、どうして?」

 事情が分からないサトシ。なんというか、昨日のやりとりからの再会なので、気恥ずかしいというか調子が狂うというか。

 

 

「・・・だから苦手なのよ、あいつ。」

 

「あいつって――マサキが?」

 

 

 あの嫌らしい笑みを浮かべる天然パーマの顔が、再度サトシの脳内を駆け巡る。

 なにやらサトシの及ばない部分でいろいろと張り巡らせていたようだ。

 

 

「クチバシティに今客船が停泊してるから、それに乗れって。そこまでサトシに警護してもらえ、だって。」

 

 ブスッとした顔で淡々と話すカスミ。

 別にカスミには警護など必要無いと思うのだけど。

 

 

「そんなの無視して、とっととクチバに行こうとしたんだけど―――」

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

「サトシくん来るまで行ったらあかんで~、一日はわいの言うこと聴いてもらう約束やろ~?なはは。」

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

「ってことなのよ・・・ほんとに嫌なやつね。」

 

「は、はは。そうだね・・・」

 

 

 マサキさんなりに気を使ってくれたのだろうか、などと少しばかり思うサトシ。

 

 

「あと、これ。」

 

 そういって、カスミはサトシに封筒を一つ渡してきた。

 ズシリと重たい。紙の束のような重量感ではあるが、一体何がはいっているのか。

 

「旅費、ですって。私とあなたで百万。どれだけお節介なのよ、あいつ。」

 

 

 封筒の中にはニビシティでもらったものと同じ厚さの札束。

 短期間で十万単位の消費をしているサトシにとっては、最初ほど感動と驚嘆は起こらなかったが、よく考えてみたらサトシにとって追加のお金は喉から手が出るほど欲しかったものだ。

 しかも、二人で百万ということは半分にしても五十万。

 当面はしのげそうな金額だ。

 

 それにしても―――

 

 

「なんだかんだいって、九百万円は持っていったんだよね・・・はは。」

 

 代価として提示したものとはいえ、必要無いと言っていたお金も結局は回収していく。

 なんというか、しっかりしていると思う。

 

 そうでもないと表と裏に対して中立などという立場を貫くことは難しいのだろう。

 

 

「マサキさん、ありがとう。」

 

 

 いろいろとあったが、マサキは善人であったと思う。

 決め手になった「カスミを一日自由にできる権利」も、余計なお節介に消費してしまっているし。

 

 

「長居しても仕方ないし、行こうか、カスミ。」

 

「そうね。さっさといきましょ。」

 

 

 座っていたカスミが立ち上がり、服をはたいてサトシの方を向く。

 目が合い、サトシは若干照れ臭かったが、特に何も言わずに、ニコリと笑った。

 

 

「ところで、おじさんは何もの?」

 

 

 触れられなかったことに対して特に突っ込むわけでもなく二人を見守っていた男性。

 話を振られて、驚くことなくサトシの疑問に返答する。

 

 

「わたしは、育て屋と言われているよ。預かったポケモンをトレーナーの代わりに育てる仕事をしている。マサキとは、そこそこ長い付き合いだね。」

 

「育て屋さん・・・そんなことができるんですね。」

 

「なに、老後の趣味みたいなものさ。別にわたしは誰の味方でもないし、マサキのお願いなら聞いてやろうという気になっただけさ。ああ、ちなみに裏のポケモンを預けられても困ってしまうよ。ははは。」

 

 

 愛嬌がある普通のおじさんのようだ。

 そして気持ちはありがたいのだが、預けて育ててほしいポケモンはサトシの手元にはいない。

 

 

「すみません、今手持ちのポケモン、少なくて。」

 

「ははは。大丈夫ですよ。また預けたくなったらいつでもいらっしゃい。」

 

 

 嫌味のない笑顔でそう答え、サトシもホッとした。

 

 

「では、お世話になりました。」

 

「はいはい。道中気を付けてね。」

 

 

 軽く別れの挨拶をし、育て屋を後にする。

 

 カスミも無言でついてくるが、別に嫌々というわけでも無さそうだ。

 一度別れの言葉を贈った相手と一緒に歩いているのは不思議な感じがするし、若干気恥ずかしいが、気持ちとしては嬉しい。

 

 一日か二日ではあるが、旅の道連れが増えた。

 

 ピカチュウは相手にされないことに若干不服なようではあったが、こいつとは最後まで一緒にいるのだ。一時の浮気は勘弁してもらおう。

 

 

 そんなことを考えつつ、一行はクチバシティへと続く地下通路へと足を進めていった。

 

 

 




ハナダシティ編、終了。
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