トキワシティについた時には、すでに周りは暗くなっていた。
どこかでごはんをたべて、またポケモンセンターにお世話になるか。
・・・そういえば、このピカチュウは何を食べるのだろう。
通常、ポケモンフードと言われるものがポケモンの主食だ。
ショップにいけばそんなに高くないお金で買えるのだけど、果たしてこのピカチュウは通常の食事で大丈夫なのだろうか。
プロテインとかそういう物の方がいいのかもしれない。
・・・考えてもわからないので、ショップに行ってみることにした。
「いらっしゃい」
いろいろな商品が並んでいるトキワシティのショップ。ポケモンを癒すきずぐすりや野生のポケモンを捕まえるモンスターボールも買える。
ポケモンフードももちろん並んでいて、味がいくつかあり試食もできるようだ。
とりあえず端から順番にピカチュウに与えてみることにした。
「ピカチュウ、おいでー」
「ピカー?」
まず、いちご味
・・・興味がないようだ
さかな風味
・・・そっぽを向いている
お肉味
・・・少し見たが、すぐにそっぽを向いた
「・・・」
十種類あった味をすべて試してみたが、ピカチュウはどれにも興味を示さなかった。
「うーん、どうしよう」
「そこの君?」
「はい?」
と振り向いたらショップの店員が話しかけてきた。
「ポケモンフードを探しているのかな」
「そうなんですが、どれも興味なくて。」
「ポケモンフードはいろいろなポケモンに好かれる食べ物だけど、すべてのポケモンが好きというわけではないよ。」
「そうなんですか!」
「中には、人の食べる食事を好むポケモンもいるくらいだ。なにせ、いろいろな生態系がいるからね。」
「なるほど・・・」
ピカチュウの方を見る。
レストランにでも連れてってみるかな・・・
「わかりました。ありがとうございます!」
「またおいでね~」
自動ドアをくぐり、外に出る。
フラフラ歩いていうと、ファミリーレストランのようなものがあった。
メニューは豊富だし、ここでピカチュウの好みがわかればいいのだけど。
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結論から言うと、好みはわからなかった。
というより、ピカチュウはなんでも食べた。
肉、野菜、フルーツ、ケーキ、ごはん、麺。
しかも、きっちり丁寧にフォークやナイフを使って。
人間用の食事を好む、という感じのよう。
人の形をして人のように食事するピカチュウ。
なんだかそのうち服でも着そうな予感がする。
ちなみにこの時の食事は結構な金額になったが、全く問題なかった。
なぜかというと昨日のトキワジムでエリートトレーナーからたくさんいただけたから。
・・・なんだか悪かった気もする。おかげでしばらくは困らなさそうだ。
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夕食を終えポケモンセンターに行き、ベッドに腰掛ける。
次の日はトキワの森を抜け、ニビシティに向かう。
そのつもりで考えていたのだけど、なんといっても初のジムリーダー戦となる。
ニビシティのシンボルは「石」。岩タイプのポケモンを操るタケシがニビジムのリーダーだ。
通常であれば草タイプや水タイプを連れていけば突破できるハズなのだけど
なんといっても、裏バトル。
常識では通用しないと考えるべきだろう。
しかし持っているポケモンはピカチュウのみ。いまさら低レベルのノーマルポケモンを捕まえたところで役に立つはずもない。
・・・トキワシティで見たバトルの映像を思い出す。
破壊と破壊。バトルというには生ぬるい、「殺し合い」とでも表現したくなるような激しいぶつかり合い。
あんな空間に通常のポケモンを放り込んだらそれこそ粉みじんになって帰ってくるだろう。
やっぱりレッドのポケモンが特別なのか・・・?
