傷だらけのマーメイド   作:シママシタ

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グロテスク回です


エピソード3

果南はよくあの日のことを思い出す。自分が初めて罪を犯した日。そして、全て失い、全てが終わった日のことを。

 

♦︎♦︎♦︎

内浦の小さな公会堂で、3人はライブの直前。3人緊張で口数の少なく、特にダイヤはさらに呼吸が荒くなっていた。

 

「あら、ダイヤ。緊張してるの?」

 

一曲目が終わり、そのまま二曲目に入ろうとしたその時、観客の1人の男性が突然胸を押さえて苦しみ始めた。

 

「何が起きたの⁉︎」

 

そのあまりの緊急事態に会場はざわつき、3人もどうしていいかわからず、ステージに立ち尽くすだけだった。

すると、公会堂の職員がその男性に近づき、介抱しようとしたその時、大きく、鋭利な爪が職員の体を貫いた。

 

「えっ?」

 

職員を串刺しにしている右手を辿ると、今まで苦しんでいた男性に続いており、男性自身も血走った目をしていた。全員がその現実離れした状況を理解することが出来ず、ただ呆然としていた。

そして、男性に植物のつるのようなものが巻かれ、人間とは思えない叫びをあげ、見慣れない異形、ビャッコインベスへと変態した。

 

「きゃ、きゃぁぁぁ!」

 

やっと状況を飲み込んだ観客達は一斉に逃げ始める。しかし、混乱したこの状況で綺麗に全員が逃げられはずもない。ある女性かつまずいて倒れてしまい、その際に前の人間を掴んでしまい、それが5、6人続いて、次々とドミノの倒しのように倒れてしまう。

その人達は逃げようと足掻くも、その瞬間、ビャッコインベスに引き裂かれて、鮮血を吹き出しながら息絶えた。

 

「こ、こんなの……。」

 

ダイヤと鞠莉はステージからその惨劇をただ見ていることしか出来なかった。本当ならば、自分達の歌声とダンスを披露して、歓声が巻き起こるはずだった。

しかし、今は悲鳴しか起きず、ビャッコインベスの独壇場だった。

 

「変身!」

 

《オレンジアームズ!》

 

すると、いつの間にかに戦極ドライバーを巻いた果南がステージからビャッコインベスに向けて一気に跳んだ。

そして、最高到達点に着くとタイミング良く、オレンジアームズが現れ、一瞬のうちに装着され、仮面ライダー鎧武へと変身する。

 

《花道 オンステージ!》

 

「ハァァァァ!」

 

空中で腰に携えていた無双セイバーを抜き、ビャッコインベスに斬りかかる。鎧武はいつものインベス戦とは違い、抑えきれないほどの怒りを抱いていた。何の意味もなく、ただ無残に人を殺し、夢と未来を一方的に奪ったビャッコインベスを許せなかった。

しかし、怒りの矛先はビャッコインベスだけでなく自分に向いてもいた。今までは自分の目の前では死者も怪我人も出したことはない。しかし、今回はインベスに対抗出来る自分がいたにもかかわらず、こんなにも犠牲者を出した。後悔、無力さが鎧武である果南の心を曇らせる。

だが、例え自分に責任があっても、ビャッコインベスは倒さなくてはいけない。一旦、気持ちを切り替えて、ビャッコインベスを倒すことに専念する。

 

「あっ……。」

 

ビャッコインベスとの距離が縮まり、無双セイバーを大きく振り上げたその時、ビャッコインベスに元の人間だった男性が重なってしまう。

今はただの怪物だ。しかし、元は人間なのだ。

ビャッコインベスを殺すということは元の人間をも殺すことになる。

 

「は……あ!」

 

非常な現実が果南の心を揺さぶる。もしかすれば何かの拍子に人間に戻る可能性もある。その可能性を果南は潰すことは出来なかった。

 

「ジャッ!」

 

無双セイバーを振り下ろすこともせず、鎧武はただビャッコインベスに近づいていくだけ。ビャッコインベス何もしてこない鎧武を右手で簡単に振り払う。

 

「クワッ!」

 

振り払われた鎧武はそのまま吹っ飛ばされ、床に叩きつけられる。その瞬間、何かを潰したようにグロテスクな音が鎧武の耳を犯す。

 

「は……いや……!」

 

鎧武は咄嗟に自分が着地した所を確認する。そこには血の水溜りの真ん中に人であったものが内臓を乱雑に外へと放り出していた。その上に鎧武は着地していたのだ。

 

「ああああ!」

 

その残酷な仕打ちに鎧武の澄んでいた心は淀み、崩壊し始める。そして、ここでやっと本当の戦いを知り、自分が如何に浅はかな思いでこの戦いを挑んでいたのかを思い知らされた。やがて、その思いは罪悪感へと変わり、鎧武の戦意をボロボロに砕き、ただ呆然とする。

だが、ビャッコインベスに鎧武のない。鎧武を近づき、思いっきり胸を踏みつける。

 

「や……あァァァァ!」

 

ビャッコインベスに踏みつけられ、鎧武は絶叫する。しかし、痛みからのではない。踏みつけるごとに血と肉が潰れる音のよる不快から来たものだ。そのグロテスクな音、仮面を被っているのもかかわらず、臭う死臭によって鎧武の理性は徐々に崩れていく。

 

「ジャッ!ジャギュ!」

 

ビャッコインベスは鎧武を胸倉を掴む。理性が壊れ、戦意のない鎧武は簡単に持ち上げられた。そして、ビャッコインベスは鎧武を仰向けに叩きつけ、再び踏みつける。鎧武の鮮やかなオレンジ色の鎧は淀んだ赤色へと染まっていく。

