日が落ちて星の光だけが夜空を彩っていた。
こんな夜更けに出歩くのは彼女だけだ。
駆逐艦、若葉
いつからだろうか彼女の持つ違和感に気が付いたのは。彼女の持つ圧倒的な戦闘センスに隠れていたそれに気が付いたのはきっと私だけだろう。
海がよく見えるベンチに腰掛けた彼女は小さな箱を開けて慣れた動作で一本のタバコに火をつける。
駆逐艦娘の中にはタバコやお酒を苦手とする者が多いのだが、彼女にとってはそんな事はないらしい。
ちなみに艦娘はタバコなんて物で健康を損なう事はない。お酒も同様で酔ってはしまうけれど肝臓やその他に被害が出ることはないと言われている。
ゆらゆらと揺れる小さな光は蛍のように儚げに映り、小柄な彼女が持つ雰囲気をよりミステリアスな物にしていた。
「雷、先程からこんな時間にどうかしたのか?」
静かでいて透き通るような声が発せられた。
「ね、眠れなかっただけよ!貴女こそこんな時間に外に出てちゃダメじゃない。」
月のない星明かりの夜に双眼鏡を使っていた私に気がつく彼女はやはりただ者ではないのだろう。
「吸うか?」
「いや、いいわ。そんな事より早く戻らないと明日キツくなるわよ?」
静かに差し出されたタバコをポケットにしまい込み、かわりに彼女の手をとって寮へと歩き出す。
「まったく…古参の雷様にはかなわないな。しかし、寮内は禁煙だろう?それに静かな海と星空を眺めながら一服なんて事はなかなかできない贅沢というものだ。。」
どんな相手をも圧倒する戦闘センスと身に纏うミステリアスな雰囲気、私たち古参の精鋭部隊をも凌駕するその力…。彼女は何者なんだろう。
聞けば必ず彼女は言うのだ。
〝駆逐艦、若葉だ…それ以上でもそれ以下でもない。〟
彼女と一緒に海へ出れば例え新米の艦娘だろうと怪我をしない。彼女が出れば敵が戦艦であろうと空母であろうと勝利を持ち帰ってくる。その上、泣き言を言う彼女の姿を見たものはこの鎮守府に誰一人としていない。元から口数が少ないからか彼女の過去を知るものもいない。聞いたところで答えてくれる訳ではない。
あまりの強さと静かさから〝沈黙の若葉〟〝仕事人若葉〟などといった通り名を持つまでに到った彼女。
その澄んだ瞳は何を映しているのだろうか。
小さな背中に何を背負っているのか。
若葉が答える事はない。
風に揺れ、雨に濡れて一体どんな花を咲かせるつもりなのか。初春の風が凪ぐ季節に現れる若葉のように静かにただ静かに彼女はそこにいた。
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