拳を躱し、時には攻め、時には防ぎ、相手の視線を読み、行動を予測し、瞬時に対策を練る。
互いの電撃は交錯し、周囲に甚大な被害を与えていく。
その威力ですらも二体のポケモンに傷を負わせることは適わず、戦う舞台を整えるための脇役として機能している。
ただし、その脇役をすら戦いに引き込めるのがライチュウの非凡な能力であり、攻撃の要だ。
ドーピングができるのはあくまで能力の強化であって、能力の習得では無い。
故に、ピカチュウは能力の幅という点で進化形であるライチュウに劣る。
ピカチュウにはそれを補って余りあるほどのステータスがあることに間違いは無い。
ポケモン図鑑に並べられた無機質なステータス数値だけ見れば、十人が十人ともピカチュウの圧倒的な勝利で終わるだろうと予測を立てることだろう。
勿論、それ通りに動いていないからこそ、この戦いは熾烈を極めているのだが。
戦いが始まってものの数分。
それまでの前哨戦とは比較にならないほどの激しい戦闘が繰り広げられていた。
ピカチュウの打撃は、ノーマルポケモンにとってはどれも致命傷である。
高速移動や叩き付けるという技を使わずとも、その威力については強靭な筋肉を見れば納得できる程に、触れる物を叩き割っている。
一撃でも当たれば致命傷と為り得る攻撃が繰り返されているにも関わらず戦いが終わらないのは、単純に当たっていないからだ。
ライチュウは、自分の防御力についてなど、知りすぎているほどに知っている。
当たればお仕舞い。当たる場所が腕だろうが足だろうが、触れれば弾け飛ぶ拳を防御するなどと阿呆な事は考える余地も無い。
回避。それのみ。
だが、それのみではライチュウに勝ち目など無い。
当然ながら攻撃を行わなければ勝機は見えない。
尻尾による打撃も、何度も繰り返せば見切ることもできよう。
現にピカチュウは、最も注意すべきは尻尾による不意打ちということを理解し、常に注意している。
防御も、攻撃も抜かりはない。
では、ライチュウは万策尽きたと諦めた顔をしているだろうか。
―――当然そんなことは無い。
臨んだ勝負に、臨んだ展開。
苦難の連続、強力な相手。
ライチュウは嬉しくて仕方がなかった。
本気を出すべき相手だと、今度こそ理解したライチュウは、ようやくその力を見せ始める。
ライチュウはまだ、十万ボルトという十八番の技しか出していない。
残り三つ―――ライチュウの真骨頂は、ここから始まる。
―――――――――――――――――――
幾度目かの攻撃と回避の応酬が繰り広げられた後、二体は再度距離をとり互いを見やる。
このままでは何も変わらない。
ライチュウの体力が尽きるまで攻撃するというのも考えられるが、はてこのライチュウはどれだけの体力を持っているのだろうか。
―――軍人であるということを鑑みれば、短時間で体力切れを起こす程、やわな身体をしていないだろう。
であれば、回避できないレベルで攻撃をし続けるしかない。
その考えに至り、ピカチュウは高速移動でライチュウを攻める。
技は一度見せている。回避もされた。
だが、その速さが延々と続くのであれば、ライチュウ程の存在ですらミスを犯すのではないか。
そのような考えがあったのだが――――
ピカチュウは驚愕した。
自身が高速移動によってライチュウの目の前に移動した時、目の前にライチュウの姿は無かったのだ。
そして背後から気配を感じ、ピカチュウが後ろへ振り返ると、そこにはライチュウの姿があった。
―――移動した?ピカチュウの高速移動に反応して?
