「ここがクチバシティジム―――なのかな。でも・・・」
入れない。
クチバシティジムと思わしき建物は見えるが、周囲を生垣に囲まれており、入口が無い。
建物を発見してからすでに十五分程、周囲をぐるぐるうろうろしていた。
すでに廃棄された建物で、別の場所にあるのだろうか。
いや、でもたまにジムの中から声が聞こえるということは誰かしらが利用しているということだし、無人ということはないだろう。
ともすれば、一体どこから入ればいいのだろうか。
ハナダシティのように裏道があったりするのかな?
そんなことを考えながら、ジムの周りをうろうろするサトシ。
いい加減誰かに訊いてみようかと思ったとき、
「おや、サトシ君。」
「げ、会長。」
「げ、とはご挨拶じゃな。ほっほ。」
ポケモン大好きクラブの会長が声をかけてきた。
そういえば、例の集会場が近くにあり、会長と遭遇したことも偶然ではないだろう。
「どうしたのかね?同じところをぐるぐると。」
あまり頼りたくは無かったが、よく考えたら別にこの会長とは何の利害関係にも無い。日常会話をしたところで何も変わらないだろう。
「―――でも一応確認しよう。代価とかないですよね?」
「ほほほ、随分用心深いことじゃな。あれじゃろ?ジムへの入り方じゃろ?それくらい教えるわい。ほっほ。」
なんか見透かされてる感じが気に食わなかったが、それを言ったところで得は無いどころか、せっかくの好意が無駄になる。素直に聴くことにする。
「―――で、どうやってはいるんですか?」
少しふてくされた顔で質問する。
「うんうん、その正直な顔がとても良いのう。わしも若い頃は―――おっと、長話になってしまうな。これはまた今度にしておこう。ほほほ。さて、入り方じゃが。ブルーバッジはもっておるかな?いあいぎりを使えるポケモンも必要じゃ。」
「ブルーバッジ?ああ、カスミの―――ありますよ。いあいぎりも、クラブが覚えてます。」
腰のモンスターボールをポンポンと叩きながら答える。
「よろしい。それならば話は早い。ちょうど、ほれ、そこの生垣を見てみなさい。」
そう言われ、会長が指さした方を見る。
生垣には違いないのだが、よく見るとその部分だけ細い木が植えられているだけのようだ。
葉っぱが多く茂っているため気づかなかった。
「あれくらいの木であれば、ポケモンの技で切ることができるんじゃよ。ブルーバッジをサトシ君の、いあいぎりが使えるポケモンに見せるのじゃ。」
サトシは言われるがままに、クラブをボールから出す。
懐に着けているブル―バッジをクラブに見せる。
クラブはバッジを数秒間眺め、何を理解したのか、はさみをジャキジャキと音を立てる。
「クラブ、あの木を切れる?」
「クラーブ!」
クラブは木の目の前に行き、その大きなはさみを掲げ、勢いよく振りぬいた。
すると、木は根本から切断され、茂った葉っぱと共に奥に向けて倒れ、ジムへ入るための細い道が開かれた。
「なるほど、でもこれ勝手に切っていいんですか?」
「よいのじゃよいのじゃ。むしろ、切って入れるかどうかが資格証明みたいなもんじゃからな。」
なるほど、これが秘伝技というものか。
技として使えるだけでなく、通行の障害も取り除いてくれるという。
使用にはジムバッジが必要だというが、いあいぎりに必要なバッジがブルーバッジだったというわけだ。
ブルーバッジが無ければ使えない以上、バッジ無くしてクチバシティジムに入ることはできない。
生垣を乗り越えるか火を放つかでもしないかぎりは。
どちらにしてもタダでは済まないのが目に見えているが。
いあいぎりを使って入る事そのものが力の証明ということになる。
「―――ありがとうございます。」
「お礼くらいにこやかに言ってもよいのではないかのう?ほっほっほ。」
心から感謝する、というのも癪だったので、一応形式上だけでもお礼をする。
