ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第六十四話 ポケモン大好きクラブ

 サンドがあまりに可愛かったので、そのまま肩車してクチバシティを散歩する。

 このままレベルがあがっていくと進化するわけだが、ちょっともったいない気がしてしまう。

 サンド本人としては進化してもっと強くなりたいみたいな気持ちがあるかもしれないが、この可愛さが失われるのは辛い。

 なるほど、これが愛玩用と言われるポケモンの定めなのか。

 

 ピカチュウも、プリンも、ピッピも、レベルがいくら上がっても進化はしない。

 それぞれ、特別な石を必要とするらしいが、プリンとピッピは何の石で進化するのだろうか。

 ピカチュウは雷の石だし、プリンは風船の石?そんなものあるのかな?

 

 などと意味の無いことを考えながら、わいわいとはしゃぐサンドを背負いつつ歩いている。

 クチバシティはカントー外から多くの人がやってくるため、歩いているだけでも楽しい。

 サトシ自身も初めての海と港町にウキウキとしつつ、海外の珍しい物品などを物色しながら探索していた。

 

 しばらく歩くと、並んでいる家々よりも多少大き目の建物が見えてきた。

 家というより、集会場のように見える。人が住むような建物でないことは間違いない。

 気になって前に立ち止まり、表札を見てみると、『ポケモン大好きクラブ』と書いてあった。

 

 

「ポケモン大好きクラブ?なんか安直な名前だけど、それだけポケモン好きってことなのかな。」

 

 

 サトシ自身、かなりポケモン好きなのは間違いない。

 というかサンドを肩車して歩いている時点で、どこからどう見てもポケモン大好きっ子である。

 ピカチュウを連れていたところで、目を逸らす人が大半だったが、サンドがいるとその視線が若干数向くようになった。

 いや、あまり目立つのは良くないのだが、仕方がない。かわいいので。

 

 ともあれ、ポケモン大好きな自分は十分にこのクラブを見る権利がある。

 表札付近にはチラシが張ってあり、『ポケモン大好きクラブ、会員募集中!気になる方は中へどうぞ☆』と書いてあって、数体のかわいいポケモンが挿絵として楽しそうに手をつないでいた。

 

 

「はいって、みる?」

 

「ピカピ?」

 

 

 あまり興味は無さそうだが、サトシは少し気になるので中に入ってみることにした。

 一旦サンドを地面に降ろし、少し考えて、ボールには戻さずにそのままサンドとピカチュウを連れてドアを開けた。

 

 広い室内には、中央に会議室用の大きなテーブルが置いてあり、ドアと反対側の壁の中央には、大きな机を前にして偉い人が座るような高級そうなイスの上で、手にオニスズメを抱えて大事そうに撫でている男性がいる。

 

 室内は広々としており、十人か十五人くらいだろうか。それぞれポケモンを抱き上げたり、撫でたり、毛づくろいしたりと、思い思いに自分のポケモンを大事そうにしている人達がいた。

 

 サトシがドアを開けて中に入ると、人々の視線がサトシに注がれる。

 見られることには慣れているが、こうあからさまに注目されると若干恐縮してしまう。

 

 

「ど、どうも。」

 

 

 なんとかそれだけ言葉を紡ぐと、一番近くにいたおば―――妙齢の女性が声をかけてきた。

 

「あらあらあらあらいらっしゃい!ポケモン大好きクラブへようこそ!あなたはクラブ入会希望の方かしら?ええそうよねそんなかわいいサンドを連れているのだもの入会するわよねえ当然。名前はなんていうの?――サトシっていうのね!素敵な名前!後ろの大きい方は保護者かしら?不安になる必要なんてないわよーみんなポケモン大好きなだけだものーねえねえみてみてワタクシのニャース。かわいいでしょう!名前はチョコちゃんっていうのよ。この愛くるしいおヒゲにしっぽ!鳴き声なんてまるで天使のようよ!毎日ブラシをかけてるの!つやつやサラサラよ!とってもいい子でなのよ~ほらほら、チョコちゃん、ご挨拶は?―――いい子ね~~♪ほら、ご褒美のお魚よ、あーん、食べる仕草もかわいすぎて抱きしめたくなるわー!またブラシかけてあげるわね!こっちおいで、チョコちゃん。」

 

「ウニャース」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 嵐のように来たと思ったら、嵐のように去って行った。

 

 よくもまあここまで一方的に話せるものだ。

 女の人というのはかくもおしゃべり好きなのであろうか。

 それにしてもポケモン好きのレベルが尋常じゃない。

 なんだろう、生活そのもの、人生そのものがポケモンであるかのような。

 

