ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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【番外編】オーキド博士のドーピング☆実験室 四匹目

 これはオーキド博士がドーピングアイテムの研究に勤しんでいた時のお話。

 ドーピングを行うことでポケモンがどう変化するかをつぶさに観察し、まとめていた時期。

 博士も特に罪悪感などなく、研究者という立場でガンガンドーピングを使っていた狂気の時代である。

 助手のタツロウと共に今日も今日とて生物実験に没頭する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ぬおおおおわああああああああ!!!!!!」

 

「うびょびょびょーーーーーおおおーーおーーおおおおーーー」

 

「えんだあああああああああああいいいいあああああああ!!!!!」

 

「かぺぺぺぺぺぺぺにゅろろろろろろろぽぽぽぽぽ」

 

「ええええええいいいいいいいあああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

「くぁswでfrgtyふじこl」

 

 

 

 ここはオーキド研究室。

 ただでさえ誰も近づかない場所であるのだが、中から異様な叫び声が幾度となく聞こえてきたため、さらに人が寄り付かなくなっている本日。

 

 地獄からの呼び声なのか、はたまたついに本当に狂ってしまったのか。

 元々狂った二人の研究者だったが、一体どうなってしまったのだろうか。

 それを知ろうとする人はいなかったし、知りたいと思う人すらいなかったのだが。

 

 

 そんな研究室では、懲りもせずに新しいドーピングポケモンの研究が行われていた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「タツロウ君!難しい叫び声だな!どうやってしゃべっとるんだそれは!!がはは!」

 

「博士のもいろいろアウトっぽい絶叫でーしたー」

 

「ぬははは!なんだか叫びやすかったのでな!!」

 

「ところで、一体これなんでーすかー?」

 

 

 

 どうやらタツロウはわかっていない状態で、急に叫び始めたオーキドにつられて謎の叫び声を上げ続けていたようだ。

 阿吽の呼吸、というより同調念波というかなんというか。

 ある種洗脳に近いやりとりが日常的に行われているのだが、そこに突っ込む人なんて研究室設立以降一度たりとも存在していない。

 

 

 

「実はな・・・・どうしても、ドーピングしてみたいポケモンがおってな・・・・」

 

 いつになくしんみりした雰囲気になるオーキド。

 雰囲気だけは、うまく研究成果が出ない憔悴した研究者なのだが、言っている内容はいつも通り物騒な内容である。

 

 

「そのポケモンの事を考えるだけで、胸が焼けそうになる!手が震え、心臓の鼓動が激しくドラミングする!心臓が自分自身を殺そうとしているかの如く!胸を!叩くのだ!息が苦しくなり、呼吸がうまくいかない・・・!酸素欠乏で頭もこれ以上なく痛い!!極度の緊張で足が震え、腰が笑い、へたり込んで尚、その思考は支配され、それ以外の事をドブ沼の中へ叩き込んでしまう!一体、どうなるのか!そのポケモンを!ドーピングすることで!一体全体!どうなってしまうのか!!わたし気になります!!!!!!あああああ!!!!!」

 

 

 もはや意味不明である。

 しかし、このような事態が過去にあっただろうか。

 あったとしても思い出したくは無いオーキド研究室の惨劇ではあるが、オーキド個人に関しては、あくまで研究者。謎の探求こそが仕事であり、使命であり、命題なのだ。

 疑問を追い求め、答えを追及しようとするオーキドを誰が止められようか。

 止めた方がいいのだが、誰も止める者はいない。むしろ―――

 

 

「はかせー、どのポケモンをドーピングするーんですー?」

 

 

 悪化させる存在しかこのオモシロ空間にはいないのだ。

 定番の展開。

 そうして一日が始まるのだ。恒例行事のようなものである。

 

 

 

「きいてくれるか!タツロウ助手!!!」

 

 がばと起き上がり、力強くタツロウの両腕をがっしと掴み、ガクガクと前後に揺さぶる。

 

 

「もおおおおちろんんんでえええすよおおおおはああかせえええ」

 

 身体を前後に振られ、それに合わせて頭も前後に揺さぶられながら返答するタツロウ。

 そんなタツロウを勢いそのままに ぺいっ と手放し、オーキドが熱弁を開始する。

 

 

「よくぞ言ってくれたタツロウ君!まず一つ疑問を解消せねばなるまい。先ほどの雄叫びだが・・・・あれは何も世の中に絶叫して上げた叫び声などではない。」

 

「なんだったんですかー?」

 

 オーキドに投げられ、床に仰向けに転がったままの姿勢でタツロウが返事をする。起きろ。

 

 

 

 

「歌だ。」

 

「うた?」

 

 

 オーキドは何を言っているのか。

 先ほどの鶏の首を絞めた時に出る死ぬ間際の金切声のような叫び声がよもや歌などと。冗談にしても笑えない。

 やはり気を違えてしまったのだろうか。

 

 

 

「タツロウ君。歌の得意なポケモンといえば?」

 

