ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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第八十七話 バトルの記憶

 たっぷり昼までベッドの上でうたた寝を続け、今は遅めの昼食をとっている。

 

 ポケモンセンター近くの定食屋に入り、ピカチュウと共にクチバシティのおいしい食事に舌鼓を打っている。

 

 

 

「でも、よく勝てたなあ・・・マチス。ただのバトルじゃなかった分、かなり危なかった。」

 

「ピピカー」

 

 

 事実、タイミング次第では敗北一直線だっただろう。

 マチスの逆鱗に触れなければ別の戦い方もあったのだろうかと考えてもみるが、すべて今更の話だ。

 

 それにしても――――

 

 

 

「ピカチュウ、ライチュウとはどんなバトルだったの?」

 

「ピッピカチュー」

 

 

 うん、全く分からない!

 

 

 

 空から落ちてきたライチュウしか見ていないサトシ。

 その姿はノーマルポケモンのように見えたが、カスミの例もあるし、ドーピングされていたかもしれない。

 ピカチュウの話を理解できない今、真実は闇の中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライチュウがフラッシュを放ち、周囲が白に染まる。

 超高速戦闘において、相手を見失うというのは致命的だ。

 そして、暗闇を見分けられる生き物は数多いが、強力な光の中を判別できる生き物はそういない。

 

 ピカチュウも例外ではなく、その視界は間違いなく白に染まり、何も見えていない。

 

 

 ライチュウの狙いも違い無くそこにある。

 そして、狙い通りにいった展開を前に踏みとどまる思考は持ち合わせていない。

 

 

 渾身の力を込めて、尻尾を振りぬく。

 何十何百と繰り返された攻撃の形。

 その動作に濁りはなく、躊躇も無い。

 

 

 いくら固いガードだろうと、森の反対側まで吹き飛ばす。

 並大抵のダメージではないだろう。

 

 

 ライチュウの確信と共に、膨大に電気を溜めこんだ尾撃はピカチュウに直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後、ライチュウは身動きが取れなくなった。

 

 

 

 

「ラ、ライ?」

 

 

 動けない。

 正確には、尻尾が縫い付けられたように固定されている。

 

 

 

 フラッシュの光が徐々に収まり、現在の状態を映し出す。

 

 

 

 

 

 吹き飛ぶはずだったピカチュウは、一歩も動くことなくその場に立っていた。

 

 しかしその身長は幾分か先ほどよりも低い。

 

 

 視線を下に移すと、ピカチュウの左足の膝から下が、地面に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 そして、ライチュウの尻尾も同様に、ピカチュウの左手と共に地面に埋め込まれている。

 

 

 

 

「――――――!!?」

 

 

 

 ライチュウの尻尾に蓄えられた電気は、地面に接触し続けることで拡散している。

 

 

 

 

 ライチュウの攻撃をその場で耐えるために、自分を地面に固定した。

 並の攻撃であれば、これで吹き飛ぶことはないだろう。

 しかしライチュウの攻撃は並ではない。

 その強力な打撃に耐えねばならない。

 

 本来であれば耐えきれることなく吹き飛ばされて木々を叩き折るほどの威力だが、こと相手がピカチュウだとするならば話は変わってくる。

 

 吹き飛ぶ、という動作は、ダメージを運動エネルギーに転換させてそのダメージを軽減することができる。

 もちろん、その後に木にぶち当たっていたらダメージは増加の一途をたどるのだが。

 

 ピカチュウはその吹き飛ぶ、という選択肢を外し、その場に止まることを選んだ。

 それはつまり、自身に及ぶダメージを最大限受け切るということに他ならない。

 

 しかし、それを受けてでも、ピカチュウはこの場にとどまらなければならない。

 反撃の機会。

 紛れも無く、ライチュウは今の攻撃が最大の攻撃だ。

 クリティカルヒットしていれば、ピカチュウとて無事では済まないほどの威力だった。

 だが、足を埋める、という突飛な発想によって、ライチュウが狙っていた部位から、打点がずれた。

 