「まあ、別にかまわんよ。情報収集も必要じゃからな。まさかこのままジムに殴り込むわけではないんじゃろ?侮ると痛い目を―――散々見てきたって顔じゃな。ほほ。」
サトシとてそこまで考え無しではない。
むしろ今までが唐突すぎたのだ。
よくよく考えればジムに行こうと自分から進んで足を運んだのは初めてのことだった。
行き当たりばったりで勝負してばかりだったが、今回はしっかりと作戦を立てることができそうだ。
恐らく集会場に向かうのであろう会長に手を振り、隙間ができた生垣を通り抜けた。
ピカチュウは横幅が足りなかったので、身体を横にしてカニ足で入り込んだ。
―――――――――――――――――――
「よーう!未来のチャンピオン!ここはビリビリ痺れる電気ポケモンの使い手、マチスのジムだ!まひなおしを忘れないようにな!」
実に的確なアドバイスだ。
麻痺になったら治さないと危ない。
「治す暇があれば、だけどね・・・」
麻痺になった瞬間に拳を叩き込み、勝ちを捥ぎ取ったニョロボン戦。
裏のバトルにおいてバトル中に道具を使う時間などほぼ無いに等しい。
しかし、今サトシの頭の中で大きくウェイトを占めている考え事は、まひなおしの事ではなく―――
「節約家じゃなかったっけ・・・?」
煌々と点灯したジム内の照明。
盛んにトレーナー同士のバトルが繰り広げられており、要所要所で電撃の光が見え、バチバチという音が聴こえてくる。
雰囲気としてはニビシティのジムに近いのだが――――――
きょろきょろと見渡し、ちょうどバトルが終わったであろうトレーナーを見つけ、話しかけた。
「あの、すみません。」
「ああ?誰だあんた。」
「サトシといいます。初めてクチバジムにきたんですが、その、ジムリーダーはどこにいますか?」
サトシが気になったことは、これだけ盛んにも関わらず、指導者らしい人が全くいなかったこと。
当然マチスらしい人もおらず、端から端まで注意深く観察しても、ジム所属の電気タイプ使いと、挑戦しているトレーナーの姿ばかりだ。
ジムリーダーらしき人物は影も形も無い。
「ああ、マチスさんか。あの人は滅多に出てこねえよ。」
「でてこない?バトルは?」
「マチスさんは昔、軍隊で少佐だったらしくて、用心深い性格だ。ほら、奥に扉があるだろ?ジム内の仕掛けを解かないと、中に入れないって寸法だ。ジム所属のトレーナーでも、ほとんど会えないんだぜ。」
「会うにはどうすればいいの?」
「マチスさんに会いたいのか?それなら―――俺を倒したら教えてやるよ!」
「え?ちょっと、いきなりそんな」
「問答無用っ!」
どうやら表向き、マチスと会うには随分と面倒な手順が必要なようだ。
マチスは昔、軍隊にいたという。
このジムのトレーナーが好戦的なのはマチスの影響なのだろうか。
そして、カスミが言っていた『マチスは節約家』という単語。
ジムの様子を見る限り、その様子は一切見えない。
というより、過剰に電力を消費しているようにすら思える。
これで命に対する節約家で、命を大事にしましょうとかいう善良な人であれば救い様もあるというものだろうが、そううまくはいかないだろう。
なにせ、マチスは軍人だったという。
どのようなバトルになるのだろうか。
サトシは肝心な情報が得られないまま、とりあえずクチバシティジム内のトレーナーと戦っていくことにした。
ちなみに、先ほどの好戦的な青年はコイルばかりつかってきたので、サンドの穴を掘るで一網打尽にできた。
サンド、かわいいしつよい。
通常のトレーナーとのバトルが久しぶりに感じる。
なんというか、やはり緊張感に欠ける。
本来これが正しいものであると頭でわかっていても、どこか危機感に欠けるし、どうでもいいなどと思ってしまう。
相手との意識の差。
戦う場所が違うだけで、トレーナーの意識というのはここまで違いが出てしまうのだなと、サトシは肌で感じた。