「プリン、でーすか?」

 

「その通り!より具体的に言うならば、その進化形のプクリンこそが、現状もっとも歌の上手いポケモンであると言える。」

 

「なるほどーです。ということは?」

 

「そう。言いたいことはこうだ。最も歌の上手いポケモンであるプクリンをドーピングすることでもっとビューティフルでアメージングでパワフルでデストロイ的な歌が聴けるのではないだろうか!!どうだ?興奮しないか?タツロウ君!!!!」

 

 

「はかせ、もしかしてー、ルージュラの件でーすかー?」

 

「よくわかったな!さすがはタツロウ君!一本捕られたわ!!そうだ!あの歌声を再現できはしないかと日々憔悴しておるのだよ!!!」

 

 

 ルージュラの件。

 そう、あの衝撃的で笑劇的なドーピングポケモンの、云わば前代未聞の成功事例である。

 当然ながらあの実験結果はオーキドとタツロウ二人の手により揉み消され、もはや二人以外に知る者はいない。

 

 知られてもいい事実というものは実は少なかったりするものだ。

 世の中は秘密で溢れている。

 一世を風靡しているルージュ・ラヴィーンの正体など、秘密である方が世界平和に貢献しているというものだ。

 

 彼女の歌声は誰にも真似できない美声だとして、世の中を喜びと嫉妬の渦に巻き込んでいる真っ最中である。

 

 

 

「あの歌声を・・・もはや見た目はどうでも―――良くはないが―――いや!良くない!良くないのだが!それでも歌声を再現できはしないかと!そうは思わないか!タツロウ君!!!!!」

 

「はいーおもいますーーーーうううううぅうう」

 

 

 再度両腕を掴んでタツロウを揺さぶるオーキド。

 この衝動を止めるには、もはやドーピングしかない。

 

 

 

「しかし、問題がある。プリンは問題無く入手できるのだが、プクリンに進化させるには、月の石がマストアイテム!その月の石は入手が困難なレアアイテム!それなのに管理部には月の石の在庫は無いと!そんなことを言いやがるのだ!!まったく使えん奴らめぇぇええ!!!!」

 

「もってまーすよー」

 

「もっておるのかああああああ!!!!!!!!!さすがタツロウ助手!!!!」

 

「やりましょうはかせー、絶世の歌声を、てにいれるのでーすー」

 

「神か!!!!!タツロウ君、君は今日から助手ではなく神だ!!タツロウ神!!がはは!」

 

「ぼくが神なら、はかせは創造主でーすよー」

 

「ぬははっはあははは!!!そうだな!では創造するとしようか!!!準備したまえタツロウ神!!!」

 

「はいー、オーキド創造主」

 

 

 

 もはやドーピングの目的があやふやになりつつあるが、これも研究の為なのだ。

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「準備はできたか?タツロウ君。」

 

「ばっちりでーすー」

 

 

 檻の中にはプリンが一体。

 これから何が起こるかなど知る由もない、純粋無垢なプリンが、陽気にプリプリプリンなどと綺麗な歌声で歌っている。

 

 

「よし、進化させるのだ。」

 

「いきますー」

 

 

 タツロウがごつごつとした三日月型の石をプリンに触れさせる。

 プリンもそれを拒否することなく受け入れ、数秒間触れていると石が発光し、シュワシュワシュワという音と共に、プリンも青白く発光を始めた。

 

 発光が終わると、プリンは一回り身体を大きくしたプクリンへと進化していた。

 

 

 

「うむうむ。何度見てもこの進化の瞬間というのは感動するのう!」

 

「そーですねー」

 

「では一通り感動したところで、早速ドーピング!」

 

「どーーぴんぐー」

 

 

 感動したのかどうなのか。

 いや、おそらく感動したのだろう。

 念願の研究を進められるということに対して。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

「怖いのう」

 

「こわいでーすねー」

 

 

 二人にして怖いと言わしめた、ドーピング後のプクリンは一体どのような姿なのか。

 しかし、自分たちで変化させておいて怖いとは無責任にも程がありそうなものではあるのだが、そんな事は気にも介さず、とにかく思ったことを口に出す。

 一般社会において生きるには思ったことをすぐに口に出すことは非難され易いのだが、こと研究職においてはどんな些細な変化も口に出し、共有するのが非常に重要だ。

 最も、研究対象であるプクリンにとってはそんなことよりも自分の変化の方が重要ではあるのだが。

 

 

 では、肝心のプクリンは―――

 

 

 

 

 身長はおおよそ二メートル。

 本来の大きさの倍程度だ。

 迫力はあるが、数多くのドーピングをしてきた二人にとっては、そう驚くものではない。

 つまり、二人に怖いと言わしめている原因は別にある。

 

 全体像は、そう変化していない。

 シルエットだけ見るとプクリンに見えるだろう。

 

 では何が違うのか。

 

 

 