 タケシさんも大概ポケモン好きであったが、ここの人達はもはや規格外だ。

 ポケモン以外には目がいかない。

 行ったとしても、ものの数分で自分のポケモンの元へ興味が移動してしまう。

 生粋のポケモン好き。ポケモンラヴァーズ。

 

 サンドにくいくいと裾を引っ張られて、放心状態から現実に戻ってきたサトシ。

 サンドのことをじっと見る。

 首を傾げて、サトシを見返すサンド。

 

 

「この空間は僕たちには相容れない気がするよ、サンド。」

「サンドー」

 

 

 どうやら同意のようだ。

 入ったばかりで悪いが、退室させてもらおう。

 

 そう思って、閉めたばかりのドアの方に振り向き、出ていこうとする。

 

 ・・・後ろに立っていたはずのピカチュウが居ない。

 もはやお約束。

 この展開にも慣れてきた。

 

 見たところドアが開いた形跡はない。

 ということは室内にいると思うのだけど。

 

 そう思って、再度室内の方に目を向ける。

 サンドもつられて一緒に同じ方向を見る。

 

 あの黄色いデカブツは、今度は何をやらかすつもりなのか。

 あの体格だ。いくら服を着ているとはいえ、隠れるなんて芸当ができるハズがない。

 

 と思う間もなく、サトシの相棒のこまったちゃんはすぐに見つかった。

 

 

「・・・なにしてんの。」

「サンドー?」

 

 

 ピカチュウは、奥のイスに優雅に座っていた会長らしき人物を、座ったままの姿勢になるように持ち上げては降ろし、持ち上げては降ろしを繰り返していた。

 

 あれは、おそらく遊んでいるのだろうと思う。

 意図がある行動ではないだろう。むしろ意図があったら怖い。

 

 おそるおそる会長らしき男性を見ると、特に何も起きていない、みたいな表情で先ほどと同じようにオニスズメを撫でながら、もう片方の手でサトシに向かっておいでおいでしている。

 

 うっわー、絶対怒られるよ。だって偉そうだもん。うん、えらいでしょ、あれはどう見ても偉い。イスが高そうだもん。

 

 まあそのまま裏バトルに突入するような状況でもなかったため、命のやり取りにはならないと思うと少し安堵し、会員達の視線を浴びつつピカチュウの元へ歩いていく。

 

 

「あの、大丈夫でしょうか。」

 

 サトシが声をかけると、男性は笑いながら答える。

 

「ほっほっほ。面白い御仁じゃないか。とりあえず、この上下運動を止めてくれんか。君。」

 

「あ、すみません。」

 

 

 ピカチュウ、と声をかけるわけにもいかないので、サトシの胴回りはあろうかという太い腕にしがみついて、サトシの意図を伝える。

 

 一度サトシの顔を見て、もっと遊びたいという意思を伝えようとしたが、首を振るサトシを見て大人しく男性をイスの上に戻した。

 

 

「やれやれ、これで落ち着いて話せるのう。」

 

「すみません、僕の―――身内がご迷惑を。」

 

「ほっほっほ。どうやら言葉が通じない様子。異国の方かな?ほっほ。」

 

 

 どうやら疑われていないようだ。

 ここは港町。異国の人も頻繁に来るのだろう。

 特に気にすることなく、話は進む。

 

 

「挨拶が遅れたかな。わしはポケモン大好きクラブの会長じゃ。よろしくの。」

 

「あ、サトシと言います。マサラタウンから来ました。」

 

「おお。随分遠くから来たのじゃな。クチバシティは良いところじゃろ。ごはんがおいしい。」

 

「それは本当に。」

 

 

 ごはんの話になったので、おいしかった食事処の話や、おすすめのお店などの話題になり、少し熱が入った会話となった。

 

 

「おっと、すまんすまん。クラブの説明じゃな。・・・それより、わしのかわいいオニスズメについて、語ってもよいかのう?先に。な?このとおり。」

 

 

 やはりこの空間の人達はみんなこうなのだな、と再認識したサトシ。

 

 さすがに会長の前で 嫌です と答えるのも無粋なので、大人しく会長のオニスズメ自慢を聴くことにした。

 もしかしたら、サトシの知らないポケモンの特性などがわかるかもしれない。

 

 胃もたれしそうなポケモンへの愛情を淡々と聞きながら、サトシは晩御飯のことを考えるのだった。

 

 

 




ポケモン大好きクラブって、すげえネーミング。
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