ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第七十二話 問いと、応え。

 ニコニコと、屈託のない笑顔でマチスが答える。

 

「ミートバトルシテマケタ、アブノーマルトレーナーハ、ミーノドレイニナッテモライマース。コロサナイデイカシテアゲルノデス。ミーハトッテモヤサシイ。HAHAHA!」

 

 

「・・・」

 

 

 なるほど、確かにそういわれると、殺されないだけマシなのだろうか、と納得しかけてしまう。

 感情抜きにした思考回路になりかけていることに気づき、いやいやいやと頭を振る。

 そもそも殺す前提の方が間違えているのだ。

 どちらがいいどちらが悪いなどという単純な判定で決めるには、あまりに問題が大きすぎる。

 選択肢は両方地獄。バッドエンド一直線だ。

 それを乗り越えるには、マチスに勝利するしかない。

 

 

 サトシはたっぷりと考えた上で、マチスに再度問いかけをする。

 

 

 

「・・・本音は?」

 

「アタマガイイヒトハキライジャナイデスヨ。」

 

 先ほどとは違う、ニヤリとした表情を浮かべるマチス。

 明らかに意図が異なる笑顔に対し、サトシはマチスに対して、底知れぬ恐怖を感じた。

 しまった、この質問は墓穴だったような気が―――

 

 失言に気づくサトシだったが、もう手遅れだ。

 言葉には責任を持つべし。そんな格言があったようななかったような。

 思ったことをつい口にしてしまうという思慮の浅さが、またしてもサトシを追い詰める結果になる。

 

 

 

「サトシサンハ、ホカノトレーナートハチガウヨウデスネ。イイデショウ。オハナシシマショウ。」

 

 

 マチスはソファに深く座り直し、ニコニコと笑顔を浮かべて話し始めた。

 

 

 

 

 ミーは軍人デス。

 いえ、正確には元軍人。以前はいろいろな戦場で生死の狭間を彷徨いまシタ。

 もう知っていると思いマスが、ミーのライチュウはその時からのパートナーデス。

 

 戦場では勝ったものが全てを手に入れマス。

 負ければ全てを失いマス。犯されようトモ、奴隷にされようトモ、殺されても文句は言えまセーン。

 

 飢えを凌ぐのも、命を守るのも全て自分の責任デス。

 

 

 ―――エ?そんな厳しい経験をしておきながラ、なんで奴隷のような人を増やすのか、ダッテ?

 

 HAHAHA。可笑しなことをいいますネ。サトシサンはジョークが好きなようデスネ。

 

 勝者が敗者を所有するのは権利デス。

 自分のモノをどう使ってモ、誰にも文句は言えまセン。

 サトシサンもオモチャで遊んだことはあるでショウ。

 ロボットで遊んだことはありませんカ?

 思いっきり引っ張って、腕が取れてしまったことはないデスカ?

 それと同じですヨ。

 

 

 ―――オオ、随分と熱狂的ですネ。元気がいいのは素敵なことデス。奴隷になった人の気持ち、デスカ。勿論わかりますトモ。

 なにせ、ミーも敵の所有物だったことがありますカラ。

 それはそれは酷い扱いデシタ。

 

 死にたくなるホドの、痛みと辛さと孤独さがありまシタ。

 あんな思いは二度と、どんなことがあっても、ゴメンデスネ。

 自分でもよく生きて帰れたなと思ってイマス。

 

 解放された理由ですカ?HAHAHA!解放などされていまセン。

 逃げ出したのデスヨ。脱出デス。脱走デス。死にもの狂いデ、死に掛けなガラ、死ぬ思いデ、走っテ走っテ、駆けずり回っテ逃げましタ。

 正に命がケ。見つかれば死、追いつかれても死。デモ、ミーは逃げ切りましタ。

 この時ほど神に感謝した事は無いでショウ。

 これからの人生全てを見ても、あれほどの苦境は訪れないとミーは思いまス。

 

 

 ―――オット、話が逸れましたネ。奴隷の気持ち、でしたカ。

 今言った通りデスヨ。辛くて苦しイ。

 ですガ、それがどうしたのデスカ?

 奴隷は所有物なのですカラ、どうなろうと関係ありまセン。

 所有物は所有者を満足させる為にあるのデス。

 ミーがそうであったようニ。

 ミーの所有物もそうあるべきなのデス。

 

 

 ―――ポケモンバトルは戦争ではナイ、ですカ。

 ノンノンノン、ナンセンスです、サトシサン。

 バトルも戦争も本質は何も違いまセン。

 勝者と敗者を決めるツール。ただそれだけデス。

 

 勝者が得テ、敗者が失ウのデス。この世界において、ただ一つのルールであり、真理デス。

 なんの疑問があるというのデスカ?

 

 

 

 ――――ポケモンをわざわざ食事として出すのは何故カ、ハハハ。いろいろ出てきますネ。サトシサンは好奇心旺盛ですネ。人生の先輩から学ぼうとスル姿勢はとても良いと思いマス。

 それは勿論、無駄を省く為デス。奴隷の食事を他から調達するなんて、手間がかかりマスシ、コストもかかりマス。

 なにより最初から大量の食糧を所持して奴隷になってくれているのですカラ、それを利用しない手などありますカ?

 

 可愛そウ?奴隷なんですカラ、そんな気持ちは一切ありまセンヨ。

 ペットが生きるための食事を用意していルだけなんですカラネ。

 

 エ?本当にそれだけカ?ホホウ、サトシサンはなかなかいい勘をしていますネ。

 とてもとてもイイ勘デス。

 

 このままミーの所有物にするのは惜しいクライ―――冗談ですヨ、バトルの後の話デス、ハハハ。

 

 

 勿論、楽しいからデス。

 オモチャで遊ぶのは当たり前デショ?

 オスはよく働いてくれマスし、メスはいい遊び道具デス。

 サトシサンも遊んでいきマスカ?ここまで話したのも久しぶりデス。それくらいのサービスは―――ハハハ、要らないデスカ。これは失礼しまシタ。

 

 

 

 おっと、随分話し込んでしまいましたネ。

 ハハ、サトシサンには戦争はまだ早いようですネ。

 大丈夫ですヨ。サトシサンは特別扱いしてあげマス。

 

 

 

 ―――ハハ、勿論、バトルが先ですヨネ。楽しみデス。

 

 

 少し席を外してほしイ?―――いいですトモ。

 勝者が決まるまでは客人デス。どうぞごゆっくりしていってくださいネ。

 なんならミルクでも出しますカ?

 

 ―――わかりまシタ。まだ『オモチャ箱』で遊んでるのデ、出る時は声を掛けてくだサイネ。ハハハ。

 

 

 

 

 

 

 

 笑い声を残しながら、マチスは鉄の扉をゆっくりと閉め、ガチャリ、と重々しい音がした後、部屋の中はようやく静かになった。

 

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしているサトシを残して。

 

 

 

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