そこには空間があった。
だだっ広い、広間と呼ぶには広すぎる、アリーナ(闘技場)と呼ぶのに相応しい広さと高さだった。滑らかな石に覆われた空間が無機質な静寂を充填して存在していた。規則正しく並ぶ石は壁や天井を覆い、壁にはほのかに光る苔と床には所々に黒い染みを創っていた。・・・血痕を・・・
そのど真ん中の血溜まりに男が一人立っていた。銀色に輝く筈の胸当ては変色し、一部が焼焦げ拉げていた。右手を覆う篭手は血と何かの獣の歯型がくっきりと残り、左手の盾の模様は判別できないほど焼けてへこみ、敗残兵といった方が的確な風体だった。
だが・・命を預ける剣は刃毀れはあるもののある種の気が立ち昇る刀身とそこに掘られたルーン文字ははっきりとその闘志が少しも欠けては居ない事を雄弁と物語り、血と傷だらけの顔には狂喜に歪む唇と興奮に彩られた目がはっきりと敵に対する渇望を『もっと遣せ!』『全く足りん!』と絶叫するように輝きを増していた。・・・・
まさに狂戦士:バーサーカーの姿・・・・それだった。
その姿がピクっと揺らいだ。・・・それと同時にその周りに幾つもの気配と・・・青白い炎が回転しながら徐々に大きくなり、女性の特有の艶やかな曲線美と邪な笑顔を形を創りだして来た。・・・
それを見た男がニヤリと笑い。
「サキュバス6匹、旨そうだ。」
と言うのが速いか、手近に湧いた一体の蕩けそうな笑顔の顔面に容赦ないその刀身をめり込ませ、一刀の元に両断した。
そこに残りの3体が呪文の詠唱に入る。対応するべく振り向きざまに背中に一撃を貰う。衝撃とともに力が抜ける・・・毒だ!男はスキルを発動させ自動解毒を行う。正常になるまで5秒は要る。腕力が落ち盾が重い、両手で持つのが精一杯、そこに真横からもう一体が飛んで来るのを盾で張り倒し、その反動で背後に居たサキュバスを廻し蹴りで蹴り飛ばす。
詠唱が終わり、両手の掌を差し出した3体の笑顔のサキュバスから無数の光弾、魔矢(マジックアロー)が放たれる。蹴り飛ばして無防備な男の身体が矢襖と化した。その口から大量の血が吐き出される。・・・が、その目は『ギョロリ』と3体を見据えた。怒りと狂気を湛えて・・・
矢襖が動いた。・・・3体のうちの真ん中の一体の喉に篭手に仕込んであった短刀を投げつける。見事に当たり仰け反り、両方の2体はそれを目線で追っていた。先ほど盾で叩き落した1体が立ち上がり様の顔を蹴り上げつつ、壁に蹴り飛ばした一体が寄りかかりながら詠唱を始めた所を喉に短刀を投付けて邪魔をする。
魔法の効力が消え矢襖でなくなると同時に毒の効果も消えた。剣がまた振れる。・・・そこに後衛の2体が襲ってきた。・・・男は雄叫びとともに横殴りに剣を振るった。・・・・
数十分後・・・息も絶え絶えに喘ぎながら最後の1体の腹に剣を振り下ろして死闘は終わった。・・・
かれこれ数時間はここにいる。もう何十匹も怪物共を喰らっただろうか・・十分に経験値も金もアイテムも稼いだだろう。上手くいけばレアアイテムもあるはず、それを売って新しい装備や武器を買おう。より上に行く為に・・・・
そう思った瞬間、心臓が早鐘の様に動き出した。く、苦しい・・・・その場で膝を突きながら倒れる。・・・何が起こった?わからない!とにかく胸が苦しい!・・・遠のく意識の中で男はそう自問していた。・・・
数分後、そこからかなり離れた遠い所のとある一室にて一人の若者が息を引き取った。・・・