久しぶりにあの日の事を思い出してしまったからかなかなか寝付けない。
アルコールか睡眠薬で手を打とうとは思ったが、あいにく睡眠薬は使いきってしまった。酒保はどうだかわからないが〝鳳翔〟はきっとやっているだろう。
小料理屋〝鳳翔〟。
その名の通り軽空母の鳳翔さんがやっている小料理屋(居酒屋)である。別にそんなに酒が好きな訳ではないが、鳳翔さんが作る料理はとても美味い。
それに、こんな夜中に客が大勢いるとは考えづらい。一部から〝ヒャッハーと〟呼ばれている飲んだくれの某軽母も明日へ備えて睡眠をとっているか酔い潰れて夢の中にいることだろう。
「いらっしゃい。お久しぶりですね若葉ちゃん。」
「こんばんは。」
「おや、君が来るとはね。」
想定外だったのはキスカ島での作戦の時の仲間であった特Ⅲ型駆逐艦の二番艦、響がいたことだ。いつもウォッカの小瓶を隠し持っている駆逐艦の中でも珍しい酒好きだ。第六駆逐隊は基本的に幼いイメージがあったのだが…彼女はそれには当てはまらなかったらしい。
「鳳翔さん、いつものを頼む。」
「わかりました。ちょっと待っていてくださいね。」
そう言うと鳳翔さんは厨房へ入っていった。
…
……。
「雷が昨日私のところに来たのだが…何か知らないか?」
「特には何も知らないな。まぁ、強いて言うならば雷は君の事を心配しているようだった。」
心配?
私が彼女に心配を掛けたことなどあったか? どちらかというと私の方がヒヤヒヤさせられていたのだが。
「心配…か。」
いかにも世話好きな彼女らしい理由だ。
「はい、いつもの煮物といつもの冷酒です。」
「ありがとう。」
…
……。
猪口に注いだ酒を少しずつ飲んでいく。段々と身体が火照っていく。酒もタバコもやっていると知ったら私のかわいい妹は私に何と言ったのだろうか。
彼女はもう答えてくれない。
「どうかしたのかい?」
「いや、何でもないぞ。少し、考え事をしていただけだ。少し、酔って来たのかもしれないな。」
適当にごまかす。
それに、明日は非番で暇なのだ。今夜ばかりは飲み明かしても良いだろう。血で塗り潰されていくカレンダーの中にでもこんな日があっても良いと思う。
「響…君がよく飲んでいるウォッカは美味いのか?」
「美味いよ。飲んでみるかい?」
喉が焼けるような感覚に咳き込みながらも注がれたウォッカを飲み下す。グラグラと揺れるような感覚とフワフワする意識。体温はどんどん上がって酔いが急速に回っていくのが嫌でもわかった。
「ろすう…いくつら?」
呂律も回らない。
「ん?40度くらいだよ。駆逐艦の身体で一気に飲めるとは実にハラショーだ。」
「すまない…少し…寝る。」
こんなに酔ってしまったのは初めてだった。
だが、悪くはない。
感想、評価お待ちしています!