ある考えに行き着く。
今、ライチュウは間違いなく「こうそくいどう」という技を使用したのだ。
でなければ説明がつかない。
しかし、そんなことはあり得ないのだ。
なにせライチュウは、「こうそくいどう」という技を覚えることは無いのだから。
ライチュウは自力で技をほとんど覚えない。
雷の石という特殊な進化方式をとる所為か、ピカチュウをごく早い段階で進化させると技をほとんど覚えていない。
つまりは技マシンに頼ることになる。
技マシンに高速移動は無い。
――――――否、一つだけ、高速移動を使う手段があった。
ピカチュウがそこまで考えていたとは思えないが、確かに方法としては存在する。
「ものまね」
マチスはなんて技を覚えさせているのだろうか。
ポケモンバトルにおいて実用性はほぼ皆無。
相手をおちょくるためだけに存在するのではなかろうかとすら言われている、不遇な技。
しかし、ライチュウが、それも適切なタイミングで使うことによって、非常に有用な効果を生み出した。
それを見極めることが出来るという前提条件。
ライチュウはこの戦闘においてのみ、「こうそくいどう」を自分のもののように使うことができるのだ。
ドーピングにおいてスピードで勝っているピカチュウのアドバンテージが失われる。
それでも、ピカチュウは攻めることはやめない。
高速移動を使いつつ、さらにスピードの上がったライチュウを捉えようと、何度も何度も拳を振り上げる。
しかし、当たらない。
もともと回避されていたのだ。
さらにスピードを上げたライチュウにあたるハズも無い。
ライチュウが優勢に立っているように見える。
だがここにおいても、まだ勝利の糸口はお互いにつかめていない。
結局、ピカチュウにダメージを与えることはできていないのだから。
そんなことは百も承知、とばかりに、ライチュウは次の攻撃に移る。
次の瞬間、ピカチュウの目の前に、最初の電撃とは比べ物にならないほどの規模の電撃の放流が発生した。
聖なる、と頭につけても疑う者はいないほどの極太の光の柱。
その柱が消えた後には、炭となって朽ちた木と、黒焦げで原型をとどめない草や葉っぱが散らかっていた。
『かみなり』
十万ボルトとは段違いの威力を誇り、電気タイプの最強技。
持っていて当然、とばかりにライチュウは自慢げに笑う。
そんなもの、当たらなければ意味は無い、とばかりに構えるピカチュウ。
至極最もだ。
実際、今の雷もピカチュウには当たっていない。
命中精度からかみなりではなく十万ボルトを採用するトレーナーは数多い。
それが、相手を狙い撃つ用途であればの話だが。
ピカチュウの前には、先ほどとは違う、ライチュウの姿があった。
尻尾に溜まっていた電気の量が、尋常じゃない量になっている。
えげつない。
ピカチュウはそう思っただろうか。
ただでさえ自然に蓄えられるライチュウの電気。
それに加え、自身の雷によって超膨大な電気を溜めこみ、太陽かと思えるほどの輝きと、百人の拍手かと勘違いするほどの放電音を出していた。
ライチュウの結論。
ライチュウの攻撃は、トコトンまで「電撃」である。
スピードスターやら、のしかかりやら、メガトンパンチやら、いろいろと覚える選択肢がある中、何故重複するように電気の技を二つも覚えているのか。
それは、ライチュウが蓄えた電気の量で、自身のステータスを底上げできるからに相違ない。
そして、雷によって許容限界を突破して溜め込んだ電気はただ自然放電するのみ。
勿論、そうなる前に―――――
ライチュウは高速移動でピカチュウに向かって飛び出した。
ピカチュウも高速移動で、カウンターを狙う。
基礎的なスピードはピカチュウが勝っている以上、ピカチュウに分がある。
だが、戦いなれたライチュウがただ真っ直ぐ飛び込むとは思えない。
しかし、これ以上打てる布石があるだろうかと疑問に思う。
最後の衝突をする前に、ライチュウは最後の奥の手を放った。
ピカチュウの視界が白くなった。
何も見えない中、ライチュウの弾ける電気音だけが聞こえる。
一番意識していた視覚情報が失われ、ピカチュウは瞬間的に茫然自失となった。
一体何が起きたのか、と。
『フラッシュ』
これが、マチスの覚えさせた最後の技。
どこまでも、悉く、戦闘に不向きな技。
しかし、使いこなすことでここまで戦況を変化させるものなのだろうか。
マチスの嫌らしさは当然あるが、そのクセが強すぎる技構成を使いこなすライチュウもライチュウである。
あの軍人にこのポケモンあり。
ライチュウは勝利を確信する。
ライチュウは渾身の力を込めて、尻尾をピカチュウに向けて振り抜いた。