 

「果南!」

 

鞠莉が名前を言う時に既に手遅れであった。鎧武の戦意は完全に削がれ、操り人形のように力なく倒れていた。

 

「ジャガッ!」

 

最後の標的を見定めたビャッコインベスはステージに向け、歩き始めた。いよいよ、自分達の番だと2人は逃げようとするも、恐怖と果南を置いてはいけないという友情が入り混じったせいで動けず、絶対絶命であった。

 

「………。」

 

 

鎧武……果南は薄れていく意識の中で、この世界の真実に気づいた。

初めてこの世界の事実、ヘルヘイムの森とインベスの存在に気づいた時はただ怒りしか覚えなかった。罪も無い人達が何故、インベス達に襲われなくてはならないのか。正義感の強い果南にとってはそれが酷く許せなかった。だから果南はそんな理由無き悪意から人々を守るため、鎧武となった。

しかし、本当は違った。弱者はただ強者に喰われるだけ。弱い奴は死ぬ。人間はインベスに殺される。それはどんなに足掻こうと変わらない理なのだ。

 

「……い……や…………だ。」

 

だが、果南はその現実を受け入れたくなかった。否、受け入れるわけにはなかった。自分が猷逸、インベスと対等に戦える仮面ライダーであるうえ、この力を持っている以上、誰よりも先に諦めていけない。

しかし、

 

 

------なら、自分が強くなればいい------

 

「……す……て。」

 

------強者を弱者と扱えるほどの存在になれば------

 

「助……け……。」

 

------きっと、みんなを救えるだろう------

 

「「助けて、果南‼︎」」

 

大きな爪を天高く上げ、ビャッコインベスは2人を殺そうとしたその時、背中に銃弾が当たり、2人をそっちのけで振り返った。

 

「果南さん……。」

 

2人とビャッコインベスの視界には両手に大橙丸と無双セイバーを握った鎧武がゆっくりとビャッコインベスに迫っていた。

 

「ギャガァ!」

 

2人の狩りを邪魔されたビャッコインベスは激しい怒りを露わにして、鎧武に襲いかかる。

鎧武は無双セイバーのトリガーを引き、再び銃弾を浴びせ、ビャッコインベスの動きを止める。その隙に鎧武はビャッコインベスの左腕を大橙丸で斬り、片腕にし、痛みでもがき苦しんでいる隙に、さらに無双セイバーで腹を突き刺す。

 

「果南……?」

 

鞠莉とダイヤは鎧武の戦いを見て、大きな違和感を感じていた。今までの戦い方は正々堂々としており、丁寧な戦い方でテレビのヒーローのようだった。しかし、今は荒々しく、明確な殺意を感じ、破壊者や暴君のようであった。

 

「ハアッ!」

 

2人が異様な不安を感じている間にも鎧武は突き刺していた無双セイバーを抜くため、ビャッコインベスを蹴り飛ばす。ビャッコインベスからは漏れた水のように緑色の血が流れていた。

そして、鎧武は無双セイバーと大橙丸を合体させ、ナギナタモードへと変える。

 

《ロックオン!》

 

ナギナタにロックシードをセットし、止めの準備をする。ビャッコインベスは危険を察知し、鎧武に攻撃を仕掛けるが、それは届くことはなかった。

 

《イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン オレンジチャージ!》

 

「セイハァァァァァ!」

 

ナギナタからオレンジ色の衝撃波がビャッコインベスに直撃し、オレンジ型の空間に閉じ込められる。最後に鎧武は大橙丸で空間ごとビャッコインベスを斬り裂き、ビャッコインベスは爆発した。

 

「ハァ……。」

 

鎧武はナギナタを下すと、ふと右手を見る。手には赤い血と緑色の血がべっとりと付いていた。それを見て、鎧武は改めて痛感する。

 

自分は人間を殺した。超えてはいけない一線を越えてしまったのだ。

 

「果南!」

 

「果南さん!」

 

鞠莉とダイヤは心配そうな様子で鎧武をじっと見ていた。

 

「無事……ですの?」

 

ダイヤが鎧武に話しかけるも何も反応しない。一体どうしたのかと鞠莉とダイヤは顔をあわせる。すると、鎧武は変身を解き、果南の姿に戻り、そのまま帰ろうとしたのだ。

 

「待って!果南!どうしたのよ!」

 

「触らないで!」

 

あまりにも突然の行動に鞠莉は果南を止めようと手を掴もうとする。しかし、果南は手を取られまいと、強い力で鞠莉の手を振りどいた。

 

「果南……。」

 

「果南さん!どういうことですの!」

 

鞠莉の思いを無下にするようなことをした果南に声荒げてしまうダイヤ。すると果南は哀しそうな表情で2人の方を向いた。

 

「私は……もう2人の元には戻れないの。」

 

すると、果南は自分の両手を2人に見せた。手はスーツが纏っていたにもかかわらず、血で黒く汚れていた。

 

「私の手はもうこんなにも汚れてるの……わかってよ。」

 

2人はこの時気づいた。私達には果南の気持ちを理解することは出来ない。ただ守られている私達には、辛くても戦い続ける果南の苦しみや絶望は理解することも体感することも出来ない。そう思ってしまい、2人は果南に声すらもかけることが出来なかった。

そして、果南はそんな2人を他所にふらふらとした足取りで、ステージを降りていった。




さぁ、ここからどういう展開になるでしょうか。
お楽しみに!
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