それともノーマルポケモンでも勝てるコツのようなものがあるのだろうか。
・・・考えてもわからない。
まずはニビシティに向かおう。
そこまで考え、気持ちよさそうに寝てるピカチュウを一目見て、ベッドに横になる。
「ピカチュウ、目開いたまま寝てる。」
こわい。
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次の日、トキワシティに別れを告げ一路ニビシティに向かう。
必要な買い物を済ませ、トキワの森へ続く道を歩いていると
「ういーーーぃいい、酔っぱらったぜええぇえー」
「もう、おじいちゃんったら」
酔ったおじいさんが道をふさいでいた。
もってたおいしい水をおじいさんにあげると、ぐびぐび飲んで壁によりかかって座った。
「う゛ー、あたまいたい・・・のみすぎたようだ・・・」
なんとか動けるようになったようなので、そのまま女の子とおじいさんに手を振って先に進もうとすると
「ちょっとまちな、あんたポケモントレーナーか。」
「はい、そうですけど。」
「そうかそうか、いいポケモンをつれてんな。わしも昔はなかなかのトレーナーじゃった。」
おじいさんが遠い目をしてつぶやく。
「そうだったんですか(長そう)」
まじまじとサトシを見つめた後、ふと目をそらし、ピカチュウを見た。
「・・・あんた、黒いバッジもってんのか?」
「!?なぜそれを・・・」
おじいさんはまるで全てを察したかのように目を細め、ニヤっと笑みを浮かべた。
「レイナ、ウチに帰ってな。わしはちょっとこの少年と話がある。」
「?――いいですけど、晩御飯までには帰ってきてくださいよ。」
そういうと、レイナと呼ばれた女の子は歩いていった。
女の子が完全に見えなくなると、おじいさんはぼそぼそと話はじめた。
「あんた、裏の住人か。」
「・・・」
「話せねぇならいいさ。だがその連れてるもんみりゃあ、わかるやつにはわかるさ」
ピカチュウを見ながら語る。
「おじいさんも・・・?」
「昔にちょろっとな。今はノーマルが好きさ。あるトレーナーが常識を変えちまった。」
「・・・レッドのことですか。」
レッドの名前を聞いた瞬間、もともと細かった目をさらに細め、サトシを一瞥した。
「その名前はあんまり外で出さない方がいい。ボールに入りたがらねえポケモンだけでも疑われるってのに、その名前まで出したら一発だぜ」
「・・・レッドの場所を知りませんか」
「探してどうする?」
「ノーマルポケモンでの勝ち方を、教わります。」
「・・・本気でいってんのかい?少年。裏バトルの経験は?」
「ありません・・・。」
「そのピカチュウだけでいくきかい?」
冗談だろ?とでも言いたそうな顔で大げさに首を振る。
「どうしても四天王を倒す必要があるんです!」
「常識を変えるか・・・そんなバカげたことをするのか。この安定している状態で。」
「あのアイテムは存在してはいけない・・・そうは思いませんか」
まっすぐな目で見据えるサトシ。
それをゆっくりと、品定めするように濁った眼で眺める。
そして、あきらめたかのように大きく溜息を吐き出した。
「若いのう・・・じゃがそれも時代の流れか。」
「ご存じ、なのですね?」
「ニビシティジムはまだいくな。通常のポケモンを捕まえながら、ハナダシティに向かえ。そしてマサキを尋ねろ。」
「マサキ?」
「パソコンのポケモン預かりシステムを管理してるやつさ。なあに、町の人間ならだれでもわかる。それと、こいつを連れていけ。」
おじいさんが鞄から年期のはいったモンスターボールを取り出し、その場に放った。
ボールから赤い光が漏れ出し、モンスターを形作る。
カニにような赤い身体と大きなはさみが特徴のポケモンが現れる。
「わしの相棒、クラブだ。」
「クラブー」
「こいつには秘伝技を三つ覚えさせてある。移動で困ることはないぞ。空はとべんがな。」
「秘伝技・・・って?」
「なんだ知らんのか。細い木を切ったり、大きな岩を動かしたり、海を渡ったり空を飛んだりできる技のことよ。これらの技は自然に覚えることはない。故に、忘れさせることもできん。だがこれらの移動技は必ず必要になる。連れて行って損はない。」
「なるほど・・・。でもいいのですか?」
クラブとおじいさんを交互に見ながら言う。
「いいのよ。わしが旅立つことはもうない。だがこいつはまだまだ現役。このまま老いぼれの相手をさせるには惜しいやつよ。それに、ノーマルポケモンだがなかなか強いぞ?」
「クラーブ!」
はさみを振り上げ、自己主張するクラブ。
「そうですか、ではありがたく!」
そういうとおじいさんはニッコリと笑い、クラブをモンスターボールに戻した。
ボールをサトシに手渡す。
「なにからなにまでありがとうございます。」
「いいさ、わしにはもう何もできん。新たな時代が見れることを楽しみにしておるよ。」
「はい!」
「頑張れよ、少年。と、そうだ。名前だけ教えてくれんか。」
「サトシ。マサラタウンのサトシです。」
「そうか、サトシ。頑張れよ。」
「はい!」
手を振ってトキワの森へ向かうサトシとピカチュウを見送る。
「まったく、何を考えているんだ。・・・サカキの野郎。」
トキワシティジムの方角を見ながら、つぶやく。
「狙いは『天使(Angel)』か?・・・まあ俺には関係ないことか」
もうじき見えなくなる二つの影を見つめながら、また酒を飲み始めた。
まさかのじいさん裏の住民。