 

 

 ダメージは受けるが、致命的ではない。

 

 ピカチュウは意識が飛びそうになるのを堪え、渾身の一撃を加えて隙ができたライチュウの尻尾を左手でつかみ、左手ごと地面を打ち抜いた。

 

 

 

 ピカチュウは左手と左足が。ライチュウは尻尾の大部分が地面に埋まった状態となる。

 

 状態としてはライチュウの方が有利に聞こえるかもしれない。

 四肢の自由なライチュウの方が出来ることは多い。

 

 結果を導き出せるか、という点を除いてではあるが、

 

 ライチュウにとって、尻尾はすべてだ。

 攻撃の要であり、回避の起点である。

 それを封じられればどうなるかなど自明の理ではある。

 

 そんなことが出来るかどうかは、過去ライチュウの対戦相手だった者たちに訊いてみるといい。

 

 口を揃えて言うだろう。

 

「そんなことは不可能だ」、と。

 

 

 

 

 つまりは、今の状況はライチュウにとって、完全に想定外だった。

 故に生まれる一瞬の隙。それを見逃すほどピカチュウもお人よしでは無い。

 

 

 電撃をたらふく蓄えた渾身の右拳が、ライチュウの小さい身体に突き刺さり、轟音と共に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「和食もいいけど、洋食もおいしいね。」

「ピッピカチュ」

 

 

 

 カルパッチョなどという魚を使った料理をつまみながら、昼食を堪能している一人と一匹。

 

 

 お腹が膨れて、そろそろ出ようかと席を立とうとした時――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああ!やっと見つけた!!!」

 

 

 

 

 

 

 と、店内に響く大きな声で叫ぶ男。

 

 

 立ち上がろうとした姿勢のまま、なんだろうと声の方向へ顔を向けるサトシ。

 その男は、なぜかサトシの方を指さして硬直していた。

 

 

 

 

 

「・・・・・―――――」

 

 

 

 サトシは一応後ろを見る。

 だが、そこに人はいない。

 

 

 ということは、あの男が見つけた人間とは、自分のことなのだろうか、と考えてみる。

 いやいや、そんなはずはない。

 探されるようなことは・・・あんまりしていないし。

 

 若干だが不安になる。

 しかし考えている間にも、その男はサトシの方へ歩いてくる。

 

 店内は徐々に喧噪を取り戻していった。

 

 

 

 

 

 男は短髪で、精悍な顔つきをしている。

 普通のジーンズに普通のシャツ。

 身長はやや小さ目。といっても十四歳のサトシよりかは高い。

 年も、二十そこそこといったところだろうか。

 別に変わったところはない、どこにでもいそうな男性。

 

 そんな男が額に汗してサトシの目の前に立ち、息を乱している。

 

 

 

「・・・あの、どのようなご用件でしょうか・・・?」

 とっさに言葉が丁寧になる。

 見知らぬ相手だ。おそらく、会ったことは無い。

 

 

 すると、相手は少し焦った様子でいやいやと手を横に振る。

「ああーっと、済まない。驚かせるつもりはなかったんだ。えっと、ちょっとついてきてもらえないかな・・?ここだと話し辛い。」

 

 

 

 話し辛いと言われ、少し警戒する。

 ただ、あくどい事をしようとする人間がわざわざこんな真昼間に、人が多いレストランで誘拐しにくるだろうか。

 

 そこまで考えて、且つピカチュウもいる、ということも加味して。

 

 

 

「うーーーーーーん、わかりました。怪しいと思ったら逃げますよ?」

 

「ああ、構わない。ありがとう。」

 

 

 

 とくに嫌な顔もすることなくサトシの提案を受け入れる男性。

 

 とりあえず会計を済ませ、また何かに巻き込まれたかな?と少し不安になりつつも、男についていくサトシだった。

 

 

 

 

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