 このプクリンには、目がどこにも存在していなかった。

 そして、その代わりに、プクリンの正中線を縦断するように、口が十数個並んでいたのだ。

 しかも本来のプクリンの口では無く、人間のそれである。

 唇があり、歯があり、舌がある。

 そんなものが頭頂から足元まで一列に並んでいるのだ。

 

 目が無いことも相まって、非常にグロテスクだ。

 シンプルに怖い。全体の造形が狂っている化け物よりも、よっぽど化け物らしい。

 

 視界が失われてしまったのは、おそらく歌う事に対して必要ないと判断されたのだろうか。

 周囲に影響を与えられず、思う存分自分の世界に浸れると、そういうことなのだろうか。

 

 

 

 

「口がたくさん・・・これでいろいろな声質を出すことができる、とかそういう感じかの?」

 

 

「あ、はかせ、歌うみたいでーすよー」

 

 

 

 プクリンがその大量にある口を一斉に開き、歌い始めた。

 

 

 

 そして、その歌声を正しく聴ける者は誰一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 プクリンが口を開いた瞬間、ワクワクしていたオーキドとタツロウは猛烈に重たくなる瞼を感じ、膝の力が途端に抜け、床に崩れ落ちた。

 

 その影響範囲は研究室だけではない。

 超高周波数帯で発せられるプクリンの歌声は、あらゆる壁も遮断することは適わず、球状に広がり続ける歌声は研究所を丸ごと包み込む。

 

 歌い始めて数秒後には研究所にいる全ての人間とポケモンが瞬間的に眠りに落ちた。

 持っていた書類をばら撒き、食べていたものはそのままに、受話器を取りこぼし、誰一人残さず床に崩れ落ち、スヤスヤと気持ちよさそうに眠りこけていた。

 

 そして、それだけでは止まらない。

 

 もはや音として捉えることは不可能な程の、超音波に近い歌声。

 それを知覚すること無く、その歌声の範囲内の生き物は余すところなく眠りに落ちる。

 

 

 そして、プクリンの歌声は最終的に町をも包み込んだ。

 そして、その歌声を認知できた者は誰一人として存在しなかった。

 

 

 綺麗な歌声なのか、美しい歌声なのか、優しい歌声なのか。

 誰も理解できず、誰も知覚できず、誰も最後まで聴くこと敵わず。

 

 

 

 町全体を静寂に追い込んだプクリン。

 幸いだったのは、車など、人間の力を超える物体が町を走っていなかったこと。

 そして、この歌が二度と歌われることが無かったということだ。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ん・・・ここは・・・研究室か・・?一体何が、どうなって・・・?」

 

 

 オーキドが床から起き上がる。

 慣れない環境で寝ていたせいで傷んだ身体の節々をマッサージしつつ、立ち上がって時計を見る。

 

 

「午前十一時・・・はて、実験を始めたのは昼過ぎだったはず・・・ってまさか!!!」

 

 

 

 

 

 丸一日。

 プクリンが歌い始めた瞬間から、ほぼ一日の間、寝続けていたのだ。

 そして、研究所の各所からも悲鳴が上がり始める。

 まさに阿鼻叫喚だった。

 

 

 

「――――プ、プクリンはどうなって」

 

 

 オーキドは檻の中へ視線を向ける。

 

 

 

「―――――――」

 

 

 

 無言で中を見つめる。

 そして、ふい、と視線を外し、トコトコと自分の助手の方へ歩いていき、揺さぶる。

 

 

「タツロウ君、おきたまえ。タツロウ君。ええい、おきんか。」

 

「うにゅ・・・あ、おはよーですはかせ。」

 

「タツロウ君、起き抜けだが、あれを見たまえ。」

 

「はいー?あ―――」

 

 

 タツロウも檻を見る。

 

 

 

 

 

 プクリンは、死んでいた。

 

 全ての力を使い果たしたのか、大きな身体を前のめりに倒し、完全に脱力していた。

 呼吸による身体の上下も無い。微塵も動くことが無くなっていた。

 

 自慢の歌声を、命を賭して披露したプクリン。

 その歌声を聴いて感動した者は、残念ながら居ない。

 

 

 

 

 全ての生き物を眠りに落とし、丸一日の間、町一つを静寂で包み込む。

 

 その代償として命を落とす。

 

 

 兵器としては、なんという成功事例であろうか。

 最強の睡眠兵器。

 しかし、在り方としてはとても残酷で、皮肉で、可愛そうだった。

 ただ歌いたかっただけの存在。しかし、その歌を聴ける生き物はいない。

 

 矛盾そのもの。

 

 

 

 

「今回の実験は、失敗だのう。」

 

「はいー」

 

 

 

 

 狂気を纏った二人の研究者も、今回ばかりは気が乗らない様子だった。

 そして、綺麗な歌声を聴くために、テレビをつけて歌番組を見始めた。

 

 

 

 

 

 

『みなさんお待たせしました!絶世の歌手、ルージュ・ラヴィーンです!!』

 

 

 

 

 

 

 

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